2017/07/21 のログ
ご案内:「禁書庫」に咲月 美弥さんが現れました。
咲月 美弥 >   
深夜の校内、それもめったに人の立ち入らない場所に
今宵は小さな乾いた音が時折響いていた。
備え付けられた椅子の上には小さな灯とランプシェード
図書館にも拘らず紅茶の入ったカップが置かれている。
それらは静かにカゲロウを立たせ壁に揺らめきを映し出しており
そしてその隣に座り、静かに本に視線を落としている人物の影がゆらりと揺らがせていた。
彼女はただ静かに手元の本に目を落とし時折ゆっくりと捲っており
時々聞こえる音はそのページをめくる音のみで、
それ以外の音は衣擦れは愚か呼吸音さえほとんど何も聞こえない。

普段は古いインクと紙と埃、そして錠前の香りに満ちている空間を
今はえもいえぬ甘い甘い芳香が満たしている。
魔法や異能、変異、その他言葉で表しにくい不思議なもので満たされている場所であるからか
その気配は異質ではあるものの違和感なくその場に馴染み、留まる事を許されていた。

咲月 美弥 >   
何時からだろうか。
禁書庫にはいくつもある噂の内、
他愛ないそれらの囁きに一つの物語が加わったのは。

曰く、正体不明の誰かが現れる。
曰く、謎の甘い香りが漂っている。
曰く、鍵は動いていないのに誰かが居たという目撃をした

そんな小さな耳打ちに、いつしか一つの共通点が出来、やがて噂は一つの形にたどり着く。
「金書庫に時折現れる女性に願いを伝えると、叶えてくれることがあるらしい」
それは年頃の娘にとっては良くある、恋愛相談の出来る占い師の様な何処か神秘的で、
けれど甘酸っぱい舌触りを持った、よくある願望。

そんな噂などどこ吹く風かという様に
ただ静かに本を読み終えるとゆっくりと顔を上げ、次の一冊へと手を伸ばしていく。
そしてふと周囲に漂う香りに気が付いたかのような表情を見せた。

咲月 美弥 >   
「あらあら……」

随分と読みふけっていたからだろうか。
少しだけかすれた声で呟きながらカップへと手を伸ばし、
背もたれに深く寄りかかりながら口元へ運ぶ。
僅かに椅子のきしむ音と共にカップに口づけると

「香りが命なのに……これじゃ台無し。
 誰も来なかったのが不幸中の幸い……ね」

ほっと吐息を吐き出すように独り言を漏らした。
本に集中していたせいで幻惑の香りが部屋を満たしている。
何も免疫がない相手がもしこの場所に踏み込んでいたなら前後不覚に陥っていたかもしれない。
そうでもなくても厄介な事になりかねない状況な上にここは禁書庫。
何が連鎖的に起きてもおかしくはない。
それに自分自身どうにも”あちら側”に傾いてしまっている感がある。
それに引かれて望ましくない事態になるのは避けたい。

「ここ数か月寝てたせいかしらね……
 加減の仕方ってどうだったかしら?」

首を傾げながら瞳を閉じる。
同時に周囲に漂う香りが少しずつ薄れていきほのかに甘く薫る程度へと納まっていく。
この程度ならこの部屋に来るような相手なら最小限に影響を抑える事が出来るだろう。

咲月 美弥 >   
「……ちゃぁんと”順番通り”に読んだわ。
 これで少しは気が晴れた?
 そう、良かった。ならまたしばらくは生徒に手を出しちゃだめよ?
 ……あら、それは気分次第?もう、いけずなんだから」

くすくすと空に向かって話しかけながら笑みをこぼす。
長髪的な四肢をゆっくりと組み、本棚の方に目を向けながら
左手の人差し指を唇にそっと添えてふっと小さく息を吐く。
それと同時に声にならない小さなざわめきのような音が禁書庫に満ちた。

「なぁに?退屈ですって?
 だからって夢見がちな子を引き寄せるようなことして……
 どうせ無償で願いを叶えてあげるわけじゃないんでしょう?
 ほら、やっぱり。いつか燃やされるんだから。そんなことしてたら」

その音に応えるように、そして親しい友人に話しかけるように
呆れながらもどこか優し気な声色を響かせながら眼を細める。

「やりすぎて捨てられても助けてあげないから。
 ここは怖い人が多いんだから、倫敦みたいにはいかないのよ?
 そんな事は重々承知?……呆れた。
 わかっててやってるなんて、捨てられたいの?
 その時はその時って……変わらないわね。貴方」

会話相手の姿は見えないけれど、彼女はこの場所での会話を楽しんでいる様子だった。
というより姿が見えない事自体、彼女にとってそう大きなこと事ではないのだろう。

咲月 美弥 >   
「だからって私達が寝てるのを良い事に
 姿を借りるなんて趣味が悪いわよ?
 変な噂がまた増えちゃうじゃない
 おかげで今ですらこのざまよ」

呆れるように肩を竦めながら自然と咎めるような口ぶりになる。
その髪はまるで水のようにさらさらと流れ
肩から重力に従い零れていく。
それは微かに発光しているようで燃える様な紅が
薄暗い部屋に浮かび上がる炎のように煌めいていた。

「あら、体があるだけましですって?
 もう、これはこれでいろいろ苦労があるんだから。
 そんな気軽な話じゃないのよ。
 むしろ貴方達の方が記されている分
 存在としてはしっかりしてるくらいよ」

その髪に指を絡ませ、ゆっくりと滑らせる。
噂と願望通り、その髪質は限りなく癖のない物になってしまっている。
手触りは非常に良いし、確かに多くの人がうらやむような状態ではあるけれど
それとこれとは話が別。逆だってあり得たのだから。

「本当、そういう底意地の悪い所嫌いではないけれど
 程々にして頂戴ね。本当に大変なんだから。
 ……あの子はそちらで元気にしている?
 私達?私達はそれなりに……って
 もぅ!最近長い事眠っていたのを知ってるでしょうに。
 誤魔化すのが本当好きなんだから。
 そんなだから読みにくいなんて言われるのよ」

仕返しとばかりに嫌味の一つも口にするもその瞳は懐かしさと
穏やかな光に満ちていた。

咲月 美弥 >   
静かに足を組み替えながら再び紅茶を口に含み
その喉がゆっくりと動く。
何処か煽情的にすら見えるのは彼女自身だけのせいではない。
そういう風に望まれ、紡がれてしまっているからだ。
そうした本人に文句の一つも言いたくなるというもの。
元々無意識に誘惑してしまう体質でもあり、
更には今夜もまた大事な事を何も彼女は教えてくれない。
……けれど今はきっとそれで良いのだろうとも思う。

「そうやって大事な事はいつも教えてくれないのよね。
 知ってる。昔から本当そう言う所は変わらないんだから。
 笑い事じゃないんだから、そのうち私だって怒るんですからね?
 もぅ……そういう事臆面もなく言う?
 誤魔化されないんだから。はぁ、もぅ」

こうして許してしまっている以上説得力も何もないけれど。
結局なんだかんだ言って許してしまう。彼女の事を。
ここまで気さくに話してくれる相手というのも珍しい上に
どこか許せてしまう……そんな愛嬌が相手にはあった。

「普段は廓言葉とか使ってるくせに……
 こんな会話聞かれたら神秘性も半減ね
 噂を信じてる子たちがどんな顔をするのか少し見てみたい位よ」

ため息をつきながら紅茶を飲み干し、苦笑する。
随分前に淹れた紅茶が今もまだ適温なのも、灯が殆ど消耗していない事も
きっと彼女の仕業だろう。
態度は飄々としているし、平気で人の姿を借りたりする子だけれど
こういう細かい所で憎めない。

「……今の所悪い事もしてないみたいだし、
 少しは気が晴れたでしょう?そう、良かった。
 そうね、今日はもう帰らないと。
 また少しの間眠るけれど……また来るから、程々にしておいてね。
 次見た時は灰になってましたなんて冗談でも笑えないんだから」

友人としてまた出会う事が出来るように。
そんな願いを込め、けれど口にしないまま悪んでいた足を解き、ゆっくりと立ち上がる。
零れ落ちる髪をかき上げ、窓の外を少し眺めるとひどく優し気な笑顔を本棚へと向けた。
……そろそろここを去るべき時間。あまり長い間ここに居るのは
影響されてしまう以上あまりよろしくはない。
鐘が鳴ればとけてしまうからこそ美しくあれる事もある。

「……それじゃ、おやすみなさい。
 良い夢を。そしてほかの子にも良い夢を見せてあげてね」

そう告げるとそっと灯に息を吹きかける。
灯は一瞬ひときわ強く輝くとふっと消え……
窓から差し込む光に僅かに立ち上る煙が照らされ静かに闇に溶けていく。
それを吹き消した人物の姿もまるで掻き消えたかのようにそこにはなく
ただただ静かに月明りが机の上を照らしていた。

ご案内:「禁書庫」から咲月 美弥さんが去りました。
ご案内:「図書館」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 酷い有様。この状況からは,そんな一言が浮かぶだろう。

本来6脚の椅子が据えられている長机に白衣の男が1人だけ座り,その机上には50冊を超える書籍と,
そろそろ厚みが百科辞典ほどにもなろうかという,メモがびっしりと書かれたA4コピー用紙。
机の端ではそれらが雪崩を起こしてさえいる。

「………………。」

そしてこの白衣の男は,間違いなく,昨日のこの時間にも居た。

獅南蒼二 > 積み重なり雪崩を起こす書物は半数が魔術学関連のものであり,半数がそれ以外の分野のものであり,良く言って多種多様,悪く言えばカオスだった。
そして彼の書くメモは,時折日本語が顔を出す以外は殆ど読解不能の魔術文字の類である。
それが術式構成図だと読み取れるのなら,貴方は相当に魔術学に精通していると言えるだろう。

「これで,どうだろうな……。」

ついに書き上がったのか,ペンを持つ手が止まった。
と言っても傍目に見れば,そこに書かれているのは謎の文字が這いずり回って一生出られなそうな迷路を形作っているような,落書きにしては狂気をさえ感じる代物である。

「魔力から現象への変換は容易いというのに……不可逆的でないはずの変換に,どうしてこれほどの労力を要するのか…。」

獅南蒼二 > “魔力”というものはエネルギー体の一種だという認識でほぼ間違いない。
だがそのエネルギーが単純に“仕事”に変換されるのではなく(無論,魔力をそのまま開放すればそれは単純な破壊と侵食という“仕事”へと変換されるが)術式等を通じて様々な現象へと変換される。

電気エネルギーが,それを活用する媒体によって熱にも冷気にも運動にも変換されるのとある意味で似ているとも言える。
電気と魔力を同一視することはできないが,電気を例に挙げて考えれば,一瞬前の疑問には容易く答えることができるだろう。

電気エネルギーと熱エネルギーの変換は不可逆的ではない。しかし,それに要する労力は全く異なる。
電気を熱へと変換するには電熱線一つあればいいが,熱から電気への変換は内燃機関やゼーベック効果を利用した発電など,大がかりな設備が必要だ。
魔力にもこれが当てはまるとするのなら,不可逆的でないことをせめてもの救いと思うべきで,労力の差を嘆くべきではないのかもしれない。

獅南蒼二 > 一方で,あまりにも都合の良い解釈と捉えられるかもしれないが,例えば,電気エネルギーと運動エネルギーの例もある。
変換効率はともかくとして,これはどちらもモーター1つあれば相互に変換することが可能だ。
このように,交互変換のためのクリティカルな現象が,魔力にも存在するかもしれない。

「………熱,光,風,冷気,電気,振動,運動,圧力,振動…。」

ここにカオスな書籍の山が出来ているのは,彼がこの世界に存在する現象を1つ1つ“術式化”して“魔力への変換”を試みていたからだった。
百科事典のごとく積み上がり,そして雪崩の発生しているコピー用紙に描かれているのは,この世界に存在する様々な現象。それを魔力を使って再現する術式の構成図である。

ご案内:「図書館」に楊柳一見さんが現れました。
楊柳一見 > ちょいと一涼み。
そんなつもりでその一角に踏み入った直後。

「……うへぇ」

苦い呻き声が漏れた。
一つは、机上にさんざめく書物及び文書の山に気圧されて。
二つは、その直中で並々ならぬ集中力を見せている白衣姿に向けて。
今は後ろ姿しか確認出来ないが、確か転入したてで色々と講義を見学していた折、
やたら難解で面白味のない――そも勉学は概ねそんなものだが――講義を行っていた人物、だったような。

「……何かブツブツ言ってるし」

ちょっと距離があってよう分からんが何だろう。
呪詛の類かしら、とか失礼な考え頭によぎらせながら。
すすすと足音殺しつつ、空調の効いてる辺り目指してスニーキング。

獅南蒼二 > 獅南が最後に書き上げたコピー用紙に手を翳して僅かに魔力を流せば,術式はそれを“重力”という事象に変換した。
コピー用紙を中心に僅かながら重力が発生し,しかしそれは瞬時に“再変換”の術式によって魔力へと再変換される…はずであった。
が,結果を言えば,白衣の男の眼前に置かれたコピー用紙を目掛けて左右の山が雪崩を起こしただけであった。南無。

呪詛の類とは言い得て妙だったかもしれない。
白衣の男は百科事典ほどの厚みになった“失敗”を積み重ねていた。
彼がそれらの失敗に対して“怒り”や“憎悪”を抱いていれば,それはまさしく呪詛となっただろう。

「……そもそも,発想の時点で飛躍が過ぎたか。」

だがこの男は,己の失敗に対して僅かほどもそういった感情を持ち合わせていなかった。
背もたれに身体を預け,天井を見上げて目を瞑る。

この男はまだ貴女に注意を払っていないが,貴女から見ればいきなり雪崩が起きたり,その目の前でなお白衣が無駄に冷静だったり,いろいろと気になるかもしれない。