2016/05/27 のログ
十六夜棗 > 「ええ、……ちょっとやらかしまして。」

表情は無理をしている訳ではないけれど我慢に慣れて苦痛を隠している。
この辺りです、と額から頭部にかけて手で示す。
特徴としては、ケーブル等からの感電よりも若干広い範囲に火傷が広がっている事。
一般的な感電よりも火傷の深度が低い事か。
魔術に造詣のある者が感知すれば魔術による物だと解るだろう。

「同僚同士で不良白衣と言ってどうするんですか。」

痛みを我慢しながら肩を竦めて、先生方二人に言葉だけ投げやりに突っ込みを入れる。

蓋盛 > 「わ、なかなかえげつないな。
 よく我慢出来てたね、こんなの。
 生徒を虐めるのが趣味の人格破綻魔術教師に体罰でも受けたりしたの?」

思いの外痛々しい負傷に、多少驚きながらも落ち着いた笑みは崩さない。
椅子に座らせて、応急処置を行っていく。
大事を取るなら、もっときちんとした治療を受けられる場所に行くべきだろう。
あるいは……蓋盛の異能を用いるか。

「私は普段悪ぶってるけど雨の日に子猫に傘を差し出すタイプの白衣だから……
 悪くない白衣なんです。この人とは違うんです」

空いた手の指で獅南を指差す。

獅南蒼二 > 好き勝手言われているが、特に反応することも無い。
ただ、その負傷と魔力の痕跡を見て取れば…

「……何をやらかしたのか知らんが、酷い有様だな。」

…小さくそうとだけ呟いて、静かに立ち上がった。
2人の近づくことはせず、自分が連れて来た熱中症の少年を見る。

「さて、どうやら私は極悪人らしい。
 外した方がよければコイツを連れて戻るが…?」

それは誰への気遣いだったのか。
これまでも獅南は決して蓋盛の“異能”を見ようとはしなかった。
今日もまた、止めることさえしなければ彼はこの部屋を出ていくだろう。

十六夜棗 > 「あー、いいえ。ちょっと実験をした結果です。
おかげで光明は見えてきましたから。」

とりあえず誰かがやった物では今回はありません、と自分を指差して示しておき。
椅子に座って、素直に処置を受けながら先生方二人に別々の事が伝わるように言葉は選んだつもりだった。
流石に、図書館で先達が読んでいた本を借りて読み、それまでに読んだ内容と合わせて自分に実行しようとした結果とは言えないけれど。
もう一人の少年がどう見るかまではわからないし、多分授業で顔を合わせていても話していないだろうから、多分少年には視線だけで会釈の様な事を交わす位で十分と判断して実行。

「傘を差し出した後雨が止む前に学校に行って、傘が盗まれてる事に気付かないタイプの白衣ですか。
後もしかして喧嘩するほど系の仲でしたか?」
じゃれあいっぽい空気と読み違える。
経験の薄さが出た形で外した方がいいかどうかはどちらでも、と反応をしっかりとは返さなかった。

蓋盛 > 「おっと、そっちか。
 先客が似たような火傷だったもんでね、つい。
 次はあたしの仕事を増やさないような実験にするこった」

自分の魔術や異能の扱いを間違えて訪れる生徒の数もそれなりに多い。

「……はい、とりあえず手当はこれで終わり。お疲れ様。
 感染症とか怖いし、後で改めてお医者さんか治療魔術使える人に診てもらってね。
 あたしの異能でも完治はできるけど……まあ、あんまりオススメはしないな」

獅南との間柄に関するコメントになんともいえない表情を浮かべる。

「はは、冗談キツいな!
 ……あら、極悪人にしちゃ気を利かせてくれるんですね」

席を立つ獅南をちらりと見る。
この男は邪悪には違いないが、妙なところで律儀なところがある。
追い出すようなことはしないが、あえて止めることもない。

獅南蒼二 > 「なるほど、光明が見えた…か。
 それで死ななかったのだから、成果としては十分と言うべきかな。」
さらりと酷いセリフを言って、少年を持ち上げた。
病人を扱うように優しく…ではもちろんなく、肩に担ぐ形に。

「1つだけアドバイスをするのなら,今度は概論の最終授業で扱った防御術式を展開しておけ。
 お前の魔力容量ならまぁ、少なくとも動けないような怪我をすることはなくなるだろう。
 ……もっとも、面倒なのは確かだがな。」

アドバイスをしつつ、止められなければそのまま少年を担いで部屋を出ていくだろう。
扉を、それこそ何の予備動作も無しに魔術で開かせて…まるでそれは、自動ドアのように。

「あぁ、出来ることなら私は、極悪人かっこ笑い、で居たいからな。」

その言葉の真意は伝わるだろうか。
蓋盛は信頼できる相手でありながら、同時に、排斥すべき異能者だ。

十六夜棗 > 「そうしておきましょう。
実用に向けての実験には付き物ではありますが、成果を挙げながら安全性にも多少気を配ります」

善処します位信頼性のない言葉を述べて、担ぎ上げられた少年と先生へ視線を向けて。

「有り難うございました。
念のために診察はして貰っておきます。」

ああ、獅南先生が出ようとしている理由が理解できた。
異能、だろう。あの時の…鏑木さんと先生との話も思い出せば、十中八九それだと推測できる。

「自分への実験には併用できる状態にしておきます。」
が、二人の間柄にはそれ以上は口を挟まずにくすくすと笑う振りをするに止めて、ついでに防御術式についてを誤魔化した。
雷属性がどうしても混ざりやすく何か別の魔術と併用するには相互影響が出るために使えなかったからだ。
いつまでにしておくか期限を定めていない。
属性が雷より、防御術式に不安。以前獅南先生に言っていた致命的な弱点のうちの一つがこれだった。

蓋盛 > 「そりゃ殊勝なこってす。
 その勢いで、善良な人間になろうとしたっていいんですよ?
 あたしはこう見えても、努力してますから」

保健室を後にする獅南の背に、空々しい言葉を投げる。
なんとも人を米俵のように担いで運ぶ姿が似合う男だ。

「どんな実験だか知らんが、自分への実験はあまり勧められるものじゃないな。
 他人に危険を及ぼせというわけじゃあないが……
 さて、身体は大事ないようだが、茶でも飲んでく?」

お茶のペットボトルやらお菓子の箱やらを取り出して。

ご案内:「保健室」から獅南蒼二さんが去りました。
十六夜棗 > 「偽悪を目指す人に善良と言っても無理ですよ」

軽くはー、と溜息。
かっこわらいを素直に受け取ったと仮定しているあたり、空気あまり読めていない。

「人体に影響を及ぼす物を実験するなら、大抵は自分への実験でしょう。
ちょっと額がひりひりするので冷たいでお願いします。」

お茶までは治療の一貫として受け取ることにして、お菓子は固辞する姿勢。

蓋盛 > 「偽悪なんてかっこわるいじゃん? 十代の時に卒業すべきだよ。
 卒業できなかったからあんな大人になってるんだろうけどさ~
 今のトレンドは善良、断然コレだね」

やれやれ、と手をひらひらさせる。
言いたい放題なのは獅南がいなくなったからというわけでもない。

「いや、女の子に電撃浴びせてもらいたい願望持ってる若者、
 探せば案外いるんじゃない? もし居たらWin-Winだよ?」

むちゃくちゃなことを言いながら、彼女の分の冷たい茶を注いで出してやる。

十六夜棗 > 「そんな中二病の様に言うのは。」

トレンドとか、卒業とか言われても、正直実感もなければ、落第街に行っている時に敢えてそう作ってる面もある身からすると
正直火傷より痛かった。

「その若者、踏まれたいとか罵られたい人種なのでは。」

流石にノーサンキュー、と首を振ってお茶をちょびっとずつ飲み。

蓋盛 > 「同じだよ同じ。
 自分が傷つくのが怖いから、
 ワルい自分を外側に作ってイヤなことを引き受けてもらうのさ。
 ま、正直な生き方をする義務なんてないし、
 誰だって多かれ少なかれそういうのは必要なんだけどね……」

相手の内心などいざ知らずバッサリと切り捨て、ため息を吐く。
何かしら思うところがあるようだった。

「あ、きみはそういうのはダメか~。そりゃな。
 最近変態ばっかとふれあう機会が多くてさ、悪い。

 雷といえばかの有名なベンジャミン・フランクリンも
 自らを危険に晒す実験をしていたらしいし、そういう宿命なのかもね。
 よかったら、どういう目的で実験しているのか、先生にも教えてもらってもいい?」

茶をすすりながら、控えめに尋ねてみる。

十六夜棗 > 「心の鎧とでも。
鎧を作れなかった人の方が、立ち上がり難いのでしょうけど。
正直な生き方が出来る社会なら、そんな鎧を作る必要性もないと言う事なんでしょうか」

ダメージを受けかけてた所で、持ち直し。
色々と思う所がある話題だったか、何度も鼻の頭を指で叩いて。

「それはいいですが、保健室って変態が集う場所でしたか?

実験とはまず自身と対象にするものだ、と誰かの言葉にあった気だけしますね。
目的については秘密とさせて下さいな。
やりたい事をやる為にってだけで。
あ、そろそろ術師の方に診察して貰いに行きます。」

タイミング的に探られそうなのを避けた面もあるけれど、そろそろ見てもらっておいた方が経過時間的にも良いだろう、と判断してお茶のコップを置き席を立つ。

「手当て、ありがとうございました。」

一度頭を下げて、あっちでしたよね?と指で確認してから外へと向かう足取り。

蓋盛 > 「面白い言い方だな。
 まるで今の社会が正直に生きられないって言ってるみたいだ」

笑みを深める。

「保健室ってのは何しろいろんなヒトが来るからね。変態も多いさ。
 ……おっと、引き止めちゃったな。また何かあったら来なよ」

教えてくれないことには少し残念そうな素振りを見せるが、
それ以上の未練は見せない。
彼女の言葉に頷いて、またねと手を振って見送る。

ご案内:「保健室」から十六夜棗さんが去りました。
蓋盛 > 姿が見えなくなったのを確認し、戸を閉じる。
冷房はつけっぱなしでいいだろう。また体調不良者がいつ運び込まれてくるかもわからない。

「警戒されちゃったかな?
 いやはや、善良に振る舞うってのは難しいね」

こき、こきと首を回す。
さっきはああ言ったが、厳密には変ではない訪問者など、この常世の保健室においては存在しない。
もちろん十六夜棗だってそれに含まれる。

「退屈を忘れると、退屈がまた懐かしくなる」

ん~っと伸びをすると、再び業務へと戻った。

ご案内:「保健室」から蓋盛さんが去りました。
ご案内:「教室」に斎藤 朱莉さんが現れました。
斎藤 朱莉 > がさがさ、と自分でまとめた講義ノートを手に取り、教壇に立つ。
……正直、斎藤朱莉の「政治思想史」の講義はそこまで人気が無い。大教室を使えば、まあ前の方がスッカスカになってしまう程度には。
とは言え、だからと言って自分が教鞭をとることが無意味だとは考えていない。
もし単位欲しさに受けているだけの生徒であっても、真面目に聞く気がほとんどなくても、この講義を通じて何かを受け取ってくれれば、それは教師冥利に尽きると思うのだ。
……まあ、殆どそんな気概は生徒に伝わっていないのだが、とにかく開始時間まで待つ。ギリギリで来る生徒もいる事だろうし。

「……ここら辺は大事だからなぁ」

しっかりと、やり切らねば。

ご案内:「教室」に水月エニィさんが現れました。
水月エニィ >  後ろの方でレジュメを斜め読みする生徒が一。
 ……他にかみ合うものがなかった、と言う消極的な理由で受講したものだが、
 政の思想には思うところがある。複雑な所ではあるが、取るだけ取ることした。

 そんな風に理由を思い出しながら講義を受ける。
 パッと見は真面目だ。転入したばかり故に見ない顔だが。

(途中からの受講だから、レジュメは有難いわね。)

斎藤 朱莉 > 「……さて、時間だ。始めるぞー」

私語はやめろよー、と注意を飛ばしつつ、講義ノートを手に取り講義を開始する。
……とはいえ。

「ま、祭りやらで少し間が空いたからな。最初は前回の復習から行くぞ。
テーマは功利主義、提唱者のジェレミー・ベンサムは社会契約論の内、主に『人々の権利とは、神より与えられたものである』と説いた自然法の概念に否定的だった。ま、神なんていねぇと考えて、人の権利は人によってつくられた政府が保証する事で初めて機能する、と説いたわけだな」

カカカカ、と黒板に要所を書き記しつつ話を進める。
結構ざっくりしないといけないのだが、流石にベンサムの内容は功利主義の基礎の基礎であるため些か略すのも難しい。
ある意味では腕の見せ所だ。

「で、ベンサムは功利主義を象徴する言葉として『the greatest happiness for the greatest number』。つまり『最大多数の最大幸福』と説いたわけだな。
これは覚えといて損のない言葉だぞ、実際に社会でこの考えを当てはめる事もままあるからな」

水月エニィ > 「……。」

 (人を保証するのは神ではなく環境、と。)

 分からなくもない。
 神"実在しないとするもの"ではなくて"実在するもの"が与えている。
 今の時代で神など居ないとは言い難しものがあるものの、
 大変容以前であると考えれば当然である。
 
 この場合の政府とは何か、と言う話でもあるのだが。

(最大多数の最大幸福、と……。)

斎藤 朱莉 > 「大変容で世界が変わっても、まあこの原則が使われることがあるっつーのは変わんねーな。例外も増えたが。
……と、あんまりチンタラしてる暇はなかったな、次だ。
この『最大多数の最大幸福』の概念は、要するに『人々にとっての幸福を重視する』と言う考えで、何故重視するかと言うと、ベンサムは『自然は人類を、苦痛と快楽と言う、二人の主権者の支配の下に置いてきた』……つまり、人は生まれつき快苦の法則に支配されており、その中で快を求めるのが人の本能であるから、それこそが善である。と説いたわけだ」

さて、と一息置く。
答えられる生徒がいるかは分からないが……取り敢えず、今回も聞いてみるか。
前回言った内容だから、復習してれば答えられる筈だ。

「つまり、ベンサムは『人は快を求める生き物である。よって、快を求める事が善である』と考えたわけだが……この主張自体には『自然主義的誤謬に陥っているのではないか』と言う批判がある。
これがどういうことか、どういう意味で批判されているのか。答えられる奴はいるか?発言するだけで加点、正解なら更に加点してやる」

ご案内:「教室」に雨宮 雫さんが現れました。
雨宮 雫 > 前の方の席で制服をガン無視した生徒。
片手を顎にやって、もう片方の手の指先がシャーペンを高速回転させている。

思案げに、んー と 軽く唸りつつ  誰か挙手するかな?と、ちょっと待つ。

水月エニィ >  
 静かに挙手をする。

「定義の問題、でしょうか。 
 自然主義的誤謬はよく分かりませんが、そこに疑問を覚えます。」

 ――快とは何か。
 それへの解釈に思うところがある。
 後、点数欲しい。

「人間が生まれ育った環境や慣習の違いなどから、快の定義には違いが見受けられると思います。
 故に定義できない、と批判することはできると思います。

 定義している人々にとってどう映るか分かりませんが。」

雨宮 雫 > 「ぬーん。じゃあ、ボクもボクもー。」

時々いる、誰かに対抗する生徒みたいなノリで挙手してみた。


「「自然主義的誤謬」はー。
 物事の自然な状態の「~~である」と、物事のあるべき状態の「~~であるべきだ」の混同だっけね?
 自然な事実をそのまま、人間社会の善悪や損得勘定に置き換えてちゃう誤解?間違い?になってるんじゃないかーという……かな、かな。

 人間が快楽を求めるという事実……事実かな?
 を。人間は快楽を求めることが善であり快楽を求めるべきだ~ そうするべき~ みたいになっちゃう……?

 うん、喋ってて混乱きてきただね、だね。」

勢いで喋る系生徒であった。

斎藤 朱莉 > 「お前は……水月だな。よし、その内容は『自然主義的誤謬』の回答とはなってないが、批判の内容としては正解だ。正解分の加点をしてやる」

にや、と笑って答えを受け取る。
そう。ベンサムは『そこ』を見誤ったのだ。

「その『快には個人差があり、画一化できるものではない』と言う考えは、今日の本題のミルの所でやるんだが、実際ベンサムはそこを見落としてた。
ベンサムは快楽の質を無視し、単なる分量計算で測ろうとしたわけだな。こうすれば確かに数値的計算に基づく道徳や法の形成が可能だが、本質的なところを無視しちまったともいえる」

『快』も『不快』も、それに限らず人の感情とは他者との比較があまり意味をなさない絶対的な物。
そこを分量だけで計算しようとしたところに、ベンサムの手落ちがあったのだ。

「まあ、これで進んじまってもいいんだが……折角だ、自然主義的誤謬について説明できる奴がいれば、それに対しても加点……お?雨宮、だったな。言ってみろ」

追いかける様に来る挙手。これは教師として本当に嬉しいものだ。
そして、その内容を聞いて……

「(うん、よく勉強してやがる)」

こくん、と頷く。

「雨宮、お前の説明も正解だ。自然主義的誤謬とは、『~である』と言う事実と『~であるべきだ』と言う道徳、道理論は必ずしもイコールの関係にはならないというのに、そこをイコールで結んでしまうという誤謬だな。
それを関連付けてしまう場合、どうしても『そいつにとっては』の注釈が入ってしまい、論としては主観的になり過ぎるっつーわけだ」

例えば、石を空中で手放したら地面に落ちるが、では石には空中で支えを失った場合に落下する道徳的義務が発生するかと言われればそんなはずはない。
『~である』と言う現実は、『だから~すべきである』と言う価値判断の基準としては不適切だ、という事だ。

「よし、お前も正解分の加点をしてやる。まあこれは雑談的内容だが、物事を考える上でどうしても陥りやすい誤謬だから気を付けろよ。
……さて、ではこの功利主義を実行するに当たって、一番重要な要素をおさらいしようか。
つまり『では、最大多数の最大幸福はどのように算出するのか』だ。
これはちっと難しいかもしれねーが……分かる奴、いるか?」

勿論さっきと同じように、発言で加点、正解で追加加点だぞー。と解答意欲を煽ってみる。

水月エニィ > 「ありがとうございます。」
 
 事実を上に置くか、道徳を上に置くか。
 ……道徳は現実を映すに足り得ず、現実も道徳そのものの形は成さない。

(故に、神の国なんてものは――。)

 ……自嘲めいた思考をかき消そうと、ノートにシャーペンを走らせる
 常に芯が回転し、安定した太さでタイプのシャーペンだ。

 ……次の問には解答しない。
 

雨宮 雫 > 「市民、幸福ですか?
 の計算はぇー なんか7個くらいの強さとか持続力とか確実性とかが基準だったような。
 ベンサムは計算の仕方って出てたっけ……うーん、記憶にないかな、かな。」

余り発言する人間も居ないっぽい授業なので。
決してセンセーへの好感度稼ぎではないが、稼ぎではないが、思いつくところは挙手して喋っておく。

「自分の属する社会の人間の慎重な考えと、人に迷惑をかけて幸福を減少させないようにするまぁ、誠実な感覚と、それを増やしていこうーっていう感覚でできてる?
 なんかこう、皆で人に迷惑をかけずに皆で幸せになろうとか……?

 うん、センセー、わかんなくなってきましたかな、かな。」

勢いで喋って収集のつかない典型的な例であった。

斎藤 朱莉 > 「はは、間違っちゃーいないんだが、もう少し細かく快楽計算は式があるんだ」

解答してくれたことに喜び、頷く。
もう少ししっかり纏められれば正解だったかもしれないが、まあ仕方ない。
言いながら、黒板に式を書いていく。

【(ある行為が生み出す個々の快楽-ある行為が生み出す個々の不快+その快苦から生み出される個々の快楽-その快苦から生み出される個々の不快)を各個人ごとに行い、それを全て合算した結果の快楽数=ある行為が効果を及ぼす範囲での総快楽数】

「つまり、ある行為……主に政策だな。この行為によって発生した快から不快を引くことで『個人にとって発生した快不快』を計算、その後『その快不快から発展した快不快』まで計算。これをその行為の及ぶ範囲の全員で行い、全て合算する。
この時、結果快の方が大きければその行為はよい行為であり、不快の方が大きければその行為は悪い行為である、とされる」

難しく、パッと見の理解が困難な内容ではあるのだが、知っておいてまあ損はない内容ではある。

「ま、大雑把に言えば『その人がその行為によってどれだけ快不快を得たか。また、その快不快から派生してどれだけ快不快を得たか』によって『その個人の最終的に感じた快楽量』を算出し、これを人数分行うっつーだけだな」

水月エニィ >  直後、手を挙げる。

「先生、この式だとある行為によって1人が1000の不快を受けても、残る万の人々が1の快楽を得て、
 他のものもそれらを苦に思わなければ利益が出ます。そういうものとして扱っていいのでしょうか。」

 抑えた口調でそう問うた。
 思うところがあるのかもしれないが、表情は実際抑えている。 

雨宮 雫 > 「中々、こー、具体例は挙げれるかもしれないけど、数字にするのは難しい話な気がするかな、かな。
 何がどの位に幸せかって全員平等な数字にできる人は中々居ない気がするかな、かな。

 エニィちゃんの言ったように。」

例えば。
島の人間を9割ヤク漬けにして幸せな夢だけ見せていたら。
”この島に限っては”薬を供給し続けて夢を見続けさせるのが良い行為になるんだろうか。
ヤク切れがゲロ辛い禁断症状を得てのたうち回るなら、死ぬまでイイ夢見せてやり続ければアリなんだろうか。
社会的に麻薬駄目・絶対って風潮だから駄目かな。

などと健全なことを思いながら、人差し指でグルグルとシャーペン回しながら、感想を述べた。

ちなみに、しっかりメモは取っている。

斎藤 朱莉 > 「……お前等、ホントいいとこ突いてくるな」

優秀だ。見事にこの『初期功利主義の欠陥』を指摘してきている。

「そうだ。この快楽計算は、人数が少なければ多人数で圧殺する事が可能になる。
つまり倫理を考慮せず、快楽数値だけでものを考える以上、どうしても『道徳的に許容されない非道な政策でも、それが最大多数の最大幸福に寄与するなら是となりかねない』と言う欠陥が存在するんだ」

ロールズによるベンサム批判の内容の一つであり、初期功利主義ではこの批判に対応できないのである。

「まあ、ベンサムは『道徳的にダメな事ならダメ』と言うことを『当然の前提』として省略したんではないか、という学説もあるが……ま、それはあんまり重要じゃねぇ。
ともかく、その初期功利主義の欠陥を補うような功利主義を打ち立てたのが……」

カカカカ、と黒板に名前を書き記していく。

「今日の主題、『ジョン・ステュアート・ミル』だ」

ご案内:「教室」にウィルフェミナさんが現れました。
ウィルフェミナ > 「楽しい遅刻。ですわねぇ? さて」

女性は扇子に口を当ててそそりと席に着く

水月エニィ >  
 ――~である。
 "事実"として見るならば、批判されたそれらは自然な計算である。
 その様に思えてしまっているからこそ、そう問うた。

 貴重品の奴隷が。
 聖者の受難が。
 口なしの逝者が。
 捧げられる生贄が。
 まさかの為の魔女狩りが。
 それらは確かに、大多数や特定の環境に幸福や繁栄をもたらした。

「……」

 頭だけ下げて教師に応じ、ノートに戻る。
 静かに筆を走らせる。

 

雨宮 雫 > 「個人的には、道徳がカチ合うとどうなるのかにも興味があるけども。
 戦争かな、戦争かな、っと。」

戦争、にちょっとだけ楽しそうな色が混じった感想だった。
そんで次のハナシに行くなら、それ以上は口を閉じる。

なんか、後ろの方で気配が増えた気がした。

ウィルフェミナ > 「戦争ね。
 この時期におきた戦争は普墺戦争等もありますけれど、
 それよりも、中央世界の複雑怪奇な状況に端を発した
 独立戦争が多いですわね?」

と、シラバスと全く関係のない事を歴史年表と首っ引きで
書き始める。よく見るとお前持ってるのジェーン年鑑だろこれ。

斎藤 朱莉 > 新しく生徒が増えた。とは言えまあ、ギリッギリ出席点は与えられるだろうか……?
と、言ったところで。少し自分のミスに気付いた。訂正しよう。

「……の、前に。悪いな、アタシが少し説明ミスった。
『量』と言う言葉を使ったのが悪かったな。ベンサムの功利主義は『誰でも一人として考え、誰も一人以上として数えない』と言うのが基本だ。
つまり、実際の所さっきの計算式は、全部実数値1で計算するのと大差ねーんだ。
今なら割と常識的に考慮される『快楽には個人差がある』と言う概念を、ベンサムは取り入れなかったわけだからな。
だから、水月。お前の問いを更に調整するなら、『一人の不幸で百人が救われるなら、その不幸は無視されるのか』ってー事になる。で、そこもまあ、ミルの範囲だ」

訂正して頭を下げつつ、次へを話を進める。迂闊なミスだった、反省せねば。

「で、ミルはまず、この『快楽には個人差がある』と言うことを重視した。
『二つの快楽の内、両方を経験した人の全部またはほぼ全部、道徳的義務感と関係なく決然と選ぶ方が、より望ましい快楽である。両方をよく知っている人々が二つの快楽の一方を遥かに高く評価して、他方より大きい不満が伴う事を承知の上で選び、他方の快楽を味わえる限りたっぷり与えられても元の快楽を捨てようとしなければ、選ばれた快楽の享受が質的に優れていて量を圧倒しているため、比較する時に量をほとんど問題にしなくてもよいと考えて差し支えない。』と説き、少しかみ砕けば、『快楽に対する個々人の受け取り方は千差万別であり、単に質を問わず量で考えると、量だけ多くてその個人の受ける快楽自体は不足になる可能性がある。例えそれが量的に劣っていても、質的にその個人にとって遥かに優れている快楽であるというのならば、その快楽が劣っていると言うことは出来ず、その分量を問題にする必要はない。』ってー事になる。
……つってもまあ、分かりづれーよな」

一旦区切る。まあ、この表現ではかたっくるしくて理解しづらいだろうから、更に要約を重ねる。

「だからもう一歩大雑把にかみ砕けば……安めの肉を大量に食べるのと、上質な高級和牛を一切れ食べるのと、どっちが幸福に感じるかは人次第、っつーことだ。
快があったとして、その快を内容問わず一つの快として計算する場合、どうしても『安い肉たくさん食べる』って方が快の総数が増えるよな。
だけど、世の中には『安い肉たくさん食うより、上質な高級和牛一切れ食う方がいい』って奴もいる。その質の差を考慮すべき、と説いたんだ」

先程混同してしまった要素でもあるのだが、ベンサムが「あらゆる快はそれ一つでは1」と計算したのに対し、ミルは「快楽の質によっては、それ一つで10にも20にもなる」と考えたのだ。
とは言え……水月エニィが言った問いの解答にはなっていない。それはもう少し先の話だ。

「……後、戦争については触れねーぞ。それは『大変容前世界史』とかの講義取ってこい」

ウィルフェミナ > 「この時代は軍拡競争の200年続いた戦列艦の時代の終焉であり、
 産業革命真っ只中で徐々にさまざまな国への波及ありーのですわね。
 資本家がバリバリに上前はねーの、一方労働者の平均寿命35歳。
 衛生面もろくなもんじゃーありませんの。
 
 そんな時期だからこそ、功利主義は生まれたのですのね?」

さらさらメモを取りながら、バリバリ独り言をつぶやく。

雨宮 雫 > 「ボクは別に戦争は実体験あるんで、別にソレはいいかな、かな。
 
 まぁやっぱり、何がイイってのは個人差はあるよね、絶対。

 同じ人間は存在しないからね、ん、居る可能性はあるから絶対って言い切るのは良くないかな、かな、この世界は。」

水月エニィ >  
「いえ、要旨はそれですから。」

 続く問はあまり耳に入らない。
 快苦に優越が付けられるのは、「自然主義的誤謬」ではないか。
 その点が理解を拒む。

 精確に言えば、快苦の点数を付けるのが、人を保証するのが神でなく政府だとすれば、
 より政府に近いものの快苦の観念が設定されてしまうのだろう。
 政府でなければ神か、長か、王か。

 ――"誰の欲が優先されるべきか"。
 時代背景を知らない故に、己の価値観に当てはめて思考する。
 
「ゴール裏の魔術師さん。こんにちは。
 レジュメは必要かしら。」

 最前列でないならば、近い位置に居るだろうか。
 そうなならば、小さな声で、そう問うか。
 

ウィルフェミナ > 「あ。これ履修登録してないから単に話聞きに来ただけ。
 ヒマですから。でも、レジュメは頂きますわ。
 ここからマルクスの共産党宣言という面白びっくりコント
 始まりますわよね?」

エニィさんを逆撫でするわけではないが、大学生活によくあること。>面白そうなら履修してないけど話聞きに行く

水月エニィ >  
「案外意欲的なのね。
 ……その辺りの事は良く知らないの。」

 小さく首を振って、軽く寄越す。

「とは言えこれ1組しかないわ。
 後で返してくれると嬉しいわね、ウィルフェミナさん。」

ウィルフェミナ > 「ありがと。ですわ。
 ちょっと、それでは筆写させていただきますわね?」

そう言うと、ウィルフェミナは文字通りの超速で今日分の内容を
全部認めた。魔術師のスクロール作製に比べれば楽だ。

斎藤 朱莉 > 「ま、実際時代背景は政治思想とは切り離せねぇ。が、この講義の主題は『こういう思想がありました』だからな。そこんところは各自で補ってくれ」

そこまでやってたら時間が無い、というのもある。やむなし。

「で、話を戻すついでに……ちょっと順番前後するぞ。
本来は最後の方にやる予定だったんだが、ここで『他者危害原理』を先にやる。
っつーのも、『多数のために少数を迫害する形での功利主義は認められるのか』っつー命題が、この他者危害原理で説明されるからだ」

レジュメで言えば一番下の方になるが、順番を修正するしかないだろう。
それくらいの臨機応変さはあってもいいはずだ。

「他者危害原理の根本的な問いは、まさに『最大多数の最大幸福を実現するために、個人の自由に干渉する事が許されるのか?』と言うもんだ。まあ、これは最初に説明するポイントはちょっとお前らが望む答えの前置きになるんだが、そこは我慢してくれ。
これに対する答えとして、ミルはこう述べている。
『人類が、個人的にまた集団的に、誰かの行動の自由に正当に干渉しうる唯一の目的は、他人に対する危害の防止である。……人間の行為の中で、社会に従わなければならない部分は、他人に関係する部分だけである。自分自身にだけ関係する行為においては、彼の独立は、当然、絶対的である。彼自身に対しては、彼自身の身体と精神に対しては、個人は主権者である。』
即ち、『自分自身にだけ関係する行為』と『他人に関係する行為』を区別し、それ自体は自分自身に害をもたらす行為であっても、それが他人に関係していない、つまり他者への危害が無い場合、それに他者が干渉する理由はないっつー話になるわけだ。自己決定権の擁護、と言われる内容だな」

とは言え、まあこれも具体例無しでは分かり辛いか……と思うので、具体例を提示する。
……今回の具体例は、ある意味もっと身近、だ。

「例えば……常世学園で発生した「炎の巨人事件」において流通した「暴走剤」は、接種した者を能力暴走<オーバー・ロード>状態に変化させる危険のある極めて危険な薬物ではあるが、あくまでその時点での影響はその個人の範疇に収まり、それだけでは他者に迷惑をかけるものではない。よって、これを接種した生徒が暴走した異能によって他者を傷つけた場合はその生徒に対しての干渉が正当化されるが、あくまで接種する事自体に関しては個人の自由の範疇であるため、これに干渉する理由は認められない、っつー理屈になる。
つまり、「不正そのもの」と「不正の原因」を区別すべきっつー話になる」

要するに、自分をナイフでブッ刺しても、それはその個人の勝手なので干渉する必要はない。
だが、わざわざ他者の前で自分にナイフをブッ刺し、トラウマを植え付けようとするならば他者に危害を加える行為なのでそれを止める権利が周囲に発生する、と言うことだ。

「ここまでがまあ、お前等の問いに対する前振りだ。ここまででなんか質問はあるか?」

雨宮 雫 > 「影響が自分だけに限ってる場合は自殺しても何してもおっけー ってハナシに聞こえるのだけど、あってるかな、かな。

 あってる場合、現代社会では これやっちゃだーめ っていうのが法律で決まっていて、それに反している、例えばー……

 麻薬を飲んでラリってる人が自分の部屋にだけ篭っていい夢見てる場合。
 それだけなら逮捕しちゃ駄目なのに、実際は露見するとけーさつ様が踏み込んできて逮捕されるよね。

 まぁ、ヤク中とか何するか分からないし。危なくて放置しかねるっていう理屈とか。
 廃人が増えると社会活動が成立しなくなるから他者の害になるとか、あるけど。
 実際に他人の害になってない段階ならそれは理由にならない気がするだけども、どうかな、かな。」

暴走剤ってアレだよねー、前に購入して保管してるアレだよなー、と思いつつ。
そんなコトや、自分の本業を棚にあげまくった台詞を真面目な顔で吐き出す。

「この辺は後で出て来る話なのかな、かな。」

水月エニィ > 「本物の魔術師みたいね。」

 逸脱めいたウィルフェミナの筆記をそう評し、講義に戻る。

 手を挙げる。
 先ほどまでのように強く思う所はないが、折角だ――

「……最大多数の最大幸福を実現するための他者への干渉は非常に限定される。
 それも他者への害が発生するときに限り、個人的あるいは集団的な防衛として干渉する事が出来る。

 つまるところ、自己のみを幸福実現の計算に入れる事が出来る。
 意図はどうあっても干渉は許されない以上、自分のみが自分を幸福に出来る、と考えても宜しいのでしょうか。
 たとえば、干渉によって双方が快を得るような"協力"や、
 誰かに与える事で欲求を満たす"救う"に値するようなものも制限されてしまうのではと思います。」

ウィルフェミナ > 「大体遺体処理等や諸々で影響が自分だけに限る事は少ないですわね。
 昔の通勤電車の人身事故で一時間止まるのはざらですわ。
 常世の通勤電車も時々ありますけれど?」

「さておいて、エニィさんの理屈を徹底させるとリバタニズムに
 なりますけれど。

 この場合は本人の自由意思が一番大事ですわ。
 本人が望むメセナや喜捨まで否定したら何も始まらないですわ。
 もしくはイスラムのサラーム等。ただ、強制を徹底排除する。
 強者が強者として君臨できる。されど、そこに猛き者の責任は発生しない。

 まぁ、有体に言えば『と て も す ば ら し い』思想ですわ」

ウィルフェミナ > 「思想学論と現実運用が違うこともままありますわね。
 これはカタログスペックだけ優秀だけど、実は前線で使えない
 ポンコツなんてよくある事ですわ?

 ほら、ブラックバーン社辺りの英国兵器によくある……」

雨宮向けに少し話を振ってみた。

斎藤 朱莉 > 「うん、お前等よく見えてるな」

こくん、と頷く。三者三様にこの他者危害原理を理解しているようだ。

「まず雨宮。あくまでミルの他者危害原理をその通り適応するなら、まさに言っている通りだ。
基本的に法律などで規制がかかるが、ミルから言わせれば『他人に迷惑をかけない限りは余計なお世話』ではあるんだろ、あくまでミルはこう言ってるっつーだけの話だからな。
まあ、それこそお前の言う通り『のちに他者に被害を与える可能性』やら『見えている不幸を抑止するため』、もっと言えば『社会全体の幸福を守るため』に秩序を設定する法として、現実的にはあったほうがいいんだがな」

このミルの『他者危害原理』は、個人の自由を幅広く認める上で意義のあるものだが、認め過ぎては無法にもなる。
現実的には制約をするべきであるのだろうし、そこはミルが『功利主義者と言うよりも、ほとんど『公正としての正義』論者だ』と言われたような人物であったのも関係しているのであろう。

「で、水月。まず少し訂正から入るが、これは言わば『他者の行為に対する干渉』を認めない考え方だ。
よーすんに、お互いが望んで相互干渉する『協力』、救われるべき他者を救済する『救い』は否定しねぇ。あくまで『個人個人の持つ自由の領域を侵害しないようにしましょう』っつー話だな」

そう。個々人の自由領域を侵害してはならない。そこがエニィの問いへの答えに繋がって行く。

「んで、そこの……お前履修してねーな?取り敢えず、お前の言ってることも中々にいいとこ突いてる。
ミルは要するに『自由とは、他者の自由を侵害しない限りにおいて、最大限尊重されるべきである。』と説いたわけで、これはリバタリアニズムにもつながる考え方だ。
自由と言うものの尊重という点において、ミルはリバタリアニズムの走りの一人だったのかもな」

さて。
個々人にそれぞれ答えたところで、今日の……本来は別だったが……本題に入るとしよう。

「で、だ。さっき言った通り、ミルの主張は『自由とは、他者の自由を侵害しない限りにおいて、最大限尊重されるべきである』と言う言葉で要約できる。
……では問題だ。これは自由を尊重する言葉だが、もう一つの側面が何か考えてみろ」

ウィルフェミナ > 「まぁ、助ける必要が無ければ助けなくてもいい。心と共にあれ。
 人間強制されないといい事なんてするはずがないと荀子も言っていますわね?」

 一言で簡潔に。

「克己とは必要が無ければ克己なんてせずに
 満ちた物があれば怠惰に。
 みんながみんな常に行き届く世界があれば宜しいですけれど」

雨宮 雫 > 「ボクも口に出した手前アレだけど、キミは戦争好きな子なのかな、かな?
 バッカニアとかまぁ  そーいうのも嫌いじゃないけど、後で話しようかな、かな。」

後ろのウィルフェミナをちらっと見て、にへらーと笑いかけておく。

授業中なので、あまりこー、生徒間で喋ってるとチョークで額を撃ち抜かれる。
席が前なので、超痛そうなので痛いのは痛いのでいいのだけどいやまあこのハナシはいいか。

「自由の意味合いが共有認識として一致してる場合にしか通用しないけどー……
 主張の要約は、ヤク決めが健康に悪いから止めた方がいい、その方が幸せになれるからって賢明である、正しいだろうからって、行動や抑制を強制することは、NGって認識だね、だね。

 ただし、コレが薬食べてトリッパーになってるんじゃなくて、包丁持って隣の部屋の住人を刺しにいっちゃ駄目。
 これは、えー  他者の自由を侵害するもの、可能性があるものは止められるべき、かなあ。

 思いとどまること、しないことが望まれる行為が、他人に害を生みだすことが予測されているものは制限されるべき……うーん?」

生徒Aとしては頑張ってるツモリなのである。
元々の所属が、人間社会からはみ出してるから大変なのである。

水月エニィ >  
 否定しない。
 否定しないのならば、自由領域とは何か。
 自由領域は万人に与えられるものなのか。

 そうだとしても、それはどれくらいこの世に存在するのだろうか――

 ――キリがないと思えば思考を払い、筆記に集中する。

「……"義務が無い"、でしょうか。
 個人の義務が無いのですから、社会がどう歪もうが個人の自由の範疇ならば何をしても良い。
 いわば、"黙殺される"。自由意志の喜捨が赦されているのは救いですが、
 それでもそうあるべきだと道徳がない。全体の幸福を求めた結果、誰も社会を見ていない。
 その様にすり替わっていると思います。……宗教がない、と言うべきなのかもしれません。
 全員が自由を追求して自立し成せる程の超人であれ、侵害はせずとも超越しろ。
 歪んだ解釈であることは自覚しておりますが、そういう風にも聞こえます。」

 この手の近代思想を学んでいる訳でない、が、考えるだけ考えて、そう答えた。
 複雑な感情が、もやもやとしたものが渦巻く。
 私は現実と道徳、肉と霊。"どっち"に重きを置き、どっちを望んでいる――?
 考えてはいけない。そう思えば思考を切った。

(……色々思い出して考えちゃって胃に来るわねこの講義。
 後で気晴らしにでも行きましょ。)

ウィルフェミナ > 「上に天なしとバベルの塔を建てた人たちがどうなったか。
 なんてですわねー?

 天はじゃまっけな天蓋だと思ったら思った以上に大きな
 重石だった。って話ですわね。
 ……えーっと。これは功利主義の話だけど、まぁ、自分が
 勝つためにルールをどんどん減らしていったら逆に
 競技なんて破綻するのに。ですわ?」