2016/05/28 のログ
■斎藤 朱莉 > 「成程な、ふむ……」
少し考える。狙っていた正解は出ているが、それ以外にも興味深い解も出ている。
どう整理するかを考え……。
「あー……履修してないお前。それも一つの真実だ。ただ、ミルはそこら辺はちょっと理想主義に寄った人でな……。
これは今度やるつもりの『ミルの人間観』っつー所になるんだが、大雑把に言えば『人間は同胞と一体化したいという欲求を本質的に持っており、人間各人の自制力を育成し、徳を育てる。正しい方法で十分な比較経験を経た人間は、より広い視野を獲得する事になり、利害関係を持たない善意の観察者のように、厳正な仕方で不偏的になる』みたいな考え方なんだ。
詰まる所、同調圧力も含めて『人間は周囲に合わせたいから、周囲と交わる事で広い視野を形成し、そして最終的にはよりよい社会を望むようになる』って考えてんだな。
ミルはリベラリズムの代表人物であるジョン・ボードリー・ロールズに『彼は功利主義者と言うよりも、ほとんど『公正としての正義』論者だ。』と評されてる。性善説、理想論に寄った考え方をする人だから、個々人が悪性を持って暴走する可能性をあまり重視してなかったんだろうな」
政治思想と言うものの特性と言えるのかもしれないが、あくまで『全体をどう統治すべきか』と言う論に寄り、そこで測り切れない要素に対して抑えが甘くなってしまうのかもしれない。
そして、個々人のモチベーションと言う概念に焦点を当て損ねた結果瓦解したのが『社会主義』と言う一つの政治思想である。
「で、水月。これもまた後でやる内容だったんだが、ミルは『個人の権利を保護する事は社会生活の安全の保証に繋がる』と考えてんだ。
社会とは個人の集合体であり、社会を構成する個人の権利が保護されれば、それは社会全体の秩序や安全の保証に繋がるはずで、極論、全個人が幸福であれば、社会の中で悪徳がなされる事はない……と言えずとも、まあ確率は減るだろって考えだ。だからまず『個人を重視する』事で社会全体の秩序を整えようとするし……後はさっき言った通り、同調を求めた結果、人は『社会の仕組みが、各個人の幸福と社会全体の利益が調和するように作られていること、及び教育と興論によって、各個人が自分の幸福と社会全体の利益が強く結びついているように意識するようになる』としている。
つまりアレだ、わざわざ義務化するまでもない、と思ったのかもな」
詰まる所、どこまでもミルの本質は『お人よし』だったのかもしれない。
人の善性を信じるのは美徳だが、社会全体を語る上では些か視野が狭いと言えるのかもしれない。
「この点ベンサムはリアリスティックでな。ベンサムは『人間は利己的であるが、同時に確実な損得勘定の出来る、合理的で知性的な存在』だと考えた。『道徳性に欠けていても、知性(損得計算)によって義務を遂行できる』ってわけだな。
そして、個人の利益と社会の利益を合一させるために、そのズレを埋める物を『制裁』に求めようとした。
これによって意図的に用意された『不快』が発生するため、それを回避するために人は社会利益に沿うように動くだろう、っつーわけだな」
ここら辺の考え方、見方の違いと言うのは個人差が出て面白い、とも思う。
ベンサムはリアリストで、ミルは理想主義。だから、感じ方に差が発生する。そのように朱莉は解釈している。
「で、雨宮。お前がアタシの言いたかった正解に一番近いな。
そう、『自由とは他者の自由を侵害しない限りにおいて、最大限尊重されるべきである』と言う言葉は、裏を返せば『自由とは、他者の自由を侵害する場合においては尊重されず、制約を受けるべきである』となる。
だから、これは水月も投げかけてた問いの一つの答えなんだが……『功利主義における「最大多数の最大幸福」の原則は、他者の自由を侵害した上で成り立つべきものではない』と、ミルは定義したわけだな」
■水月エニィ > 「同調、ですか。」
そうとだけ反応して、筆記に戻る。
……同調。それが到来すれば、確かにそうはなる。
同じものを求めた、『リアリスト』と『お人よし』。
……大きく首を横に考えを払い、振り切る事に専念する。
(この後、何を食べようかしら。
ハンバーガー、そば、うなぎ……)
■雨宮 雫 > 「ぉー、それは嬉しいかな、かな。
夜中に本読んでた甲斐もあるってものかな、かな。」
褒められたんだか?
とりあえず、正解らしいので 嬉しそう に笑っておく。
「他者の自由を侵害した上で成り立つべきものではない のなら。
なるほど、共通社会、共通認識の間では、人の迷惑にならない範囲で幸せになろうね? なんだね、うん。」
まぁ、納得であるので、頷いた。
こういう勉強はまぁ、楽しいね。
■ウィルフェミナ > 「ミルの時代に東洋思想学積極的にやってる人がいたら
相当奇特ですわね。当時は弱肉強食必勝劣敗の時代。
そして、その東洋思想学の本懐たる清は全く正義のない戦いに
負けた弱小国。挙句に内乱すら納められない二流国家。
そんな国に学ぶことはない。……そういう時代ですわ?
もう少し時代をさかのぼると世界に冠たる清の思想ということで
もっと有難がられてたのですけれど」
■斎藤 朱莉 > 「同じものを求めても、その個人の資質で見えてくるものが違ってくる、っつーわけだな、実際の所。
正直アタシも、お前等の解答にかなり勉強させてもらってる……こういうのは、自分だけでやると視野が狭まるからな」
人間、一人で何かをすると大体視野狭窄に陥る。講義と言う場は、生徒が学ぶものであると同時、教師もまた、共に学ぶものなのだと再認識した。
「個人の自由を守る、ってのはそういう事になるだろ?だから、ベンサム批判に良く使われる奴隷制度……『奴隷によって多数に快が発生するなら、奴隷たちの不快は無視されるのか』は、『奴隷たちの自由を侵害する奴隷制度は認められない』となるわけだ」
ここが、ミルがベンサムの欠陥を埋めたとされるところだ。
この概念を取り入れる事で『多数だから少数をどのように扱ってもよい』と言う功利主義の形式的欠陥を補う事が出来る。
「東洋思想は、また随分と経路が変わってくるからな……そこの比較を論ずるなら、地理的条件やら当時の文化背景の差やら、色々話が広がっちまう。
無論、勉強して損はないけどな。アタシの専門は主に西洋だから教える事は出来ねーが、アタシの授業の目的は『個々人がしっかりと自覚を持って社会に対して思考できるようになる事』だからな」
ただ社会の在り方に迎合するだけではなく、批判、肯定、どちらであっても『自分はこう思うがどうだろうか?』と考える人間の育成。それが斎藤朱莉の目標である。
その為に視野を広げるのは、とても喜ばしい事だ。
「……っつーわけで、そろそろ時間になったから今回はここまで。次はミルの残りの部分と、その次のヘンリー・シジウィックの方に話を伸ばしていけたらな、と思ってる。
各自、自学自習しとけよ」
■水月エニィ >
後半は殆ど聞き流していた。
一応のメモは取っていたつもりだが、ウナギが這ったような文字にしかなっていない。
「……ふぅ。」
まぁいいか、と、気を抜く。
大分、無防備にだらけてみせた。
そのまま少しの間、そうしていたとか――
■雨宮 雫 > 「はーい、お疲れ様でしたー。
今日も楽しい授業をありがとうかな、かな、センセー。」
誰かの適当な きりーつ れー の号令に合わせておいて。
得るものの多い授業であったので、 機嫌良さそうにノートやその他を片付ける。
まぁ、袖の中に放り込んでしまうだけだが。
■ウィルフェミナ > 「って、訳で。私もご飯食べにいきましょうかしら。
今日は―― 海に素潜り。魚を採って。と」
凄い事言ってる。
ご案内:「教室」から斎藤 朱莉さんが去りました。
ご案内:「教室」から水月エニィさんが去りました。
ご案内:「教室」からウィルフェミナさんが去りました。
■雨宮 雫 > 「しまった、先生を誘い損ねたかな、かな。
まぁ後でメールすればいっか…… ん?」
今何か、海で魚とってゴハンとか聞こえたような。
マジで、漁師か。
思わず振り向いて、去っていく姿を見送ってから、自分も出ていった。
ご案内:「教室」から雨宮 雫さんが去りました。
ご案内:「ロビー」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > 「ふぅっ…」
講義と講義の間の休み時間
ロビーのソファに腰を降ろして、缶コーヒーを片手に一息つく
そんないつも通りの日常
…そう、いつも通りの日常が戻ってきた
張り詰めた印象はなりを潜め、"お姉ちゃん"としての自分が戻ってきた
でも…
「………」
ぎゅっ、自分自身を抱きしめるように、腕を抱く
こわい
言いようのない恐怖が、奥底からじわじわと湧いている
烏丸秀の、あまりにあっさりとした引き下がりぶりはとても意外で、同時に多くの疑念を残した
あんなに妹に固執していた人間がどうして?と
自分たちの勝利で本当にいいのか、
そして…どうにも腑に落ちないこともあった
不安が、ヒビだらけの心を揺らす
ご案内:「ロビー」に高峰 司さんが現れました。
■高峰 司 > 「(……いた)」
ここ数日会っていなかった顔。
何とかしてとある男から引き剥がそうと躍起になっている相手。
あまり時間をかけるのは好ましくない。早急に、話を付けてしまおう。
「……シケた顔してんな、オマエ」
……どうして、こんな声のかけ方しかできないのだろうか。
■伊都波 凛霞 > 「司ちゃん」
その顔を見れば、少し笑顔が戻る
一番最初に見た笑顔と変わらないけど、少し陰がかかったような──
「……ちょっと、色々あってね。
って、そっか。司ちゃんはもう、全部知ってるんだっけ」
そして、色々と奮走してくれていた
そう、聞いた
「ちょうど良かった。……聞きたいこと、あったんだ」
■高峰 司 > 「……あ?」
おかしい。なんだか雰囲気がおかしい。
いや、おかしいのは当然だが、おかしいのベクトルが少し違うというか……。
「んだよ、言ってみろ」
帽子をいつも以上に目深にして、続きを促す。
■伊都波 凛霞 > ちょっと前までの司なら、きっと
言ってみろ、とまでは言わなかった筈だ
きっと、そんなことに興味がなかっただろうから
変化している
それを感じる
そしてそれがもしも、自分が彼女に関わったことが関与しているのなら、それは
「ここ最近で一気にたくさん色んなことがあってね。自分自身のこと、見失っちゃって」
手元で缶コーヒーをくるくると遊びながら、言葉を紡ぐ
「助けてくれようとした人が、何人もいた」
ベクトルは違えど、真意が違えど
「なんか私、自分で思ってたよりもボロボロだったらしくって、
烏丸くんみたいに、"上手い人"に、寄りかかっちゃって。
…父様から、言われてたのになぁ」
"窮地に手を差し伸べる者がいたら、その裏を見て判断しろ"
天井を仰ぎ、ゆっくりと、司へと視線を戻す
「妹から、聞いちゃったんだ。
司ちゃんも、私ためにたくさん色んなこと……。
……どうして?司ちゃんは、自分の利になることにしか動かない…
家族愛だって、信じないくらいなのに…私達って、家族ですらないのに」
どうして?
まっすぐに、その疑問をぶつけるのだった
■高峰 司 > 「……あ”ー……」
天井を仰ぐ。
迂闊だった。あの妹、どうやら余計な事を喋ったようだ。もしくはあの烏丸だろうか。
そして、自分が全て『遅かった』事を知る。どうやら、あのクズからの脱却は、一応は成功したようだ。
……だが、まだ自分にもやるべきことがある。何より、いい加減言ってやらないと気が済まない事もある。
「……アタシの家はな。高峰家は、一応地元じゃあ名の通ったルーンの大家なんだ」
唐突に見えるかもしれない自分語り。
だが……これを経由しない事には、真意を語ることが、出来ないのだ。
「が、実力があったのは何代も前の事。アタシが生まれる前までは、魔力の出涸らしみたいなカスが生まれるばっかり。そこに、一応平均の魔力量があるアタシが生まれてさ……だから、アタシは『次代の高峰』として育てられた。
親から愛を受ける前に魔術を叩きこまれ、クソ広い家ん中で、一人で延々ルーンの勉強させられてさ」
帽子を目深に被って表情を隠したまま、言葉を紡いでいく。
『高峰司の歴史』を。
「そんなんだから……人間に愛なんてなくて、テメェの利益になる事しかしねぇんだって気付かされた。家族愛なんてのは幻想だ、ってな。
……そう、思ってた」
ここから先は。
これをはっきり口にしてしまうと、きっと高峰司と言う人間のアイデンティティは崩壊する。
今までの自分ではいられなくなる。
信用もされないだろう。当然だ、あれだけ騙された後なんだから。
だけど。そうだとしても。
人間、高峰司はこれを口にしないと、もう始まれなくなるほどに壊れてしまった。
「最初は、オマエがウザかった。まるで理解できなかった。なんでアタシなんかに構うのか意味わかんなかったし、何度も連れ出されてうんざりしてた。
……いつからだっけな。それが思ったほどウザくなくなったの。
いつからだっけな。オマエの笑ってる顔見んのに慣れ切ったの。
いつからだっけな。オマエが笑ってないとムカつくようになったの。
……で、あんなことがあって。そこでようやっと、気付かされたわけだ」
苦笑する。自嘲する。
ああ、本当に自分らしくない。まるで自分らしさを感じない。
でも、言うんだ。本心を。気付かされた、自分の心を。
ずっと目を背けてきた……■■■■■と言う事実を。
・・
「……『凛霞』。アタシが言っても信用できねぇと思う。何よりアタシが信用できねぇ。
だけどな、オマエはアタシにとって……」
初めて名前で呼ぶ。そして、天井を見ていた目を凛霞の真正面に向け、目深に被っていた帽子を脱ぎ去って。
顔を赤くし、若干うるんだ目を見せながら絶叫する。
・・・ ・・・・・
「わたしにとって、絶対に掛け替えのない『最初の友達』だ!だから、助けたかった。守りたかった!あんなクズのいいようにされたくなかった!自分でだってわかんねぇよ!オマエが駄目にされてくってのが、我慢できなかったんだよ!畜生、文句あるか!!!」
『召喚獣候補』ではなく。
唯一絶対の『最初の友達』。
高峰司にとって、伊都波凛霞は……あらゆる能力を無視して、ただ守りたい、共にいたい、友達になっていた。
ご案内:「ロビー」に古志野 緋色さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > 透き通ったような声が、紡いでゆく
今まで一度も語られなかった高峰司の物語
そうか、自分はそんな物語を聞かせてもらえる権利を得ていたんだ
「……やっと言ってくれた」
そう言って笑う、その笑顔は最初に出会った頃の笑顔と同じ、取り戻した笑顔
目尻からぽろっと零れた滴は、悲しみではない、久方ぶりの"嬉しい"感情
立ち上がって、歩み寄って
その胸元にぎゅっと抱きしめて
「…ありがとう。司ちゃん。
でも私はもう大丈夫…折れないよ」
そう、支えは一つじゃなくっていい
高峰司という、親友とも言っていいほどの純粋な友人が、新たな支えとなった
■高峰 司 > 「は、はは……トーゼンだ馬鹿。アタシの友達なんだもんな」
初めて。
本当に初めて。
物心ついてからは、人生で初めてかもしれないというくらいに初めて。
抱きしめられて、身長差で見上げる形になりながら。
「……契約なんていらない。ただ、一緒にいたい。よろしくな、凛霞!」
交じりっ気のない『満面の笑み』を、人に見せた。
―――願いを確かに。その祈りは彼方に届く。
もう今までの『高峰司』は亡いのかもしれない。
でも、それに拘泥する必要は全くない。
新しい、今までとは違う『高峰司』になることが出来たのだから……。
■古志野 緋色 > さて、喉も渇いたので茶でも買おうかとやってきたロビー……
ではあるのだが、なにやら女子生徒が二人取り込み中らしく
いまいち、入るタイミングを掴めないでいた
(いかん、完全にタイミングを見失った)
取り込み中にズカズカと通り過ぎるのも失礼だろう
が、こっちもこっちで一応理由がある
(喉渇いたなァ)
さっきまで体育で走りまわっていたので、喉がカラカラだ
とはいえ、ここで入ると気まずくなる……気がする
■伊都波 凛霞 > 「改めまして…だね」
頬に伝う涙を拭って、微笑む
けれど
話は
ここからだ
抱きしめていた身体を開放して、一方後ろへと下がる
「…でね、水を差すようで申し訳ないところなんだけど…。
今回のこと、色々腑に落ちないことが多すぎるの」
そう言って、ソファに座り、地面に視線を落とす
「どうして烏丸くんが、意識的に目立たないようにしてた妹のことを知ってたのか…。
どうして司ちゃんが、私達のことに関して"都合よく"解決の糸口に振れられたのか。
……そもそも、どうしてあの人があんなコトを知ってたのか…そう考えた時に……浮かぶ人がいたんだよね」
そこから感じるのは、透明な悪意
烏丸秀も似たようなものを持っていた、けれどそれよりももっと
もっと、底が深い
「…司ちゃんは、今回の件で何か迷ったり行き詰まった時に、
まるで見透かしたように声をかけてきた"先生"はいなかった…?」
そう口にして、視線をあげた
ちょうどその視線の先、司の背後遠くに何やらまごついている男子生徒を見つけ、不思議そうに首を傾げる
なにしてるんだろう…?
■古志野 緋色 > 目があってしまった……しかも何やら不思議そうに思われている(当り前ではあるのだが)
「し、失礼しまーす……」
遠慮と、謎の罪悪感からやや猫背になりつつ自販機に向かう
しかしこの二人、何の話しをているのだろうか?
一応風紀委員に所属する身としては、何か事件があったのなら
こちらに任せるとまではいかずとも、頼ってもらった方がありがたい
■高峰 司 > 「…………心当たりは、ある」
笑顔を消し、真面目な顔になって口にする。
そう、自分だけでは、業腹だがここまではたどり着けなかった。
全てを見透かし、全てを弄び、全てを愉悦するもう一人の『根源悪』。
自らが進んで悪逆を為すのではなく、他者を踊らせる事で愉悦する黒幕。
「ルギウス。アタシにオマエの置かれてる状況を教えたアイツ、だな?」
底知れぬものを感じた。
烏丸ならば、本気を出すまでもなく一撃で殺害出来たであろうと思う。アイツは間違いなく弱い。
が……ルギウス。あれは、別枠だ。自身の切り札、イフリートをもってしても倒せないかもしれない。
そう感じる、化け物。
……そこで。凛霞の視線が動いたのに気づき、ついつい釣られてそっちを見た。
見てしまった。
「……………………!」
顔面蒼白になる。
先程の笑顔とは対極。
絶望し切った顔で視線の先にいた少年を見て……
「……消さなきゃ。恥ずかしいってレベルじゃねぇ、消さないと……!」
理性が、消し飛んだ。
泣きかけて。似合わない言葉を絶叫して。抱きしめられて。
そんな姿を見られるなんて、絶対に我慢できない……!
「え、エオロー、アンスール、ユル、ソーン、ケン、ウル……!
(わ、我が友は神域より堕ちたる炎の巨人。荒々しき力にて……)」
ハイライトの消えた目でルーンを空中に刻み始める。
『契約召喚・獄炎魔神(サモン・イフリート)』。高峰司の最大戦力にして、明らかにこの場において過剰過ぎる戦力が投入されようとしている……!
■古志野 緋色 > 「は?え、おいちょっと待て、俺は何もしてないぞ!?」
消さなきゃ、という大変物騒なつぶやきが聞こえてきてそちらを見れば
なにやらこちらに敵意(?)を向けて魔術を使用している女子生徒がいた
これはいったいどういう状況だ、俺が一体何をした!
心の中で叫びつつ、思わず臨戦態勢を取り、腰にさげてある棍棒を手に取って構えた
■伊都波 凛霞 > 「………」
言葉は発さず、こくんと頷いた
あの先生の現れるタイミングは、いつもそう
出来過ぎている
まるで常に網を張って、かかった得物を吟味してから調理を開始する、醜悪な毒蜘蛛のような
「もちろん、確証はないよ。
でも、今回の件は本当に都合よい流れができてたように思う…今となっては、だけど…」
そう仮定した場合、昨日の出来事は恐らく予想外だっただろう
司の言葉を聞いて、確信が深まる
そう、筋書きの上のキャストには、この高峰司も含まれていた
昨日、商店街での一旦の幕引きはイレギュラーだ
ライターの想像以上に妹が強かったか、自分が強かったか、敵が、弱かったか
「だからね、多分まだ終わって…ん?」
再び視線を司に戻すと …なんか詠唱してる
「ちょっ!?司ちゃん何してるの!?
腕章!ほら!あの人風紀委員!落ち着いて!!」
やばい、相手によっては多分ただごとではすまない
慌てて立ち上がって割って入るのだった
■高峰 司 > 「だ、だって、きかれ、みら、うわあああ!!!!」
割って入られて詠唱が途切れ、イフリートの召喚は為らなかったが……あまりに恥ずかしさに司から余裕と言う物が消え去っている。
いつものシニカルで強気で、どこか余裕のあるぶっきらぼうな司はそこにはなく。
「わ、わたし、あんな恥ずかしい事、聞かれ……!」
ただただ、恥ずかしさに余裕をなくして錯乱する、年相応か、ともすれば年よりも幼い女の子がそこにはいた。
■古志野 緋色 > 「とりあえず落ち着いてくれ……
この状況を見られたら多分俺が悪者に見える」
棍棒を下げて申し訳なさそうに言う
眼つきも相まって、彼が高嶺を辱めたように見えるだろう
「この間も迷子に話しかけて泣かれたばかりなんだ、頼む」
職務は真面目にこなしているのに、いまいち成績の振るわない主な理由は
あまり善良そうに見えないこの顔つきである
■伊都波 凛霞 > 「大丈夫恥ずかしくなんかないよ、嬉しかったから、ね?」
なでなでぽふぽふ
余計恥ずかしいのではないだろうかということは考えずに司を励ますお姉ちゃん
「あはは、確かに苦労してそうな人相だね?」
くすくすと笑う
──その迷子の少女とやらの面影が目の前の少女にあることは、気付くか気付かないか
「ちょっと込み入った話してて、
ごめんね、気を使わせちゃったでしょ。ジュースくらいなら奢るよ?」
■高峰 司 > 「あ、ああ、すぅ、はぁ……」
深呼吸。この状態が余計恥ずかしいが、自分でもよくわからない事に、なでぽふとされると不思議と落ち着いた。
抱擁される、というのは、こういう事なのかもしれない。
「……ゴメン、凛霞。その……オマエも、悪かった」
落ち着いたのか、素直に謝罪を口にする司。
その『素直に謝罪を口にする』と言うことが、既に高峰司にとって大変革なのだが、当人すらそれに気づいていない。
「いや、それならルーンでビビらせたアタシが……!」
言いながら、小銭を取り出そうとして。
「(…………あれ?)」
他人のために、躊躇いなく損失を吐きだそうとしている自分に気付いてしまい。
「(あ、アタシ壊れ過ぎだろぉぉぉぉ……!)」
取り出す前に、頭を抱えてしまった。
高峰司、16歳。アイデンティティ崩壊につき、再構築に戸惑っている状態である。
■古志野 緋色 > 「いや、こちらこそ割って入ってしまったみたいでスマン……
そこまで気を使ってくれなくてもいいぞ?」
有名人な優等生に気を使わせてしまい、やや後ろめたい気持ちもある
とっとと買って、この場を去るか……と思ったが
一応、少し気になった事を聴いておく
「そうだ伊都波、込み入った話って言ってたが……
割と深刻そうだったな
一応俺も風紀委員だ、何か助けになるかも知れんが」
成績優秀な神童レベルの優等生相手に、助けると言うのもおかしな話だが
それでもこの仕事には誇りを持って取り組む人間として
また、先日あったやたらと熱い“先輩”の影響もあってか
そんな言葉が口から出た
■伊都波 凛霞 > 何やら自問自答の末に頭を抱えている司を見て苦笑する
「(今は大丈夫、ゆっくり慣れていこ)」
巣立ったばかりの鳥が、飛び方がまだおぼつかないのと同じ
一歩踏み出したなら、あとはのんびり手を繋いで、歩いて行こう
それは、凛霞にとっても喜ばしいことなのだから
緋色へと向き直って
「ありがとう。
でも大丈夫、そんなに大きな話じゃないんだ、それに…」
そこで一つ、言葉を切って
「もしかしたら、風紀員の中にも、いるかもしれないから」
明言はしない
あくまでも可能性
いる、というのは…蜘蛛の糸に繋がった人間だ
■古志野 緋色 > 「“いる”って言うのは……犯人か何かか?」
思わず眉をひそめてしまうその言葉
彼も時折ではあるが、風紀委員の身でありながら悪事に手を染める者の話しは聞いていた
とはいえ、実際にこういう話になるとやはりやりきれない物がある
それはそうと
「と、その前にだ……」
頭を抱えて悩んでいる高峰に目をやり
「これは……どうすればいいんだ?」
見ず知らずの相手にこれ以上何か言えば追い打ちをかけてしまうかもしれない
親しい仲であるらしい伊都波に任せた方がいいだろう
■高峰 司 > 「(お、落ち着け、取り敢えずいつも通り、いつも通りだ……!)」
再度深呼吸して、意識を整える。
取り敢えずはいつも通りのパターンに戻す事にして……。
「(賢明、だな。この状況でわざわざ他人を巻き込むのはマズい。
寧ろ、アイツの特性を鑑みるに、人数が増えれば増えるほど『舞台』が大きくなり、被害が増えていく。
人数は絞っておくべきだな)」
問題は、ここで彼は自分らと関わってしまったことだ。
ルギウスに目を付けられるかもしれない……そこは、どうするべきか。
……いたって冷静に考えている風の司ちゃん、涙目なのは変わらずである。
■伊都波 凛霞 > 「ごめんね、それを口に出すのも憚られる内容なんだ。
特に、風紀委員だと情報の共有があるだろうから…」
そう、それにしても何も言わない、というのも不親切が過ぎる
何か適切な言い方はないか、と言葉を探す
そして、ふと口をついて出た言葉が
「──伝播する悪意」
ぽつりと、そう呟いた
同時に、休み時間終了のチャイムが鳴る
「…うん、そろそろ行くね。
司ちゃんも、次に出る講義があるなら急がないと遅刻するよ!」
ソファに置いてあったバッグを拾い上げて、二人に手を振りながら、駆けていった
ご案内:「ロビー」から伊都波 凛霞さんが去りました。
■古志野 緋色 > 「伝播する悪意……か」
これでも正義感は強い方であると自負している
が、その悪意とやらに自らも影響を受けないと言う確証は無い
そう言えば、しばらく前ではあるが、彼女の絡んだ事件があった
もしかしたらそれに関係しているのだろうか?
「っと……もう時間切れか」
チャイムを聴いて我に帰る、風紀委員が遅刻とはつまらないシャレにもならない話だ
「休み時間、終わったぞ」
未だ涙目の高峰に話しかけると、彼も足早にロビーを後にした
ご案内:「ロビー」から古志野 緋色さんが去りました。
■高峰 司 > 「あ、おい……!」
どうにもフットワークが重くなっているようで、帰るのにも出遅れた。
まあ、次は講義があるのでそれに行かなくてはならないのだが……
「ヤベ、遅れる……!」
ここから少し遠い。このままでは遅れそうだ。
なので。
「ラド!」
足にルーンを刻む。
ラド。Rに似た形の、旅や移動を意味するルーン。これを足に刻めば、移動力の強化となる。
「アタシも急ぐか」
言いながら、普段の彼女より圧倒的に速く、教室まで移動して行った。
ご案内:「ロビー」から高峰 司さんが去りました。