2015/08/08 のログ
■シイン > 「専門分野に携えてる方に、出題されてたとなると、これはまた厳しい。」
それは敵うはずがない。幾ら機械とて無理がある。
特に精神分野など、最も外れてるのだから。
「思考を巡らせるという行為自体が体力を使うから当然。
短時間で終わらせて、簡単に結末を付けた方がいいということで。」
勿論、それは場合によりけりだが。
■リビドー > 「ははっ。 と、ボクはそろそろ行くよ。
それじゃあ、また会おうか。」
席を立ち、鞄を手に取る。
そのまま職員室の入り口まで歩き、吹い向いた。
「それでも、楽しかったぜ。ありがとな。」
ご案内:「職員室」からリビドーさんが去りました。
■シイン > 彼が席を立ち、職員室から去るまで微笑みを見せながら。
無言のままに、それを見送った。
職員室に一人残った教師。
彼はデスクに戻り、片手でキーボードに手を添えて文字を打ち込んだ。
数分とせずに作業の残りを終わらせて、背をぐっとのびのびと伸ばす。
「そういえば聞き忘れたな。」
彼がもしそうなら、直ぐにでも消したい。
それだけが考えを埋めさせたのだ。
ご案内:「職員室」からシインさんが去りました。
ご案内:「保健室」に鈴成静佳さんが現れました。
■鈴成静佳 > (白昼の保健室。静佳は養護教諭用のデスクの椅子に腰掛け、クルクルと回して暇潰し中)
(夏休み期間中ということもあって、保健室の利用者はいつにもまして少ない)
(とはいえ、集中講義や部活等で校舎施設の使用者は一定数いるため、保健室への控えは居るに越したことはない)
(静佳の「夏休み中の仕事」も今日は休みだ。家ほどではないにせよ、保健室は静佳の落ち着く場所の1つである)
………ふぅ。
(椅子の回転を止め、ハーフパンツのポケットからスマホを取り出し、いじり始める)
(冷房の冷気と、保健室特有の薬品臭さが心地よい)
■鈴成静佳 > (メールの受信履歴を辿って画面に表示したのは、幾筋もの煙に包まれる建物の写真。委員会街の棟舎の1つだ)
(「ゲマインシャフト」の情報網を通して、断片的にではあるが「風紀委員棟襲撃事件」の一部始終を知った静佳)
(気がかりだったのはひとえに、風紀の友人の安否……巻き込まれていないか、怪我していないかどうかであった)
(幸い、風紀所属の中でもっとも親交の深い貴子さんにはすぐ連絡はついた。怪我どころか、事件そのものに直接は関わっていないそうだ)
(詳しい話は聞けなかったが)
(また、保健委員の立場を利用して常世保険病院にも情報を集めに行ったが、名を知る他の風紀委員の友人についても、治療を受けた記録はなさそうである)
(一安心、といえよう)
(ただ、この事件に関しては何か緘口令めいたものが敷かれているような雰囲気を覚える)
(まぁ静佳が深入りしたところでデメリットしかないだろうから、それはそれでいいのだが)
■鈴成静佳 > ……なんで、そんなことをするんスかねぇ。
(次に、そのような襲撃事件を起こすような人物、その動機について思いを馳せる)
(情報では建物への損壊は軽微ではなく、怪我人こそ複数名いたものの、死者はゼロだったという)
(それは、風紀委員の統率力と行動が適切だったゆえか。それとも、犯人側にそのような意図があったゆえか)
…………。
(俯く)
(風紀や公安といった、島の治安を維持する組織について、その力を疑うようなことはない。事件前も事件後も、だ)
(それが小市民たる静佳が生きるうえでの賢い選択だと思う。疑ったって詮無きこと)
(……しかし、それでも、どうしようもないコトはあるのではなかろうか)
(たとえば、『神』と呼ばれる異邦人たち)
■鈴成静佳 > (静佳が出会ったことのある『神』、それは蒼穹さん。彼女は破壊神を自称していた)
(そして、自分の転移魔術を確かに妨害してみせたし、言動もどことなく超越的で、破壊やそれに類する行動を好んでいる様子)
(彼女は優しい子だ。万が一にも、今回の襲撃事件には絡んではいまい)
(……しかし、保健課の括流先生は言っていた。この島には複数の『神』たる異邦人が住んでいると。破壊神、創造神、etc……)
(括流先生はたしか「ミウ」と言っていたか? 可愛らしい名前だなぁとは思う)
…………。
(……もし、そういった『神』とよばれる子、あるいはそれに類する力を持った者が)
(ちょっとした気まぐれで、ちょっとした気の迷いで、治安維持組織を「試そうとした」ならば)
(あるいは、自分の権能を見せびらかそうと、自ら確認しようと行動したならば)
(為す術は、あるのだろうか?)
■鈴成静佳 > (そう考えると、この島の治安やその維持というものは、薄氷の上に成り立っているような気がしてならない)
(もちろん、きっと風紀も公安も精一杯やっているに違いないが、その「精一杯」を凌駕する力が、この「豹変後の世界」には溢れているような気がする)
(異邦人だけではない、異能や魔術というものの存在も、パワーバランスを変えるには十分だ)
(爆弾もミサイルも用いずに建物を破壊し、人を凍り漬けにし、焼き払う力)
(対して治安維持組織には「非異能者」も多く、彼らが持ち歩くのはテーザー銃)
(……なにか、噛み合わないものを感じる。なるべくしてなった「噛み合わなさ」のような気がする)
…………。
(己の左手の平を見る。感電事故による火傷の跡が、未だにくっきりと残った手)
(……そう、静佳も異能者。自分だって、この世界の治安を破壊しようとすれば、できてしまうのかもしれない)
(あるいは、自分でそう思っていなくても、どこかで……)
■鈴成静佳 > (静佳は、感電事故に遭ったことで異能に『覚醒』した)
(しかし、《白い街》で出会った自らの《異能》を名乗る者は言っていた。生まれた時から、俺はお前の中にいた……と)
(もしかすると、自らの異能は感電事故によって「身についた」のではなく、「使えるようになった」と考えるべきなのかもしれない)
(だとすれば)
(もしあの時、感電事故に遭わなかったら。自らが快楽主義と規定するような生き方に曲がらずに、平凡な田舎暮らしを続けていたとしたら)
(別のきっかけ、例えば単なる「成長」によって、自らの異能に目覚めていたとしたら)
(……自分はもっと悪い人間になっていたのではないだろうか)
(ぞくり、と背中に鳥肌が立つ)
ご案内:「保健室」に『室長補佐代理』さんが現れました。
■『室長補佐代理』 > 保健室の扉が、こんこんと数度ノックされる。
窓の向こうには、大きな人影があった。
柱を思わせるような、長い人影。
白昼の保健室には似つかわしくないが、人気のない後者には似つかわしい、不気味な影。
■鈴成静佳 > (初めは単なる「身体を振動させる」だけの能力だったはずだ。しかし、この島に来てから様々な経緯で、静佳は気付かされた)
(「上下左右前後どれでもない方向」に振動させることで、瞬間移動を行ったり、あるいはモノを別の世界へ送る……)
(試したことはないしその気もないが、他の人間も「放逐」できるに違いない。実際、転移の訓練中に起きた事故は、その可能性を物語っていた)
(……それは、実質「他人を容易く殺せる力」だ。銃やナイフと同じか、あるいはそれ以上に強力な)
(自分の認識では、この島の「落第街」には、そのような力を持った異能者が溢れている)
(力に溺れ、力に弄ばれ、生きる道を誤った人たちの溜まり場)
(「if」を考えすぎても仕方がないが、自分がそこの一員になるという筋書き、あるいは未来でさえ、ありえない話ではない)
(力とは、なんと怖いものなのだろうか)
■鈴成静佳 > っは、はーい! いますよー!
(どんどんとネガティブ方面に傾いていく思考を、強制的に現実へ引き戻すようなノック音)
(保健室の利用者か。時刻は昼過ぎ、暑い盛りだ)
(静佳は椅子から降り、半ば駆け寄るように扉へと向かい、開ける)
■『室長補佐代理』 > 静佳がそう、扉に駆け寄り、戸を開けば。
そこには……暑い夏の盛りだというのに、制服の上にコートを羽織った男がいた。
公安の腕章をつけた、ザンバラ髪の長身の男。
光を反射しない真っ黒な瞳のその男は……じわりと、汚泥が滲むような笑みを浮かべて、静佳の目を覗きこんだ。
「入ってもいいかな? 保健課に後でまた来いといわれて、今日は来たんだが」
■鈴成静佳 > …………。
(………怖い人。顔を覗き込まれる静佳のファーストインプレッションはそれだ)
(夏とは思えない厚手のファッション、濁った瞳と笑み、そして、公安の腕章)
(炎の巨人事件のときの印象はまだ固定されたままで、公安についてはよい感想を持っていない)
(とはいえ、その口から発された声は優しげな青年のそれだ。静佳はせいいっぱい笑みを作り)
……あ、ど、どうぞどうぞー。ちょっといま保健室にはアタシしかいなくて、用事が何なのか言伝もないんですが。
中で待ってていいッスよ!
(手を部屋の中へ差し出して招き入れる)
■『室長補佐代理』 > 「ああ、いや、用事ってほどのもんじゃあない。ただ傷の経過を診せに来ただけだからな。
保健課の魔術治療のお陰でもうほとんど治っているし、個人的にはもう問題ないんだが……素人判断もよくないだろうとおもってね」
静佳の笑みに対して再びじわりと、泥が毀れるような笑みで返す。
口端を歪め、目端を滲ませたその笑みの見栄えは、静佳のそれとは比ぶるべくもない。
硬質な革靴の靴音を響かせて、フローリングを進む。
男が窓際に立つだけで、大きな影が部屋に落ちた。
「保健室に詰めているということは、君にそれを頼んでもいいのかな?」
■鈴成静佳 > あ、えーと、保健委員の鈴成静佳、1年です。よろしく!
(窓際のデスクの方へと歩む長身の男性に、明るい声で自己紹介)
なるほど、治療の経過確認ッスね。
うーん……アタシは急な怪我人・病人が来た時に応急手当をほどこすのが主な仕事なんで、傷が治ったかどうかを見るのは素人ッスね。
包帯や消毒を替えるくらいならできるんスけどね~……。
(首を傾げながら、率直に言う)
ましてや魔術治療だとなおさら範囲外で……ごめんなさい。保健委員にもいろいろあるんスよ。
異能や魔術であっという間に治しちゃう人もいれば、アタシみたいに応急処置しかできない人もいて。アハハー……。
(乾いた笑い声を響かせながら、静佳は申し訳無さそうに頭を掻く)
(窓際に立つと逆光になり、なおのこと表情が読めなくなる。静佳はその姿を真っ直ぐに見つめようとするが、その視線は泳ぎがちだ)
■『室長補佐代理』 > 「よろしく。鈴成さん。
しかし、そうか、そういう事なら、仕方ないな。担当者が誰か来るまで待たせて貰うか」
自己紹介に対して、男は名乗り返す事もなく、薄く笑った。
逆行を浴びながらも、何故かその口元の薄笑いと、滲む黒瞳だけはくっきりと見える。
真夏の白昼にも限らず、その黒影が日に滲むことはない。
「一応、呼び出された保健室に顔を出したんだが、どれくらい待つことになりそうかね?」
断りもせずに診察用の丸椅子に腰掛けながら、右手は終始ポケットにつっこんだまま、左手だけを仰ぎながら、男はそう尋ねる。
左手中指に嵌められた銀の指輪が、日の光を受けて不気味に輝いた。
■鈴成静佳 > むむぅ……いまは夏休みッスからねぇ。保健室を空けないようにシフトは組んでますけど、どれくらい待つかというと……。
(困り顔で首を傾げる)
そういう医療行為を受けるなら、保険病院に行くほうが適切な気がするッスけど。
傷の手当とか、保健室に来るよう言った人は誰だったんスかねぇ? 名前わかります?
(外は廊下も含めてどこも暑い。快適な保健室の中で待ってもらう分には全く構わないが、いつまで待たせることになるかは静佳にも見当がつかない)
(とりあえず、そういったことに心得のありそうな養護教諭を呼ぼうと、デスクの内線電話に手をかけようとして、その手はとまり)
……公安のお兄さん、お名前は?
(会った時から変わらぬ怪しい笑みを浮かべる青年のほうを振り向き、静佳は問う)
■『室長補佐代理』 > 名前を聞かれ、男は少し考え込むように虚空を見つめたが、一度だけ目を伏せてから、また笑みを浮かべて名乗った。
「公安委員会調査部別室。三年。朱堂緑。役職は室長補佐代理。
仕事柄、役職の方で登録されてるかもしれんから、そっちで聞いたほうが早いかもな」
名前を最初から名乗ることは普段はあまりないのだが、今回は診察が目的であり、元から呼び出されてきている。
診察の際に身元は当然調べられている以上、隠す必要もない。
男は、そう考えた。
「先生のほうは名前はしらねぇな。名乗られはしなかったし、保健課の先生や委員も山ほどいるからな。
俺はまた後で顔を出せといわれただけさ。簡単な魔術治療だったし、まぁ誰でもいいんだろう。
分かる人ならそれこそさ」
■鈴成静佳 > はーい、朱堂先輩ッスね。
(名前と役職を確認すると、静佳は生活委員会へ通じる内線電話を取り)
……もしもし。保健室ッスけど、公安の『室長……補佐代理』?を名乗る方が、傷の治療の経過確認ということで訪れてます。
待たせてますんで、どなたか分かる人か先生がいましたら来てもらえるよう……はい、お願いしますー。
(受話器を置くと、また苦笑を浮かべながら朱堂さんの方に向き)
……いやー、マジですまないッスね。呼びつけられたのに待たせることになってしまって。何か飲み物とか要ります?
(部屋の隅に置かれた冷蔵庫へと歩いて行く。中には経口補水液の他にも清涼飲料水などが冷やされているハズだ。養護教諭の私物が大半だが)
むぅ、しかし長い役職名ッスねぇ。室長補佐代理って、途中で舌噛んじゃいそう。
公安っていろいろ部署があるんスね。調査部ってどういう仕事なんだろうなぁ。
(世間話レベルの語調で問う。興味をもった程度なので、答えられなくてもそれはそれでいい)
■『室長補佐代理』 > 「いや、どうせ仕事帰りだし急いでいるわけでもない。構わないさ。
あと、飲み物はそうだな、缶コーヒーがあったら貰おう。なければいい」
遠慮なくそういって、大人しく椅子に座ったまま待つ。
だが、問われれば、また薄笑いを浮かべて答える。
「まぁ、気軽に呼ばれることを想定してはいないからな。
調査部の仕事はそれこそ、諜報的な仕事全般だ。一般生徒のプライバシーに踏み込むのが仕事といえばわかりやすいかね?
尤も、俺は別室なんで、もうちょっと目立つ事が主だった仕事だがね」
そう、じわりとまた泥が滲むような笑みを浮かべてから、男は肩を竦める。
左肩だけを、大袈裟に。
「しかし、嫌われ者の自覚はあるほうなんだが、君は随分と気安く喋ってくれるな?
ありがたい事だがね」
■鈴成静佳 > (冷蔵庫を開けると……いくつか缶コーヒーがある。これはありがたい。2缶取ってデスクへ戻り)
あったッスよー。缶のままでいいッスよね?
(椅子に腰掛ける朱堂さんへ、冷えた缶コーヒーを手渡す)
(デスクへ寄りかかったまま、静佳も缶コーヒーの栓を開けて啜る)
ふむふむ、成程……プライバシー。あれッスかね、「犯罪の予防」みたいな?
(率直な感想を述べ、その後しばし思考を巡らせる。嫌われ者の自覚、という言葉には複雑な感情が湧く)
……まぁ、正直にいってあまり印象のいい仕事じゃないッスよね。警察に職務質問されるのが好きって人はそういないだろうし。
でもきっとそれも、治安の維持には必要な仕事だと思うッスよ。とくにこの島には異能者や魔術師が一杯いるし……。
アタシも、プライバシーを必要以上に覗かれたり、謂われなく犯罪者扱いされるのは嫌ッスよ?
でも、そういうんじゃなく普通の会話なら……というか、待たせてる立場ッスからね。生徒のための保健委員ッスから。おしゃべりで少しでも気を紛らわして貰わないと。
(ニッ、と歯を見せて無邪気な笑みを向ける)
むしろ、公安の人にそこまで喋らせちゃって大丈夫かなーとかちょっと思ったり……アハハー。
……でも、大変そうな仕事ッスねぇ。
(フゥ、と溜息をつく。怪我をしたというのも、公務中の話なのだろうか)
■『室長補佐代理』 > 「ありがとう。仕事熱心だな、鈴成さんは」
一言礼を言ってから缶コーヒーを受け取り、左手だけで開けて、一口啜る。
ぐびぐびと嚥下するわけではなく、少しずつ、舐めるように。
「だが、それこそ、気にすることはない。
俺達は監視カメラみたいなもんだからな。
忌避されるのも嫌悪されるのも仕事のうちで、それこそ罵倒されるの殴り飛ばされるのもその一環でしかない。
君と同じで、ただ仕事してるだけだ」
何でもないように、そう薄く笑う。
汚泥を思わせる不気味な笑み。
そう訓練されたか、もしくはそういう笑みを浮かべる男であるからこそ、公安委員なのか。
「『予防』するためには、なんだって『控えよう』と思わせることが大事だ。
そのためには嫌われ者も必要ってだけのことだよ」
■鈴成静佳 > えへへ、ありがとう……。
(仕事熱心と言われ、照れ笑いを浮かべながら頭を掻く静佳)
「予防」。大事ッスよね。
アタシは保健委員だから、生徒や先生たちには健康でいてもらいたい。つまり、怪我や病気を「予防」するのが仕事。
そのために、暑い中を演習場や海岸を見まわったり、消毒液や保水液をこまめに補充したり、あるいは健康のための指導ペーパーを作ったりする。
……あとは、模範たる保健委員として、いつも健康で、元気いっぱいでいること。
アタシにできることはそれくらいだし、それが、治療の異能や魔術を持たないアタシの保健委員としての存在意義かなって思ってるッスよ。フフッ。
……だから、朱堂さんの「嫌われ者になる」っていう姿勢。
すごいなって思うけど、ちょっと寂しくもあるッスね。なんというか、リスクばかりが目立っちゃう気が……。
(感想を述べる。しかし代案があるかというと、今の静佳にはない)
……でも、「悪いことを控えさせる」ためには必要、なのかなぁ。
強い力を好き放題に振るうことを控えさせるような何か……。
(窓を、委員会街のほうを遠く見やる。先日の破壊活動がウソであったかのように、学内全体は落ち着いている。普段通りの夏休みの昼下がりだ)
……アタシにはそんな力はない、ハズだけどね。
■『室長補佐代理』 > 「まぁ、上手い事やれる奴は嫌われないで済むんだろうけどな。
俺だって、嫌われるつもりでやってるわけじゃあねぇ。仕事をただしてたら、そうなっただけさ。
そういう意味じゃあ、俺だって自業自得だ」
つられるように、窓の外を見る。
常世島は正にいつも通りで、何も変わりなどない。
風紀の方で何かあったという話はあるにはあるが、取るに足らない些末事だ。
その程度は『いつもの事』でしかない。
『いつもの事』という演目を演じる役者が、少しばかりいつもかわるだけ。
無数にいる替えの効く役者と、無数にある『いつも通り』の演目の数々。
この常世島は、良くも悪くも……変化などしない。
「強い力なんて、この学園にはただの一つだってありゃしないさ。
あるのは、個々人の力と、それらを束ねた組織だけ。
鈴成さんのやってることだって、その一環で、そして何より尊い予防活動だ。
それくらいどころか、必須のインフラ整備だぜ。
俺なんかの監視業務よりずっと大した立派な仕事だ」
■鈴成静佳 > 自業自得、だなんて……。
(仕事で嫌われる。嫌われるのが仕事。きっと朱堂さんは割り切っているのだろうが、自業自得とはなんと寂しい言葉だろうか)
(缶を口に付けたまま、静佳も目を伏せる)
……正直、わからないなぁ、朱堂さんの言ってる事は。きっとそれは立場の違いからなんだろうけど。
アタシにとっては、強い力は強い力で。……そういう力は、この島には確実にあると思う。
それが自分勝手に振るわれて、尊い何かが……たとえば治安が、普段の暮らしが、めちゃくちゃになる。
その瞬間が怖くて、かといって自分ではどうしようもないから、風紀や公安を信頼する。
自分の生活が壊れないように、また、自分が破壊者にもならないように。
だから、朱堂さんのことは尊敬してるッスよ。
(缶から口を離し、ニコリ、と微笑みかける)
嫌われて、怪我をして、それでも仕事をし続ける先輩のことは。アタシとは比べちゃいけないくらい、立派だと思う。
……まぁ、仕事風景を見たわけじゃないッスけどね。アハハー。
嫌われないで、怪我なんてしないで、なんて軽々しくは言えないのが、保健委員としてはもどかしくもあるけどさ。
アタシは皆に元気を分けたくて、皆に好かれたくて保健委員になったから。
だから、朱堂さんにも嫌われないように、慎ましやかに生きたいと思うッスよ。できれば、この島のみんなにも同じように思って欲しい。
■『室長補佐代理』 > 一部始終、黙って聞く。
どこか、確認するような。ピースを埋めていくようなその言葉を、じっと。
健気に、立派に、それでいて、嫋やかに微笑む少女の言葉と願いを聞き終えて、男もまた……微笑んだ。
「俺はそれこそ、鈴成さんみたいな人の事を尊敬するがね」
コーヒーを一口また啜ってから、窓の外を眺めて、男は続ける。
「慎ましやかに。皆に好かれるように。誰もに思われるために。
その為に、『危険』から皆を守り……『予防』するために奔走する。
普段の暮らしが滅茶苦茶にならないように、それをしている。
なら、それは……俺達の振るう力よりも尊敬に値する事だ。
鈴成さん、人間が、何かを成した時……一番耐えがたい事はなんだと思う?」
■鈴成静佳 > 『失礼します』
(カララッ。保健室の戸が開き、白衣姿の長身の女性が入ってくる)
(名は知らぬが、名札は付けており、生活委員会で顔を何度か見た気がする、養護教諭のひとりだ)
(メガネの奥に澄ました笑みを作り、呼ばれてきた旨を説明してくる。そして、朱堂さんに傷の治療跡を見せるよう、柔らかな物腰で促す)
(……適切な人材が駆けつけてくれた安心感に静佳はホッと胸をなでおろしつつも、会話は続ける)
アハハー、互いが互いを尊敬しあってるのがいちばん健全ッスねぇ。人間も異邦人も、能力だって千差万別ッスから。
……そして、治安維持も健康管理も、常世島っていう「都市」を成り立たせるには不可欠でさ。欠かしちゃいけないんスよ。
だから、これからも公安のお仕事、よろしくお願いします。
(軽く頭を下げて、敬礼に替える)
……成した時に一番耐え難いコト。
(質問を反芻し、しばし考え込む。とはいえ、答え自体は明白で)
アタシの場合は……やっぱり、誰かに嫌われること……いや、「何かを失うこと」ッスかね。
それは最悪のケースなら命であったり、そこまで行かなくても、友情とか信頼とか、お金とか。
失って、取り返せなくなるものが出るのはアタシは嫌。それを避けるために、やりたいことがあっても臆病になっちゃうことだってある。
(俯きながら、やや弱い語気で、そう答える)
……朱堂さんはどう考えてるんスか?
■『室長補佐代理』 > 「すいません。なら、早速頼みます」
見覚えのある養護教諭にそういって、男は相変わらず左手だけを使ってコートを脱ぎ、制服の上着もこれまた左手だけを使って脱ぐ。
そして、右腕のシャツを肩口まで捲り上げて、不健康な白さの右腕を診せた。
不自然なほどに白いその右腕は、まるで血が通っていないかのようにすら見える。
ぴくりとも、動く様子はない。
それでも、体温はあり、脈もあり、筋力が衰え気味であること意外はいたって健康である。
治療痕は、一応右腕の二の腕だが……もうどこにあるかすらわからない。
本来は数針縫うはずだったものだが、常世島の高度な魔術治療を施せば……だいたいこんなものだ。
診察を受けながらも、そう問いを質問で締めくくられれば、一度大きく頷いてから、男はまた返答する。
「そう、失われる事。それは、正しい。
守り、愛し、すり寄る以上、それは正しく耐え難いことだ。
言ってみればそれは……成果が『なかったこと』にされること。
つまり人は……『無為』には耐えられない。
それは、どれだけ力を持つ者だろうと同じことだ」
男は、じわりと……汚泥が滲むような笑みを浮かべる。
黒瞳が……伽藍洞の瞳が、ゆっくりと細まる。
「壊しても、奪っても、傷つけても、害しても……それがすぐに元に戻ってしまったら?
だれも、それを『脅威』と認識しなかったら? 誰もが、その凶行を凶行と思わなかったら?
そうなってしまうほど……『環境』が変化しなかったら?
どんなに叫んでも、どんなに嘆いても、どんなに腕を振り上げても……誰も、それに頓着しない。
割れた窓があっという間に常に直ってしまったら……窓を割ることが目的の連中は、いったい何に成果を求めればいい?」
診察を受けながら、自らの右腕を一瞥する。
「健康管理もそうだ。俺の腕を見て欲しい。ここは先日ナイフで刺された。
だが、もう傷跡すら残っていない。
もし、俺を……公安委員を傷つける事が目的だったとしたら……それを目的にしていた奴は、これをみて何を感じるだろうな?」
■鈴成静佳 > …………。
(治療箇所であるという右腕を見て、息を呑む。たしかに魔術治療の甲斐あってか、傷跡は見られないが……)
(右腕が動かないのだろうか? 終始ポケットに手を突っ込みっぱなしだったが、服を脱ぐまでそのような素振りさえ見えなかった)
(なぜ動かないのか。以前に怪我したのか、生まれつきなのか。訝しむも、問うようなことはしない)
(養護教諭は軽く触診をしたのち、『これなら大丈夫そうですね。しっかり傷は内部まで塞がっています』と朗らかに説明する)
(その後、『せっかくなのでベッドのシーツを交換しますね、鈴成さんはお話を続けててください』と言って奥のベッド群の方へと消えていく)
……『無為』……ッスか。
(ナイフを刺された、と言う二の腕を見る。傷跡もないのに、その言葉だけでズキリと自分の腕が痛むような気がする)
(悪い奴に絡まれ、怪我を負わされたのであろう。そして治った。とはいえ、その時に痛みはあったはずで)
……なんだろう。朱堂さんがなんでそう考えてるのか、アタシには理解できなくて。いや、アタシ馬鹿だって自覚はあるんスけどね~。アハハー。
(気の抜けた笑い声を上げるも、すぐに真顔に戻り)
『行為』が完全に『無為』になることなんて、アタシはないと思います。
ナイフで人を刺すなんてことは、したこともされたこともないッスけど。今は治っているとしても、その時に朱堂さんに痛みはあったはずで、出血があったはずで。
なにか、思うことがあったはずで。悔しいとか、嫌だ、とか。
……先日、風紀委員の棟舎に襲撃事件があったらしくて、怪我人こそいたけど今は治療もほとんど済んで、壊れた棟舎も修復が進んでいるらしくて。
でも、そこにいた犯人、あるいは犯人に対峙した風紀の人たちも、苦痛や優越感を感じたり、憤ったり、悔しいと思ったことはあるはずです。
たとえ、朱堂さんの言うように「成果」や「環境への影響」が見た目上一切なかったとしても。当然、それは「成果」を求めていた人は失望すべき状況だとは思うけどね。
実際、アタシも問われたことはあるんスよ。「普段の健康維持の活動が要らないくらいに、治癒の異能者が保健課に充実してきたら、静佳はどうするのか」って。
アタシはきっとその時は悔しがりながら、普段通りに活動を続けるか、あるいは活動の場を移すと思う。
……でも、それまでに経験してきたこと、学んできたことは、きっとアタシの人生に役に立つ……少なくとも、何らかの影響は及ぼすはずで。
たとえ行動が『無為』になってしまったとしても、その過程にあった『思考』は無為には終わらないと、アタシは思うな。
人生はいつまでも勉強の連続、ッスからね。フフッ。(ひとしきり言ったあとはまた笑顔に戻り、朱堂さんを見つめ返す)
■『室長補佐代理』 > 教諭にまた礼を言いながら、少女の言葉を聞く。
途中で口を差し挟むことはしない。ただ、話を聞く。
仕事柄か、人柄か。いずれかはわからない。だが、男は話を聞く。
少女がそれを締めくくるまで、話を聞き、また、少女が笑って、そう目を見つめ返してくれば……じわりと、伽藍洞の目を細めて、笑い返した。
「ああ、完全に無為には、ならない。
流れた血は戻らないし、一度受けた苦痛が真の意味で灌がれる事はない。
だからこそ……それを無為にするべく動くのが、治安維持であり、健康管理であり、インフラ整備さ。
『成果』を求めない人間はいない。誰もが、自分なりの『目的』の為に行動している。
目的が理解しがたいものであることは無論あるが……それだって、だいたいは何かしらの分かりやすい『成果』を求めている。
確かに、そこに至るまでの思考は無為には終わらないだろう。
だが、それは何らかの影響を及ぼし、そこに連続性という『成果』が見いだせるからこそ、無為と言わずに済んでいるだけだ。
尤も、それは鈴成さんの言う通り、『少なくとも何らかの影響』は必ず波及する限り……真の意味での無為はありえない。
だが――近づけることはできる。
それが『無為であった』と、相手に思わせることはできる。
成果という成果を奪い去り、意という意を無視し、ただ冷徹に社会を運営する。
害なす無法に対して、それこそ……存在意義を奪う。
それこそが、俺達の活動目的であり、目指すべきところだと、俺は思っているよ。
そして、正にそれに対して……存在意義の剥奪に対して攻勢の組織こそが、君たち生活委員会だともね」
じわり、じわりと、男は笑う。
■『室長補佐代理』 >
「だからこそ俺は……君たちを尊敬している」
■鈴成静佳 > 無法者の存在意義の、剥奪……。
(存在意義を奪う。その言葉は最近(というほど最近でもないが)、別の生活委員からも言われた言葉だ。朽木先輩……)
(彼は整備課として、誰も怪我することのない、不便することのないインフラを作り、保健課の仕事を奪うという理想を語っていた)
(静佳はそのとき、「保健課が要らなくなるほど世の中が良くなれば、それに越したことはない」と返した)
(しかし、この公安の男が深淵のような瞳と笑みで語る理想は、より根本的で、徹底的で、どこか……)
……朱堂さんのいう『無為』がどういうものか、理解できてなかった気がします。今の説明で、もう少し分かったような、分かんないような……。
そして、朱堂さんが生活委員やその任務に抱いている印象も。
皆が犯罪を起こす気にならなければ、犯罪者やそれを裁く者の存在意義もなくなる、ってことッスよね。
……ただ。お言葉ッスけど……。何かそこには、無茶を感じるなぁ、アタシは。
結果が無為に終わって、行動に伴った感覚や感情さえも無為に帰そうとして。
でも……アタシたち人間は、この島に住む皆は、感情をもって生きてるんスよ。いい感情だったり、悪い感情だったり、人それぞれだけど。
それを抑圧しようとして、あるいは陳腐化させようとして……悪い考えでは無いと思うけど、上手くいくような気がしないというか。
どこかできっと、抑えつけられた感情を爆発させる人が出る。そんな気がしてならないッスね。
(静佳は快楽主義ゆえ、感情や感覚を大事にして生きてきたほうだと自覚している。なので、朱堂さんのいう理想にはどこか違和感を感じざるを得ない)
(静佳はフェニーチェの暗躍や活動についてはほとんど知らない。しかしきっと彼らも、そのように「インフラ」から爪弾きにされた奴らなのかもしれない……)
生活委員会が犯罪者に対して攻勢、ってのは考えもしなかった意見ッスねぇ。アタシはただ、皆が健康に快適に過ごせるようにするための組織だって思ってたッスよ。
……そしてきっと、健康については一つの水準があるとしても、生活についてはそうとは言えない。
「よい生活」を求める欲求には限りがないというか。世界史を習ってれば、きっとそれは明白だと思うんスよ。
……だから、アタシたちだけではきっと、犯罪者を少なくすることはできても、ゼロにはできない。
公安や風紀は、相変わらず、必要だとアタシは思うッスよ。
■『室長補佐代理』 > 「俺も全く、そう思っているよ」
すんなりと、男はそれを認める。
別段、それは、反駁することでもない。
「だから、事実完全にはなっていないし、『毀れる』連中がいる。
故に、風紀がいて、さらに公安がいる。相変わらず必要だからこそ、いるし、尊敬しあっている。
犯罪者を完全にゼロなんて、土台無理な話さ。でも、君の言う通り、少なくすることは出来る。
ならもう……それでいいのさ。
それでもう、役割は果たしている。だからこそ俺は君たちを尊敬している。
俺は、理想は語らない。現実的に可能なラインの話にしか、俺は興味がない。
故にただ、現状を……この島で今まさに行われている『現実』を語っただけだよ」
男が語ったことは、それだけだ。
それは理想でも非現実でもない。
今までも、そしてこれからも、きっとこの島で行われていくであろう、ただの当たり前でしかない。
「人の欲望に限りはない。
いくら縛り上げたところで、それその物ではなく、範から外れることを史上目的とするという輩すら現れる。
故に、俺達は互いに永久に必要とされる。存在意義を奪うための仕事を、永久に続ける。
俺達は同胞だ。ならそれは、尊敬に値する。
これは、それだけの話さ」
そういって、また左手だけを使って制服を着て、コートを羽織りなおす。
相変わらず、右手は一度も動かさないまま、わざわざ左手をつかって、右手をポケットに突っ込んだ。
■鈴成静佳 > ……ま、まぁ、そうッスよね。アハハー。
(ガラにもなく、深く考えすぎたか。フル稼働しすぎて痛み出した脳を落ち着けるように、静佳はひとしきり笑ったのち、背伸びをする)
(犯罪意思を無為にするという、平和像。そのような理想を掲げずとも、『都市』というシステムはインフラを、健康を、治安を要求して蠢く)
(それはまさしく、血管があり心臓があり、細胞があり免疫がある、一箇の生命体だ)
(我々は……各委員会は、まさしくその『常世島』という生命体の健康維持を第一とした器官なのだろう)
(そして、たとえそれが異能者や異邦人を集めた特異な都市であったとしても、歴史上存在した他の都市とは何ら変わらず、ひたすらに成長を求める)
……現実、アタシたちはこうやって今も変わらず委員会の仕事をしてるッスからね。
朱堂さんは治安を良くするために腕を怪我して、保健課の誰かが治して、いまもこうして保健室に居る。
それが現実ッスよね。夏休みといえど、この都市が機能するためには大事なこと。
……たぶん、またこうして同じように朱堂さんが、あるいは別の公安の子か風紀の子が、怪我をして治療されるんでしょうね。
好きで怪我する人はやっぱりいないでしょうけど。
アタシも、朱堂さんのことは「同胞として」尊敬してるッスよ。同じ、常世島の住人ッスからね。
(にっこりと素直な笑みを浮かべる。服を正す様子に、手伝おうかと手を伸ばしかけるが、慣れた様子なのでやめておく)
……でも、身体は大事にしてね?
■『室長補佐代理』 > 「好きで死ぬ奴も、好きで怪我する奴も……好きで嫌われる奴も多分いねぇさ。
それでも、仕事ならそうするしかないし、それをしなけりゃ『自分の生活』すら脅かされるのかもしれないと思えば、『仕方ない』で済ませるだけだ。
少なくとも、俺はそういう利己主義者さ。俺はよわっちぃいんでね。
自分の為とは何だろうと考えると、こうなるってだけなのさ」
一応、確認するかのように怪我したあたりを叩いたりして見るが、特に痛みはない。
ならば、既に用はすんだとばかりに、男は立ち上がる。
「ま、こういう仕事をしている限り、確約はしかねる。
それでも、『尊敬』する同胞からそう言われるのなら、一応気には留めておこう。
それでは――良い、仕事を。
俺達はたまにサボって『内輪揉め』をやらかしても『その程度』で済むが、インフラに関わる生活委員会じゃあ、そうもいかない。
俺達のそれよりもはるかに激務だろうと思うが、是非とも今後も頑張ってくれ」
嫌味でもなんでもなく、ただ思ったままの事を口にして、保健室を後にする。
後ろ手をふりながら、ゆっくりと。
■鈴成静佳 > アタシだって弱っちいッスよ。逃げには自信あるけどね。フフッ。
……だから、できることをできるだけやる。精一杯に。健康のために、快適さのために。人のために、巡り巡って自分のために……。
要る要らないじゃなくて、必須な要素ッスからね。生活も、治安も。
(用事が済んで立ち上がれば、静佳はコーヒーの缶を回収し、入り口まで向かう朱堂さんに付き添うついでに冷蔵庫の傍のゴミ箱へと放る)
ええ。朱堂さんも、お仕事がんばって!
結局待たせることになって申し訳ないッスけど、それでも、保健室を無人にしておくよりはずっとマシっすから。
またお話しましょうね!
(保健室を去る公安の男を、静佳は手を振りながら見送る)