2015/08/17 のログ
■綾瀬音音 > 嫌いじゃないよ。お洋服としてはあんまり好きじゃないけれど。
うん、それは解るよ。
…………そうなの? 綺麗な青い色なのに。ソラちゃんの名前みたいに。
私も、良くわからないよ。でも綺麗に見えるものは綺麗だと思うし、そういう作品が見る人の心に寄るものも何となく解るなぁ。
―――――うん、こう、凄く――心もとない気分になるよ。
少なくとも今は。
うん、多分ね、色んな人がいろんなことしてる光なんだと思うなぁ……。
……ごめん
(溜息をつかせてしまった。
相変わらず元気は余り出ない。
彼女のせいではないのだが、上手く笑えないのだ)
私にとってソラちゃんは、いい子だし友達だよー
(へら、となんとか笑みのようなものを浮かべる。
自分にとっては悪い子、なんてものではなく良き友人の1人である。
どうにか笑わせようとしてくれてるのに、答えられない自分が恨めしい)
うん……辛いとは、ちょっと違うかも……
(少し怖かったのは事実だが、自分の態度もきっといけなかったのだ。
思考が上手くまとまらなくて、ちゃんとした受け答えができなかったのだから。
が、辛いとは少し違うと告げた。
辛いというよりは――不安なのだ)
(黙って聞いてくれる彼女に感謝しながら、申し訳なく思いながら、ぽつりぽつりと語る。
まとまりの無い言葉だったし、事情を知らない人間であれば意味すらわからない言葉を、友人は理解してくれている。
それは酷く嬉しかった、一人じゃないと思えるから。
何度も、それこそ最近は会う度に惚気けて誂われて。
そんなやりとりをしていた。
くすぐったくて、楽しい会話だったけど、それとは反対に、今は酷く沈んだ会話をしている――)
好きだよ。
大好きだよ。
それこそ、玲刃君がいないとどうしていいのか解らないくらい。
そんなに自分勝手でもないんだよ、や、うん、やっぱり自分勝手なのかもしれないけど。
苦しいけどさ、苦しんだけどさ――玲刃君がいなくなっちゃうのはきっともっと苦しいんだよ。
玲刃君と居るのは楽しいし、幸せな気持ちになれるんだよ。
少なくても――私にとっては、誰よりも大切な人なんだ。
―――――――――――――。
(最初のいくつかの問には、スラスラと答えることが出来た。
愛しているし、大好き。
その心に一分の嘘も偽りもない。
だけど――後半の言葉には押し黙った。
唇を噛んで、じっと膝を見ている。
確かに、彼を此方側に誘った――否、引きずり込もうとした時にそれを断られれたのは、自分はある意味では彼の今までの生活や義理や罪やそういう物より“軽かった”のだろう。
だけど、それは仕方がないことだ。
自分だけを選んでくれなんて、それこそ言えないし、言う気もない)
――――――――そんなことないよ
(だから、返した言葉は酷く暗かったし歪んでいた。
声音はそれを肯定していると余り変わらないほどに、暗く重苦しいものだ。)
―――――そんなの、したくない……。
したくないよぅ………
………っ、――ーッ
(置いて言っちゃえばいい、と告げられて。
返したのは出来ないではなく、したくない、と言う言葉。
自分でも解ってしまったのだ。
自分だって、彼を置いて何処かに行くことが出来る事を。
だけど、それはしたくなかった。
したら彼がどうなるかわからない、1人ではまともに食事が出来るかだって怪しいのだ。
不安で不安で堪らない。
それに、きっと悲しませて苦しませる。
この前話しあった時もそうだった。
彼だって、断腸の思いで此方側にこないとそう告げたに違いない。
そう思うから、置いて行きたくはないのだ。
顔を膝の間に埋める。
泣きたくないのに涙が溢れてきてどうしようもない。
嗚咽を堪えながら、首を駄々っ子のように振った。
それは自分を卑下した彼女に対する答えでもある。
言葉に出しては今は言えなかったけれど、そんなことはなかった。
そんなこと無いよ、と安易に言わない彼女はきっと――厳しいけれど、優しいのだ。
破壊神、なんて言っているけれど、自分にとってはやはり大切な友人だった。
確かにそうなのだ。
この綾瀬音音と言う少女の愛情は歪だ。
まっすぐに彼を見ている。彼だけを見ている。
それはまさしく執着であったし、依存であったし、それでいながら紛れも無い恋心なのだ。
信じて待ってる、と何度も言いながら信じきれていないのも理解している。
ずっと一緒にいたいと希いながら、何らかの不幸な理由でいつかは別れてしまうことも、理解してしまった。
だから縛ろうとするし。
だから余計に歪む。
離したくないと願うがゆえに、歪むのだ。
ただただ真っ直ぐ愛することなんて、もう出来ないのだ。
生きてきた場所が違った。
住んでいる世界は、未だに違う。
彼女の言うとおりだ。
間違いはひとつもない。
だからそこ――泣くしか無かった)
■蒼穹 > へー…。ああ、そういえば、白っぽい服ばっかり選んでたっけなー。
そうそう…同じ赤い花の絵を見るのでも、違ったりね。
いやまぁ…これは物理学の法則なんだよ、青が青く見えるのは、青以外の光を吸収しているから、ってね。
ま、それは兎も角。あまり、いい気分ではないんだろうね。…それが今だけだったらいいけど。
いやぁ、人っていっぱいいるって、分かるね…。
…私こそ。
(景気よく元気づけられれば、良かった。
謝るのは此方の方だろう、きっと。)
そう…うん。そういってくれれば、嬉しい。けど、さ…。
(何とか紡ぎ出した言葉、作った様な表情。)
無理しなくてもいいよ。
(もう、笑えないのだろう。今は。
だから、無理に笑われたら、それこそこちらが辛い、様な気がする。
そんなに気を使われるくらいなら、友達で良い子だと言うのなら。
表情を誤魔化さなくたって、良いではないか。)
つらくない…?本当?
そう、でも、さっきみたいになったら言って。大丈夫じゃなさそうなら、教えてね。
(病は気から、なんて言葉がある。今まさに、彼女はそんな状況であろうか。
彼女は別に病気でもないけれど、様相はまるで病気のそれだった。
熱病にでもかかったかのような。ふらふら、と。無理しているのが顕著で。)
そう…好きで、大好きで。
うん…うん。…そう。幸せで、誰よりも大切な人。
(普段なら、何おう!と、のろけ話ににやけ顔で応対したのだろう。
でも、今は違う。うん、うん、と雑談の雰囲気もなく、頷いて聞く。
それから、確かめる様に反芻する。)
…何で?
(そこが、疑問だった。
これは、所謂恋をしたものや、当人にしかわからない事なのかもしれない。)
何で、キミはそんなにレイハに………
(あわや執着、と言う言葉がでかかった。だけど、そんな言葉はきっと良くないし、失礼だろう。
だけど、歪みの一面を垣間見た、そんな気がする。
それは、路地裏やスラムでは見えない。普通な彼女の持つ、歪み。
普通の中に芽生えたそれは、小さいながらも、大きすぎる意思を持っている気がした。
―――「恋とは狂気。」そんな言葉、あったかな。)
何で、そんなにレイハが好きなの?
何で、誰よりも大切な人なの?守ってくれたから?かっこいいから?好きって言えるし、言われるから?
何で、レイハがいなくなったらどうしていいか分からなくなるの?
(何を、言っているのだろうか。
ついに、彼女の恋愛を否定しかねない様な、そんな事まで聞いてしまったかもしれない。
己に言葉を選ぶ力は、あまりになさ過ぎた。聞くしかない。聞くしかないのだ。
それもこれも、全然分からないから。彼女の気持ちも、彼女の歪みも。)
ああ…あははっ。気を使わなくたっていい。好きなだけ罵ってくれて構わないよ?
生まれてこの方、多分ずっと最低最悪の邪神様やってたんだ。今更どれ程貶されたって悲しくはないさ。
好き放題罵倒してくれればいい。それでキミの気が済むなら、いくらでも、ね。
(尚も、彼女は誤魔化す。
こうやって、明らかに違う言葉を胸中に秘めながら。
そんな風に、我慢と誤魔化しで曖昧に生きていたら、きっと壊れてしまうだろう。
破壊神が何をとまぁ滑稽な話だが。)
…そう。そう。
(静かな筈の夜の時計塔。そこに一つ、泣き始めた少女。
「したくない。」―――「出来ない。」でない事に付け加えて、「しない。」でもない。
正に、淡い希望だったのだろう。彼と彼女の歩む道は、壮絶過ぎた。
彼が彼であり続けて、彼女から見て"向こう側"に生きる限り、きっと、このままだ。
彼女はそれでも彼を思う。何故?…彼が好きだから。
彼女はそれでも、彼と居たいと願う。何故?…それも同じ。
彼女が彼にご飯を作ってあげる理由も、信じて待つ理由も、我慢する理由も、同棲した理由も、同じ指輪を付ける理由も、
のろけ話を楽しそうに溢す理由も、彼女を苦しめる理由も、彼女がいま泣いている理由も、同じ。
彼が好きだから。全てそれ。
恐ろしい、と、そんな形容さえ似合う程、強固で、一点に集中している、狂気《こいごころ》。
失礼かもしれないけれど、そう思った。
でも、彼女は優しくて良い子だった。
彼を強制することも出来ないし、何より、そのままの彼を愛しているのだろう。
彼女がその気になれば、強引に彼女から見て"こちら側"に引きずり込む事だってできたはずだ。
いや、もし、出来なくて同じ状況なら己はもっと、軽々と置いてっちゃえと言ったろう。
互いが互いに、思っているが故に出来た状況は、歪みに歪んで複雑怪奇。
始発点は好きだから、だが。今はもう、目的が違う気がして。
心のよりどころと言うか、形というか…分からないけれど。
最初に抱いただろう、小さく可愛らしい少女の恋心は、変わり果てている、そんな気がする。
「置いてっちゃえ。」―――そんな残酷な言葉を掛けた己が、彼女に寄り添って頭を撫でることなんておこがましいだろう。)
…ティッシュいる?
(視線を夜の街へと落とす。直視するべきだろうか、しないべきだろうか…。
それさえもわからないけれど、見るに堪えない光景だった。
彼女が泣いたのは、これが最初なのだろうか。小さな泣き声はやまない。
己の気持ちを形容するのは難しいけれど、ただ、いい気分ではなかった。ポケットを弄る。)
■綾瀬音音 > 黒はね、重く見えちゃうから好きじゃないんだ。
人によって同じ文学を読んでも感想が違ったりとかね。
………それでも、私はやっぱりソラちゃんの髪綺麗だと思うなぁ……。
うん、そうだね。
本当に、この島だけでも沢山居るよね。
……ん
(気持ちだけで十分だ。
小さく頷いて)
………ごめん、ああ、違う。
ありがとう
(そう言って、くしゃ、と顔を歪めると。
申し訳なそうに顔を伏せた。
だって、友達にあんまり心配は掛けたくないじゃないか。
だけど、今は言葉に甘えることにした。
もう既に今更だったのだから)
あのね、具合が悪い訳じゃないんだよ。
ただね、心がすごく、苦しい。
不安だし、心細いんだ。
(あまり覇気無く、そう伝える。
無理しなくてもいい、と彼女はさっき言ってくれたから。
やはりここは甘えることにした。
どうしたらいいんだろうね、と迷子のように呟いて)
何でって……?
(疑問。疑問に疑問で返す。
その後飲み込まれた言葉。
それが執着、だと言われば否定しただろう。
だが今はそれを知らない。
故にただ首を傾げるだけだったが――)
――――――。
何でって、
(考える。
考えたことはなかった、恋の理由。
何時の間にか、誰よりも愛しているし愛されていて、この少女にはそれだけで十分すぎた。
だから、考えたことがなかったのだ。
そういう意味では、初めて自分の恋心と向き合った瞬間でもあった)
守ってくれたからじゃないよ、そんなに特別格好いいわけでもないと思うし、好きって言えるのは確かにあるけど……。でも、玲刃君に好きって言われるのは、凄く嬉しいよ。
…………だって、悲しくて悲しくて、きっと動けなくなる。
(質問に答えながら、考える。
恋の始まりは何処だったか。
恋に落ちた環境は特殊すぎて。
考えることすらしたことがなかったけど――)
理由なんて解らないけれど。
きっとね、きっとなんだけど―――――あの、指名手配された時。
玲刃君がボロボロで意識もなくて、でも、玲刃君目が覚めた時――私、玲刃君に恋しちゃったんだよ
(理由何ていくら考えたって解らなかった。
だけど、恋をしたきっかけ何ら、思い出せた。
あの、彼女にも助けてもらって危機的状況から脱出した後、移転荒野で。
彼が目を覚ませばいいと思っていたあの中、本当に目が覚めてくれて、自分は本当に嬉しかったのだ。
理由なんて、きっとそれだけだ。
後は色々なものが積み重なって、徐々に愛おしさの層を作って行っただけ。
本当に、それだけだったのだ)
別にね、怒ってもないんだよ。
――気なんて全然すまないし、それこそただの八つ当たりだもん。
逆に辛くなっちゃうよ
(怒っていない。
それは事実だ。
それに彼女は悪くない。
なのに、ここで彼女を罵倒したりしたら、それこそ自己嫌悪で潰れてしまうだろう。
ただ、そんなことは出来ないはず。
と言われれば――否定する言葉を、この少女は持たなかっただけだ。
それを無理やり絞り出しただけ)
うん……。
一人したくない……一緒にいたい……。
ヤダよぅ……
(駄々っ子のように、グズグズと、顔を埋めて泣いた。
ここまで言われれば、別れの予感は強くなる。
それは嫌だった。
一緒に居たかったし、1人にするのも嫌だった。
――――――1人になるのも、嫌だった。
だって、離れたくないのだ。
こんなにこんなにこんなに大好きなのに、どうして離れることが出来るのだろう。
番のように一揃いでいたいのだ。
ただそれだけだったのに、何処かで上手く回らなくなってしまった。
もしかすれば、最初から上手く回っていなかったかもしれない。
だけど彼のぬくもりは狂おしいほど愛おしかったし、大切でかけがいのないものだった。
望んでいるのは、本当に些細な事だったのだ。
好きだから、一緒に居たい。
たった、それだけの事だった。
だけど、彼には強制は何も出来ない。
いや、強制しようとしたのだ、それは断られてしまった。
だったら、現況を受け入れるしか無いのに、涙が溢れて止まらないのは――笑えないのは何故だろう。
いつもみたいに
「だってしょうがないよ、無茶ばっかりだから、玲刃君」
と。
それも解っている。
彼は選んでくれなかった。
自分を、選んではくれなかった。
だけど――自分は、彼を選びたいのだ。
好きだから、なんて言う単純で愚かしいくら位に歪さを抱えた感情で)
……ぅん、もらう………
(彼女の好意には頷いて、ティッシュを受け取ろう。
暫く泣き声は続いていたが、次第にそれも収まっていく。
それから、漸く顔を上げて、
結局笑った)
……今日は、戻るよ。
ええと……うん、また、ね
(ごめんとも、ありがとうとも言えなかった。
帰る、では無く戻ると形容したのは、寮に戻るつもりだったからだ。
今日はきっと、彼の顔を直視できない予感があった。
またね、と彼女と友達でいたい旨を伝えると、ゆっくりと、覚束ない足取りで歩き出す。
そして、ゆっくりと階段の向こうへ消えていった)
ご案内:「大時計塔」から綾瀬音音さんが去りました。
■蒼穹 > 暗い色は重たい色、だっけな。
黒って一番暗い色だから…一番重く見えるんだろうね。
あははっ。ありがとう、結構自慢なんだよ、髪はね。何でも地球には神は乙女の命、とか言う言葉もあるんだって。
ミユキも髪は自慢だったかなぁ…。
…人が多い、それだけ命が蠢いているんだねー…。
だからといって、どうと言う事もないけど。
…うん。
(意図は、汲んでくれたのだろう。)
あははっ。そうそう、そうやって素直になってくれた方が嬉しいんだ。
そんな露骨に隠し事をされちゃ、こっちも困っちゃうしさ。
それに…私があんまり人の心を察せるほど器用じゃないの、分かるでしょ?
(彼女を物理的に甘えさせるだけの器量はない。
だからせめて、精神的に、楽になってくれれば、良い。)
そう…何でだろう、ね。
心が苦しい…か。私にはあまり縁がないなぁ。
でも…何となく分かる、心細い、孤独感。
(小さく、途方に暮れたような彼女の言葉が耳に届く。
ただ、どうしたらいいかなんて分からない。
どうしようもないんじゃないかとさえ思う。
何でだろう、だなんて分かっていた。)
そう…どうしてか、教えて欲しい。
そんなに彼と一緒に居たいのはなんで?
どうして苦しくっても我慢できるの?それが分からないから。
そんな事してて本当に楽しいの?…私は…いや。
(必ずしも、相手と自分の感性は同じではないのだ。楽しさを求めてばかりの己とは、
彼女の恋愛感はきっと相容れないものなのだろう。
試しにと、己を引き合いに出そうとしたがやめた。)
あはは…そう。
好きなんだね。そんなに。
(己のした、質問に丁寧に答えてくれる。
全て、彼女は彼が好きだと、彼女は彼を知っている故に答えられるのだろう。)
うん…そう。
嬉しかったんだろうね、レイハが目覚めて。
彼は、ボロボロになってキミを守った。死ぬほどの抵抗をしながら。
まぁ、人を好きになるのに理由がないだなんてよく言ったものだね。
例えば、その時別人が来ていても、キミは同じように好きになっていたのかな。
袖すり合うも"たしょう"の縁。
彼が特別、って思ってるのかもしれないけど、本当にそれでいいか、よく考えて。
ああ、ええっと…大きなお世話と突っ撥ねてくれたってかまわないよ。
私達の恋愛も破壊するのか、と思ってくれるならそれも結構。偏屈な邪神の戯言だから。
(理由なんて、ないのだろう。恋なんてそんなもの。熱病の様なもの。
一時のうれしさ、楽しさに流されて。それから浮かれた気分になる。
そうすれば後は転がって行くだけ。加速する恋は誰も止められない。
第一印象が良ければ悪い所に目が行かないのと同様。
好きな人が出来れば好き以外の感情が出てこないのだろう。恐らくは。
もっとも、それが悪いこととは言わないけれど。でも、時折それは悪いことになる。
見えなくなるのだ、好きな人以外。そして、今の様に執着してしまう。
苦しいながらも、彼は悪くないからと、そう言い聞かせて…こうなる。)
あはは、…ん、なら良いさ。無理にとは言わない。
ああでも…黙って嫌いにならないでほしいな。陰湿な感情は取り分け苦手なんだ。
幻滅したならせめて、ばかやろー!って、一言…言ってほしいなって。
無理言ってるのは分かるけどさ。
(怒っていないのだとしても、八つ当たりだとしても。
彼女の気分を害したなら、それはあまり良い事ではない。
ただ、いつもより寂しそうに、影を表情に落として頼んだ。)
………そう。
(会話には、ならない。
一緒に居たい、きっとそうなのだろう。本心なのだろう。
そして、彼女の恋の形だったのだろう。一人でいたくない、好きな人と一緒が良い。
己が何を言おうとも、彼女は離れると言う事を選ぶことはない筈だが。)
悔いのない人生にしなよ。…人間は、寿命が短いから。
楽しいと、そう思える人生にすると良いよ、それこそ余計なお世話だろうけど。
恋以外にも、楽しい事はいっぱいある。
(彼女は、この島がどれだけ広いか知っているだろうか。
彼しか見ていない彼女は、きっと他に何も見えなくなっている気がして。
恋は楽しいだろう。だが、それだけではないのだ。
彼女は、その為に彼と世界を天秤にかけて、どちらも取りかねたから、
両方取ろうとして、彼を彼女の側へと誘った。
だが、その試みは失敗したのだ。
彼女は、きっとどちらか選べと言われてどちらも選べないのだろう。今こうして―――。
見る人から見れば、世界も人もまるで変わって見える。
恋人じゃなくても、友達でもいいじゃないかと、そう思うのは、彼女の気持ちを知らないから。)
…どうぞ。
(目を逸らしながら、袋ごと彼女にあげた。
視界の端に映ったのは…笑顔。
今までの激情と反して、小さく、儚い。そんな笑顔。
無理しているのか自然なのか。それさえも測り兼ねた。)
…うん、またね。
(色々と、考えることもあるのだろう。
その先、彼女が寮でどんな思うのかは分からない。
彼女なりに色々、本当に色々思っているのだろう。)
気を付けて。
(最後に見えたのは、ふらっとした、危うい足取りだった。)
あはは、…皆、結局普通なんかじゃ、ないよね。
(この塔を登る者は皆酔狂だ。普通の女子高生で、
こんな所とは縁がないと思っていた彼女でさえ、今日は少し酔狂に思えた。)
私は…帰ろ。…帰る場所なんてないけど。
(時計塔の外へと、跳んだ。)
ご案内:「大時計塔」から蒼穹さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
■谷蜂 檻葉 > 「……ん、そろそろ昼の授業始まっちゃう。」
携帯を開いて時間を確認すると、もう1時を過ぎた所だった。
街を見下ろせる柵のない場所でため息を付く。
メールは、今日を指定されていた。
時間の指定がないということは、送信者に合わせての事だろうから、つまり。
「―――ま、これも一つの答え……かぁ。」
バッグに携帯を入れて
―――それでも、なんとなく街を見下ろし続けていた。
ご案内:「大時計塔」に渡辺慧さんが現れました。
■渡辺慧 > カツリ。
のんびりとした足音。
それはひどくいつも通りの、誰かを表すようで。
しかしながら、それはひどく。いつも通りすぎる足音。
不自然なぐらいに。
そうしてきっと。また。いつも通りに屋上へ姿を現す。
いつも通りの笑みを、張り付けた顔で。
「……やー。待った?」
やっぱりそれは、少し。不自然なほどに。
■谷蜂 檻葉 > 声に、肩が竦む。
……い、いやいや。待っていたのは私――じゃなくてあの子だったけど今は私しか居ないんだから……!
前を、街を見たまま息を整える。
2回。3回と息を吸うと、随分と落ち着けた。
心を決めて、くるりと振り向いて笑みを見せる。
そうだ、今は「私」なんだから―――
その瞳は青がくすみ「紫」の虹彩を見せ、その髪は黄金が薄れ「橙」の反射に輝く。
その背には新緑の羽根がキラキラと浮いているが
「……あはは、自分から行けなくてごめんね。 でも、ちゃんと来てくれて嬉しいな。」
彼女の雰囲気から、あの妖精の無邪気さは感じられずに。
ちょっと脳天気な、けれど温和な大人しさが戻っていた。
「でも……ふふ、そう。大遅刻だよ、慧君。
あの子、慧君の事散々引っ掻き回して帰っちゃった。」
息をついたような笑いで、大分遅れた少年を笑う。
彼女の制服は随分とよれていて、もしかすれば最初にメールが送られたその日から待っていたのかもしれない。
■渡辺慧 > もちろん。
それはひどく、虚勢に近いそれは。
簡単に緩むし、だが、それを見せるわけにはいかないと。
だからより一層、不自然に近い何かへ――。
今更気づいたかのように。そしてそれは実際に、今更ながらに。
「……そか。……帰っちゃったのか」
目をつむって。息を吸う。
あの子は、結局何がしたかったなんて、それは。
あの子自身も言っていた。
ただ、それが本当かどうかさえも。
「随分、待たせちゃったみたい」
ごめんね? 等と軽く言いながら、口元を。いつも通りのそれとは、違う。
苦味が強い、苦笑を残した。
確かめなければいけない事がある。それは、ある意味。
聞きたくはないことなのかもしれない。
はっきりと、答えたくはないことなのかもしれないが。
彼女の為――そういえば聞こえはいいだろう。
「一つさ。……えっと。聞きたいこと」
■谷蜂 檻葉 > 謝罪の言葉を受けて、一寸の間もなく。
「うん、許さない。
―――許さないから、慧君もあの子のことは許さないようにね。」
にっこりと、笑顔で頷いた。
明らかに惑わせたのは、苦しませたのは此方側だ。
けれど、胸中にある熱は誤魔化せない。
「うん、聞く。 ……今日、風強いから。こっち座ろ?」
そう言って、上階の隅にあるボロボロのベンチに腰掛ける。
近くで聞きたい、そういう意図もある。
近くで話したい、そういう意図もある。
「結果」がどうあれ、遠くで終わらせたくない。
■渡辺慧 > ん……。
という言葉を残して。
カツリ、カツリ。
それは、この場に合わないような。
この空気感に合わないような、のんびりとした歩調。
自らの心情を覆い隠すような態度。
そして、言われたその通りに。
その隣に。――だけれど。少しばかりの、距離感を保って。
少しの距離。大きな距離。
そうして、座った。
「なんか、さ。……子供みたいな、子だった」
あの子に対する、心証をぽつり、と漏らす。
あの無邪気なそれは。
ひどく自分を戸惑わせたが――。
きっと。でも、それは。
聞きたいこと。……落ち着いて。
戸惑いの方が強くて。
とても、早くて。
改めて。こうやって。
「…………ね。あの子がさ。言ってたんだけどさ」
「“檻葉”は、――そうなのかな」
こういう時にすら。はっきりした物言いが出来ない自分すら。
胸にある、自分の余裕のなさの表れである、それ。
それを見せるのは、きっと。彼女に対してひどいことなのだろう。
だから、覆い隠して。
■谷蜂 檻葉 > 横に座った少年に、何からどう話すか。
―――待っている間に色々考えていたのに、中々喉を通らない。
どうしようか、どうすればいいのか。
その初めの言葉を口に出そうとして顔を向けると、
呟くように、慧の言葉が先に此方を向いていた。
「……ぁ……え、っと。」
曖昧に、頷く。
また心臓がバクバクと跳ね始めてきた。
あの子が何を言ったのか、判っているから。
だからそこから聞かれることは、解りきっていることだから。
「―――――」
それでも、言葉を失った。
どう、答えればいいのか。
どう、答えたかったのか。
風音が流れるだけの間を持って、ゆっくりと自分の答えを導き出す。
「どう、なんだろう……ね。 好き、っていうのは『そう』。
ただ、その。 ……慧君の事、私まだ何も解ってない、から。
慧君が、あの子の事を知らないように。
……私の気持ちを聞くように、ね。
――――ただ
■谷蜂 檻葉 > 「解っても解らなくても、君の傍に居たい……かな。」
この気持ちが愛であるのかは知らないけれど、あの子はこれを愛と呼んだ。
■渡辺慧 > ……。
すぅ、と。静かに息を吸い、瞑目する。
落ち着かせるように。
「――そっ。……かぁ」
息を、はいた。
どう答えればいいのだろう。
いや、答えは決まっている。
だけれども――。
「…………君はさ」
「友達だ」
もし仮に。それを、愛というならば。
それを、抱えるのは。
無理やり、なんとか。誤魔化し、ごまかしながら。
見て見ないふりをしながら、飛んでいる――いや、最初から沈みきっている。それを、持つのは。
謝らない。分からない。
彼女へ言葉を吐いているはずなのに、どうしてか。
隣に座った、彼女との距離感。
傍に居たいと彼女はいった。
ここなら、まだ。保てる。――本当に、保っているのかどうか。
だから。
「――だから、これ以上」
「…………傍に、踏み込まないで」
ひどく。
情けないような、笑い方をしているのは自分でも。
それは、理解できた。
――自分を理解されたら、直視しないといけないのだ。
■谷蜂 檻葉 > 最初から。
そう、最初から。
『このまま、友達でいさせて欲しい。』
そう、言うつもりだった。
そのつもりだったのだけれど。
何度も、言い聞かせていて、どうあれ、それで『この話の終わり』にしようと思っていたのだけれど。
「……ぁ、」
視界が、急にぼやける。
何も言っていなかった。 言ったのは、全てあの子だった。
一緒に遊んで、楽しかったけれど、それ以上は踏み込めなかった。
―――知らなかったし、彼に楔を打つことを 『らしくない』 と、思ったから。
それでも、友達と。彼の言葉から聞けたから。
『ありがとう』
そういうつもりだったのに。
「……ぁ…ぅ……っ、ご、ごめんな……さいっ……!」
自分は、何に謝っているのだろうか。
溢れ出る涙は思考を流してしまうようで、嗚咽混じりに、謝ることしか出来なかった。
踏み込んで、ごめんなさい。
勝手なことを言って、ごめんなさい。
他人に頼って、その結果に無責任に悲しんで、ごめんなさい。
貴方のことを想って、好きになって、そんな顔をさせて。
ごめんなさい。
流すつもりのない涙は、止まらなかった。
■渡辺慧 > 情けない顔のまま。
隣を見ることもできない。
だけれど、彼女の状態ぐらいは、聞こえるそれから、よくわかった。
だけれど。
自分が言った、その言葉がある。
そしてそれはただしく。――なにも、出来ることはない。
「…………なかんでくれよ」
「……あやまんなよ」
自分自身に、吐き気すらするもの。
……なんで、自分は。
ごめんね、と言って。楽になりたいのかもしれない。
だけれどそれは言わない。
なにか。どうしようもない何かをぶちまけたくなる。
だからせめて。
「……友達になってくれて、ありがと」
余裕のない自分から出せる、精一杯の言葉だった。
ひどく、細い息が。漏れ出た。
――こうやって、自由“孤独”になるんだ。
■谷蜂 檻葉 > 切り刻まれるような痛みとはこういう事だろうな。
ぼんやりと、他人事のように言葉が浮かぶ。
ぎゅっと、自分の喉を掴んで呼吸を、嗚咽を止めた。
……止めて、止めきれなくて、荒く息を吐いて。
また、握りしめるように泣き出す喉を止める。
爪が僅かに肌を切り裂いて血が滲む。
本当。今にも、張り裂けてしまいそう。
それでも、これ以上泣きたくなかった。そう言われてるのだから、そうあるべきなのだから。
そう、決めていたのだから。
何度、呼吸を握り止めたか。掴んでいた右手の指先が僅かに赤く染まっていた。
それでもまだ、声は震えていたけれど涙と嗚咽だけは止まっていた。
嗚呼、でも。
こんなに辛いのだったら。
「――――私の、『異能』ってさ。」
血が、滲む。
鉄の匂いが、広がる。
「ただ『香り』を作るだけじゃないんだって、言ったっけ。」
鉄の匂いが、消える。
甘い香りが、花のような匂いが広がる。
「嗅覚って脳に直結した基幹って聞いたことはある?
私の力は、香りを作ってるんじゃないの。 脳を刺激する、物質そのもの。
……匂いに連動した、催眠物質を作るのが、本当の私の『異能』。」
――――慧を見る瞳は、泣き腫らした「赤」に染まっていた。
「こちらこそ、ありがと。 私ね、ずっと、友達が欲しかったの。
私の『力』で従うお人形さんじゃなくて。お互いに気持ちをぶつけられる友達が。
……なのに、いつのまにか恋人まで欲しがるだなんて、分不相応だよね。
「化物」の私は、そんな事考えちゃ駄目なのに。 いつか、絶対に間違えるって解ってるのに。」
匂いが、強くなっていく。
「ありがとう、慧君。 もう、私、間違えないから。 友達になれて、嬉しかったよ。」
その匂いはまるで、収束するように檻葉の周りを包み
――――ぷつんと、糸が切れたように、檻葉は眠るように倒れた。
■渡辺慧 > ――間違えない?
どこが間違っていたというのだ。
間違ってるとするなら、全部、自分。――あぁ、それは正せるものではない。
化物。……なにがだ。
異能を使うことをさしているなら、この学園にいるほとんどが、化物になってしまうんじゃないのか。
倒れるように眠った、自らの隣にいる。彼女を。
余裕のなさすぎる、それで。戸惑いながら。
だから、動けない。動けない。そこから、動けない。
――彼女は異能を使った。
何に? 一体何にだ。
自分には、何もない。一つとして。戸惑いだけ残して、何もない。
彼女は、自分自身に、何かをした。
何をだ。なにをだ。なにを――。
“もう”、“嬉しかった”、“間違えない”
――呼吸が、一瞬止まり。かぶりを振った。
「…………――バーカ」
少しだけ。震えている声で。
座ったまま。彼女の方を見ずに。
ただ、それだけ。
――ごめんなさい。
ただ、心の中で、謝りながら。
■谷蜂 檻葉 > 深い、暗闇の中。
泡のように記憶が浮かび、弾けて消える。
図書館の光景が消えた。
訓練所の光景が消えた。
時計台の光景が消えた。
浜辺での光景が消えた。
公園での光景が消えた。
路地での光景が消えた。
「渡辺 慧」という記憶が 消えていく。
いくつも、いくつも泡のように表れては浮かび消えていく。
やがて、頭上に差した光に導かれるように、意識が浮上して―――――
「ふわぁぁ……あふ……。」
休みの日に十何時間も寝た時のように頭がガンガンする。
スッキリしたように晴れやかな気分だが、どうにも目元が熱いし、後体の節々が痛い。
「んん……今何……時!? ちょ、嘘っ。授業始まっ―――ッ」
ぼやけた視界で、メガネを探そうとしてかけていることに気づいて首を傾げながら携帯を取り出して時間を確認する。
時刻は1時を大分過ぎており、受ける予定の授業はもうすぐ終わってしまうだろう。
それでも無断欠席は宜しくないので急いで教室に向かおうとして
まず、自分が今何処にいるのか解らないことに気づいた。
・・・・・・
そして、次に隣に見知らぬ少年が座ってることに気づいた。
何だ、何故私はよく解らない所で寝ていて、その横にコイツは座っている。
バッと、財布を確認する。問題なし。
服の乱れ――も、問題なし。 携帯……も、さっき見た。問題なし。
どうやら、連れて来られた、とか。そういう事ではなくて。
私が此処で寝こけてしまった間に、ただ横に座っていただけのようだ。
「……あ、えっと。 ねぇ君。此処、何処か教えて貰える?」
まぁ、この誰かの事はどうでもいい。 今は授業に行かなければいけない。
■渡辺慧 > 「――――」
息を、ひどく詰まらせる。
……そうか。……やっぱり、そうなのか。
孤独は、寂しいが。だけれども、それを望んだのだ。
――本当に、望んだか。
何をしていいか、分からず。
どうしていいか、分からず。
その場で、結果を見続けた。
――そうさ。いつも通りなんだ。
そんなときだっていうのに。
どうしようもなく、どうしようもなく。
自分勝手なものが。本当に、ダメな奴なんだ、自分は。
――あぁ、友達が、いなくなってしまった。
「――昼寝かい」
「…………時計塔だよ、ここは」
――やっぱり。……俺は、ひどい、劣化品なんだな。
それから、逃避するために。彼女が傍に来るのを拒んだというのに。
その結果が、これなのでは。
堪え切れずに。
「――――――――ごめんね」
本当に、どうしようもない。
■谷蜂 檻葉 > 「と、時計塔!? うっそ、なんでそんな……」
昼寝、にしては場所が離れすぎてるし何より此処に来ることなんて殆どなかったのに。
……というか、此処一週間の記憶は酷くぼやけている。
繁華街だとか、海だとか行った記憶があるのだけれど
ごちゃごちゃに並べ替えられているように思い出すのが酷く難しい。
すわ自分の異能の副作用かとゾッとするが、
医師や異能研究者にはそのようなものは見受けられないと聞いていたはず。
……ああ、もう兎に角授業が終わって教員に夏季休業終了初日で無断欠席を決めるなんて事はしたくない!
ともあれ場所はわかったのだからさっさと降りて学舎へ向かわないと。
そう思い、礼を言おうと、『ありがとう』と口に出そうとして先に謝られる。
「……えっと、謝られる覚えがないんだけど……その、わ、私に何かした……?」
随分と、後悔したような沈んだ声に嫌な想像が湧いてくる。
■渡辺慧 > 「……寝顔を少し、見ちゃった、かな」
そう。
何もかもが、リセットされたのだ。
何もかもが。きっと、そう。
に、と笑う。
それは、いつもと違った笑み。
ひどく幼いような。
だけど、“彼女”にとって、自分は初対面なのだから。
別にいいだろう。
「……………さって」
そう言って、立ち上がる。
彼女に背を向けて。これ以上、虚勢を張るのは、少しばかり。
「授業行かないとな」
歩き出す。歩き出す。いつも通りの歩調で。
いつも通り。いつも通り。何もかも、いつも通り。
「――じゃあね」
“またね”とは。言葉に出来なかった。
出来やしない。だって、これで、いいのだろう。
ある意味、正解なのだ。いや――きっと、間違いなく。
片手をひらり、と。
気楽なそれを表すように。
そうして、出口へ向けて――。
■谷蜂 檻葉 > 寝顔。
ああ、いや。それは確かに恥ずかしいし、謝罪の言葉になるのだろうか。
……ってあんな声で言われるって私はどんな顔をしていたんだろう。 想像して、顔にカッと赤くなる。
どう言えばいいのかわからないけれど、多分事故のようなものだろう。
あまり気にしてもしょうがない、か。
いやでも、じゃあ何で謝っておいてこいつは笑ってるんだ。
わからない。
でも時間も無いし、あ、待て、逃げるな。せめて―――
「――――ねぇ!」
「――――――名前、教えてよ!!」
謝罪分、今度何か奢らせてやる。
■渡辺慧 > ―――――――――――。
振り向いた。――振り向いてしまった。
恐らく、ひどく。
――泣きそうな顔をしている、わかってる。分かっているんだ。
見せたくなどなかった。
「――渡辺、慧」
それだけ言うと。
また、歩き出す。
少しだけ、早足で。
前を向いて。
――じゃーね
ご案内:「大時計塔」から渡辺慧さんが去りました。
■谷蜂 檻葉 > 「………………。」
何故、この少年はそんな顔をしているのだろう。
同時に、パチッと何かが閃くような感覚が脳裏によぎり、
それを覆うような「ナニカ」に塗りつぶされるようにして閃きが消える。
そうして、妙な『既視感』だけが残っていた。
「渡辺、慧……ね。 ―――ってもう時間ギリギリじゃん!!」
不可思議な感覚に首をかしげるが、彼が先ほど言ったようにさらに次の授業が始まろうとしている。
慌てて、反対方向……街まで一直線に、『飛ぶ』。
妖精の羽根を羽撃かせ、風を切らずに乗ることで空中を走る。
急げば、なんとか授業には間に合うだろう。先の授業の教師には放課後に謝罪に向かおう。
この力がいつから使えていたのか。
抜け落ちて混ぜこぜになったような夏休みの2週間の記憶はなんだったのか。
あの不思議な少年―――渡辺慧は、一体何者なのか。
全てに共通する記憶の混濁の原因は一体何か。
一つの結末を迎え、少女にはまた道が伸びる。
―――時計塔が、また新たな秒針を刻む。
ご案内:「大時計塔」から谷蜂 檻葉さんが去りました。