2016/10/11 のログ
■東雲七生 > 身長を伸ばす方法でも探すか、と小さな決意を胸に秘めて本棚を眺める。
ついでに大人っぽく見られる方法も無いかな、とかも考える。
しかし現実は非情で、そんな都合の良い本なんてある筈もなく。
「………ぐぬぬ。」
しかも探している最中にも身長の足りなさを思い知らされるという状況。
大抵の事は是非も無しと受け入れられる七生でも、こと自分の身長に関しては敏感であった。
最近やたらと自分より背の高い相手と話すことが多いし。
■東雲七生 > ふと、視界の端に『ご自由にお使いください』と書かれたミニ階段を見つける。
これを使えば、書架最上段の本も取れる事だろう。いや、間違いなく取れる。
見たところ階段の高さは20cmほどで、七生の身長にプラスすれば17……四捨五入して180cm!
流石にそれだけあれば最上段どころか天井に頭が付く気すらしてくる。
だが。しかしだ。
あれを使ってしまえば自分が低身長である事を認めた事になってしまうと言うもろ刃の剣。
同級生男子を見てみろ、あんなものを使う奴は高2では居ないぞ。
自分の中でそんな声がした。心苦しいが紛れもない事実。
「………ぐぬぬぬ。」
階段に親でも殺されたかのような顔で立ち竦む姿はどこからどう見ても異様でしかなかった。
■東雲七生 > いっその事異能を使ってしまえば万事解決する。
しゅるっと伸ばしてぱしっと取ってしゅるしゅるっと手元に持ってくる。
「……我ながら天才か。」
だが、その為だけに、高い所の本を取る為 だ け に、自分の異能を使ってもいいのだろうか。
それもそれで七生のプライドが何か違うんじゃねーのって言ってきた。
七生も何か違うと思う。すげー思う。
そもそもいくら跡が付かない程度に固めてあるとはいえ血液で公共の物に触れるのは如何なものか。
「………ぐぬぬぬぬぬぬぬ。」
もういい、本のバカ!もう知らない!!
煮詰まった七生は心の中でそう八つ当たりをして次の書架へと移動した。
ご案内:「図書館」にセシルさんが現れました。
■セシル > 今図書館に入ってきたこの人物は、「高いところのものが届かない」といった悩みとは無縁だろう。
いや、全ての箇所に届くとかそういったわけではなく、この人物の手が届かないという問題は、この人物個人に帰されることなく、一般的なサイズの人型種族全般の問題になるだろうことが想像に難くないという意味でだ。
…しかし、その悩みがないからといってその人物に悩みがないと言えば、そんなはずはなく。
その人物…セシルは、難しそうな顔をして辞書が並べてある書架にまっすぐ向かっている。
「失念していた…」とか何とか呟きながら。
■東雲七生 > 自分の身長の低さと異能の使い勝手の悪さを呪いつつ図書館内をうろついていると、
見知った人影が書架の陰に入っていくのが見えた。
「あれー?セシルじゃん。
あいつも何か探しものかな。」
俺と違ってあの身長ならどんな本でも手が届くのだろう。俺と違って。俺と違ってな!
そんな風にやさぐれた気持ちの矛先を向け、
どれ一つ皮肉の一つでも言ってやろうと何処までも性根の曲がった事を考えながら後を追う。
なお、実際のところ皮肉なんて考えられもしないのだが。
■セシル > 背の高いセシルではあるが、そのセシルは背のさほど高くない、受付カウンターにほど近い書架の前でしゃがみ込んでいる。
彼女は…そう、「彼女」は「女性」である…「人名事典」というものをその書架から引き出し、閲覧受付カウンターに向かおうか…というところで、ちょうど七生の姿をみとめたのだった。
「おや、ナナミか。貴殿も何か調べ物か勉強か?」
「精が出るな」と、七生のやさぐれた気持ちなど知るはずもなく、鷹揚な笑みを浮かべて声をかけた。
セシルは片手に人名事典(日本語のもののようである)、もう一方の脇に新書を二冊抱えている。
外側の新書のタイトルは、「家のない少年たち」のようだ。
■東雲七生 > 「よっす、セーシルっ。
…………えっと、その、うん。」
ふっくっくっく、と特撮ヒーロー番組で見た悪そうな幹部の笑い方を真似てみたつもりの、不機嫌な猫みたいな顔でセシルへと近付く。
相手がこちらに気付けば、その顔のまま不敵に挨拶をして。
さて皮肉の一つでも言ってやろう、と満を持して口を開くも、
やっぱり何も思いつかなくて結局素直に肯くだけだった。
「セシルも?えっと……人名事典、なんて持って。
あともう一冊は……って、詮索する事でもないか。」
無神経だったな、と苦笑を浮かべて頭を掻く。
ごめん、と小声で謝ってそれから改めて小首を傾げた。
■セシル > 「元気そうで何より………どうした、顔の筋肉でも痙攣したか?」
七生の顔のぎこちない表情の作りには、真顔でそんなことを聞く。
七生の「悪そうな幹部の笑い方もどき」の表情に対するセシルの反応は残酷だった。
「…ああ、いや、構わん。どうせほぼ趣味だ」
相手が自分の「調べ物」に興味を持ったようなので、そう言って気さくに笑いながら、新書の背表紙を見せてやる。
「家のない少年たち」と並んでいたのは、「家のない少女たち」という書名の新書だった。
「こちらの世界の不良少年・少女のものの考え方を知りたいと思ってルポルタージュを借りたは良いが…
ルポルタージュだから固有名詞が多くてな。そのことを考えていなくて、図書館の辞典に読書の助力を乞いに来た次第だ」
「漢字の読みは未だによく分からん」と、困ったように笑うが…その「異文化」を、どこか面白がっているようにも見える。
■東雲七生 > 「いや、……えっと、うん。ちょっとね……。」
テレビで見た時は凄く大人っぽく見えたから真似したのに。
家のお風呂の鏡の前でたくさん練習したのに。
そんな心の声が口を突いて出て来そうになるのを何とか押し込みつつ、
七生はセシルの手にある本の背表紙を見る。
家のない少年たち。……セシルの説明を聞くからに、不良少年を題材とした本らしい。
ルポ何とか、っていう言葉は知らないし、響き的にコーンポタージュ的な何かかな、とは思ったがきっと違う。
「ははあ、なるほど。
確かにあんまり馴染の無い名前だと頭に入って来ないよな。俺もよくあるよくある。」
異邦人、外国人の名前どころか同じ日本人の名前すら時折覚えられない時がある。
こくこく、と頷きながらもう一度、セシルの手の中の本を見た。
不良、不良かあ……と呟いて。
■セシル > 「…あ、えーと………疲れているなら、無理はするなよ?」
相手のどもり方に何かあったんだろうとは思うものの、流石に察しきれず。
微妙な言葉を気遣わしげにかけることしか出来ないセシルなのだった。
悪意がきちんと形を為していたならば、場合によっては皮肉の一つくらいは考えたのだが。
「そういうわけだ…普通の、文章上に出てくる言葉ならば、この島に働く力のおかげらしく苦労せんのだがな。
そう思って一般書に手を出した途端これだ」
そう言って、自嘲気味ながらも邪気のない笑みを浮かべる。
「…もっとも、不良と言ってもこの学園ならば反省文で済まん水準の者達についての本だ。
恐らく、ナナミとはかなり思考様式も異なるだろう。
…ナナミならば、これらの本の著者のように、自ら彼ら彼女らに接して理解するのだろうがな。
委員会所属者の不便さの一つか?」
不良かあ……などと呟く七生の声を聞いたか、そんな説明を苦笑い混じりに付け足した。
■東雲七生 > 「あ、あはは……ありがと……。」
完全敗北の四文字が頭の中で明滅する。
大人っぽさを手に入れるにはまだまだ努力が足りない、と思い知る七生だった。
「ふーん、へーえ。そっか、普通は異世界の言語なんて文字なら尚更分かんないもんな。」
今まで接してきた異邦人も、当然のように意味の通る言葉で話していたので気付く事もなかった。
しかし改めて考えてみれば不思議な物である。生活様式の差異はたびたび感じることはあっても、読み書きに関してはあまりそれを感じない。
目の前の彼女はこの島に働く力のおかげ、と言っているがどういった力なのだろうかと、少しだけ気になった。
「あ、あはは……。
でもまあ、実際に会ってみるってのはそうかも。」
まさか居候先の家主が世間から見て不良少女の部類に入るなんて言える筈もなく。
その辺りは曖昧な笑みで隠しながら、一つ頷いた。
伝聞で知るより、直接会って話して、場合によっては拳の一つでも交える方がよっぽど理解は早いと思う、と。
■セシル > 七生の脳内に「完全敗北」の文字を焼き付けたことなど、セシルは知る由もなかった。
せめて悪意がそれらしく形になっていれば、あるいは。
「ああ…私の故郷の言語や文字は、こちらでいうところの「英語」や「フランス語」に似ているらしいがな。
恐らくそれらを元にすればコミュニケーションは出来なくもないのだろうが…まあ、利便性をとって、素直に恩恵に与っている」
「詳しい原理は公開されていないから、つくづく不思議なものだ」と笑った。
…が、「実際に会ってみる」の言葉には、表情を曇らせた。
「………この間、まさにという女生徒と訓練施設で顔を合わせたのは良いが…
私の態度がひどく彼女の機嫌を損ねてしまってな。不幸な衝突になってしまった挙句、手当も拒まれてしまった。
………本当は、彼女のような者にこそ、手当や再教育の機会が厚くもたらされるべきなのだがな」
中性的な太い胸声に、強い苦みが滲む。
■東雲七生 > 悪意なんてそうそう表立たせることが無いくらいには純朴が服着て歩いてる少年。
ちらっと脳裏を過る事はあっても、それが長続きしたことは今のところない。精々が子供のワガママ程度だ。
暫くは誰かに悪意を表する事など、無いだろう。
「へえ~、えいごとふらんすご……。
まあ何にせよ確かに便利な力だよなっ、うん!」
では果たして島から出たらどうなのだろう。
そんな事をぼんやり考えながらこくこくと頷く。英語もフランス語も頭の中にはない。
フランス語に至ってはフランスの場所すら怪しい。現状、実感を伴って知っている場所はこの島の中だけであるから。
「あー、そ、そうなんだ。
訓練施設に居るって事は、それなりに学校には来てる生徒なんだろうけど……。
けどまあ、そこまで思い悩む事じゃないと思うよ。
手当も教育も、絶対に必要……だろうけど、結局その人が求めるか求めないか、だと思うし。」
居候先の家主にしてもそうだ。
学生服は着る割に学校で見かける事なんて殆ど無い。聞けば授業は一つか二つ受講してる程度だと言う。
案の定進級には失敗している。しかしそんな事を気に掛けている素振はほんの少しも無い。
むしろそんな自分を何処か誇らしく生きているし、そんな姿が七生の憧れでもある。
■セシル > 「………ナナミの年の頃ならば、「英語」は齧ってはいるはずだが…
まあ、おかげで路頭に迷わずに済み、こうして権限を預からせてもらっているからな。
私は、私に出来ることを為すだけだ」
「英語」や「フランス語」のアクセントが不自然なところまできっちり伝達するこの島の翻訳機能は、実に優秀である。
いずれにせよ、この2人の会話であればそこが掘り下げられることはないだろう。
…七生が、墓穴を掘らない限りは。
ちなみにセシルは教養で中学校レベルの社会科はしっかり学習中なので、イギリス・フランス・アメリカの位置はばっちりである。
「………まあ、彼女個人のことはこの場で掘り下げるわけにもいかんし、実際、訓練施設だけでも顔を出してくれているだけ安心ではあるのだがな。
………本当に彼女が望んでいることがそうならば、こうも悩まん」
最後に、彼女が見せた苦しみが…そして、それに手を伸ばす手だてが遠いことが、歯がゆくて。
セシルは、彫りの深い中性的な顔立ちを、もの憂げに陰らせた。
■東雲七生 > 「まあ、ううん、授業態度で言えば俺はあんまり良かった方じゃないから……」
これ以上この話はやめよう、悲しみしか生まない。
言外にそんなオーラを発しつつ、七生は頭を掻く。
「うん……そう、そっかぁ。
けれどまあ、うーん……何て言うかな。
セシルも今言ったけど、自分に出来る事をやるしかないんじゃないかな。
当たり前だけど、誰でも、自分が出来る事は自分の出来る事だけなんだからさ。」
そのセシルが言う“彼女”が誰なのか見当が付いてるわけじゃない。
でも他人の考えることがそのまま分かって、相手の望ことをその通り実行できるなんて誰にも出来やしないと七生は思う。
でも、それは“今は”の話。
色んな経験を積み、知識を得て、成長する事で“出来る事”は無限に増えると七生は信じている。
■セシル > 「………そうか…
…まあ、この島やこの近くの島国で使われている言葉の言語圏の外に出なければ、さほど困らんか」
七生の発するオーラを感じ取って、苦笑い混じりながらも話を切ることにしたセシル。
彼女も基本的には体育会系なので、勉強の面倒を見ようとかそういう話にはならない。
七生は救われたと考えるべきか、放置されてしまったと考えるべきか。
「ああ、それは無論だ。私はカウンセラーでも何でもないからな。
私の今の目標は、「彼ら彼女らが他人を害していない限り」「不用意に彼ら彼女らと敵対せずに済む振る舞いを身につけること」だ。
…なかなか、低いハードルだろう?」
七生に「自分に出来ることをやるしかない」と返されれば、表情の陰を払う。
最後の問いの際には、どこかおどけたような笑みすら浮かべてみせた。
■東雲七生 > 「まあでも、結局のところ気持ちだから気持ち!
気持ちさえ伝えられれば言語とか文化とかその辺どうにでもなるから、多分!
ねっ、終わり。はい終わり!」
この学校を出たら旅に出よう、世界を知ろうと密かに考えてる人間とは思えないようなセリフを吐きつつ。
これ以上の言及は避けるべくぱたぱたと手を振って話を切り替えようとする。
「やっぱり、何て言うか……大変そうだな、風紀委員って。
俺にはとても長続きしそうにないや。」
あはは、と笑いつつ頭を掻く。
きっと風紀委員だからという理由だけで身構えられる事もあるのだろう。
その辺りは何にも属さない、ただの東雲七生、には想像の域を出ない事だ。
■セシル > 「………そうだな」
慌ただしく話の切り替えを促す七生の様子に、苦笑を零しつつ。
しかし、実際にそのように出来てしまいそうにすら見える七生の天真爛漫さは、間違いなく美徳の一つであろうとセシルには感じられた。
「いや、最初にも言ったがほぼ趣味だ。
権限を持つに相応しい振る舞いを心がけたいというのは私のこだわりであって、風紀委員の間でも考え方に差はあるからな。
…権限があることを考えれば好ましい状況ではないように思えるが、場合によりけりでもあるし、仕方あるまい」
そう言って、苦みを混ぜながらも笑い返した。
■東雲七生 > 「あー………。
ほぼ趣味って言っても、誰しもそう見てくれる訳じゃないじゃん?
権限を持ってる、ってだけで色々身構えられちゃうだろうし。
……周りとちょっと違うってだけでも、人間って色々考えて相手を見ちゃうからさ。」
斯く言う七生も、入学したての頃。
その特徴的な髪と瞳の色に加え異能の力も相俟ってかなり奇異の目で見られたり、偏見を持たれたりもしたのだ。
しかしそれは口にせず、だから、と続けて
「だから……えっと、もうちょっと近い所から相手を見た方が良いんじゃないかな。
風紀委員の間でも考え方に差があるように、きっと不良っていう括りの中でも色々差はあるし。
不良だから、学校に来てないから、機会が与えられなかったから、とかそんなんじゃなくて、もっと何つーんだろ……
……一人の個人として相手を見た方が、きっともっとずっと解決は早いんじゃないかなぁ。
とはいえ、俺もセシルの事を風紀委員であることを前提に話してたりするから、難しい事だと思うけどさ。」
さっきから僅かに感じていた胸のつかえの正体を探るように。
もしも七生とセシルとで考えに違いがあるとしたら一番大きなものと思える事を口にする。
彼女は趣味だと言っていても、その言動の端々からは風紀委員としての立場が窺えた。
彼女が意識しているかいないかは別として、七生が『大変そう』と言ったのはその事である。
■セシル > 「…まあ、それは否定出来んな」
「"風紀委員"という立場の色が濃く伺える」ことを指摘されれば、少しだけ苦笑いを浮かべながらも頷いた。
他ならぬ自分自身が「権限」を「濫用しない」ために「自律」を選んでいるのだ、自覚がないはずはない。
「………近い立場、なぁ………」
女性らしさの感じられない組み方で腕を組み、悩ましげに眉間に皺を寄せ、眉を左右非対称に動かす。
個人として近寄りたくとも、「風紀委員」としての立場や振る舞いが彼ら彼女らを敵対的にしてしまうから悩んでいたのであって。
しばし、そうしていただろうか…セシルの出した答えは、
「………非番の時くらいは、服装や振る舞いを変えてみるか?」
という、形から入るものだった。
■東雲七生 > 「こんな事言ったら嫌な気分になるかもしれないけどさ。
俺からしてみたら、何の委員会に入ってようとあんまり気にしたこと無いし。
結局のところ、同じ生徒、もっと言っちゃえば同じ島の住人じゃん?
ただちょっと肩書が違うだけで、全く違う世界の人にはなれないし。」
ゆるゆると首を振る。
七生からしてみれば、風紀委員だろうと何委員だろうと更に言ってしまえば生徒会さえ『一生徒の延長上』であって自分との差異はそんなに無いものだ。
だから彼女が何に悩んでいるのかを本当に理解する事は出来ないだろう。
「自分と相手は違う、でも自分と相手は同じなんだって。
ちょっとややこしいけど、俺はそう思って誰かと話してるかなあ。
だから、うーん……最初はそれで良いのかもね。」
セシルの答えを聞いて、少しだけ考えて。
それから笑みを浮かべると、七生は大きく肯いた。
■セシル > 「それはそうだ、委員会権限は「特権」でも何でもないからな」
「同じ生徒、同じ島の住人」という七生の言葉を、セシルは朗らかに笑って肯定する。
セシルはただ「公人」としての性質を重んじているに過ぎないのだが…その重んじ方が一般生徒の感じ方を逸脱している節は否めないのだろう。
「…いや、元の世界での目標のために「舐められない」話し方や声の出し方を身につけたは良いが、それがどうも敵対的に作用しているのではないかと、疑っていたところなんだ。
…この制服も相まって、尚更な」
風紀委員の制服の襟を指で摘んでみせながら、そんな事を言って大らかに笑う。
「…とは言っても、声の出し方はともかく話し方はまだまだどうすれば良いか見当がつかん。
もう少し、見聞を広めてみることにするよ」
七生の頷きに、こちらもにっという邪気のない笑みで応えた。
■東雲七生 > 「俺からしてみれば、何かした時に『怒られるか、怒られないか』くらいの差でしか無いもの。
話し方なら、もうちょっと気楽にでいいと思うけど。
けどまあ、そういう癖って抜けないもんだよねぇ。」
わかる、と頷いてかた苦笑する。
七生自身、たとえ後輩でもほぼ初対面であれば砕けているとはいえ敬語が顔を出す。
何度か話しをして、ようやく慣れて来たと思えばあとは一気に瓦解する程度のものだが。
「嘗められたって良いや、くらいの気持ちで良いんじゃないかな。
人からどう思われてようと、それで自分自身に何か変化が起こる訳じゃないし。
……って言っても、俺自身そう思うようになったのは最近だけどさ。」
奇異の目で見られる髪と瞳。それらが嫌で極力目立たないように普通を装って生きていたけれど。
様々な人と出会い、触れて、いつの間にかその姿勢は消えていた。
「ま、ゆめゆめ努力を怠るな、ってね。
誰かの事を知りたいなら、その人と友達になるのが一番手っ取り早いよ。」
それは間違いない、と笑顔で頷きながら。
■セシル > 「『怒られるか、怒られないか』の差か…何というか、「無垢」な解釈だな。
話し方は、そうだな…必要がないときは砕くように心がけよう。
加減は難しそうだが…だけどな」
『怒られるか、怒られないか』の差で捉える七生の理解を聞いて、おかしげに吹き出す。
…が、早速話し方は変えることを試みているらしい。流石に、ぎこちなくはあるが。
「………よく考えてみれば、元の世界での目標でも、「現場」以外で「舐められない」必要性はそこまでなかったな…。
…元の学校で、私のいた場所が男子校のようなものだったから。最初は大変だったんだ、色々と。
むきになって、声の出し方も変えて…ここまできてしまった。
いざというときに役には立つだろうから、無駄だったとは思わないけどな」
そう言って、柔らかく苦笑いを浮かべる。
…声の出し方は、七生のよく知るセシルの声のままだったが。
「それは当然だ。私も…ナナミもな。
流石に、既に顔を知っている「不良学生」達には警戒されるだろうけど…少なくとも、私からは門戸を閉ざさないように心がけるよ」
そうして笑うセシルの表情からは、「男らしさ」は薄れていたが…その分、力が抜けているようにも感じられるだろう。
■東雲七生 > 「だって、そうとしか言い様が無いもん。
同じことをしても、風紀委員だから怒られない事はいっぱいあるし。
本当にそれくらいの差としか思わないかな。やりやすい、やりにくい、ってだけで出来るか出来ないかの違いは無いもの。」
委員会に属したらいきなり新たな能力に目覚めたりとかしないでしょ、と肩を竦める。
「うん、良いんじゃないかな。
けどセシルが自分でおかしいとか、無理があるって思ったらやらない事もまた必要だと思うよ。
……ほんと、ままならないなあ。言う事がコロコロ変わってる、俺。」
けど、そういうもんだから、と付け加えて七生は笑った。
結局彼女が彼女らしくあれば良い、と思うのだがそれだと彼女は“やり難い”状況にあるらしい。
それならば多少無理はあっても自分を変える努力は必要経費だろう、と。
「あはは、頑張ってね。
どうしても難しいなら、俺も協力するから。」
ぐっ、と小さくガッツポーズを作って、子供じみた笑みを浮かべる。
■セシル > 「何だ、そういう意味か。
ナナミは「風紀委員には出来るけど一般生徒がやってはいけないこと」で何か不満があるのか?」
そう言って笑う。能力についての荒唐無稽な喩え話には「ナナミは委員会を何だと思っているんだ!」と、笑い出す始末。
…少ししてから、図書委員に睨まれる直前に「まずい」という顔をして無理矢理口を噤んだのだが。
「………まあ、言いたいことは何となく分かるよ。
「私にとって楽なように」ってところだろう?」
「言うことがコロコロ変わる」という七生の自己批判に対して、そう言ってフォローする。
「…まあ、さじ加減は難しいけど、色々やってみるさ。
色々ありがとう、ナナミ」
そう言って、七生の子供じみた笑みに、柔らかい笑みを返す。
すっとした目元が生み出す普段の厳格な印象が、かなり崩れた。
「…さて、私は読書に向かうとするよ。
ナナミも、何を調べてるのかは知らないけど、調べ物頑張れよ」
そう言って、最後ににっとどこかやんちゃな笑顔を浮かべて、セシルは閲覧受付カウンターに向かっていった。
ご案内:「図書館」からセシルさんが去りました。
■東雲七生 > 「『やってはいけないこと』っていうか『やったら怒られること』かな。
怒られないと言うより、ある程度は目を瞑って貰えるって感じだろうけど。
まあ、委員会の人らも俺らの知らない所で反省文書いたりしてるのかもしれないけどさ。」
そこまでは与り知らぬところなので如何こう言えない。
だから緩やかに首を振って、その話を打ち切る。憶測でとやかく言うのは簡単だから。
セシルが笑い出せば、少しだけ慌てた様子で辺りを見回して。案の定図書委員に睨まれれば非難するように眉根を寄せてセシルを見た。
「そうそう、そういう事。
変わってくのって結構難しいけど、ちょっとずつなら、まあ何とかなるから。」
そう言って笑い合って。
また少し彼女の為人に触れた気がして満足げに息を吐く。
「ううん、そう。
ありがとう、またねセシル。」
カウンターに向かったセシルを見送ってから、自分がさっきまで調べていた事を思い出して。
権限や立場どころか、普通の生徒以上に“何も無い”自分を思い出してから、珍しく自嘲的な笑みを浮かべて。
「……ホント、偉そうなこと言っちゃってさあ。」
何だか酷く居た堪れなくなって、七生は静かに図書館を後にした。
ご案内:「図書館」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「図書館」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > 「ふぅー……」
よいしょっと読んでいた本を高い棚に戻して一息
いつも通りの日常が"一時的に"とは言え、戻ってきた
こうやって学校で学生らしい生活をするのも、なんだか久しぶりに思えた
「ちゃんと勉強もしないと、流石に試験近くなってくると緊張感がついてくるね…」
学園の研究区すら気づかなかった異能が齎していた、自身の神童性
それももう今では過去のこと
ちゃんと、妹と釣り合いのとれる程の努力をしないといけない
ご案内:「図書館」に伊都波 悠薇さんが現れました。
■伊都波 悠薇 >
「あれ? お姉ちゃん?」
当然、試験となれば――当たり前のようにそこにいる。
悠薇にとって、努力はいつものこと。
だから、今日も図書館で勉強していた。
それが結果につながらないと、わかった今でも。
報いはあることを知っている。だから悲壮感はそこにはなかった。
かつてあった、焦燥感もまた――
「お姉ちゃんも、勉強?」
なんて笑いながら、首をかしげれば髪が流れた。
手には、二、三冊の参考書。
基本中の基本と、ちょっとした応用だ。
「珍しいね、お姉ちゃんがひとりで勉強なんて」
■伊都波 凛霞 > 「ん、あれ悠薇も勉強?」
不思議と、今まで学校の図書館で偶然出会ったことがなかった
たまたま使う時間帯がズレていたのか、それともそれも天秤のせい"だった"のか
「うん、色々あったから私も周りから遅れちゃったしね。
試験期間に本格的に入る前に、追いつくための秘密特訓ってやつ!」
そう言ってぐっと腕を折りたたんで見せる
こちらの脇の小テーブルにも幾つかの参考書
夕日が差すぐらいまで、ゆったり一人でお勉強しようという感じであった
■伊都波 悠薇 >
「秘密の特訓?」
クスリと笑う。秘密と言いながら、やはり有名人。
後輩たちには、注目を浴び。同級生に人気の姉のことだ。
図書館でもやっぱりちょっとした騒ぎ――
「――そうだね、秘密だね?」
その光景を見渡した後、優しいまなざしで笑った。
髪を整えないのは両手が埋まっているからだろうか――
「全然隠れてないみたいだけどね?」
■伊都波 凛霞 > 「う…しばらく学校休んでたからかなー?」
そんなことを言いながら、適当なテーブルに本をおいて、かける
実際いろんなことがあったし、いろんな噂も立った
まだそれから半年程度しか経っていない、注目は、単によいものばかりではないのかもしれない
「悠薇と一緒だから余計にだったりするかもね?
私にこんなに可愛い妹がいるんだよーって自慢したいくらいだもの」
そう言って悪戯な笑みを向けた
■伊都波 悠薇 >
「――……」
ないないと、言うように苦笑。
そっと、自分も参考書を置いて、腰掛ける。
隣ではなく、一個あけた位置。
「みんな心配したんじゃない?」
自分のことはさておいて――
そんなことを言いながら参考書と、ノートを開く。
いつものように、いつか見たときのように――
回答だけ迷子の羅列。でも、前よりはまとも。
いくつか正解はしている――少し、希釈されているのが見て取れる
■伊都波 凛霞 > まったく、こういうところは今までと同じ
髪型が同じなら黒子の位置以外はほとんど変わらないのに──
「それは悠薇も同じでしょ?
学校だけじゃなくて、父様や母様や…、
病院にお見舞いに来てくれた人達もみんな心配してたはずだよ」
同じようにして参考書とノートを開く
試験範囲になるであろうページをとりあえず丸暗記だ
ふと、気づいたように
「隣座ったら?」
そう声をかける
■伊都波 悠薇 >
「どうかな。結構、すごいこと言ってたし」
くすりと、笑う。笑い方も今まで通り。
姉だけいればいい。その考え方は残ったままだ。
姉のためになればいい。友達は確かに欲しかったけれど――
自分には、別れが多かった。そういう風にしたのだから、当たり前だ。
「――い、いいよ。恥ずかしいし」
なんて――隣に行くのは拒む。
それはほんの少し、今までと違う反応で――
■伊都波 凛霞 > 「大丈夫、ちゃんと側にいてくれる人は、いてくれるから」
どこからそれを信じ切った微笑みを向ける
ぱらぱらと参考書を捲って、てきぱきとノートをとっていく
こういうのもなんだか久しぶりで、勉強することすら、なんだか楽しく思えた
「どしたの恥ずかしいなんて、
お姉ちゃんと一緒に勉強するの、もしかしてイヤ?」
そう言って冗談めかした苦笑を向ける
■伊都波 悠薇 >
「そうかな? 烏丸さんには、さよならなんて言われちゃったけど」
あんまりその言葉を信じていないように、さらりと流れた髪を耳にかけて――
覗いた横顔は残念そうではあるけれど。悲壮感はなくて
「そういうわけじゃないけど――とにかく恥ずかしいの」
顔を少し赤くする。嫌悪とは少し違う――
近づけば、この反応は最近よく見るもので。
冗談にも結構、本気で返しているようで――
とても力説していた。
「――……恥ずかしいんだよ」
そういいながら、ノートへと指を滑らせる。
赤面の理由は――?
■伊都波 凛霞 > 「それは、悠薔が脈なしってわかっただけとかじゃない?」
苦笑する
そんなこと言われちゃったのかー、と
彼の妹への執心っぷりは凄かった、ショックだっただろうなと思う
今度あったらジュースくらいは奢ってあげよう
「………?」
目に見えてわかるほど妹の顔が赤い気がする
照れてるのかな、とは思ったけど、ここまで照れるほどのことかな、と
「悠薇?」
ひょいっと顔を近づけて、その顔を覗き込んで見る
■伊都波 悠薇 >
「ううん、もう好きな悠薇ちゃんはいないんだねなんて、言われちゃった」
変わったということなのだろうか。
自分にそんなつもりはない――そう、無いのに。
「ひゃっ!!?」
がたたっと、立ち上がり椅子ごと後ずさり。
まるで、少女のような反応。
その声に注目が集まり――ぺこりと悠薇は頭を下げる。
そしてゆっくりと腰を下ろし。
「び、びっくり――させないでよ……」
しおらしい――ドキッとするぐらいの女性の声で。そう口にした。
えっと、周りの男子が、顔を赤くして振り向くくらいには――
■伊都波 凛霞 > 「ちょ、えっ…」
まさかの反応
声と物音に周りが注目する
「あ、あはは…ごめんねみんな、静かにするから…」
妹が頭を下げると共に、一緒に謝る
…びっくりしたのは
「(びっくりしたのは、こっちなんだけど…)」
そんなに驚くようなことだろうか…
今までは普通に家では隣り合ってお菓子を食べたり、何でもしていたのに?
「…顔あかいよ?悠薇。大丈夫?熱とかない…?」
とりあえず赤面したままの妹を心配する
■伊都波 悠薇 >
「だ、だいじょうぶだから……ち、近くは、だめ」
もう一個、席を開けて2個分。距離をとる。
注目も浴びているからか、縮こまり――
特に男性の視線を集めていたせいもあって。
「べ、勉強。ほら、集中して、お姉ちゃん」
■伊都波 凛霞 > 「………」
うーん、これは…
もしかして…?
「(いやいや…まさかね…?)」
なんだか妹のこの反応は、こう…
自分の知っている中のものと照らし合わせると、アレなのだけど
「そ、そうだね。勉強勉強!」
とりあえず妹に促されるままに机に向かう、が
………
「(いやいやいやいや…まさか?まさかね…?)」
集中できない、どころかなんだか自分もちょっと顔が赤くなっている気すらする
…ちら、っと横目で妹を見てみよう
■伊都波 悠薇 >
――深呼吸。自分は成績は取れないからと言って勉強しないなんて言う言い訳にはならない。
そう、集中集中。そう、集中――
「……んっ」
静かに、息を抜くように。軽く首を上にあげつつ、力を抜く。
それだけで、女性らしさ。色香が出るのは女性の妙だ。
ほら、よく見れば男子の顔が赤くなってるのがわかる。
悠薇には、わからないことではあるが――
そして、勉強しようとして。
こんな風に、拒絶みたいなことをしたら嫌われるかなとか余計なことを考えてしまったせいで――
姉と視線がぶつかる。ばっちりと。ふとしたただの偶然なのに――
「っ……」
慌てて目そらし――
さて、それがどう映るかは?
■伊都波 凛霞 > 「!」
目があった
慌てて妹が目を逸らす
さて、これをどう解釈しよう
いやまぁいろんな考察の余地はあるのだが、
これをこのまま放置しておくと勉強にも集中できないのでは?
悩ましいところではあるものの、解決を図るに越したことはない…はず
「あー…えー、えっとー…。
悠薇、お姉ちゃん何か気に障るコト、したかな…?」
頬を指で掻きつつ、勉強の邪魔にならない程度の音量でそう言葉を向けてみた
■伊都波 悠薇 > 「――……」
気に障ること? いいや、本人が自覚ないのも仕方がないのかもしれない。
けれども、そうは取れなくもないわけで――
ん? 気にしてない? いやもしかしたら天秤の効果で、自分が気にしすぎてる反動で、自覚すらない?
――そう考えると、なんだかむしゃくしゃしてきた。
その言葉で、姉が、そういったことに鈍感なのではという考察が芽生える。
ははーん、これが主人公属性というものですか。
「――いいえ、何も?」
すーっと、熱が引き冷めていく感覚。
急に怒ったようにも見える。
女の心は秋の空とはよく言ったものである
■伊都波 凛霞 > 「(はっ、怒った…?!)」
なんというかもう、わかりやすい波動である
いやまぁ鈍感なほうではあるのかもしれないけど、
肉親から向けられる感情としては基本的にはあんまりないもので、
確認するにしても言葉をミスったかと内心慌てる
「じゃ、じゃあ…隣に座ってもいいよね…。
姉妹なんだし恥ずかしいことなんか何もないよ、なにもない」
そう言って隻を経って、悠薇の隣の椅子を引く
「(もしそうだったら、私はどうするんだろう…)」
なんとも、完璧お姉ちゃんは混乱の渦中であった
■伊都波 悠薇 >
「どうぞ、ご勝手に」
かりかりという鉛筆の音が鳴っていく。
すごい速さで――感情をぶつけるかのように……
(気に障るというか、気にすることを言ったのはお姉ちゃんなのに。馬鹿みたいだ――……知らない……)
他の人にも、ああいったことは言っているのだろう。
言っていたら、それはそれで複雑だが、英雄色を好むという。
――納得はしつつも、むしゃくしゃは消えず……
かりかりかりっと、より不機嫌さが増していって
■伊都波 凛霞 > 参った、完全にご機嫌ナナメだ
最初の反応と考えるに、もう疑いようがない気がする…
「………」
カチコチカチコチ
「(き…)」
カリカリカリカリ
「(きまずい…!)」
自分はこんなに会話下手だったろうか
どう声をかけるべきかが浮かばず、筆を走らせるも内容が頭に入ってこない
…もしかして、妹が相手だからこそ、なのかも…
遠慮や葛藤が妙に生まれてしまったのは……
「………」
ぱたん
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「───ねぇ悠薇。今日、ちょっと寄り道して帰ろうよ」