2015/07/17 のログ
蒼穹 > (入り口にて、彼が無事に起き上がったこと、それから笑みを浮かべたことを見れば余計なお世話だったろうか、と懸念。)
なら良かった。
(見た目大人で、それも教師であろうとも、やっぱり馴れ馴れしいのが己の在り方。)

いや、ま、…流石に学園の…それも美術室とか平和そうな所で倒れちゃってたらねー…。
私?いや、ちょいと放課後にうろついてるだけだよ。
(委員会はサボり気味だしと付け加えて笑み。)
辺鄙、かぁ。確かに人通りは少なかったけど。
(後ろ目で廊下を見遣る。)

因みに、…先生なの?生徒なの?

ヨキ > 「いつだったか、女子生徒に怒られたことがあったな。
 飲まず食わずの不眠不休で保健室の世話になったときに……
 重すぎて運べない、と。
 ……何だ、委員会に属していながら仕事をせんのか?」

(眉を顰め、まさか、とでも言いたげに相手の顔をじろりと見る)

「ヨキは教師ぞ。
 美術を取り持っているが、目立たぬ教科ではあるからな。

 …………。
 だが、今のは冗談だろう? どこの委員だ?」

(座ったままで居ながら、相手とそれほど目線が離れるほどではない。
 低い声で、咎めるような調子が交じる)

蒼穹 > …おいおい、体壊しちゃあ良くないね。
特に飲まず食わずで不眠不休なんて最悪。怒られてとーぜんじゃん。
―――ってそっちかい!
(一連の話を聞いていたが物凄い落としどころにツッコミポイントがあったのできりっとツッコミ。)

…ん?あっはは、まぁ、ね。
(悪びれずに肯定の為頷く。)

ふーん、あ、先生ヨキって言うんだね。
私蒼穹《ソラ》って言うんだけど、学年は一年。
んでまぁ、…習得教科は主に魔術が主軸。
(軽く自己紹介を述べて。)

ん、風紀委員刑事課だよ。一応。
(やっぱり悪びれない。一応仕事はしていると言えばしている。どちらかと言えばしていた、と言う方が正しいが。)

ヨキ > 「本当にな。ヨキはこれ以上軽くはならないから……すっかり反省したものだ」

(肩を回し、首を左右に慣らす。こきん、と、小さく鉄のかち合ったような音。
 言葉は穏やかだが、相手を見る眼差しはひどく訝しげだ。
 軽い調子の声を耳にすると、眉間に薄く皺が寄る)

「魔術を取っていて、刑事課で、サボりか。
 ……一年の、蒼穹君。覚えておく」

(少なくとも、相手の言葉遣いについては、全く意に介した様子はない。
 真っ直ぐに少女の顔を見ながら、それで、と言葉を続ける)

「なぜ仕事をしない?」

蒼穹 > 反省は良いけどヨキさーん。
あなたは生真面目系なんでしょうかー…。
(それに関しては言うまでもなく、と言ったところだろうが、彼の視線が何処か己にとって痛々しいのは自明の理。)
(あまり軽い調子はお気に召さない様だと消沈気味。)

ん、ま、今後ともよろしく。

ふぅ…してないわけじゃあないんだよ?一応警邏と報告書はやってる。
勿論検挙しないこともないさ。
でもね、私自身、本当は正義なんてくそくらえな生き方してるから…、
積極的な活動もしない。
(真面目なタイプ。真っ直ぐに、射抜かれるような視線には少しだけ困った様子。何故と聞かれてこうだと答えられるような明確な答えを持ち合わせていない。)

ヨキ > 「生真面目? いいや。全く?」

(なぜ評されたかが分からない、とでも言わんばかりにきょとんとして、首を振る)

「言ったろう、ヨキは教師だと。
 生徒の指導が、学園より課せられたヨキの使命ぞ。
 ヨキは自分の仕事をしているだけだ」

(言うなり、にっこりと穏やかに微笑んだ。
 大きな口で微笑むと、見るからに人間の形でない牙が並んでいるのが覗く。
 間を置かずその口を困ったように結ぶと、小さく息をついて)

「例えば……倫理の授業で教わるような『正しく在ること』が、君にとって『糞喰らえ』だとして……。
 君の中に、君だけが持つ価値観があったとして。
 それに倣って『個人的に』動いているなら、ヨキは何も言わんよ。
 怠けるも結構、暴れるも結構。ヨキは全力で応援しよう。

 ……だが君の属する委員会は、違う。
 君個人の考えを放棄せよという訳では、決してない。
 だが悪が悪を働けば咎められると同じように、委員は委員の仕事を働かねば、咎められるのだ。
 
 常世島の――何より委員会として、責を果たすとはそういうことだ。……」

(そこまで言い終えてから、これがヨキの仕事よ、と、肩を竦める。小さく苦笑い)

「それだけ悪びれぬなら、叱られるのには慣れたものか?」

蒼穹 > …ほう、根っからの生真面目と見た。
先生、ボケとツッコミのたしなみはあるかな?
(どうにも理解が得られなかったのか、と思えば付け足すように問を投げて。)

ふぅん…そう。成程…ね。
(真面目、と思ったら、彼は彼の仕事を全うしているだけだという。)
(確かに、それはその通りだ。その口はにこりと見せられる穏やかな表情とは対をなすかのようだ。)
(彼の歯―――猟犬の如き鋭い牙が、己の視界に一瞬だけ飛び込んでくる。)
(「ひょっとして、人間じゃないの?」なんて今更彼が最初に突っ伏して呟いた言葉を抉り返す。)
(もっともかく言う己も人間ではないが。)

…ほうほう。なるほどなるほど。
先生、本当は社会科や倫理科の先生やった方がいいんじゃないの?
でも、結構良い事を言うね。
特に個人的に動いているなら、という仮定を入れるのが良い。

その通り、委員は委員の仕事を働かないと咎められる。
だから、最低限はやってるつもりさ。勿論、それは正義の為なんかじゃあないけどね。
私は思うけどさ、私は"正義"じゃあなくて"善"としてありたいなと思ってるよ。
正義なんてのはどこまで行っても建前。だからまぁ、癪なんだよね、正義の名の下に行動するの。
柄じゃないし。

―――とまぁ、御話がそれたね。良いお仕事。
(さて、と一息入れて話を戻す。)
理解した、御忠言にそってまた少しだけ組織のいう事聞く良い子になるとしましょうか。
あっはは、悪いことして怒られるなんて、とうの昔に慣れっこだよ。
(酷く懐かしそうな表情で目を伏せながら述べてみる。)

ヨキ > 「残念ながらこのヨキ、『呆け殺し』で通っておるのでな。丁々発止の期待はするな」

(澄ました顔でそれだけ答える。人間ではないのか、という問いには、小さく首を振って)

「……人間よ。ヨキと交わる、君もまた。
 生憎と、ヨキにとって『人間という括り』は誰より大きい自負がある」

(切れ長の眼差しが半眼になる。ふんと鼻で息をつき、)

「善か。……組織に負担を課すこともまた、君の善なのか?
 君が『最低限』と称して放った仕事は、他の委員が片付けているはずだ。
 もし君がより強力な異能の持ち主ならば、君の力に値するだけの人数が。
 風紀が君ひとりの籍を保つためにどれだけのコストを払うかを、まずは考えてみるがいい。

 ……全く、君がどんな志によって委員と任ぜられたか、理解できんな。
 それに、それだけの考えがあって尚、君が『組織というもの』に身を置き続ける理由も」

(呆れたように目を伏せる。尖った指先で、額を掻いた)

「……ヨキは、美術以外を教えるつもりはない。
 美術を学ぶことは、また社会を学ぶことでもあるからな」

蒼穹 > ボケ殺し…なんだそりゃ。
(あんまりその辺はよく分からないが、少なくともやっぱりこの人生真面目だと思うばかり。)

おや、…人間なんだ。
まぁそうかな…人間という括り、なんて曖昧なもんだよね。
どっからどこまで人間で、どれ以上が人間じゃない、なんていう定規はないんだしさ。

ふふ…負担ね。
言ってる事は分かるよ、私がもし一騎当千だったら私の代わりに1000人のコストがかかるって事だよね。

でも…良いんじゃないかな、どうも組織自体、私を登用したくないみたいだからね。
一応私、戦力としちゃ中堅クラスを自負してるんだよね、代わりはいくらでもいるって思ってる。

それから、どうして組織に身を置くか、という理由もごく単純なものだよ。
情報が得られること、それからお給料が入ること。
落第街を闊歩して風紀の腕章振りかざしながら違反組織の情報を纏めて報告するだけで良い。

コストに見合うこと、組織の負担を減らすって、それこそ何をどれだけやったら良いか定規がないよ。
極論を言えば、全部ぶち壊せばいいってわけでもないでしょ?
(少し屁理屈に聞こえることも織り交ぜながら、なおも悪びれる様子はない。)

そう…美術に社会…。
確かに、その二つは色々関わってるよね。
絵って言うのは、思想を映し出したもの。戦争反対、とかね。
古来から存在する壁画は神々に豊穣を祈るためのもの。
…私の知る限り神なんてもしいてもロクなヤツいないと思うけど。
(程々に自身の意見を述べながら話に乗っかって行く。)

ヨキ > 「さあな。思ったことを口にしていたら、そうと呼ばれただけのこと」

(ヨキほど人間らしい人間もあるまいよ、と嘯いて笑う。
 腕を組む。椅子の背凭れに身を預ける)

「常世島は、異能の者の集まりよ。
 言うまでもなく、『代わりはいくらでも居る』。
 今はどれほど希少な人材とて、いずれ補填が利くようになる。
 我々に、誰しも特別なことは何もない」

(蒼穹の顔を真っ直ぐに見ている。その表情は乾いたように動かない)

「……働かざる者食うべからず、とは、君のためにあるような言葉だな。
 仕事にマニュアルと勘はあっても、定規などない。
 目分量ながら正確に測るわざを身に着けるのが、この学び舎だ。

 ……『次に育つもの』があるならば、何も壊し尽くすことは悪ではない。
 壊すだけ壊して責を負わぬのが、本当の悪だ。
 もし君がサボりでなく、 Sabotage でもない『破壊』に目覚めたときは、ヨキはどこまでも君の味方でいよう」

(『神』の語に、ふっと笑って)

「ロクでもない、と思うのは、君が信心を持たないからであろう。
 神に実在するか否かは必要ない。
 必要とする者の心のうちに、自ずと生まれるものだ。
 芸術も、社会もまた。それらが生まれることに、言葉にできるほど明確な要因はない」

蒼穹 > …で、それを否定する気もないんだね。
(随分と先生らしく語るものだなぁ、なんて腕組みしてゆったりとしたその姿勢を見遣れば心中にて独り言つ。)

そうそう、代わりはいくらでもいる。
それ自体はいやーな言葉だけど、認めざるを得ない。
でもさぁ、そうやって特別な事は何もないって割り切るのも面白くないじゃん?

ほうほう…社会人になるためにってことかなぁ。

破壊って言うのはう…結局破滅の果てに新たに何かが芽生えるから齎されるのかもね。
永遠の繁栄なんてあり得ないもの。

へぇ…壊すことに味方で居てくれるの…そりゃ、何ともありがたいや。
さっきから…色々と私個人のやることには寛容で協力的なんだね。
(くすくすと悪戯に笑み。)

所で聞くけどさ、ヨキが思う壊しつくした責ってのは何かな。
壊したものを直すこと?それとも、壊れたところで新たに何かを育てること?
…まぁ、どっちにしても…多分過去の私は本当の悪だったんだろうなー…なんてね。

ああーっ、難しいね。思想や御仕事の御話。私は何にも考えず、壊すだけの存在でありたいな。
ちょっと御話が噛み合ってなかったらごめんねっ。
(うーん、と大きく伸びをして、結局少々勝手な願望を漏らす次第。両手を合わせて小さく頭を下げる。)

あっはは、成程。
神も芸術も社会も、確かにそうだね。必要とされたから言葉として、曖昧な存在が生まれるんだ。
(賢いなぁ、なんて思いながら。話は飛躍するけどと前置きして。)
んじゃあさ、幽霊ってのはどうかな。
これも曖昧で、実在するか否かは分かんない。明確な要因もない。
必要とする人って、いたと思う?

ヨキ > 「……各々に、特別なことなど何もない。
 だがそうした一人ひとりの巡り会いこそが、本当に尊く、面白い。
 ヨキのように生真面目で、石頭で、話の長い美術教師などは、これから先いくらでも居るだろう。
 だが君にとっては、たった一人のヨキだ。

 ……我々は、常世島にとってはいくらでも換えの利く歯車に過ぎん。
 だが互いにとっては、永劫たった一人でしかあり得ない。
 信仰と同じように、そうした『特別さ』もまた、自然と芽生えてくるものだと――ヨキは思う」

(ヨキにとっての、君のことさ、と、穏やかに笑う)

「もちろん、ヨキはこの学園の教師であると共に、ひとりの男であるからな。
 この命を賭してでも、ヨキは島の秩序と調和を守る。それと同じほどに、ヨキは君と、君が持つ信念を守ってみせる」

(愉快そうに笑う相手に、ふっと表情が緩む)

「もし壊すべきでないものを壊してしまったら、それは直すべきだ。
 だが、世には『壊されるべきもの』が必ずや、ある。
 そうしたものを壊したあとには、次に代わる何かを、新たに生み育て直さねばならん。
 直してしまっては元の木阿弥であるし……放っておけば、荒れ野となるばかりだからな。

 ふふ。君は……『本当の悪』であったか。
 良かったな。『今のヨキ』と『昔の君』が出会わなくて済んだ。
 ヨキの頭に上った血は、なかなか冷めることを知らんでな」

(冗談めかして笑う、が、その語調に嘘はないようだった)

「……いいや、ヨキこそ難しい話ばかりで済まない。
 君とて聡い。この話下手なヨキの言葉を、巧く導いてくれる」

(蒼穹の笑い声と朗らかな言葉に、浸るように頷いて)

「そうだ。世界にははじめに音があり、光があった。
 それらが言葉に表されるのは、随分と後のことだ。

 人には、決して抗えないものがある。その強大さや、理不尽さや、底知れなさによって。
 それらに打ちひしがれたとき、人はそれらより大きな存在を産み出す。
 人の心や力が試されるとき、天変地異に揺るがされたとき、およそ自身ではどうにもならないとき。
 人は祈る、『神よ』と。

 幽霊もまた、同じことだ。
 光の届かぬ暗闇や、人の手の及ばぬ病、その他の悲しみ、得体の知れない偶然を前にしたときに。
 自分を救う存在と同じように、自身を奈落へ陥れる者もまた、そうして生まれるに過ぎない」

蒼穹 > …そうだね、存在自体はいくらでも変えが効く。
どんな異能も、どんな魔術も、どんな種族だってそう。先生に限ったことじゃない。
きっと私だって、知識と能力と魔術を以ってすればいくらでも代替品が作れる。

けれど、出会いは、その関わりは…そうだね。
たった一人の先生ってことになる。どんなに同じものが作れても、出会いだけは作れない。
ヨキの言う通り、尊く、面白い。
どんなに永く生きようと、今こうして、美術室で突っ伏したヨキって先生と今の私が出会う確率は、
きっと天文学的確率より少ない。
そう考えると、どんなに同じ人が居たってそれが行く道は奇跡に近いものだね。
あっはは…、素敵じゃん?
(相変わらず語調は軽いが、深く、神妙に頷く。柄でもないか、と最後におどけて笑み溢す。)

ほうほう…美術の先生なのに、凄く大きく出たね。
―――「守る」「守ってみせる」か。私にはこの先どれだけ生きても言えなさそうな言葉。
かっこいいね。何かさ。
(彼の表情を見れば、最初に比べれば随分優しい目付きになったと思う。)

成程…。美術の先生なのに凄く語るね…。
"壊されるべきもの"…それも壊すだけじゃだめなんだね。
悪のタネを摘んで、平野に鮮やかな色の花を植えるってとこかな。そうすれば荒野になる事もない。
何にしても、私には直すことも育てることも出来ないんだよね…残念ながら。
私が出来るのは壊すだけ…何か、はぐくむ努力をした方が良いのかなぁ。
(少しばかり遠い目で想起しつつ。)

うん、"本当の悪"だったんだよ。私は。…今でもそうかもしれないけどね。
何かを壊したって、反省は勿論、修復も何もしないどうしようもないヤツだったんだ。
けどまぁ、お互いこうやって穏やかに話せてるんだし、私も"昔の私"からは少し変われたのかなっ。
(視界の内の彼は笑う。冗談めかすその仕草は愉快気で、けれど、そこに嘘を吐いた色は見えない。)
(彼の言う"本当の悪"だった者を前にしても、それに恐れず笑う姿は、不敵な様に見えた。)

あっはは、そっか。私も御話好きだからね。
そういってくれたら何よりさ、何分、
御話が好きだと気持ちが先行して何を言っているか分かんなくなっちゃうのが悪い癖でね…。
(蒼い髪を左手で弄りながら、それでも苦くも笑う。)
(壊す者とて、人間としての精神面では色々と不出来なのは自覚している。)

ほう…。
そうだね、音があるから話せる。光があるから見える。
けれど、ジュア紀の連中は言葉にする事は出来ない。そもそも言葉という物が発足する事が"世界"が出来て大分と後。
音や光は"発明"ではなく"発見"であり、元あったものを見つけたに過ぎない。
神や幽霊も然り、なのかもね。

あと、逆に天変地異自体が神や悪霊と喩えられることもあるね。
人には決して抗えないもの。理不尽で強大なもの。覆せない事象。
―――津波、台風、地震、落雷、隕石、噴火。
これらの解決を"神よ"と祈るなら…神に祈って解決を試みられる、これらの災害は"邪神"とでも言うのかな?
(どこまで行ってもあいまいだけど、漸く形が分かってきたかも…といいつつ。)

成程…って、さっきからそればっかりになっちゃってる。
必要とするものではなく、逆に必要とされないけれど、生まれてしまう者なのかな。
暗闇、病、悲愴、絶望…それらが相俟って、ぼやけた何かが、形を帯びる。

ヨキ > 「素敵だろう?だからヨキはこの時間を忘れるまい。
 君を叱ったことも、こうして和やかに話したことも。

 柄でもない、と断じるには早いだろう。
 普段は言い慣れない言葉を口にするときこそ、本当の自分が出るものさ。
 その言葉が、自分に合っていようと、居なかろうと」

(『美術の先生なのに』と評されれば、目を細めて)

「言ったろう、ヨキは教師である前に、ひとりの男だと。
 君が学園のルールから外れれば、ヨキは教師として君を叱るが、
 君がひとりの女性として在るならば、ヨキはそれを大切にする。

 君が壊すことしか出来ないならば、育みの心を持つ者を、誰か味方につけてしまえばいい。
 たとえ性格が捩くれていたとて、何かを壊そうと思うとき、その力は真っ直ぐだ。
 ――真っ直ぐな力は、良くも悪くも人を惹きつける。

 こうしてヨキを壊すでもなく言葉を交わしてくれる君は、一体どのような時間を経たのだろうな?
 つい話に引っ張られてしまうのは、それだけ君の心が活き活きとしている証拠だよ」

(神や幽霊の話には、そうだな、と少し考えてから)

「“邪神”の他にも、名前はある。たとえば“悪魔”。
 神と呼んでいたはずのものが威光を損ねたとき、あるいは自分の心が蝕まれたとき、『神は堕ちた』と罵られるだろう。
 元は何も実体のありはしないものが、その人物の中でのみ、勝手に姿を変えたと錯覚される。
 ……カミ、というものがもし実在するならば、よほど難儀な仕事であろうな」

(平然と言って、首を振った)

「不幸は必要とされないが、その『原因となるもの』は求められるよ。
 太刀打ちできない不幸を、幽霊の仕業……悪魔の仕業とすることで、人々はそれを払い、安息を得る。
 取り交わされた信仰は、やがて実体を得る。教会、聖典、護符に神木、さまざまの形を取って。
 自他の心身が害されることのない限り、信仰を持つこと自体は、非難されるべきではない」

蒼穹 > …ふふ、ほんとに…。
そういう意味じゃ、覚えていてくれるっていうのもとても嬉しいって思う。
アドリブってやつかな。
慣れない言葉を口にすれば、確かに本質が出る。何を言おうと思っているか、その場で考えなくちゃならない。
自分を飾ることが出来ないから、…そう、だね。
あっはは、いやぁ…勝てないね。
馴れ馴れしく話しちゃったけど、随分と智慧の溢れる人と御話している気がする。
(こういう時間もまた素敵だよと、爛々と蒼い目は細く弧を描く。)

あっはは、私の持つ女性特権ってやつ?
男の中でもかっこいい、紳士ってのに属する性質だね。
そういった振る舞いを…目指しているってわけじゃなさそうだ。

あはは…成程…。そう言う考えもあるか。
そうだね、真っ直ぐだ。曲がりくねったりしない。ただそれを破壊せんと、面と向き合う。
(丁度、先生の視線の様にね、と先程からの真っ直ぐな視線を拾い。)
中々友人に困る日々だけど、いつしかそう言った人が味方に付いてくれれば…。
良いのかなぁ…?あはは…分かんない。
(元々、壊して喜ぶような輩だったから。果たして育みの心を持つ者を味方につけて、それから彼の言う"本当の悪"になり下がるのを防げて…それで、万事解決なのだろうか。)

過ぎたるは猶及ばざるが如しなんて言うけど…。
勿論、強い力は人を魅了し、ひきつける…その通りだって思う。
けれど、強大過ぎる力って…ある一線を越えちゃうと忌避されるものにもなりえる。
だから私は難しいと思うんだ。どこまで力を示せばいいか…。
…なんて、贅沢で慢心した悩みだよね。
(そんな話を、蛇足的に跡付けるする。ただの薄い記憶を辿って話す過去の自分語り。今更話してどうともないが、彼のような人間からなら、きっと何かの智慧…もとい、面白い話が得られる気がして。)

あっはは…私も丸くなったって事かな。
互いこうして話し合えるのは良い事…そう、心が、ね。
そうだね、壊してばかりだと、きっと心は荒んでる。
話すことで心に豊かさを得られる…こういう事も、また素敵だって思うね。


"邪神"に"悪魔"。"悪鬼魔神"なんて総称もあったっけ。…それはさておきとして。
人に害をなすものをそうやって呼ぶんだよね。

少なくとも、地球ってところでの神は空想上の物でしかないだろうけれど。
異界と繋がった今、それに近しい者は流れ込んできてるみたいだし。
まぁ…大変だろうね。信仰を損なわない様に偉ぶりながら、大きな力を行使する。平等に、平等に。
そんな事、幾ら力があったって…出来っこないよね。
(当然の事だよ、と言わんばかりだったが、何処か同意を求めているような口ぶりだった。)

何かにすがって生きて行く。
それは本質が善でも悪でも何かの所為にしなきゃ人間は気が済まなかったんだね。
世界を作ったのは神で、死んだ誰かが見えたら幽霊。

御祓いするって言ってみたり、何かを祀ってみたり、通過儀礼としても、儀式としても…色んな形で、本当にいろんな形で残ってるね。
へぇ…それが、ヨキの意見って事なんだ?因みに、そういうヨキは何か信仰を持ってるのかな?

色々、考えだしたら奥が深いね。…はぁ、頭がパンクしちゃいそう。
(うう、と冗談半分だが頭を抱えてみる。)
(けれど、大分と沢山の奥深い話をやり取りした気がして。それを理解でき切っているのか、己の中でも分からない。)

ヨキ > 「ヨキの言葉は、みな人々との交わりから生まれたに過ぎんよ。
 その本質が君にとって快いと思えたならば、それはヨキを育んだものたちが持つ、徳から来るものだ。

 なに、馴れ馴れしくともよい。
 君の本質は慣れない言葉に滲むものだが、飾らぬ本音には君の気持ちが表れる。
 どちらとも、ヨキにとっては心地よいものだ」

(腕組みの格好から、左手で顎を撫でる。紳士ね、と呟いて)

「もし君が、ヨキから退くことを良しとしない女性であったり、あとは自分を男性と考えているならば、それによっても君との付き合い方を変えるさ。
 目指しているものがあるとすれば……そうだな。先生でも、紳士でも、何でもいい。
 人の心に、人間としてのヨキの姿が残ってくれさえすれば」

(片眉を上げてみせて、ならば、と笑う)

「ヨキが君の友人となろう。人間の精神は、善と悪のみによって計り切れるものではない。
 ヨキとて、はっきりと答えが出せんこともある。だが、君が進むべき道の手掛かりくらいにはなるやも知れん。
 考えることさ、味方との在り方も、自分の力の扱い方も。

 もし……忌避されようものなら、住処を変えればよい。
 人間の世代など、すぐに移り変わるものだからな。
 かつて忌避されたものが、時代が変わって受け入れられたとするならば、その価値観も人々の中で自然に発生したものだ。

 人が成すすべなく神に縋るのと同じように、力を持つ者はその強大さに合わせて、その分寛容でなければならんよ。
 壊すなら壊す。壊して困るなら、待つ。君の言うとおり、『永遠の繁栄なんてあり得ない』。
 人の中に生きていれば、必ずや時代の伏し目には出会えるものだ」

(蒼穹の言葉に耳を傾けながら、時おり相槌を打っては頷く。
 答えを探しながら言葉に変換するように、ゆっくりと口を開く)

「神に近しい者にとって、幸いはここが日本という国であることだ。『やおよろずのカミガミ』とは、よく言ったものでな。
 ひとつの神しか知らぬ者は、他の神との分裂を生む。知ればよいのさ、この国がどれほど自然にカミと生きてきたかを。
 過ぎたる力は軋轢を生む。だが考えてもみたまえ、君は日本という寛容な国で、この寛容なヨキという友人を得たのだぞ。
 君の望むとおりに生きてゆくチャンスは、いくらでもある」

(蒼穹の口ぶりの真意を知ってか知らずか、穏やかに諭すように。相手の様子に、楽しげにくつくつと笑って)

「さまざまな形を取った信仰は、さまざまな形で用いられるよ。あるときは純粋な慈善として、またあるときは戦いの火種として。
 それらの用い方もまた、ひとりひとりが選び取るものだ。個々が信念を持つことは歓迎されて然るべきだが、それらの信念が害し合ってはならぬのだ。

 ……ヨキは何も、信仰を持たぬでな。人間について考えていたら、こうなった。
 信ずるものがあるとすれば、それは他ならぬヨキ自身だ」

(やがて窓の外が暗くなったのを見遣り、)

「……ああ、これはまた、随分と。説教のみならず、長話に付き合わせてしまったな。
 蒼穹君、と言ったな。有難う、面白い話をさせてもらった。

 ――君の力の在り方について。またいずれ、このヨキに聞かせてくれ」

(机上の本をまとめて立ち上がる。並んでみると、随分と細長い。
 ではね、と朗らかに別れを告げて、ひらりと手を振る。そのまま美術室を後にする)

ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
嶋野陽子 > 保健室の戸締まりを終えて帰る途中、
美術室から教師らしき人影が出てくるが、灯りがまだ
点いているので、電気の消し忘れでないか、様子を見
に入る。中にまだ一人、生徒らしき人影が美術室内に
残っている。

蒼穹 > …あっはは、謙虚な考えだね。確かにその通りだけれど、そう言う考えもあるんだって思う。
それでも、そういった人徳を持ってるっていうのは凄い。
その考え方を聞いて益々そう思うようになったよ。

そう…心地よく感じてもらったら私としても幸いだね。
何にしたって、こうやって何となく話しているうちにも、うそ偽りが無いなら好ましいよね。
(気付けば概ね同意するばかり。)

私は見たまんま乙女ですー。
…ふぅん、そう。"人間として"か。
私には紳士的に映るけどね。…それにしても、少し人間であることに拘ってるね。
何かあったのかな。
(最初の彼の呟きを聞いていたわけではないのだが。)

へぇっ?あっはは…嬉しいねっ。それはとっても。
うん…是非とも頼むさ、お友達になってくれるなんて願ったりかなったりだよ。
味方、なんて得られたことは今しばらくなかったからね。
よろしくお願いするよ…きっとヨキなら私の力についても考察を述べてくれるでしょ?

成程…そういう事か。
ああ、…そっか…そういう事だったんだね…。
私には寛容さが足りなかった、のかもしれない。
(何かを思い起こすようにふとして述べる。)

待てば、良いんだね…はぁ。あっはは、どれだけ待ったらよかったのか…なんてね。


全ての物には神々が宿ってるって、そう言う考えだったっけ。
…ふふ、本当に、先生は寛容だよね。
少なくとも、今は、私はこの状況を喜ぶかな。
そして、先生が言う様に、知って、考えよっか。私が望む生き方を目指すために…ね。
(いつの間にか軽い調子が無くなって。それから、彼が諭す心算なら甘んじてそれを受け入れるかの様な口調。それは、教師と生徒の図であるといって間違いがない光景だった。)

地球上じゃ、一番多い争いは信仰が発端だって聞いてるけどね…。
そうそう、自由に用い、自由に選ぶ。それだけだよね。
他人に考え方を強制しちゃいけない。
勧めるのはいいけれど、線引きはしっかりしないとね。

…人間について?またまた、凄いこと考えてるね。
良いじゃん、それ。
私も、結局信じるものがあるとしたら私自身ってなりそうだよ。

うん…こちらこそ。
うん、うん…!是非またお話してよね。気楽に、御友達としてさ。
何でも聞いてほしいな。聞かれなくっても話しちゃうけど。
今度は突っ伏した状態じゃあイヤだよ?
それじゃーね。御疲れ様。
(同じく、緩く大きく手を振る。)
(時間は既に夜。彼を見に行ったらいつの間にかこんな時間だった。)
(己も消灯すれば出て行こうか。)
(―――と思ったが。)

おつかれー?
(誰か来たみたいなので擦れ違いに挨拶をかける。それから、改めて出て行った。)

ご案内:「教室」から蒼穹さんが去りました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
ご案内:「教室」に嶋野陽子さんが現れました。
嶋野陽子 > 「お疲れ様でした」
残っていた生徒もどうやら用事が終わったらしく、
入れ違いに美術室を出ていった。

補習とか特訓でもやっていたのかな?
と思いつつ電気を消してから美術室を出る。

最初に出てきた先生らしい人は、ずいぶんと大きい
人だったけど、もしあんな人が倒れたら、保健委員
で運ぼうにも大変だったかもと思う。
 まさかそのために保健室に詰めるよう言われてい
るのかと、今さら気付く陽子だった。

ご案内:「教室」から嶋野陽子さんが去りました。
ご案内:「保健室」に朽木 次善さんが現れました。
朽木 次善 > 【保健室の扉を、恐る恐る男が開く】
【手首から手にかけてを反対の手で押さえながら、中を覗いた】
【こういう部屋にも、ノックは必要だっただろうか】
【一年以上この島に居てなお、保健室を訪れるのは初めてであったから、勝手が分からなかった】

すいません。
誰か、いらっしゃいますか。……出来れば、治療器具がある場所等分かる方だと、嬉しいですね。ハハ。

【愛想笑いを、誰がいるかも分からない室内に向けて投げた】
【もうこれは、性分なのだろう】

朽木 次善 > 【手首を握る手から、血が垂れそうになり、慌てて角度を変える】
【手首を伝う血は、自分の手の傷がやはり治療が必要な程度には深いことを示していた】
【割れたガラス球を掃除している最中、誤って手を着いた場所に、偶然ガラス片があっただけだ】
【すでにガラス片は抜いているが、思ったよりも深く刺さっていたらしく、押さえていても血が止まらなかった】
【なので、一応治療機関として存在する保健室に】
【もっと言えば、保健課の一人でもいてくれる幸運を願いながら訪れたわけだが】

……誰もいない、感じですかね。

朽木 次善 > 【こんな日もある】
【そもそもが学生自治を目標に掲げている島であるのだ】
【己で処理出来ることは己で処理をしろという何かの囁きが聞こえた】

……中々に手厳しい。
ですよね。分かってますよ、俺も生活委員ですから。

【その場に存在しない同じ生活委員の保健課の面々を思い出し、小さく微笑む】
【手首を押さえたまま棚に近づき、その中から消毒液を取り出してベッドに腰を下ろした】
【手首を伝い、肘にまで達した血の筋を掬うようにしてティッシュで拭う】

朽木 次善 > 【消毒液をつけたティッシュで、傷口周辺の血を拭った】
【細かなガラス片が中に残っていることが怖かったが、どうやらそれも目視出来る範囲ではないらしい】
【手首から手にかけて、深く刺さるような形で突き刺さったガラス片が、穴のような傷を作っていた】
【血の珠が浮かび、そこを強くティッシュで押さえた】

【保健室を見渡す】
【先ほど見た棚にはなかったが、きっと縫合のための道具もあるはずだ】
【それこそ大きな手術こそ出来る施設ではないだろうが、ある程度、もっと言えばある程度以上の治療は常に必要とされる】
【この島に来る以前では考えられないほど、この島では負傷が隣人のように近い場所にいる】
【強い力を持てば、それが起こす波及的効果で、生傷が増える】
【統治し、統制されているとはいえ、普通の人間より余計に武器を持った人間が多いのならば、仕方のないことなのかもしれない】

【それにしても、自分はそんな異能のせいでの傷ですらなく】
【単なる自分の不注意での負傷であるのだけれど】

朽木 次善 > 【優れた力は、必ずどこかに波及的効果を及ぼす】
【それが良きにつけ悪しきにつけ、無理やりそれより大きな力で押さえつけられない限り、それは道理でしかない】
【それより大きな力で押さえつけられれば、その大きな力はさらに副次的な波及を齎すだろう】
【そんなもの、想定をしてみなくとも、誰にでも分かることだ】

【自分にも異能はある】
【ただ物に穴を開けるだけの能力であったが、それをあえて腐らせようと思ったことは一度もない】
【与えられた力として、アドバンテージとして、利用し、使用しようとしている】
【それを使わざるを得ないときに限らず、自己のためにその力を使うことに何の躊躇いもない】
【結果、それが逸脱した状況を生み出したとしても、だ】
【この島では……それが、当たり前の一つの秩序であるからだと、自分は思っている】

朽木 次善 > 【この島で暮らす限り】
【異能があろうがなかろうが、人はそれと向き合わなければならない】
【他人より優れているところ】
【優れている他人より劣っているところ】
【それは、一人一人の個性という形で許容されているからこそ】
【誰もが向き合って生きていかなければならない】

【自分もその一人だ】
【生活の一部が、そういった誰かが引き起こした何かの波及に対しての処理であるがゆえに】
【他人の異能に、他人の異能が引き起こす何かに、間接的に向き合わないといけない】

【先のフェニーチェが起こした事件や、それに類する事件だってそうだ】
【きっと、彼らの不幸は、彼らがそれに傾倒してしまったことよりなにより】
【それを実現しうる能力を、"不幸にも"備えてしまったことにあると思っていた】

ご案内:「保健室」に嶋野陽子さんが現れました。
嶋野陽子 > いつものように保健室に顔を出すと、
珍しく先客がいるようだ。しかも自分で手当てをして
いる・・・いけない!急患さんだ。しかも外傷らしい。

驚かせないようにゆっくりと近付き、彼が私に気付いた
らば、声を掛けて一礼する。

「もしもし、大丈夫ですか?
保健委員一年生の、嶋野陽子です。何かお手伝い
できますか?」

朽木 次善 > いつの間にか思考に没頭していたらしい。
握りしめた手からは、血が止まっていた。
押さえすぎて張り付いたティッシュを恐る恐る剥がしたところで声が掛かり。

「ああ、保健委員の。
それは助かり――」

と、声のした方を見て。
見上げて。
もう一段階見上げたところでようやく相手の顔があり。
更にはその体つきにまで目が行き、余りにも予想外すぎて……流石に苦笑をしたまま頬が、一度だけひくついた。

「――ます、ね……!」

苦味成分の明らかに強い苦笑をしたままなんとか言葉を絞り出す。

嶋野陽子 > あまりにも定番な、彼のリアクションに、
思わずクスリと笑ってしまう陽子。彼の隣にしゃがむと

「驚かせてごめんなさいね。見ての通り、らしくない
白衣の天使です。傷を詳しく見せて貰ってもよろしい
ですか?」
と、彼の手の傷を見ながらたずねる陽子。

朽木 次善 > 「ああいえ、こちらこそ。すみません、驚いてしまって」

すぐに謝辞を述べた。動揺や感情表現は誤魔化せない。
言葉だけでも取り繕うべきだと囁く。

「……ガラス片で切ってしまいましてね。
 傷口が深くて、処置が必要のようで。
 本当に、困っていたところですよ。白衣の天使が欲しくなる程度には」

少しずつ自分を取り戻しながら、言う。
手の傷はガラス片で空いた穴のように深く、深くからまだ少し血が滲んできていた。
骨までは達していないが、肉は深くまでえぐれているようだ。

嶋野陽子 > (これは深い傷口ね。中程度のナノマシン治療が
必要だわ。でも・・・)
中程度のナノマシン治療には、患者の遺伝子情報が
必須である。つまり彼の名前が必要になる。生徒な
らば私の権限で必要な情報は得られる。

まずは相手の名前からだ。
「かなり深い傷口ですね。私の異能治療の出番のよう
です。まずはお名前を頂けますか?」

朽木 次善 > 学生であることを疑われているのだろうか。
郷に入っては郷に従えとも言う。
学園の保健室を利用するのは初めてなのだ、それが儀礼かもしれないとも思った。

「二年の、朽木と言います。
 下も合わせると朽木次善ですね。
 生活委員会ですので、二重の意味で先輩でもありますね」

先輩というには、余りにもな取り合わせではあるが。
右手を相手に委ねたままそんなことを思った。

ご案内:「保健室」に嶋野陽子さんが現れました。
嶋野陽子 > 「あ、朽木先輩でしたか。ソファー、
どうもありがとうございました。」と頭を下げる。
確か私が座れるソファーを用意してくれた人の名前も
施設課の朽木先輩だと聞いている。

少し脱線したが、異能治療のインフォームド・コンセ
ントの時間だ。ウエストポーチから光コネクタを保健
医デスクの情報ポートに差し込むと、朽木先輩の遺伝
子情報をダウンロードする。
「私の異能治療には、患者さんの遺伝子情報が必要な
ので、お名前を頂きました。この治療で、30分以
内にその手を元通りにできます。しかし、異能です
ので、一つだけ変なお願いをしなければいけません。」
ここで一旦言葉を切る陽子。
「治療の際に、傷口を舐めさせてもらう必要があり
ます。今回は傷が深いので、1分ほど舐めれば
大丈夫かと思います。 もし舐められるのはどうも
という事でしたら、普通に縫合しますが、それです
と全治2週間位になります。どちらになさいますか?」

(体内合成したナノマシンを傷口に塗るには、これしか
手段が無いの、ごめんなさい!)と心の中で謝る陽子。
少し頬が赤くなっている。

朽木 次善 > 嗚呼なるほど。
合点がいった、調達課が難儀して施設課と整備課が合同配備した例の長椅子は、
彼女のために用意されたものだったのか。

「いえ、あれは正式な依頼、この場合は内部依頼ですか。
 あってのことなので、俺もそれに参加したというだけですからね」

愛想で笑い、治療の内容を聞く。
やはり異能での治療になるのか、と思い聞いていたが、
途中傷口を舐めると言われて流石に鼻白んだ。

「それは。
 治療、ということなら、構わないのですが……。
 嶋野さんに抵抗があるんじゃないですか……?
 俺も、仕事に支障が出るので是非ともお願いしたいところですが……」

言いながら視界の先で、傷口から血がこぼれ始めているのが見えた。
尚更、血ごと舐めることになってしまうと眉根が寄った。

嶋野陽子 > 私の心配をしてくれる先輩の心遣い
に感謝しつつ答える陽子。
「お気遣いありがとうございます。 元はと言えば、
私の異能のためですし、今回みたいなデータベースが
無い場合は、それこそ血を嘗めて遺伝子情報を分析す
る所から始めるので、全然平気ですよ。では早速失礼
します」
と言うと、垂れ落ちそうな血を掬い取るような動き
で、朽木先輩の傷口を舐め始める陽子。よく見ると
陽子の舐めた後にはピンク色の薄い膜が張ったよう
になり、見ているうちに少しずつ盛り上がっていく
ように見える。
陽子が傷口を舐め終わる頃には、最初に舐め始めた
場所の傷口はふさがり始めていた。

「しばらくこのまま動かずにお待ちください。傷口は
触らないでくださいね。」と言うと何かを取りに医薬
品用の冷蔵庫に向かう陽子。

朽木 次善 > その映像は、倒錯的なものを感じた。
自分の傷が治ることや、舌先が傷の上を這う痛みよりも、
ずっと強い痛みにも似た感覚を抱かせる光景だった。

その一瞬で塞がり始めた手を不思議そうに見ながら、
それでも異能であるのならと納得しながら思う。

「……嶋野サンは。
 何故保健委員に? やはり……。
 こういう異能を持っているから、でしょうか」

動くわけにもいかず医薬品用の冷蔵庫を漁る陽子に向けて、
なんとなくそんなことを尋ねた。

嶋野陽子 > ナノマシンのエネルギー源は患者
さんの血液なので、その埋め合わせに特製栄養ドリン
クを取りに向かった陽子は、
『嶋野サンは、何故保健委員に?
やはり、こういう異能をもっているから、でしょうか』
という朽木先輩の質問を聞くと、冷蔵庫から取り出し
たドリンク剤の瓶を朽木先輩に手渡すと、その向かい
に再びしゃがみこみ、
「この異能は、5年前に私の恋人が難病に倒れた時に、
彼を救うために手にした能力です。そのためにお嫁
にいけない体つきになってしまいましたが、お陰様
で彼を救うことができました。 その後訳あってこ
の島に彼と来ましたが、学園に入る時に『陽子のそ
の体格だと、風紀とか公安とから危ないだけでなく
人殺しになりかねない場所から声がかかるだろうか
ら、先に保健委員になって、その異能を人助けに使
って欲しい』と彼に言われたのです」と答えた。
そう。保健委員への立候補は、敬一君のアイデアだ
った。今頃ヨーロッパのどの辺かなぁ・・・・

嶋野陽子 > 朽木先輩にドリンク剤の説明を
まだしていない事に気付き、
「このドリンク剤は、今の治療で先輩が消費した体力
を補充する、保健室特製のドリンク剤です。」
と説明する。

朽木 次善 > 何故かドリンクを貰い、すみませんと礼を述べる。
薦められるままに栄養ドリンクを片手に事情を伺う。

「……なる、ほど。
 すみません改めて。その事情までを察する敏さは、俺にはないようで……。
 それは……成る程、と少し思います。
 そういう意味では、俺もまたその力に助けられた一人になるのでしょうね。
 それにその人のあり方や言葉は、個人的にとても共感できます。
 ……ありがとうございました」

改めて、傷を治してもらった礼を言った。
傷口には薄い膜が張っている。不思議なチカラだと思う。
であるからこそ、異能であるのだろうが。
ドリンクの説明を聞き、異能が自身の体力を代償に治癒する類の異能であると推測をつけ、そして納得した。

「成る程……血を失っただけの倦怠感じゃないんですね。
 いただきます。
 この手は、どれくらいで物を握れるようになりますか……?」

肉の盛り上がった手を見ながら尋ねた。

嶋野陽子 > 『この手は、どれくらいで
物を握れるようになりますか?』
朽木先輩の質問は、沢山の仕事を抱える施設課として
は当然の問いだろう。答えは、
「そうですね・・・あと三時間ほどすると、傷跡が少し
熱くなって、その後で傷跡が消えます。もしかすると
小さなガラス片が浮き出てくるかも知れません。いず
れにせよ、熱が取れて傷跡が消えたら治療完了です」
と説明する。
「あと、先輩なのですから、そんなに畏まらなくても
よろしいのですよ。」と言ってみる。

朽木 次善 > 「嗚呼、じゃあガラス片が浮き出て、傷つける可能性があるんですね。
 だったら、反対の手ですることにします」

驚いたのも確かで。
怯えたのも確かだった。
それが相手にどんな効果を与えたかは問題ではない。
そうすべきことだと思い、彼は左手を出した。
力が強すぎるからと、公安や風紀を諦めて同じ生活委員会で職務を真っ当する同志に、
もう自分に怯えや恐れはないと伝えるように。

それに傷口まで舐めてもらったんだ。
握手くらい、こちらから求めるのが男だとも思ったので。

「敬語は、性分なんです。
 すいません、不出来な先輩で。
 ありがとうございました」

嶋野陽子 > 治療したとはいえ、怪我をした
手での握手は良くないので、先輩の左手を優しく握る
陽子。そして一言補足する
「あと、私の異能は、私が知的生命体を殺すことを許しませ
ん。強い戒律がかかっているので、戦場に放り込まれたり
したら、何も出来なくなるでしょうね」と先輩に説明する
と、握手していた手を離す。

「先輩の左手も生傷が多いですね。今度、塗り薬を用意しましょ
うか?」と尋ねる陽子。

朽木 次善 > 「こちらも生来のもので。
 それこそ、生活委員会を続けていれば、徐々に慣れてきますからね。
 また、深く傷ついたときだけ、お世話になることにします」

謝辞を述べて、相手の親切を丁重に断る。
自分などに気を使わせるよりは、その優しさは広く人を救うべきだと思ったからだ。
右手を僅かに開閉させながら、改めて小さく頭を下げる。

「また、ここに来たときはよろしくお願いします。
 嶋野サンも、ソファの座り心地が気になり始めたら、
 是非ともお声を掛けてください。
 では、失礼しますね」

苦笑をして、ふさがった傷の右手を見ながら、
ドリンクを片手に保健室を後にした。

ご案内:「保健室」から朽木 次善さんが去りました。