2016/01/08 のログ
ご案内:「休憩室」に日下部 理沙さんが現れました。
ご案内:「休憩室」に蒼穹さんが現れました。
日下部 理沙 > 放課後。
新入生……というにはそろそろ過ごした時間も長くなってきた、九月からの新入生、日下部理沙は、背中の翼をしな垂れさせたまま、ぐったりした顔で休憩室に足を踏み入れた。
諸々の事情から本島……日本国の実家に戻ることが難しい理沙は、冬休み中ずっと学園で過ごしていたのだが、だからといって課題が捗っていたわけでは決してない。
故に、直に本格的に冬休みも終わり、講義も始まる頃、まとめて課題を片付けようと図書館に籠城を決め込んだわけである。
だが、籠城したところで必ず成果がでるなら誰もが苦労はしない。
実際、理沙もほとんど成果らしい成果を得られず、ほどほどに片付けて早々にこの休憩室へと逃げ込んだ次第であった。
だが、そこで、先客を見て、微かに肩を震わせる。
 
「あ、え……獅南、先生……」
 
講義はとっていないが、顔だけは知っている。
そこにいたのは、そんな教師であった。

獅南蒼二 > 「………ん?」

普段からそうなのだが、今日は本当に周囲に気を配ってはいなかったようで、
声を掛けられるまでその非常に目立つ人物に気付いてさえいなかった。
煙草を咥えたままに顔と視線を貴方へ向ければ……課題に追われる貴方よりもずっと、それこそ、まるで病人かなにかのように、この教師の顔には疲労の色が刻み込まれていた。

そこに立つ貴方は……

「すまんが覚えていないな、授業で見た顔ではないと思うが?」

……どこかですれ違ったかどうか、記憶には残っていなかった。

蒼穹 > 購買で何かかってきたと思しき買い物袋。
休憩室のその辺で軽食を買って来たのだとか。
引っ提げて。年明けからであるけれど、その気儘な堕ちた破壊神は今日もサボリを遂行する。
少なくとも図書室に勉強しに来て疲れたから休憩、という風ではない様子が見て取れよう。

「うー…わ。ナミさんじゃん。やっほ。」

この時間帯、まさかこの男、この教師とこの場所で鉢合わせようか。
煙をふかして休息しているのは、かの意地悪な魔学教諭。
少々目を見開いて、ちょっとバツが悪そうに声を捻るも、不良なりの言葉は向ける。
何やら不景気かつ不健康そうな顔つきをしているのは、いつもの事なのだが、
しかして、何だか今日の彼はちょっと見ただけで不健康そうだと察した。
腐ってもこういう感覚は、人間とは比にならない程鋭い。
他に、更に背に大きな羽の生えた男子生徒らしき後ろ姿。
休憩室には、今は自分含めて3人だけの様子だった。
さて、大きな翼を背に持つ彼を後ろから追い抜き、歩きながら人差し指を向け。

「で。そこ。き、ん、え、ん。…じゃないかな?」

とまあロクな挨拶の一つもくれず相変わらず馴れ馴れしく彼に語りかければ、その辺の座り心地の良さそうな長椅子を見繕って、
4人掛けはあろうかと言う幅広いスペースを一人で堂々と占領して袋を漁り始めた。
年を越して更に不良っぽさに磨きがかかっていた。
因みに本当に禁煙かどうかは知らないので何となく疑問系のイントネーション。

獅南蒼二 > そして聞こえるもう1人の声。
こちらはよく知った声だ…そも、ナミさんなどとふざけた呼び方をする馬鹿はこの学園に1人しかいない。
視線を向けることなく、あえて面倒臭そうにため息を吐いて…

「こんな時期に図書館を訪れるのは課題の終わらん間抜けか、
 学ぶ意欲のある優秀な生徒か、そのどちらかだと思っていたが…
 …第三のカテゴリを用意しなくてはならんようだ。」

咥えていた煙草を手に持てば、くるりと手首を回して、まるでマジックのようにその煙草を消し去った。
煙も同様に霧散し、そこに“喫煙”の痕跡は一切残らない。

「図書館に付随する施設が禁煙であることは自然だが…さて、お前に指摘される覚えはないな?」

楽しげに笑い、ここで初めて、視線を蒼穹へと向けた。

日下部 理沙 > 色濃く疲労の色を張り付けたその教師の相貌と声色に、理沙は無意識にびくりと震え、背中の翼を揺らした。
獅南蒼二。詳しい事は理沙もしらないが、異能に対して何かしら一家言のある立場にあるとは噂で聞いている。
それがどのような立場から、どのような視点と見地によって導かれた見解であるのかは知らないが……今目前での第一印象を見る限りでは、物事に肯定的な意見を持っている人物には見えない。
偏見もいいところであるが、第一印象で間近で顔を見た限りでは、正直且つ素直に、理沙はそう思った。
 
「あ、はい……獅南先生の講義はとっていませんので……えと、九月からの新入生で、日下部理沙といいます」
 
ひとまず、無難にそういって、頭を下げたところで、今度は女生徒が1人入ってきた。
蒼穹を思わせる蒼髪が特徴的な女生徒。
だが、まじめそうには見えない。
獅南先生とは知り合いであるようだが、まず敬意のようなものが感じられない。
かなり気やすいというか、軽い。
元々はごくごく普通の日本社会にいた理沙からすると、若干苦手な手合いであった。

獅南蒼二 > 白衣の男は疲労の色を湛えた瞳で、日下部の、青い瞳を真っ直ぐに見る。
それから僅かに目を細めて、誰の目にも目立つ背中の翼へと視線を向けた。

「だろうな…お前のような生徒が居れば、記憶に残らんはずがない。
 名前やその言葉からすれば日本人だろうが…その綺麗な翼は生まれつきかね?」

青年が自分の噂を耳にしていることなど知る由もない。
白衣の教師としては、眼前の青年が異能者であるかどうかを確認しようとした質問ではなかったが……貴方には、そう聞こえてしまうかも知れない。

お前は異能者か?と。

日下部 理沙 > 理沙からすれば、まるで光を感じられない薄暗闇のような瞳で目を見られ、思わず息を呑む。
まるで、尋問だ。
いや、それどころではない。
実験動物か何かにでもなった気分だ。
威圧的なその雰囲気と如何にも研究者然とした出で立ちで問われれば、否が応にも理沙はそんな気持ちになってしまう。
だが、聞かれたことに答えないのは失礼である。
ただでさえ、相手は教師だ。
貰いきりの奨学金を貰って常世島にきている理沙からすれば、基本的に教師は逆らえない相手である。
研究職のそれともなれば尚更だ。
となれば、しどろもどろになりながらも、どうにか息を整え、質問に答える他ない。
 
「い、いえ……この翼は、異能であとから生えたもの、です……今から、5年前に……」
 
実際、隠すような事でもない。
それが教師ともなれば、それこそ尚更だ。

蒼穹 > 「…ほお。」

いやはや、相変わらず彼は手厳しい。手厳しい、というよりは、彼はいつもこうして上手く皮肉り、
また、露骨に態度で示してくる。その真意は…結局、測れない。
ただ、此方に向かない、それであっても不健康さが見て取れる横顔を眺めながら、
半笑いで袋からポテトのスナック菓子を取り出しつつ。
本当に面倒に思ってるなら、取り合いもしないだろうが、かといって、快く思われているわけでもあるまい。
一瞬で消滅した煙草。
そして、煙草だけに留まらず、煙も。恐らく、この分なら微小な煤や灰も消えているのではなかろうか。
器用に要所要所で魔法を使うのも、相変わらずな様子。

「私としては是非、その第三カテゴリの名前を聞きたいものだけども?」

ビニールの袋を縦に裂いて、楕円形のスナックを一枚貪り、からかう様に笑って。

「ごもっともだね。いやなに、どうにも…、あっはは。痩せた?
いや、ナミさんは研究熱心だけども、煙草は体に良くないでしょ。私は先生の為を思ってー…♪」

さて、此方にと向いた、何処か意地悪さが思わされる彼の楽しそうな笑みも相変わらず。
ただ、横から見るより、真っ直ぐ見つめたその顔は、疲労困憊と言った具合が見て取れた。
とってつけたように彼の尤もな指摘を受け流さんと試みながら、それはそれはお行儀悪く、
半分寝そべった姿勢でポリポリ菓子を貪りながら、眺める。

「で、今度は何の研究してるのよ?…治癒魔法でも研究すりゃいいものを。」

よ、と姿勢を立て直して、初めて翼を持った方の彼へと向き。

「キミは…第二カテゴリーっぽい?あ、どもっ。一年生、蒼穹ですっ。」

非常に軽い挨拶をしながら、小さくペコ、と頭の高度を下げて見せる。
何となくのイメージでしかないが、彼の顔つきから居残って勉強してる、
真面目そうだな、だなんて思う。
さて、翼を持っている異邦人も諸々多く見てきたし、
蒼穹は彼のソレは異能ではなく、生まれつきのものだと思って何ら疑問には思わなかったが、
獅南の言葉には、ひっそりと聞き耳を立てている次第。
何だか答えるのに躊躇していた様子だが、

「へー…あれ異能なんだ。異能って…分かんないねー。」

こんなタイプの異能もあるのか、と、再び異能の経験や法則が及ばない不規則さを再認識して呟いた。
恐怖感が薄い蒼穹としては、何故そんなにまごまごしているのか分からなかったが。
暫し菓子を貪るのを止め、白い大翼を眺めていた。

獅南蒼二 > 声が震えている、と言うほどではないにせよ、まるで怯えているようなその様子を見れば白衣の男は苦笑交じりに肩を竦めた。
それからもう一度、貴方の翼を見て…

「なるほど…空を飛べるのなら便利そうだが、人間の重さではそう上手くもいかんか?
 何にせよ、その大きさではな……厄介な代物だ。」

…そうとだけコメントすれば、小さく頷く。
厄介、と言う言葉はこの教師に関する噂を裏付ける言葉とも取れるし、素直な感想とも取れる。
だが少なくとも、表情を見る限り、その言葉は本心であるようだった。

「第三カテゴリの名前など、決まっているだろう? 公共の場でたむろする貴様のような不良学生だ。」

そして、スナック菓子を取り出した蒼穹に、それを咎めるでもなくただ皮肉めいた言葉を投げた。
教師と生徒、と言う関係であるはずだが、そうは見えない。生徒の側の態度もそうだが、教師の側も、この少女を生徒として扱っているとは言えない言葉の数々である。

なお、異能が多種多様であり理解不能であるという点に関しては同意する。その一点に関しては。

日下部 理沙 > 「あ、はい、どうも……日下部です……」 
 
名前と外見の一致した人だなと、理沙は思った。
いわれてみれば、その天真爛漫かつ自由奔放な言動は突き抜け、晴れ渡る蒼い空のようだと思えない事もない。
といっても、規範の中で生きることに慣れている理沙からすれば、真正面からそういうものを破戒する手合いが苦手であることに違いはないが。
故にか、どうしても態度に余所余所しさは出てしまう。
理沙は単純にビビりであった。
不良は苦手である。

獅南蒼二 > 「賢明な判断だ。関わり合いにならん方が良い。」

そんな日下部の反応を見て、楽しげに笑う白衣の男。

「魔力タンク代わりに賢者の石の“まがいもの”でも作ろうと思ったのだが、まがいものは所詮まがいものだ。
 ……だが治癒魔法は得意だぞ?
 頭から抜け落ちたネジを締め直したり、前頭葉を切り取って性格を矯正したりな。」

その言葉からも、この男にとっては珍しく、研究は失敗し暗礁に乗り上げているのだろうことが想像できるだろう。
それ故に、常に努力と研鑽によって研ぎ澄まされているこの男の感覚や感性も、今は僅かだが緩んでいる。

ある意味で、普段の獅南より人間らしい部分が、垣間見えるかもしれない。

蒼穹 > 「ほう、私を不良というか、手厳しい事を。私はこれでも風紀委員、なんだけどな。」

二本の指で塩味のスナックを摘まんで、口に入れる。
口いっぱいに芋の風味と塩味が拡散する…しかし喉が渇きそうだ。
最低限のみ込んでから喋るからまだましだと考える蒼穹はきっと意識が低い。
ただ、彼の言動は今日はましであるように思う。いつもなら、貴様を殺す方法を~等と、第三者が居る前で平気で語る教師だから。


「んー…どーも。日下部君ね…漢字どう書くの…って、どしたの、さっきから。」

指の間にまた菓子を挟んで、口元近くで待機させながら、
さて、さっきから何だかずっと(此方から見れば)特に理由もなくおどおどしている様な気がする彼、
初対面だから、というだけが理由ではあるまいが、
これでも一応不良ではないギリギリラインだと思っているが故か、
ともあれ、これまでの数少ない彼に見せた言動を振り返れば、不良と言って差し支えないだろうが。

日下部 理沙 > 獅南の言葉に思わずギョッとして、目を見開く。
人間の重さでは飛べないのか? その問いの答えは、正しく是。
一目でそこまで見抜くのかと、理沙の中の畏怖は更に具体的になる。
今までこの翼をみて、「飛べない」と判断した人間は、ほとんどいなかった。
有翼の異邦人どころか魔法で空を飛ぶ人間まで普通にいる異能・魔術界では、それも仕方がないといえる。
普通、そういう世界に生きていれば翼を見ればもう「飛べる」と無条件で思っても仕方がないのだ。
タイヤがついている新車をみて「走れないのか」と問うものがまずいないのと同じだ。
だが、目前の教師はそんな事は確認もせず、単純に旧来の物理法則の常識にしたがってに「飛ぶことは難しいだろう」と予測してみせた。
物理学など、多くのことが魔法と異能によって覆されたこの世界であるのに、だ。
 
思わず、その異質さに……理沙は震える。
 
この教師の異能に対する見解は……恐らく、『否定』だ。
いや、下手をすれば、この世の超常すべてに対する見解が……それなのではないだろうか。

「この翼をみて……便利そうだとか、生かせそうだと言ってくれる人は一杯いました」
 
背筋に冷たいものを感じながら、理沙はまた何度目かの息を呑む。
その予感に思わず、目を細める。
 
「でも、『厄介』だと……『お荷物』だと、『看破』してくれた人は、多分この島では先生が初めてです」
  
そして、口にする。
確かめるために。
 
「……先生は、異能がお嫌いなんですか」

獅南蒼二 > 日下部の表情を、その一挙一動を観察していたわけではない。
だが、感情を隠す訓練を受けているわけでもない青年の表情は、
言葉よりも雄弁に内心の驚きと畏怖を語っていた。

とはいえ、獅南としては、文字通りに生物学と物理法則に当てはめて考えた自然な結論でしかなかった。
飛行が可能であるとするのなら、それは翼としての作用ではなく、魔術学的な補助があって然るべきである。

「私の性格が悪いだけかもしれんぞ?
 普通の人間なら初対面の相手に面と向かって“厄介なお荷物を抱えている”などと言えんだろうからな。」

冗談じみてそう呟くが、つづけられた言葉には、僅かに…その目を細め、
疲労の色の奥に潜めていた、鋭い光が、瞬時、蘇る。

「さて、どうだろうな…お前も『看破』してみたらどうだ?」

すぐに、その光は失われ…獅南は笑った。

蒼穹 > 「ちょっ?!ナミさんキミねえ?!」

何だかこう、実に遠回しに此方に皮肉を回してくるのだ。
半笑い半怒りに眉間にしわを寄せながらチップスを握り潰して破壊した。

「うわ…マッドだねえ。賢者の石ぃ?お空にお城でも建てるの?それとも魔王でも封印するのかな。まさか永遠の命じゃあないでしょ。
うっわー…もっとマッドな事聞いちゃったわ…、この人マジだよ…だったら自分の脳味噌改良すればいいんじゃないかな。」

賢者の石、なんてのは色々な曰くが付いている。無限の魔力を持つ鉱石、
あらゆるエネルギー法則を無視する夢の産物、飲むだけで永遠の命が得られる霊薬。
さて、どれが本物であるかはわからないが、彼の言葉としては一番最初だろうか。"まがいもの"であれ、
求める効果は同じものだろう。彼は所詮まがいものと切って捨てたが、

「何したんか知らないけど、キミが研究で何も得られないってワケじゃあないでしょ。
差し詰め何か面白い事分かったんじゃない?」

程よく根拠のない鎌掛けをして。

「ん…何やら御邪魔かな。…不良の私は早々に退散しようかね。
じゃーまたいつか、会いましょーね。」

何となく、会話の雰囲気を察した。ここまで来たら、何となくだが分かる。
獅南には、不健康そうながら何かしらの威圧感があった。
そして、異能についての見解も。場を乱しそうだと悟ったのか、さっさと袋を引っ提げ、
小声で言い残しては、物音立てず器用にその場を後にしていく。

ご案内:「休憩室」から蒼穹さんが去りました。
日下部 理沙 > 「今の私にとっては……そっちのほうが都合がよかったです」
 
正直さが必ずしも美徳とは理沙も思わない。
不躾で無遠慮であることは概ねに置いて相手を傷つけるだろう。
だが、腫物に触れる様な優しさや、光を追い求める直向きさが逆に弱った相手を傷つけることがあることも、理沙は身を持って知っている。
そんな理沙からすれば、今の獅南の言葉は……よっぽど『親しみ』があった。
 
と、そこで丁度、気配を消す様に去って行った蒼穹に気付いて、ハッと背後を見る。
出て行ってから気付いた。
それほどまでに、自分は集中していたのか。
いや……怯えていたのか。
 
それこそ、『看破』出来ようはずもない己と獅南の心中に、理沙は歯噛みした。

獅南蒼二 > 日下部に看破してみよと言い放ち、視線は少女へと向けられる。

「真実を語ったまでだ。
 …それに、私がそれを何に使うのか、お前になら分かると思ったのだがな?」

殺す、とまでは行かずとも、異能者にして破壊神を名乗る傲慢な少女を打ち負かす。
それは1つの大きな目標と言って差し支えない。
なお、ロボトミー手術などの外科的な治癒魔法は実際に研究した文献も読んだが、馬鹿馬鹿しくて冗談としか思えなかったとのこと。

「うろつくのは構わんが、新学期の授業には遅れるなよ?」

そうとだけ、立ち去る背に言葉をかけた。

獅南蒼二 > そして、視線を戻すことも無く…小さく頷いて、

「その様子では、私の噂も知っているのだろう。
 すまないが、魔術学の道を究めんとする学生には見えない…それで私の名を知っていたのだからな。」

そしてゆっくりと、鋭さを失い、疲労の色を湛えたままの視線は、青年の青い瞳へと向けらえる。
澱んではいるが、確かに、その奥に“意志”を秘めて。

「異能は、努力や研鑽とは全く関係なく、無造作に、規則もなく発現する。
 ある者は貴様のように、その背に“厄介な荷物”を背負い。
 ある者は己の努力に見合わぬほどの“強大な力”を手に入れる。」

「いかに努力を重ねた人望ある人間であれ、異能者となれば人間のコミュニティからは排斥されるだろう。
 いかに努力を重ねて己の力を磨いても、異能者の暴力の前には理不尽に屈する他ないだろう。」

「……お前に、逆に聞こう。
 お前は、異能が嫌いなのか?」

日下部 理沙 > それこそ獅南の看破した理沙の心中には今更答えることもなく。
ただ、その濁りの奥にある『何か』にむかって、理沙は答える。
きっぱりと。はっきりと。

「ええ……嫌いです」

淀みなく、目をみて、躊躇いなく。
僅かに語気を強めすらして。
 
「先生の仰る通りですよ。異能が発現した。それだけで、私は故郷にはいられなくなりました。
今までの私の努力も過程も過去も何もかも、そのたった一回の『特異』で台無しになりました。
飛べない人達からは努力不足と詰られ、飛べる人達からは出来損ないとして憐憫を受けました。
結果、私は今は離れ小島で『実験体』として扱われています。
私はそれこそ、ただたまたまこんな異能が発現しただけだったのに。
恨まないほうが……憎まないほうが、不自然ではないでしょうか」
 
口元にじっとりとした粘着質な笑みを浮かべて、理沙はそれを吐露する。
内心に籠りきった、異能に対する澱を吐きだす。

「御察しの通り。私は異能が大嫌いで、疎ましくて、その何もかもを憎悪すらして……」

それが、出来る相手だと踏んで。
それを、肯定する相手だと踏んで。

しかし、だからこそ。
 
「いまし『た』」
 
嘘は、つけなかった。
都合のいい事ばかりは、くちにできない。

獅南蒼二 > 青年の言葉を、その1つ1つを静かに聞いた。
全てを語り終えるまで、全てを吐き出し終えるまで決して口を挟まずに。
青年が“本心”を語り、部屋には沈黙が流れる。
白衣の男は、嘘を吐かなかった青年をもう一度見て、それから静かに瞳を閉じ、小さく頷いた。

「声を震わせて私に異能が嫌いかと聞いた時より、余程良い目をしている。」

僅かに笑んでから、その瞳をゆっくりと開き…

「お前が過去に抱いた感情は真っ当なものだ。だが、それはもう過去の話、か?
 憎悪を超える何かを発見したか、それとも、憎悪すべきその翼をも自己の一部として寛容したか。」

その発言から想像するに、白衣の教師は、噂通りに異能を嫌っているのだろう。
だがこの場において、日下部が異能に好意的な発言をしたことに、怒りや失望の感情を抱いた様子はない。
それこそ、今だけは、一人の教師として、一人の生徒に向き合っているように見える。

「……だが、はっきりと言ってやろう。
 すまないが私なら、空も飛べずまともにコートも羽織れそうにない翼など、死んでも遠慮させてもらいたい。」

もっとも、配慮の無い発言は相変わらずであるのだが。

日下部 理沙 > つい、くすりと笑う。
その無遠慮な発言も、今の理沙には心地よい。

「私も、それには全く同意するといいますか……一番困ってるところがそれでして。
新品の服を買ったら最初にやることが背中に穴をあけることっていうのは流石に辟易としています」
 
真っ直ぐ、目前の1人の教師の目を見て。
異能を嫌う先達の目をみて、語る。
 
「でも、こんな翼でも。ここでは……羨んでくれる人がいました。
褒めてくれる人がいました。認めてくれる人がいました。
もっといえば……飛べなくても、この翼で出来る何かを……期待してくれる人達が、大勢いました」
 
九月から、まだ四カ月ほど。
であった人数は多くはない。
理沙は友人が少ない。
だが、それでも、その数少ない友人や恩師達は……その多くが、温かく迎えてくれた。
そして何より、自分とは違う目線で、この翼を見てくれた。
 
「憎悪はあります。嫌悪もあります。
でもそんなものは、儘ならない『自分の体』なんてものは……思春期においては嫌悪するのが普通じゃないかなって。
例え私は翼が無くても、もうちょっと背が高ければ、とか……もうちょっと男らしければ、とか。
髪の色がちがったらとか。瞳の色がもっと綺麗だったらとか。
無い物ねだりをしたと思うんです。
それは、今でもきっとそうなんです。
翼があるのに、『もし翼が無かったら』なんて願うのは……結局同じ無いものねだりじゃないかと。
だったら、どうせあるのなら……例え飛べない翼でも、飛べない翼があるということで、私に何かを期待してくれる人達に応えてみたい。
その善意や好意に、向き合ってみたい。
そう、今は思うんです。
とても、現金で……俗な理由だと我ながら思いますけどね」
 
それは、他者に阿るという事だ。
他の価値観に認められることで自己を確立するということだ。
過去の自分の惨めさには目を背けるというとも言いかえることができる。
いや、どう取り繕ったところで、主義主張を曲げるという事はそういうことなのではないかと、理沙は思う。
だから、問うのかもしれない。
 
「これは……おかしいことですかね。異能嫌いの獅南先生」

目前の『教師』へと、教えを乞うのかもしれない。
今回も、都合よく。
かつて、ヨキ先生に問うたように。

獅南蒼二 > 「なるほどな…無いものねだり、か。
 お前の歳なら確かに思春期にあたるのだろうが、自覚しているのは珍しい。
 尤も、今この瞬間に手元にあるものを肯定的にとらえ、最大限に生かす、というのは、実に建設的な発想だ。
 それに、お前の言うように…全ての存在は、誰かに認められてこそ、価値がある。
 そう考えるのならお前の発想は全く正しい。」

異能嫌いの教師は、しかし、日下部の言葉を否定することはしなかった。
だが、それは、日下部の言葉に同意したということではない。

「だが、私は魔術学の教師であり、研究者だ。
 極論を言えば、魔力によってこの世の全ての現象を系統立てて再現することが可能な学問だと思ってくれてもいい。
 私なら、どう考えるか……もし翼が無かったら?そう願うのなら、その為にどうすべきかを考える。
 引き千切ることができるような代物ではないだろう、だが切除することは可能かもしれん。
 魔術によって、錬金術によってその翼を実体の無い魔導物質に“変質”させることも可能かもしれん。」

「その翼を羽ばたかせても、飛ぶことは確かに不可能だろう…だが、学ぶ意欲がある限り、向上しようとする心がある限り、この世に不可能は無い。
 その翼に力を与え、自由に空を舞う夢を叶える……その為に何が必要か、どのような魔力をどのような術式で描き込むか、いかにして“飛行”という現象を再現するか。
 ……魔術学はそういう学問だ。夢の部分だけを語れば、だがね。」

科学が世界の表面で発達した技術なら、魔術というものは人目につかぬ世界の裏側で発達した技術だ。
獅南の語る“考え”はどこまでも自己と向き合う道であり、そこに、他社の評価や視点などは一切介入していない。
日下部の言葉とは全く異質な、もう一つの答え。

「さて、私はそろそろ行かねばならんが…興味が湧いたのなら、魔術学の授業でも履修してみることだ。
 尤も、学ぶ意欲が無いのなら、無為な時間を過ごすことになるだろうが、な。
 また会おう、異能嫌いだった、厄介な翼の学生よ。」

言うだけの事を言って、満足げに笑い、白衣の男はポケットに手を突っ込んで歩き出した。
もう振り返ることも無く、休憩室の扉を開き……静かに、扉は閉じられる。

ご案内:「休憩室」から獅南蒼二さんが去りました。
日下部 理沙 > 理沙の返答に対して、返る獅南の言葉。
それは間違いなく教示であり、教唆であり……いや、教授であった。
研究者としての言葉ではない。
理想を語るだけの理屈でもない。

それが証拠に、それを聞いた理沙は言葉を、詰まらせる。
 
返答できない。言葉を返すことが出来ない。
ただ、見送る事しかできない。
何故か。
 
簡単な話だ。至極、至極簡単な話だ。
 
その話には……理解があった。納得があった。
妥協なき、合理があった。
 
翼が無ければ。なら手術で切り落とすこともできたのでないか。
飛べないのに飛びたい。なら魔術でもってその代替とすればよかったのではないか。
 
ではなぜ理沙はそれをしなかったのか。
 
 
妥協したからではないか。
異質であることを優位に思ったからではないか。
ただの『個性』に『不幸』の表札をつけて……自慢しやすくしただけではないのか。
 
翼があることで得られる『研究協力費』を甘んじて受け。
飛べないことで得られる『憐憫と慈悲』に阿り。
 
その果てに得た今の結論は……ただ、本当に、自分で選んだものなのか。
胸を張って、そういえるのか。
 
 
答えはでない。
教示を与えてくれるものはもう此処にはいない。
 
生徒はただ、『課題』に悩む。
提出期限が、あるわけでもないそれに。

ご案内:「休憩室」から日下部 理沙さんが去りました。
ご案内:「図書館」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 獅南蒼二は教師であると同時に、研究者である。
それは名目だけの役職ではない。彼は全てを魔術学に捧げた魔術学者だった。
その証拠に、データベースで彼の名を検索すれば、魔術学に関する論文が山のようにヒットするだろう。
昨年の後半は、まるで何かに憑りつかれたかのように、殆どの時間を研究室で過ごしていた。

「………………。」

だから、こうして図書館に彼が姿を現すのも久々の事である。
特に今日は、禁書庫や魔術学に関するコーナーではなく、科学や工業に関する分野の本を読み漁っている。
白衣姿という外見には見事に合致しているのだが、彼を知る人物にとってこの光景は異様なものであるに違いない。

ご案内:「図書館」にリビドーさんが現れました。
リビドー > 「おや、キミが工学とは珍しいな。」

 背後から声を掛ける。
 彼――獅南蒼二にしては珍しい分野に居る事が目を引いたのだろう。
 何気はなしに、物珍しくも当たり前の様に声を掛けた。

「新年の挨拶はまだだったかな。」

獅南蒼二 > 「ちょっとした思い付きだよ。
 科学が世界を大きく変えたのは“産業革命”以降の話だろう。
 魔術学においても、何か学ぶべきところは無いかと思い立ってね。」

手に取っていた本、蒸気機関の発達について詳細に記された専門書を棚に戻す。
それから、視線を声の主へ向けた……酷く疲労した様子の瞳が、貴方を見つめる。

「あぁ、昨年も大して協力し合った仲でもないが、今年もよろしく頼む。」