2015/07/20 のログ
ご案内:「教室」に深雪さんが現れました。
深雪 > 授業後の教室。生徒たちは皆、昼食を調達しに行ってしまった。
購買部を利用する者、学食を利用する者、屋上で弁当を広げる者。

だが、彼女は教室の、窓際の席から離れようとしなかった。
いつも、いつもそうだ。
何をするでもなく、窓際の席から外を眺めている。

次の授業が始まるまで、そうしているつもりだろうか。

深雪 > 午後の授業は、初等の異能学……異能に慣れ、それを制御する。
退屈な授業だ。

もとより、制御したくもないのに、力は抑制されている。
全ての力を開放する授業があったら、どんなにか爽快だろうか。

もう、長らく……きがとおくなるほど長く、力を、使っていない。

深雪 > 退屈だ。
日常とは、こんなにも退屈なものなのか。
いつも同じ場所で、いつも同じ大人の話を聞き、いつも同じ相手と他愛ない話をし、いつも、同じ場所で昼食をとる。

この部屋にいた生徒たちは、何が楽しくて、毎日を過ごしているのだろう。

深雪 > けれど、そんな日常を破壊するほどの力は、自分には無い。
もし、今、この腕に嘗てのような力があるのなら……
……私は迷わず、この退屈な世界を粉々にしているだろう。

そう思えるくらいに、この世界は退屈だ。

「………………。」

ツバメが、窓の外を飛んでいく。
日差しが差し込んでいる。

深雪 > いや、もしかしたら……。
この世界はとっても愉快で、楽しくて、人間たちは幸福に日々を過ごしていて……

……私だけが、その幸福に気が付かず、退屈に過ごしているのだろうか。

人間たちと同じように群れて過ごせば、退屈にならないのだろうか。

深雪 > 「はぁ……でも、面倒よね。」

散々に思考して、結局がこれである。

自分から誰かに話しかけるほど前向きにはなれず。
誰かがその手を引いてくれるほどか弱くもない。

深雪 > 吹き込む風は心地よいが、気温は高い。
頬を汗が流れ、汗ばんだ肌には制服が張り付く。

暑い。

何もする気になれない。
少女はいつしか、机に突っ伏してしまった。
そよ風が、美しく艶のある銀の髪を揺らす。

ご案内:「教室」に叶 明道さんが現れました。
叶 明道 >  不規則に聞こえる硬質な音。
リノリウムを突いて、少年のクラッチの音がかすかに響く。
汗を流しながら、気だるげに。不機嫌そうに汗を拭って、教室の扉を開けた。
「…………」
 同時、涼やかな風が吹き込んで少年の髪を揺らす。
その風は心地よいがしかし――。
「先客か……」
 一見、眠っているようにも見える彼女。
むしろそのまま眠っていて欲しい、と明道は願いながら教室に足を踏み入れた。

深雪 > 貴方がもし、何の音も立てず、気配を殺す達人であるのなら……窓際の少女は、そのまま突っ伏していたかも知れない。
しかし、気付くなと、顔を上げるなと願うには、貴方の立てる音は大きすぎた。

「…………?」

貴方が教室に足を踏み入れるとほぼ同時に、少女は頭を上げる。
そして、黄金色の瞳を僅かに細めて……貴方の方を見た。
そして、貴方が地面に付いているクラッチを、見た。

叶 明道 > 「…………チッ」
 目覚めた相手に舌打ちする。
こちらを見るならば、明らかに視線を逸らしたはずだ。
素行の悪さを主張するような改造制服。
 目を引く銀色のクラッチ。左腕で突いたそれ。歩む右足は明らかに引きずっている。
「……なんだよ、なんか文句でもあるのか」
 クラッチを見られれば、不機嫌そうに窓際の席に座り込む。

深雪 > 一見して、すぐに、先程までこの教室を埋め尽くしていたような、真面目な学生でないことは分かった。
そして、その尊大かつ横暴な態度。
「……あら、私が何か一言でも話したかしら?」
怒る様子はなく、ただ、呆れ顔でそうとだけ返した。

少年の事情など知る由もない。
だが、これまでこの部屋にいたような学生に比べれば、
「……退屈してただけよ。」
面白そうな少年だとは、思った。

叶 明道 > 「ふうん」
 こちらを試すような、或いは面白がるような。
そんなニュアンスを感じる空気。
少なくとも相手の言葉からは、
自分よりも上位に居ようとする態度が感じられる。
「退屈ね。確かに、アホな顔晒すには良い日和だ」
 机に突っ伏した先ほどの光景を思い出して。
挑発するわけでも笑うわけでもないような、ただ、
こちらも怠惰を持て余すような声。

深雪 > 「確かに、暑くて気が抜けてたわね。
想像してた顔と、どっちが間抜けに見えるかしら?」
少女はそんな風に、首をかしげて貴方を見た。
クラッチに気をとられていたが、ピアス、煙草、Tシャツの柄……
……見るべき要素がありすぎる。

けれど、そこで自分を見れば……汗だくで見苦しい。
「ねぇ、タオルかティッシュか、何か持ってないかしら?」
躊躇することも遠慮することもなく、聞いてみる。

ご案内:「教室」に深雪さんが現れました。
叶 明道 > 「さあ。少なくとも思ってたよりは美人だったな」
 横目で流し見るようにして少女の姿を見る。
銀髪に切れ長の瞳。整った顔。
なるほど、この陽気に微睡むような姿の似合う風貌だ。
 汗は確かに掻いているが――明道からすれば見苦しいというほどではなかった。
「タオルかティッシュ?」
 探したが、ハンカチぐらいしかなかった。あとはパンを買った時についてきたおしぼりぐらい。
「大したのは持ってないな」
 興味もなさそうに、ハンカチとおしぼりを手の届く場所、少女側に近い机に置いた。
あいにくとそちらに歩み寄るほどの愛嬌は持ち合わせていない。

ご案内:「教室」から深雪さんが去りました。
深雪 > 「…あら、お世辞なんか言っても何もでないわよ?」
そう言われれば満更でもない。満足気な笑みを浮かべて・・・
「そう言う貴方は、随分と妙な格好をしてるわね?」
・・・こちらは思ったことをそのまま言ってしまう。

正直、期待はしていなかったが、少年は、期待していたものを差し出してくれた。
「あら・・・十分よ、助かるわ。」
手を伸ばしてハンカチとおしぼりを手に取り、首筋や胸元の汗を拭う。
見せ付けるようではないにせよ、少年の視線を気にする素振りも無い。
「ありがと・・・少しだけ、さっぱりしたわ。」
汗で湿ってしまったハンカチを手に、「これ、あらって返さないとね、」なんて、苦笑した。

叶 明道 > 「妙な格好ね」
 部屋にあるシャツを適当に着込んでいるだけだ。
実際洒落た服を着込んでいるつもりもないし、
クラッチも含めれば十分に目立つ装いなのは間違いない。
「否定はしないけどな」
 パンを食べ終わり、そのまま胸ポケットからタバコを取り出した。
ありふれたメーカーの、ありふれた銘柄。
 無防備に汗を拭う様に一度だけ視線を向けると、面白くなさそうに一度鼻を鳴らした。
「別に百円の安物だ。適当にしてくれ」
 この場合、好きに処分してくれ、という意味だろうが。
大きく息を吐きながらたばこを咥え、火をつけていく。

深雪 > 「そう・・・・・・たまにそういう格好の人、見かけるけれど・・・趣味なの?」
不良文化を知らないのだろうか、少なくとも変わっているという認識はあるようだが。
貴方の姿を嘲笑するような様子はなく、ただ、興味本位でそう聞いているようだ。
煙草を取り出す様子にも、特に言及する様子は無い。

「・・・そう?それじゃ、そのうち返すわ。
 あと、その煙苦手なの・・・できればこっちに移動してくれないかしら?」
私がそっちに行くから。と、風上と風下を入れ替える提案。
こちらはすでに立ち上がって、貴方の方へ歩きだした。

貴方が立たなければ、すぐ隣まで来て、まっすぐ少年を見つめるだろう。

叶 明道 > 「趣味…………」
 改めて言われると、妙な気分だ。
まあ、好きで着込んでいるわけではあるし。
「趣味だろうな。あんたのそれみたいなもんさ」
 シャツはいつも適当だが、それ以外はそれなりに気を使っている。
相手の身体に結われたリボンを、軽く顎で指し示すようにして言った。
煙草の赤い光が灯って、ゆっくりと煙を吐き出した。
「は? ……」
 相手が近づいてくると、窓と彼女を見比べた。
こちらに陣取ったのは、煙を外に吐き出すためだ。
風下に行ったら意味は無い。
 窓の桟で煙草を消すと、面倒そうにパンの袋に煙草の吸殻を捨てた。
「いちいちめんどくさいのは嫌いでね」
 言いながら、相手が近づくのに任せて視線をそらす。
クラッチを撫でるが、煙草も消したし大きく動く気は無さそうだ。

深雪 > 動くつもりはなさそうだ…いや、違う、足を怪我しているから、動きたくないのだろうか。
内心にそう、相手の動きを分析しながら、机のすぐ横まで、近寄る。
いずれにせよ、貴方は煙草の火を消してくれた。不快なあの臭いに苦しまずに済む。

「・・・貴方、意外と優しいのね。」
だから、少女は小さく呟いた。机の横に立って、視線を逸らした貴方の横顔を見下ろしながら。

「けれど、私のコレは趣味じゃないわ。
 第一、こんな可愛らしい色のリボンが私に似合うと思って?」
それなら何故付けているのか、そこまでは答えない。
事実、リボンを付けるような歳にも見えない。
・・・・・・浮いているのは確かである。

叶 明道 > 「言ったろ。いちいち面倒事に関わるのが嫌いなんだ」
 頬をひきつらせるような笑いを浮かべる。
据わった瞳はどこか、拒絶の意思すら見える。
 杖を握りしめてから、視線を動かした。
すぐ横で立ち止まった少女。
視線を動かせば腹、胸、顔と順当に見上げていく。
 別段、顔を突き合わせるのが苦手ってわけじゃない。
 だから首元に巻かれたピンクのリボンを眺めて、
「さあね。似合ってるんじゃない」
 明らかに適当な、上っ面を撫でるだけの言葉。
そこに強い興味を覚えていないのか、あるいは。
「じゃあ何。男の趣味?」
 首に手首。随分独占欲の強い男もいたもんだな、なんて考えて。

深雪 > 「・・・ふーん。」
少女の黄金色の瞳が、貴方の瞳を見る。
顔まで視線を上げれば目が合うだろうが、それをしなければ、【少女が貴方の方を向いている】としか感じないだろう。
「1人になりたかったなら、そう言ってくれて構わないのよ?」
なんて、言葉をかけながら、少女は首をかしげていた。

「似合ってると思うなら、貴方のセンスを疑うわ。」
苦笑を浮かべて、少女は貴方の隣の机から椅子を引いて、腰掛ける。
視線の高さが合えば、きっと、視線も合うだろう。
「あら・・・鋭いわね。優しい貴方と違って、最低の男だったわ。」
半分正解半分ハズレ、どうやら過去の男らしい。

叶 明道 >  視線と視線が絡み合う。二秒、時が過ぎてからまた目をそらした。
「さあ。あんたみたいにいちいちこっちを見下ろしてくるような相手も俺は気にしないけど」
 一人になりたいか。ああ、一人になりたいとも。
教師に見つかりそうだったから逃げこんできた先。
そこにたまたま彼女が居ただけだ。
 それ以上でもそれ以下でもなく、ただ皮肉げに身体を揺らして杖の表面を撫でる。
「なるほど。最低の男の趣味に合わせる最低女ってわけだ。
外せばいいのに。まだ引きずってるってわけ。馬鹿らしい」
 それはおそらく、彼女からすれば見当違いもいいところのはずだ。
だが、あいにくとそこまでの眼力がある少年ではない。
だからただ、肩を竦めて、目を細めるようにして笑みを漏らす。

深雪 > 貴方の言葉を聞き、その裏側まで感じ取ったのかどうか。いずれにしてもこの少女は、
「・・・それじゃ、もう少し暇潰しに付き合って。」
出て行けといわれない限り、ここから去るつもりは無さそうだ。

引き摺っている、という貴方の言葉に、少女は僅かに目を細めた。
確かに、ある意味でその通りかも知れない。と、内心に思う。
「残念だけど、一途な女なんて幻想よ。忘れられなくて外せないんじゃないの。
 ・・・・・・もし、貴方がこれを外してくれたら、何でもしてあげるわ。」
気に喰わない相手を食い殺すことでも、この退屈な世界を滅ぼすことでも。
黄金色の瞳は真っ直ぐに貴方を見る。瞳は真剣そのもので、嘘をついているようには見えないだろう。
少女は貴方に、右手を差し出した。リボンは複雑に結ばれている。

・・・・・・可愛らしいリボンは魔力に満ち溢れていて、触っただけで、火傷をしそうなくらい、熱い。

叶 明道 > 「ふうん」
 いずれにせよ、教師の巡回は続いている。
逃げ足の遅い彼にとって、今一番顔を突き合わせて面倒なのは教師だ。
面白くなさそうな顔で、片眉を上げて頬杖を突く。
「それ、口説き文句? プレゼントはアタシ、なんて今日び重くて流行らないよ」
 差し出された手は取らない。
その秘められた魔力に気づいてか、気付かずにか。
退屈そうに視線だけ滑らせていく。
「俺が外さなくても適当に外れるでしょ。
この世に壊れないものなんてないんだから」
 退屈そうに机を指でなぞる。異能のあふれた今の世の中でさえ、絶対なんて言葉はない。
絶対防御能力者はどこまで耐えられるのか? なんて、テレビ番組じゃありふれた検証ネタだ。
 絶対に貫く矛と、絶対に防ぐ盾。どっちにしろ結局存在しない。
 形のあるなしを問わず、壊れないものなんてなにもないだろう。
「あんたがそれを忘れる時ぐらいに、外れるんじゃない」

ご案内:「教室」に深雪さんが現れました。
深雪 > 「・・・・・・・・・・・・?」
貴方の言葉やその態度から,貴方が何かを気にかけていることは分かる。
だが、それが何なのかは分からない。
ただ単に、拒絶されてはいないという事実だけがそこにあり,少女はそれに甘えるだろう。

だが、差し出した手を取ってくれなければ、少し残念そうにそれを引っ込めた。
「そうね・・・面倒事に関わるの、嫌いって言ってたものね。」
小さく頷けば、貴方の指が机をなぞる様を、静かに見つめた。
そう、確かにその通りだ、絶対に壊れないものなど存在しない。
幸福が、力が、命が、ずっと続くだろうと期待することなど馬鹿げている。
「・・・前言撤回。優しいけれど、酷い人だわ。
 私にこんなリボンを付けたまま、お婆ちゃんになれって言うの?」
苦笑を浮かべながら、そう言って、それ以上助けを求める事はしない。
そもそも、外せるはずが無いのだから、助けを求めたというより・・・理解を、求めたのだろうか。

叶 明道 > 「教室で煙草を吸うような奴に何求めてるワケ」
 今度こそ笑い飛ばした。理解なんてするもんか、とでも言うように。
立ち上がらずに、クラッチを鳴らして。
 少しだけ濁った瞳がもう一度見上げる。
「じゃあこっちも前言撤回。
王子様のキスかなんかで解けるんじゃないの」
 存外ロマンチストというか、感傷的というか。
目の前の彼女はそういった類の人間に映った。
 瞳を一度交差させてから、ため息をついて窓へと視線を向ける。
空。退屈そうに、笑みすら浮かべずただぼんやりと視線を向けるだけだ。

深雪 > 少年の表情と言葉に、こちらも、くすくすと笑う。
「それもそうね,優しい最低男さん。」
優しい、を継続したのは煙草嫌いを尊重してくれたから。
それから、こうして退屈な時間を、愉快な時間に変えてくれたから。

そして、続けられた言葉には苦笑が漏れる。
「貴方、私を馬鹿にしてるわよね?
 ま、この島に、私と釣り合うような王子様が居れば良いんだけれど。」
本気か冗談か、それともその中間か、そんな風に笑い飛ばしてから・・・窓の外を見る。
一瞬、貴方の視線の先に何があるのか探して・・・・・・何も無いと気付けば、小さく肩を竦め、

「・・・・・・で、貴方のその足のことは、退屈凌ぎに聞いていい話?」
思ったことは、口に出してしまう性分のようだ。

叶 明道 > 「はァ」
 優しい、と言われるのはあまり好きじゃない。
心底うっとおしそうに、軽く手を振った。
「階段から転んだだけだ」
 実際は違う。これは自分で傷つけたものだ。
制服の下で隠れているが、めくり上げれば痛々しい傷跡が見えるに違いない。
 だが、いちいちそれを話す必要はない。
 干渉されたくもないし。同情されたくもない。
それに四年前の自分を知っている可能性を考えたら吐き気すら覚えるレベルだ。
「アンタと違ってロマンチックな理由はない」

深雪 > 貴方の反応は、概ね少女の期待通りだった。
横を見れば、少しだけ意地悪に笑っている少女が居るだろう。

「そうなの?見た目の割りにドジなのね。」
その言葉の裏側を探ることもなく、少女は信じたようだった。
内心は分からないが、少なくとも表面上は、貴方の言葉に上手く騙された形だ。
くすくすと、少し楽しそうに笑っている。
この少女が世間に疎いことは、貴方にとって幸運だったかもしれない。

「私の理由がロマンチック・・・ねぇ。
 まぁ、感じ方は人それぞれなんでしょうけれど。」
事実を覆い隠すベールを一枚捲れば、血生臭い過去が顔を出す。
けれど、同様にして、それをいちいち話す必要は無い。

叶 明道 > 「そうかもな」
 ドジ、と言われて、それを否定するのは藪蛇以外のなにものでもない。
流れる雲の見つめながら、窓ガラスに映る少女の笑顔にもう一度鼻を鳴らした。
 ロマンチック。まあ本気で言っているわけでもないが。
少女に何かしらの事情があるのだろうことは分かってはいる。
けれど、それに突っ込むだけ野暮な話だ。
ここに居る奴はきっとどこかがおかしいのだ。
誰も彼もまともじゃない。
 だからこそ少年はここにいるし、ここに居たくない。
「あんたは行き遅れになりそうなタイプだな」
 先ほどの、冗談めいた言葉に合わせるように嘲笑う。
風が吹いて、快いとばかりに目を細めた。

深雪 > 窓ガラス越しに、一瞬だけ視線が合った。
「自業自得ね・・・精々、その調子で怪我を増やさないようになさい?」
貴方の言葉をさらに深く詮索するつもりなど無い。
教師の巡回から逃げなくてはならない、などという事情も知らない。
だからこそ、少女はくすくすと無責任に、どこか意地悪に笑っている。

無論、世界を終わらせる少女が、まともであろうはずが無い。
だが、このリボンで縛られているうちは、こうして“少女”として過ごしていられる。

それが幸福なのか、不幸なのか。

「はぁ・・・貴方の言うような、王子様が来てくれないかしら。」
本気で言っているわけでは無い、だが、今はそれでいい。
名前も知らない少年と自分の間の、心地よい距離感を崩す必要は無い。

叶 明道 > 「さあ。明日にゃもう一本杖をついてるかもな」
 冗談、にしては口調は平坦で。
身体を重そうに持ち上げて、クラッチを床に突き立てる。
 そろそろ教師の巡回も終わっただろうか。
名前も聞かず、名乗らず、火をつけていない煙草を口に咥えた。
「あんたが見下ろしてるうちは無理だろう」
 身体をすれ違わせながら、皮肉げに言う。
手を振るわけでもなく、挨拶するでもない。
結局この場限りの縁だ、とでもいいたいのか。
 いや、少年は誰に対してもこんな態度をあまり崩さない。
だからまた会うこともあるかもしれない。
広いようで狭い場所。少女と少年は、互いに目立つ。
 リノリウムの床に、不規則に硬質な音が伝わった。

深雪 > 「そうなったら、また笑ってあげるわ。
 車椅子でも用意しておいた方が良いかも知れないわね。」
くすくすと笑い、立ち上がる貴方を黄金色の瞳が見つめる。
少女は手助けをしようともしないし、心配そうな顔もしない。
火をつければ嫌がるのだろうが、煙草を咥えただけなら、顔色一つ変えなかった。

「あら残念、それじゃ永遠に無理そうね。」
少女はあっけらかんとそう言って、貴方を見送る。
その手にはハンカチが握られていて、2人の縁を僅かに繋ぐ。
少女はもう、貴方のクラッチに特別な視線を向けることもなく、ただ、静かにその背を見送った。

ご案内:「教室」から叶 明道さんが去りました。
深雪 > 時計を見れば、だいぶ時間が過ぎていた。
精神というのは単純なもので、あれほど退屈に感じた教室が、少しだけ愉快に思えるようになっている。

まもなく、午後の授業が始まるだろう。
ここに集まってくる学生達はきっと、退屈な人間たちなのだろう。
けれどその中にも、あの少年のように、愉快な人間が居るかもしれない。

ハンカチをポケットに仕舞い込んで、深雪は静かに、窓の外を見続けていた。

ご案内:「教室」から深雪さんが去りました。
ご案内:「教室」に朽木 次善さんが現れました。
朽木 次善 > 大教室の授業が終わり、生徒は疎らに荷物を手に帰り始めている。
その中で、仕事用の書類を取り出して、一人、額を抑える景気の悪い顔の男がいた。

書類には、第八地区修繕案と書かれている。
それ自体は生活委員会、特に整備課としては見慣れた書類なのだが。
今回は、少しだけ頭が痛い事案に発展しかけていた。
それが表情にも、目の下の隈にも表れているのだが、それは「いつものこと」でもあった。
生活委員会の仕事を「適当」にこなすために、いつも彼はこんな顔をしている。

朽木 次善 > 『第八地区修繕案』。

簡単にいえば、危険が認められ、改修の要を認められた修繕案の書類だ。
例えば崩れそうな道。危険に出っ張った壁。壊れそうな橋桁。
そういったものを修繕し、保全するための「申請書」がこれに当たる。

これ自体は市民の要望を受けて現地の先遣隊から上がってきた報告を下に、
その作業に当たる朽木が計画し作ったものであり、特に珍しいものではない。
今回の作業は「無舗装道の取り壊しについて」の書類だ。
無舗装状態の獣道が第八地区、居住区の中に認められ、
メインに通る山道が存在しているにも関わらず通行が可能になってしまっているため、
それ自体を潰すために補修工事を行う必要があるという内容だった。

先遣隊の報告によれば人が迷い入るにはかなり険しい道であり、
自分から進んで入り込まない限りはそれを道として使用する人間はいないだろうという報告が上がってきていた。
実際現地に足を運んで自分も確認してみたのだが、
夕闇に紛れてはどれがそれかも分からないような、草木の生い茂る裸の道が確認出来ただけだった。

朽木 次善 > その山道は、山の頂上に存在する神社へと繋がっている。
神社といっても居住区の中央に鎮座するような大きな社があるわけではない。
山道の途中、ただひっそりと息づく程度の社が立てられているだけの神社だ。
その神社に向かうことでさえも、その獣道を通る理由など何も存在しておらず、
メインの山道を通ればいいだけなので、やはりそれも問題にならず、
『第八地区修繕案』は問題なく履行され、『獣道は道として封じられること』になった。

なった、はずだった。

朽木 次善 > 『その道を、取り壊さないでくれないかねえ』

作業に入ったときに俺にそんな言葉が掛けられた。
嗄れた声の主は老婆で、後ろに同年代の男女数名を引き連れていた。
手には修繕案の書類よりやや分厚いだけの書類を持っており、
大事に抱えていたそれを自分に向けて差し出してきた。

それは、署名だった。
『獣道を取り壊すこと』への『反対署名』だった。

何でも、その老婆の聞くにその道は、山道の続く神社に祀られる神にとって、
神がその社に降りてくる際に通り抜けるための『神道』であるということだった。
だから、そこは例え人が通り抜けることが出来なくとも、
その地区に暮らす人にとっては『必要』な道であるということを、
その信仰のあり方等を交えて、丁寧に、そして切迫した様子で説明された。

朽木 次善 > 俺は、困った。

「……困った、な」

声にも出てしまった。
それくらいには、困っているらしい。

その道をなくすという計画は、既に先遣隊の調査を終えて整備班に回ってきた時点で、
生徒会からの委託という形で正式な生活委員会の業務として収まっている。
故にそれを覆すということはけして容易ではないどころか、現場からの上申では不可能ではないかと思う。
老婆たちの言い分はわかる。自分には信仰する神がなく、この島に来たのも二年目だ。
彼女たちがその社にどんな思いを向けているのか、生活とどういう結びつきをしているのか、
はっきりと理解出来るわけではないが、それでも、想像することは出来る。
それを取り壊すことが彼女たちにとっては宜しくない結果であることは、重々承知している。

だが、その道が危険な山道であることは間違いない。
そのままにしておけば大人が意図的に使うことはないにしろ、
子供が迷い込んで怪我をした場合、責任の所在はその危険性を理解していながら指導をしなかった生徒会と、
その業務を行える立場であったにも関わらずに対策を怠った生活委員会にあると、自分も思う。
そうならないための生活委員会であり、それを誇りにやってきたはずだったが。

生活委員会を続けていると、往々にしてこういう問題には遭遇する。
三枝あかりに言っていた、「便利が他人の便利を侵害する場」に、今自分はいる。

ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (座学の授業を終え、別の教室を出たところだった。次の授業へ、休憩へ、帰宅へ、さまざまな行き先に向かって歩みゆく生徒たちのあいだを歩き、ときどき立ち止まっては言葉を交わした。
 そうして廊下を行く最中、何気なく覗いた教室に、ひとりの姿を見つける――額を抑える彼の声を、人外の耳は言葉ともなく受け取った。
 教室の入り口からしばしその姿を見遣り、やがて同じ室内へ足を踏み入れる)

「………………。
 ――やあ、お疲れ様。何事かあったかね?」

朽木 次善 > (ヨキに声を掛けられ、不景気な顔を上げる。
 一人で懊悩していたことによって寄った皺で、座ったままヨキを見上げた朽木の眉間には、
 インフラ整備が必要な谷が出来ていた)

「ああ。先生。
 すいません、次ここの教室使い……あ、俺、ですか?
 ……あ、えっと。……そう、ですね。できれば、聞いてもらいたいかも、しれないです」

(ちょっと、自分一人では回答出せない状況にあって、と、付け加える。)

(………。
 簡潔にだが、要点が伝わるように、先程まで『自分の中で言葉として整理していた内容』を、教師に対して伝えた。
 不足はなかったので、きちんと伝わっていればいいのだが。
 机の上で指を編み、嘆息とともに言う)

「……この件に関してままならないことに、生活委員会の先遣隊は既に、
 山の権利者=社の所有者にも既にこの山道を潰すことへの同意を貰っているんです。
 誰一人として「正式な立場でそれを拒否出来る」立場にはいなくて。
 だけど、その気持ちを無碍に出来ないっていう俺のわがままだけで、今作業は2日の遅れを見せている。
 今のところ……遅れは取り戻せそうなんですが、どうにもこのまま行けば……」

(そう、このまま行けば。
 強制執行の対象となり、現場の自分たちはその道を『生活委員会』として迷わず取り壊さないといけない。
 その言葉を、苦々しく教師に向けて吐露した。
 ただその吐露だけで、どこか気が楽になったような心地がして、自分がいかに追い詰められているかだけが分かった)

「すいません。
 授業と関係ない、生活委員の業務内での話で……」

(少しだけ、弱った人間の声が出る辺り、毅然としたこの教師の前で自分は情けないなと思ってしまった)

ヨキ > (長身から相手を見下ろす表情は穏やかだ。
 その顔を見遣るに、彼が生活委員の一員であることは知っていた)

「いや。ここは確か、次は空いていたはずだ。
 ――ヨキも聞く者の少ない教科ゆえ、時間があるのでな。
 いいだろう、ヨキは異邦人ゆえ、君ら生活委員には随分と世話になってきた」

(話し相手となることを言外に了承し、朽木の前の座席へゆったりと腰を下ろす。
 その眼差しを真っ直ぐに見据えながら、彼の話へ丁寧に耳を傾ける。
 相手とのあいだに挟んだ机に肘を突き、ふむ、と小さく声を漏らす。
 彼の声音に、幾許かの弱みが滲み出たことにも笑いはせず、徐に頷いた)

「……『無碍には出来ない』。
 人の声を丁寧に聞き入れるとき、避けては通れぬ壁であるな。

 その道の謂れを、ヨキもあの辺りに住む者から聞いたことがある。
 学園を作るときには、島を随分と切り開いたということだったから……。
 その獣道は、彼らにとっても残り少ない、『生きた信仰』であったのだろう。

 それを残してほしいという思いも、その声に応えたいという君の気持ちも、判る」

(そこで一度言葉を切る。
 言葉を選ぶように、だが、と口を開いて)

「君ら生活委員には、島の暮らしを守らねばならぬという――務めがある。
 例えば、今の作業の遅れが『撤回されるやも知れない』という彼らの期待を煽り……
 それでいて、強制執行が行われたとして。

 整備が既に決定した事項である以上、彼らはどんな形にせよ、傷を負うことが決まってしまったのだ。
 ……君の仕事は、彼らの傷をいかに浅く保ち業務を遂行するか、あるいは、癒してゆくか。

 人の信仰のかたちに、代わりはない。……だが、変化してゆくことは、出来る」

(さながら問わず語りのように、ぽつぽつと言葉を紡ぐ)

朽木 次善 > (猫背の自分とは対称的に思えて、卑屈な苦笑が漏れそうになる。
 堂々とした喋りも全て、自分にはないもので……。
 たった一度言葉を交わしただけで惹きこまれそうになる自分に気づいて、心を整える)

「すみません。ありがとうございます」

(本来なら、他人の悩みを解決する立場にあるために、
 自分は特に、他人に懊悩や弱味を相談することがあまり得手ではないことを自覚していた。
 が、故に自分の中で咀嚼してくれるヨキに心の中で小さく感謝する)

「そう、です。
 前提として、人々の暮らしのためという物があって。
 それが今回、別の角度から見たときの人々の暮らしそのものを傷つけてしまう。
 人々のための整備で、人々が傷を負う。
 それが、俺には……少しばかり怖い、怖い、のかもしれません」

(息を吸い、吐く。
 手の中には、少しだけ厚い署名の元本が収められていた。
 自分はこれに触れているだけで、指先を火傷しそうな熱が襲うように思えた)

「変わり、ますか。そして、俺たちはそれを癒せるんですかね……。
 この人たちが信じてきたものを一度傷つけ壊した上で、緩やかにでも変わっていけるんでしょうか。
 そして、俺たちは、立場としてそれを……痛みを共に癒やすことを、彼女たちに望んでもいいのでしょうか。
 俺は、信仰や神そのものが理解出来てないのだと思います。どれくらいそれが人に重きを持つのかも。
 だから、容易にそれを傷つけることが、出来ないんだと、思います」

(理解できないものには触れるのが怖い。
 知らない振り、見ない振りをする賢さのない青年はヨキにそんな言葉を吐露した)

ヨキ > (金色の視線は、朽木の唇を、言葉を、表情の変化を余さず拾い上げんとするように、半ば無神経なまでに注がれている。
 机の上に置かれた手は、鉄の置物のように座して動かない。
 首肯と瞬き、呼吸に上下する肩だけが、朽木とやわらかに向き合う)

「君は……たしか、二年だったか。
 この常世学園は――生徒の年齢を定めぬとは言え、運営を君ら生徒に大きく負っているからな。
 特に、歳若い生徒には……かつてない決断を強いることも多かろう」

(自分は朽木が手にしたファイルの温度を知らない。
 反面、その手がたしかに『常世島に関わる仕事』をしているのだと――指先から手首、腕を辿って、相手の顔を見る)

「……変わるさ。
 このヨキは現実に、人の信仰のかたちが変わってゆくのを見た。
 残念ながら、人間の生にとってははるかに長い時間ではあるけれども――

 君は、向き合わねばならんよ。
 この日本にあって、定まった信心を持つ者は多くない。
 だが――君の強みこそ、その『定まった信心を持たない』ことだと、ヨキは思う。

 つまり君は、学園側にも、彼ら信仰する人間たちの気持ちにも、耳を傾ける『姿勢を取ることが出来る』。

 話を聞き、話をすることだ。辛抱強く。明確な答えなどない。
 ヨキとて、神仙のように君を教え導くことは出来んのでな。
 ……それがひどく歯痒い一方で、こうして君の隣で、君の話を聞いていられる理由にもなる。

 傷つけたくない、傷つけられない――それを怖いと思う心に今は向き合い、自分で咀嚼してゆくべきだ。ゆっくりと」

朽木 次善 > (正面から顔を見られることにも慣れていない。
 それが彫像のごとき均整の取れた顔立ちと慧眼に金の粒を落としたような瞳に見つめられれば、
 自分でなくともそれを直視するのは憚られる。視線をヨキの首辺りに落として話を聞く)

「はい。二年目ですね。生活委員会としての仕事も、二年目になります」

(ヨキの、推測や推定からでは出てこない強さを含んだ言葉が、心のひび割れに染みこむ。
 それはあまり、自分にとっては好ましい状況にないため、あくまで公平な目と耳としてそれを聞くことを心がけた)

「向き合わなければ、ですか。
 分からない、なりに。いや、先生の言うとおり、分からないから、こそ、ですかね……。
 俺も、そうですね。苦しまずに自分の言葉を吐ける立場よりは、
 苦しみながら他人の言葉を聞ける立場にいたいと思って、生活委員を志したので」

(大きく息を吸い、少しだけ胸の中に溜めて懊悩とともに外側に吐き出した)

「出来れば、ヨキ先生が見てきた物や人と同じように、
 俺も、俺が携わるこの件に関わった人も……何らかの落とし所に、少しずつ傷ついて、
 そして現実に向き合ってカサブタを作っていくべきことなのかも、しれませんね。
 きっと、物語の登場人物なら、もっと格好良く迷わず決めてしまえるんでしょうけど。
 どうにも……そう簡単には行きません、ね」

(それは諦めではない。現実を飲み込み、考え悩むことを決めた物がする、苦渋の表情だった。
 きっと、誰もが納得するような答えを自分は導く事はできない。
 自分はそれこそ社に祀られる神でもなく、万能の異能を持つ超人でもない。

 安易な救いは貰えない。向き合い、苦しめと彼は言う。
 それは一種、外側から見れば冷たさを感じる言葉のように見えて、
 真に相手を後ろから押すエールに……自分は聞こえた)

「ヨキ先生、ありがとうございます。もう少し、悩んでみます。
 問題に悩まされるのではなくて、自分から問題に悩みに行ってみようと思えました」

(直視出来ないはずの相手の金色の瞳を、今度は歯を食いしばりながら見つめ返しながら。
 まずは、それから逃げないように。
 格好の悪いことに。それはかなり勇気が居ることだったが。
 ……それだけは、感謝とは違い伝わらなければいいなと心から朽木は思った)