部屋説明常世島の学園地区と学生・研究区の境目の境界に密集する医療施設群。
大小の病院のほか、小さな診療所や医療研究施設などが林立する。
また、病や心身に受けた大きな傷、異能性障害によって療養を余儀なくされた者たちを対象とした療養所、いわゆるサナトリウム的長期療養施設も存在する。
多くの病院では、休学を余儀なくされた学生に対して、本人の希望があれば遠隔での授業受講も可能な設備が揃っている。
それぞれの委員会は、機密の保護などの観点から独自に病棟や病室を所持している場合もある。
科学的な医療技術を用いる医療従事者のほか、《大変容》以後の情勢の中で出現した魔術医・巫医・呪術医なども医療従事者として活躍している。
霊障による障害なども存在するため、科学的手法だけではなく魔術による治療も現在では一般的になっており、ケースに合わせて臨機応変に治療が行われる。
《大変容》後の世界においては、「お祓い」・「狐落とし」・「悪魔祓い」なども、症例に応じて正しく用いられるのであれば、立派な医療行為の一つである。
これらの医療施設群の中でも規模の大きいものは生活委員会の保健・医療担当部門が主に運営を行っているが、医療系部活などの「私立」病院や療養施設も存在する。
なお、常世島内の医療機関はこのエリアにのみ存在するわけではなく、様々なエリアに存在する。
気軽に通うのであれば校舎内の保健室が待ち時間など含め推奨される。
また、担当の保健担当教員時代では保健室でも高度な医療行為を受けることは可能である。
将来医師を目指す学生に対しては、医師免許課程の中で本医療施設群での実習が行われるのが基本である。
常世島の医療技術は世界最高峰であり、常世島の外で治療不可能と判断された患者が、一縷の望みをかけて治療のために常世学園に入学するというケースもある。
参加者(0):ROM(1)
Time:03:22:19 更新
ご案内:「医療施設群 長期療養施設」から緋月さんが去りました。
ご案内:「医療施設群 長期療養施設」から❖❖❖❖❖さんが去りました。
■緋月 >
――――
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「許さない」
■緋月 >
――――悪い夢だと、思いたかった。
決して長い筈の時間ではなかったはず。
その間に、なんで、こんなことに。
「せん、せい――――。」
さっきまで、前より元気そうに話をしていた筈の先生が、
首一つだけに。体が、どこにもなくなっていた。
少女と一緒に来ていた看護師が迷いなく処置に入り、
まるで用意されていたかのようなスムーズさで、医師たちが病室へと殺到し、
少女は部屋の外へ。
緊急の処置が終わり、入室を許された其処にあったのは――
透明な容器の中で浮かんでいる、首だけの女性の姿。
信じがたい事だが……これでも「生きてはいる」らしい。
繋がれた機器が、それを知らせてくれている、そうだ。
『――近い内に、センセーに『K』からの接触があるかも知れない。
注意を忘れないようにしなよ。
何があっても「死なせるな」。……いいね?』
――ああ、なんてことだ。
注意を受けていた筈なのに。
自分が迂闊だったばっかりに、こんなことになってしまった――。
少女の心に襲い来るは、後悔と、それ以上の――――
■❖❖❖❖❖ >
――少女が病室に戻る少々前の事となる。
「――久しぶりと言うべきなのだろうな。
君とこうして再会できたことを、嬉しく思う」
目の前に横たわる娘は、昔と変わらず、柔らかな微笑みを浮かべている。
『ああ――やっぱりあなたが来るのね。
でも少し意外だったわ。
黒蛇――1923よね?』
ああ、娘は私を正しく認識し、未だに覚えていてくれる。
なんと喜ばしい事か。
「覚えてくれているとは、思わなかったが。
無論、私が来なければならないだろう。
そうでなければ、君に礼節を尽くす事が出来ない」
私がそう発音すれば、娘は楽し気に笑った。
ああ、昔の幼いころと相違ない。
それに『E』にもよく似てきた。
『相変わらず、紳士的な事に拘っているのね。
わたし、あなたのそういうところが好きなのよ』
「よく知っている。
ああしかし――残念だ」
私は思わず肩を落として、首を振っていた。
そう、残念だったのだ。
娘はそれをおかしそうに笑う。
『ええ――時間なのでしょう。
わたしは、どうなるのかしら』
そう、悟ったように微笑む娘に、正直に答える以外の選択はない。
「アルカディアの身体を回収する。
君は頭部だけが残るが、心配はいらない。
すぐに医師が駆けつける。
ここの医療であれば、しばらくの昏睡の内、意識は戻るだろう。
脳死する事はない、させないと約束しよう」
また娘はおかしそうに笑う。
私はこの笑みが昔から好きだ。
『そう。
それは安心、なのかしら?』
娘はひとしきり笑い、優しく穏やかな表情を浮かべる。
ああ、ますます『E』によく似てきているのだと理解できる。
『お迎えがあなたでよかったわ。
痛いのは嫌なの。
優しくして頂戴ね――紳士的に』
「――勿論。
愛しき娘よ」
そうして私は、『蛇』を起動する。
影がゆっくりと娘の首から下を覆った。
『――ごめんね、るなちゃん。
後の事は、『彼女』とあなた達に任せるわ』
娘は瞳を閉じ、穏やかな表情のまま口を噤んだ。
「君の献身と貢献に、心よりの敬意を」
――そして娘の身体は『蛇』に呑み込まれた。
病室に残るのは、繋がるもののないケーブルやチューブ。
そして、呼吸器と脳波計だけが繋がった、女の頭部だけだった。
それを目にした瞬間、少女と共に病室を訪れた看護師は、迷わず処置に駆け寄る。
そして、まるでこの光景が産まれる事が分かっていたかのように、医師たちが病室へと飛び込んでいくだろう。
そう、全てが『こうなると決まっていたように』、万全な体制で、女の頭部は保護されていく。
緊急の処置が終わった時には、養液の入った特殊ガラスのケースに、穏やかな表情で眠る女の顔だけが浮かんでいるのだ。
■緋月 >
「うっ……肝に命じておきます…。」
身体を大事に、と言われると流石に言い返せない。
気まずさでちょっと視線を泳がせながら、そうお返事。
「――ありがとうございます、色々と。
それでは、もしまたご縁がありましたら。」
最後まで色々と丁寧であった義体の医師に謝意と挨拶を送れば、
ナースセンターで用意して貰った花瓶を抱え、少女は看護師と一緒に来た道を戻っていく。
そう込み入った順路でもなかったので、すぐ覚えられた。
そうして、病室の前まで戻れば、ドア越しに声を掛ける。
「あーちゃん先生、戻りました。
看護師さんも一緒ですよ。」
■❖❖❖❖❖ >
「それは重畳。
回復に向かっているのは素晴らしい。
長期医療は心の強さが必要になる。
回復の兆候があるのも、君のような先生想いの生徒がいるからだろう」
素晴らしい心遣いだ。
こういう少女こそ、人間らしいと言えるのだろう。
しかし、年頃の娘の顔に怪我は、いただけない。
「はは、若いうちはやんちゃも経験だ。
だが、年頃の娘でもある。
顔や肌、髪も、大事にするといい。
それらを気遣うのに、早すぎる事はない」
肩を揺らし、頭を軽く上向けよう。
少女はとても素直な娘だ。
このような少女が傷つくのは、人類の損失だ。
――ナースセンターは直ぐだ。
さほど案内をするほどでもない。
少女は速やかに用件を伝えた。
「大したことではない。
困った時は、という言葉があったはずだ。
急ぎはないが、私にも担当の患者がいる。
待たせ過ぎるのも、可哀そうだろう?」
そう発音し、もう一度、大仰な礼をしよう。
わざとらしいが、表情が変わらない義体には、overアクションが必要だ。
「それでは失礼しようお嬢さん。
先生には紳士な医師が居たと伝えてほしい」
紳士的である事は難しい。
立ち振る舞いと、言葉選びは重要だ。
「――では、彼女をよろしく頼む」
そう看護師に伝え残し、先に失礼するとしよう。
さて私の患者はどの病室だったか。
■緋月 >
「ご丁寧に…ありがとうございます。
では、改めてご案内頂きたく。」
身分も分かり、丁寧に返されれば、こちらも相応の礼儀は払うべき。
折り目正しく一礼すると、義体の医師の後に続く。
先に立って歩く医師に続き、ブーツが乾いた足音を立てる。
「いえ、それほど頻繁という訳でも…。
出来るなら定期的にお見舞いには来たいのですけど、
こちらも外せない用事が色々と。
なので、今日は久しぶりのお見舞いです。
前に来た時より元気になっていたので、安心しました。」
軽く頬…の、大きめの絆創膏の近くを指で掻く。
痒いという訳でもなく、ちょっとした手癖のようなもの。
「あ、こちらについてはご心配なく。
軽い打ち身みたいなものですし、手当てもしっかりしてありますから。」
絆創膏について突かれる前に、自分でしっかり事情は説明。
ナースセンターに到着したら、呼吸器の加湿の件と、オマケで花瓶について訊ねる少女である。
――肝心の花束は、病室に置いてきてしまったが。
「――もしお急ぎでなければ、先生と併せてお礼がしたいので。
病室まで、ご一緒して貰っても?」
そんな事を、義体の医師に訊ねたりしながら。
■❖❖❖❖❖ >
「ああ、うっかりしていた。
これを提げていなければ医師とわからないな」
頭を右手で掻く――にも髪があるわけでもない。
カツンカツン、と金属同士がぶつかる音がするだけだ。
だが、こういう動きこそ必要だ。
白衣のポケットから医師標を取り出して首から提げよう。
こちらも急ぐ用があるわけでもないのだから。
「これで問題ないな。
勿論、迷惑などと言うことはない。
それに見取り図まで行っては遠回りだ」
そう言いながら、大げさに右手を胸に、左手を横に広げ、頭を下げよう。
こうした動作は重要だ。
誰にであれ、礼節を欠いてはいけない。
「では、ご案内しよう、お嬢さん。
とは言えすこし行ったところだが」
そう音を発し、少女を先導しよう。
歩幅は均一に、少女に合わせるのが紳士だろう。
「しかし先生の見舞いとは、心優しい生徒だ。
普段からよく来ているのか?」
無論、歩きながら話題を途切れさせないのが、コミュニケーションを円滑にするコツだ。
少女に気まずさを与えてしまえば、紳士ではないだろう。
■緋月 >
「ああ、いえ、先生…お見舞いの相手が、喉が渇いたそうなので
看護師さんに呼吸器の湿度調整を、と。」
特に隠す事でもないので、素直に事情を話す。
しかし、対応する、という事は…白衣を着ている事もあるし、こちらの方は医師なのだろうか。
ついそんな事を思ってしまう。
「…もしかして、こちらの医師の方でしょうか?
あ、もし迷惑でないならご案内をお願いしてもいいですか?
このまま一度、見取り図の所まで戻るつもりでしたので。」
案内してもらえるなら有難い事である。
見取り図の掲示がされている場所まで戻る手間が省けるのだし。
■❖❖❖❖❖ >
「ははは、素直な娘だ。
急ぎとは、急患であれば私が対応するが」
腹に手を当て、笑うように体をゆらす。
様子を伺うような視線は慣れた物だ。
奇妙な視線に晒される事は日常の一部にすぎない。
人間らしさのない存在が注目されるのは常の事。
「ああそうか、火急でないのならなによりだ。
ナースセンターの場所はわかるか?
必要なら案内できるが」
義体の声は相変わらず落ち着いた音を崩さない。
だが、その音に繊細なイントネーションが加わる事で、気遣うような声を造り出す。
こうした先端科学はこの医療研究施設でも、未だに珍奇に映るものだ。
振る舞いと音声に、細心の注意をはからねば、円滑なコミュニケーションをとる事は難しい。
■緋月 >
「っと――!」
廊下を曲がろうとした時、危うく誰かとぶつかりかける。
反射的に急停止した事で相手側に避ける余裕が出来て、結果激突は避けられたが。
「いえ…こちらこそ、不注意がありました。
少しばかり急ぐ用だったとはいえ、病院内を走るのは確かに私の落ち度です。」
言いながら見上げれば…何と言うか、異質である。
白衣に黒い面、それに紅の義眼。全身が黒と緑の義肢…否、義体。
(…大事故にでも遭ったのでしょうか。)
思わずそんな事を考えてしまう。
この島の医療技術は発達したものだ。
やろうと思えば…それこそ、治る見込みのない身体を機械仕掛けのものに
置き換えて不自由なく過ごせるようにする事も不可能ではないだろうが。
それに、声も何と言うか、奇妙だ。
男のように思えるが…機械音声だ、それだけで判断するのは早計だろう。
落ち着いた調子もあって、逆に印象が強く残る。
「ええと、少しナースセンターに用事があったものでして。
急変とか、そういうものではないのですけど。」
そういうつもりはないのだが、ちょっと言い訳っぽくなってしまった。反省。
■❖❖❖❖❖ >
――少女が廊下を往く。
その少女が廊下を曲がる時、白衣を着た黒面に片側だけの紅い義眼の長身の人影が現れる。
男女かもわからない体は、全身が黒と緑の義肢――いや、全身義体の人影は、危うくぶつかりそうになった少女に声を掛けた。
「ああ、すまない。
不注意だった」
明らかな機械音声は、男性の低い声を真似ていた。
感情が汲み取りずらい声ではあるが、わざわざ足を止めて少女に向き合う振る舞いには、誠実さが見えたかもしれない。
「だが、院内を急ぐものではない。
特にこの病棟は、身体が不自由な患者が多いからな」
そう、不思議と落ち着いたリズムで、ゆっくりと話す。
完全な機械音声だというのに、落ち着いた振る舞いと話し方は不快感を出来る限り払拭しようとされたモノだった。
■❖❖❖❖❖ >
「まあまあ、かわいいわねえ」
あんまりに微笑ましく、愛しさがこみあげてくる。
女にとって、誰かの幸せは喜びの一つだ。
それを、自分の言葉で退きだせたのなら尚更だ。
「そう――」
確信を持つほどの価値は、クラインにとって『あの子』には無いはずなのに、なぜ?
その疑問が頭の中を渦巻く。
けれど、助けてくれる人がいると聞けば、少し安心できた。
「――どうして、今になって『めーちゃん』なのかは、わからないけど。
本当に彼女がめーちゃんを狙っているなら、きっと、何かがあるのね。
気を付けてあげて、いつどこで狙われるか、わからないわ」
そう、困惑の中に切実な不安が混ざった視線で、少女を見上げた。
「けじめ、そうね。
そうなのかもしれない。
一緒に過ごした『友人』としても――彼女が、自分の道を見つめ直せる事を祈るわ」
今のこの体では、祈る事しか出来ないのが息苦しいが。
かつての『友人』や『家族』達が、苦しみから解放されて欲しいと、心から思うのだ。
「ええ、大丈夫、ちょっと喉が渇いただけよ。
あんまり慌てないで、気を付けていくのよ?」
そう、声を掛けて、丁寧に病室を出る少女を見送る。
その背中が消えるのを見ながら、女はゆっくりと、大きく呼吸する。
「――ごめんなさい、るなちゃん。
きっと、重い物を背負わせちゃうわね」
切なく、哀し気な声で呟く。
その声は少女には届かない。
■緋月 >
「うーん……面と向かって言われると面映ゆいですが、
先生の言葉です、そう思う事にしておきますね。」
ちょっとだけ照れながら、そんな事を。
そしてまた真剣な話に戻れば、顔を引き締める。
「はい…私は詳しい事を聞かされませんでしたけど、
確信を持っているような言い方でした。
知人に保護を依頼している、と教えられましたから、直ぐにどうこうという心配はないみたい、ですけど。」
自分が知っていると変な所から漏れてしまうかも知れない、という危惧はある。
詳しく知らされていない事についてちょっとだけ不満はあったが、万一の用心の為、と考えれば苦にはならない。
そうして、「道標」を見失った者の事について語られるのを聞けば、少し目を伏せる。
「……理解は、出来ます。
私も、同じような事に遭ったら――きっと苦しむ事になるでしょう。
でも、「失われた」現実は…戻る事はない。
絶対に、ない。それはもう、失われたものだから。
あのひとの言葉を借りれば、「けじめをつけられていない」だけ、なんでしょう。」
それはかつて自分が突き付けられた言葉であり、
同時に自分が彼の人に突き付けた言葉であった。
――事情は理解すれども、そんな相手には、尚の事素直に利用されて終わり、なんて御免だ。
まるで、「けじめをつけられなかった自分」が今の自分より強いみたいで、納得がいかない。
と、其処で軽く咳き込む声が聞こえて、つい心配そうに身を乗り出してしまう。
「長く話しましたからね、喉、痛くないですか、先生?
呼吸器の加湿ですね、分かりました。すぐに行ってきます。
ついでに、花束用の花瓶がないかも訊いてきますね。」
そう言いながら席を立ち、一度軽く頭を下げると小走りに病室を後にする。
流石に全速で走るのは迷惑なので自重した少女であった。