2016/11/16 のログ
■北条 御影 > 「…????」
首を傾げる。
衝撃を?何だって??
「いや、十分大したことだと思うんですけど?
ったくさー、これだからこの島の生徒ってばさー」
自分には理解も出来ないようなことをさも当然のごとくのたまう目の前の少年にがっくりと肩を落とした。
確かに何らかの―自分には使えない類の技能か能力であろうとは思っていたが、
それをこともなげに行ったという事実は、少女の心を地味に傷つけるのである。
「その言い分からするとさ、さっきの奴、結構簡単に出来るんでしょ?
だったら次アレ取ってよ。私アレ欲しいんだけどさ」
ん、と指さした先には最近巷で人気のキャラクターのぬいぐるみが一つ。
小脇に抱えられる程度の大きさで、重さはそこまででもなさそうではある。
が、そもそも初対面の少女からの頼みとしては聊か荒唐無稽な類のもの。
やたら距離感の近い少女の頼みに対し、少年の返答や如何に―
■東雲七生 > 「いや、確かに大した事じゃないんだけどさ……」
お目当てのゲーム機を手に入れて、嬉しそうに手を振り去っていく子供を笑顔で見送りつつ。
七生は示されたぬいぐるみを見遣る。確かに、今のをもう一度使えば容易く倒せるだろう。
しかし、しかしだ。
店主がそれを許してくれない。
今のは七生がそんな事を出来るわけがない、と油断した店主の隙を突いたもので、不正は無くとも正道でもない。
「……だから、無理なんだよなあ。
きっと、異能と魔術に加えて、銃を撃つ前後に余計な動きをするな、って言われちゃうし。」
苦笑しつつ少女へと告げれば、店主も大きく頷いた。
■北条 御影 > 少年の言葉に沿って店主を見やれば、そりゃそうだと言わんばかりに頷いている。
その姿に露骨に顔をしかめ、再び肩を落とした
「なーんだよー。折角おこぼれにあずかろうと思ったのにさぁ。
さっきのがダメなら何かこう、もっと目立たないやり方で出来たりしないわけ?」
無茶ぶりである。
それぐらい出来るだろと謎のハードルの高さを以て少年に面倒な絡み方をする少女である。
「っていうかさ、キミ、親御さんどしたのよ。
一人でこの島に観光ってわけでもないでしょ?」
ぐだぐだと面倒なやり取りをした後、ふと思い出したかのように尋ねる。
それが少年の琴線に触れるとは微塵も思っていないようだ。
背丈こそそこまで変わらないものの、その幼い顔立ちのせいか、
どうやら完全に七生を観光客の中学生か何かだと思っているようで―
■東雲七生 > 「あははっ、他に何か出来るならとっくにやってるって。」
正直さっきのも苦肉の策ではあった。上手くいかなかったら格好悪いうえに凄く怒られただろう。
力の一点集中が失敗すれば、棚の景品全部がぐらぐら揺れてしまっただろうからだ。
手に持っていたままだった空気銃を店主に返してから、改めて少女を見遣る。
「って、俺は高校生!ここの学校の生徒!
東雲七生、二年生!飛び級も何もしてないからな!!」
相手の考えが手に取るように解るかのように捲し立てる。
もはやこの手の問いかけは慣れたものだが、看過出来るかと言うとそうでもない。
むしろ看過出来ない度合いがどんどん増していっている。
■北条 御影 > 「―は?」
少年の声を荒げた返答に思わず素っ頓狂な声をあげた。
だってだって、目の前の少年はテレビの中の子役もかくやというような可愛らしい顔立ちで―
身長もそれこそ、思春期に片足突っ込んだようなものでしかなくて―
「えぇぇぇぇぇ!?」
それが高校生であり、なおかつ先輩だというのだから、そりゃぁ驚いて大きな声も出るというものだろう。
「えっ、うそ、高校生!?
っていうか先輩なの!?あ、あは、あははー、ヤだなぁ、お姉さんをからかっちゃいけないよ?」
信じていない。
というよりは謎のプライドが邪魔をして後に引けない。
これだけナメくさった態度をとった相手が先輩だったなんて、それこそ赤ッ恥どころの話ではないのだ。
「ほ、ほら、先輩だってんなら証拠とか見せてくださいよぉー。
生徒手帳とかさぁ、色々あんでしょー?」
言いながら段々気が大きくなってきたようで、最後は露骨にイラつく反応を返す少女である。
自分が現在凄まじい勢いで死亡フラグを積み上げていることには気づいていないようだ
■東雲七生 > 「うるせええええええええ!!」
流石に間近で叫ばれるとは思わなかった。
思わず片手で耳を押さえて叫び返す。
「嘘じゃねえっつの、ほら学生証!!
東雲七生、二年生の16……ああ今もう17歳か。」
学生服のポケットから学生証を取り出す。
そこには紛れも無く七生がまごう事無き高校二年生であることが刻まれていた。
「そもそもなーにがお姉さんだ。ていうかどこがお姉さんだ!」
年上の異性は割とわんさか見ているので、流石に鼻で笑うしかない。
実際七生の方が年上で、先輩なのだから当然ではあるが。
■北条 御影 > 「――マジ?」
マジである。
マジであった。
そこには彼が自分より年上であるという確たる証拠が示されていて。
「え、えへ。いやぁだって先輩可愛らしい顔してるんですもん!
これはアレですよ!褒められてるんだと思えばいいんですよ!
年とってもきっとずっと若々しくいられますってー!」
苦しい。あまりにも苦しいフォローである。
ここでどう取り繕ったところで彼のコンプレックスを刺激してしまったことは明らかであり、
自分が凄まじく失礼な言動をとったことは最早目を逸らすことすら出来ない事実であるわけで。
よって。
此処で彼女が取るべき行動は一つである。
「すんませんっしたーーーーーーーっ!!」
90度である。
風を切り、頭頂部を真っすぐ七生の腹部に向けた誠心誠意のこもった謝罪。
「ゆ、許して…くれますー?」
ちらり、とわずかに視線を七生に向けて様子を伺ってみる―
■東雲七生 > 「マジ。」
大マジである。
とはいえ、その学生証の年齢の記載が正しいものであるかどうかは定かではない。
しかし、そんな事は七生自身にも解らない。
「……うー。」
褒められてる気なんて更々しなかったが、ちゃんとした謝罪をされては許さないわけにもいかない。
むしろ此処で許さない方が、よっぽど子供っぽいだろうとすら思う。
「良いよ別に、慣れてるから。
許す。許しますー、だ。まったく、人を見掛けで判断するなよなー。」
ぷふぅ、と頬を膨らませたまま注意を促す。
全くどいつもこいつも、と小さく毒づいてから一度大きく溜息を吐いて。
「よっし、リセットリセット。
折角一つ人助けをして良い気分だったわけだし、いつまでも引き摺りたくないしー。」
■北条 御影 > 「マジでっ?さっすが先輩心が広い!」
七生の言葉に顔をあげればそこには朗らかな笑顔。
先ほどまでのバツの悪そうな顔はどこへやら。
内心、頬を膨らませる七生の姿がまた一層子供っぽいな…とか思ったのは秘密だ。
「そそ、せっかくの祭りですもんね!
楽しまなきゃ損ってわけでー…折角ですし、どっか案内してくれません?」
内心失礼なことを思いながらも、そんなことを表に出す程こちらも子供なわけでもない。
七生の言葉に乗る形で提案を一つ。
「私、北条御影。一年生なんですよ。
今回が初めての常世祭りなわけで、御覧の通り友達も連れずに一人で暇してたんですよねー。
思い出作り、協力してくれません?」
簡単な自己紹介を済ませ、手を差し出した。
■東雲七生 > 「ま、まあ、……先輩だし?」
ふふん、と少しだけ得意げに笑みを浮かべてから溜息を溢す。
少女の変わり身の早さに対して、驚きというか、呆れというか複雑な感情を抱きつつ。
案内を求められれば、きょとんとした顔の後、にっこりと笑みを浮かべる。どう見ても年上とは思えない、子供じみた笑みだった。
「ああ、そういうことなら!
全然構わないよ、一緒に回ろう。何処か行ってみたいところある?」
二つ返事で了承して、差し出された手を取る。
北条ね、と頷いてから取り敢えずは腹ごしらえかな、と食べ物の屋台を探して歩き出そうと。
そうして一日中、しっかりと後輩に常世祭を案内したのだろう。
■北条 御影 > 「あ、それじゃ私異邦人街の方とか行ってみたいです!」
はいはい、と手を挙げて元気よく希望を伝える御影である。
普段危ないような気がして近づこうと思わない地域なのだが、
この機会に訪れてみようと、そういうわけであった。
結果として、彼女はこの常世祭りを思いっきり満喫することが出来たのである。
しかし、広い島の全てを回り切ることなど到底出来る筈もなく。
どちらからでもなく、口にした。
「次に会ったら此処に行こう」と。
友人同士なら約束とも言えないような何でもないやり取り。
その約束が果たされる日を夢見て、七生にとっては何でもない―
けれども、御影にとっては特別な祭りの一日は幕を閉じるのだった
ご案内:「商店街【常世祭期間中】」から北条 御影さんが去りました。
ご案内:「商店街【常世祭期間中】」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「商店街【常世祭期間中】」にメイジーさんが現れました。
■メイジー > 見ず知らずの異国の地でも、どこか似たような人の暮らしが息づいている。
寄る辺なき身の上には、そんな当たり前のことにさえ心からの安堵を覚えてしまう。
ここは、島内有数の商店街だと教えられてきた。
笑いさんざめく人々の声と、果物売りの呼び声が響く街角。
夕闇の迫る頃合のパラマーケットの賑わいを何倍にもしたような場所だ。
華やかに氾濫する明かりの中で、一番大きく違っているのは商業広告だ。
雑踏を見下ろすような高さに、ひとりでに音を発する看板があった。
光りかがやく篆刻写真のなかに少女の姿が現れ、何かの商品を紹介している。
あざやかな色彩が目の廻るようなスピードで移り変わり、流れゆく文字を追う暇もない。
「………………はぁ……」
せわしげに往来を行き交う人々、その多くは齢若い学生だ。
投げかけられる好奇の視線を受け止めながら、祝祭の気配に胸がいっぱいになって立ち尽くす。
ご案内:「商店街【常世祭期間中】」に羽切 東華さんが現れました。
ご案内:「商店街【常世祭期間中】」から羽切 東華さんが去りました。
■メイジー > 路傍の店のドアが開け放たれ、焼きたてのパンの香りが往来にまで溢れだす。
つかのま躊躇しながら、ガラス張りのドアが閉まってしまう前に店内へと滑りこむ。
土地や店にもよるけれど、個人経営の商店ならばパン一斤で5ペンスと少し。
小さな菓子パンなら、まとめ売りでひとつ1ペンスに満たないものもある。
幾重にも重なった棚の上から下まで、見たこともないパンがところ狭しとひしめいている。
「………旦那さまがご覧になられたら、さぞお喜びになられましたでしょうに…」
わが主、ホールドハースト卿は珍しい菓子パンに目がないお方。
いかめしいお顔がじわじわと弛み、相好を崩して下さるさまが目に浮かぶ様。
どこか似通っているけれど、知らないものの方がずっと多いこの世界。
蒸気都市からどれほど隔たった土地なのか、今のこの身には知る術もない。
ハムサンドに瓶詰めのマーマレードを見るにつけ、さほど遠くなさそうな気もするのだけれど。
かつてこの地と蒸気都市に、往来があった可能性を思い描く。
このメイジー・フェアバンクスが最初で最後の漂流者であると推測するに足る根拠はどこにもない。
■メイジー > 郷に入らば郷に従えと古人も勧めるところに従い、周りの買い物客の様子をそれとなく観察する。
パンは種類ごとに分けられて、棚の手前には値札らしきものが付いている。
入店した者はまず、樹脂製のトレーと美しく磨き上げれたステンレスのトングを手に取る。
これはと思うパンがあれば欲しいだけ挟み、トレーにのせて店員の前まで運ぶ。
決済は現金のみ……ではなく、個人用の機関通信器のようなものを卓上の端末にかざして会計を終える人もいる。
ここで見聞を広めれば、帰参が叶ったとき旦那さまへのお土産ができるはず。
技を盗んで、同じものを作れるようになればどんなに喜んでいただけるかわからない。
これはつまり、メイドの土産。
この身が飢えを感じて間食の誘惑に折れたのではなく。
いくつ選んでも、10ペニーもあれば足りるはず。
スプリングの仕込まれたトングを手に取る。
顔が映るほどに美しい研磨の業に感じ入りながら、カシャカシャと閉じ込んでみる。
同じくらいに手触りのよいトレーを左の腕にしっかりと保持して。
「……くるみロール…小倉マロンデニッシュ………これは…?」
■メイジー > メロンパン、と誰かが呼んだ。
格子状の刻みが施された、重く垂れた麦より明るい色をした半球状のそれ。
焼きたてのそれから立ちのぼる匂いは甘く香ばしく。
薄く被せられた砂糖は晩秋の野に降りた霜のように淡く輝く。
動揺を示してはならない。
努めて冷静にトングを向け、ひとつ挟み込んで持ち上げる。
思いがけないほど硬質の摩擦音と、鉄の腕を受け止める柔らかな生地の気配。
相反する特質が一つのパンを織り成す奇跡に震えながら、取り落とさないようにトレーの中央へと乗せる。
はしたないことと知りつつも、期待に生唾を飲んでしまう。
他のパンを選ぶことも忘れて会計の列に並び、硬貨の受け皿に5ペニーを置く。
一日千秋の思いで、メロンパンが包まれるのを待つ。
待つ。すこしだけ姿勢を正して。
待つこと30秒。
「……………………いかがなさいました?」
仕草を見ればわかる。店員は困惑していた。
なるほど。メロンパンは貴顕のための高級品。
5ペニーでは足りなかったのだと10ペニー足して、もう少し待つ。
■メイジー > 「あの、もしや……」
パンひとつに、しめて15ペニー。
呼売商人のさんらんぼが3ポンドは買えてしまう金額に等しい。
足りないということは、考えづらいはず。
他の可能性も考慮して、ひとつ思い当たる節があった。
この姿。いくら身奇麗にしていても、この身はしがない使用人。
場違いな店に入り込んでしまったのだ。
「もしや、使用人には売れぬということでございましょうか……」
「失礼のかどは、身共の無知に免じてお許しを」
「ですが、ご安心なさいませ。これはわが主、旦那さまへの土産の品にございます」
「本国への連絡は取れておりませんが、遠からず往来が戻りましょう」
「その折には、こちらのパンをきっとご贔屓になさるはずです」
微笑みつつ、違和感は拭いきれず。
後ろに並んだ買い物客がざわつきはじめる。
ご案内:「商店街【常世祭期間中】」に真乃 真さんが現れました。
■メイジー > 顔を見合わせていた店員の一人が、言いづらそうに口を開く。
―――このお金は使えない、と。
「…あ………さようで、ございましたか」
言われて初めて気がついた。
ここは日の沈まぬ帝国より遙かに隔たった異国の地。
女王陛下の臣民でもないのに、蒸気都市の通貨が使えるはずがない。
羞恥に顔が赤らんで、耳の先まで熱を持ってしまう。
携えていたわずかな金子さえ、何の価値も持ち得ないのなら。
この身は正しく無一文。貯金も何もかもあちら側に置いてきてしまったのだ。
金額の多寡でも身分の問題でもなく、あまりにも初歩的な誤り。
そんな身の上の者が、来てはいけない場所に入り込んでしまった。
あまつさえ、買い物の真似事まで。
息が詰まる。クスクスと笑う声が聞こえた。
■真乃 真 > トレー一杯にパンを乗せた男が列に並んでいる。
焼きそばパン、あんぱん、クリームパンなど…比較的甘い系のパンが多い割合だ。
そんな時に起きるざわつき…前を覗けばどうやらメイドさんが店主とトラブっている様子である。
どうやら、お金の種類が異なって使えない様子だ!
「まあ、この島では良くあることだよね!!特に!ここと似たところから来る人とかには凄い多い!!
逆にこの前異邦人街で買い物しようとしたとき物々交換以外やってないとか言われて凄く焦ったよ!!」
そんな事を誰にも聞こえるような聞かせるような大きな声で言う男、異様に長く白いタオルを首に巻いた男である。
そのする必要のない無駄にカッコいいポーズが凄く目を惹く!
店内の目は完全に真にくぎ付け!!視線は完全に独り占めだ!
「君もどこか別の場所からここに来たんだろう!?
しかも、見たところ来たばっかりで全然慣れていないんだろう?
そんな時に、いやそんな時だからこんなおいしそうなパンが売ってるんだ!買いたくなるね!
ああ、僕なら間違えなく買ってるね!!それで、この子のが買おうとしてたパンって全部でいくらくらいするの?」
立て板に水勢いよく店主に尋ねれば少しぽかんとしながらも適正な価格を教えてくれる。
■メイジー > こんなことで、主のことを口にしてしまった。
たとえ旦那さまが無関心を装ってお許し下さるとしても、由々しきことには違いない。
後ろに並んでいた生徒の、四角い機関通信器のようなものが向けられる。
その角近くについた小さなレンズが瞬き、パシャリ、と耳慣れない音がする。
一人がはじめたその仕草を、他の幾人もが真似しはじめた。
まるで訳がわからない。
主なき身の悲しさに胸が詰まりそうになる。
その時、場違いなほどに元気な声がして、レンズが一斉にそちらを向いた。
「……………それは……」
そんなにわかりやすかっただろうか。
トレーの上にはメロンパンがひとつだけ。けれど、先立つものがなく。
「お恥ずかしながら、持ち合わせがないのです。出すぎた真似を……致しました様で」
■真乃 真 > 撮られる写真!写真!写真!
ああ、だが真の異能はこんな時の為にある!!
全てのスマホに残されるのは異なるポーズの真の写真!
異能の真骨頂である!!それはともかく…
「確かに別のところから急にこの島に来たらお金とかはね…。
生活委員とかで初めのバックアップとかはしてくれた気がするな!
ああ、後で説明するよ!」
確かこっちに来た異邦人向けの色々が受けられるらしい!
詳しくはしらないけども!
「それにしても!メロンパンか!ここのメロンパンは美味しいからなあ!
外側のカリっとした感じが良いんだよ!いやホント美味しいから!
いや、正直袋越しで触った時点で分かるからね!!ちょっと持ってみなよ!
ほら!ほら!分かるから!!!」
そのまま自分のものとそのメロンパン一個をまとめて凄い速さで会計してしまう
そうすれば袋に包まれたそのメロンパンを持つように勧める。
「いや、ほんと!感触からして違うんだよ!!」
凄まじい推しっぷりである!
■メイジー > よくあることなのだろうか。
事情を承知しているらしい相手にうなずき返す。
「ええ、初歩的なお話は……竹村様と、生活委員会の皆様に伺いました」
「ここは常世島。全島をもってひとつの学園都市を成す、学究の都であると」
「……このメイジー、いまだ求職中の身でございまして」
この地には使用人登録所が存在せず、紹介状を書いてくれる旧主もいない。
そもそも、メイドらしいメイドをまるで見かけない。
都市の規模から見積もって、少なくとも数千人は同じ年頃のメイドがいるはずなのに。
疑問に思いを巡らし、ふと我に返ると会計が終わっていた。
「なんということでしょう……お心遣い有難く存じます」
分度器で測った様に45°まで上体を折り、頭を垂れる。
そして交換でなければ受け取れないというオーラを出しつつ、1シリング硬貨を差し出す。
多すぎることも、少なすぎることもない。この世界で使えなければ同じことだ。
「お納め下さいませ、見知らぬお方。当地では飾りにしかなりませんが……」
「コインの収集は殿方一生のご趣味と聞き及びます」
そして手のひらに乗るメロンパンの包み。
焼きたての余熱と立ちのぼる甘い香りに心和んで、表情がゆるんでしまう。
■真乃 真 > 「求職中か…仕事さえ選ばなければこの時期は何でも見つかると思うけどそうだな…。
メイドか…メイドなあ…。ごめん、ちょっとメイドは思い当たらないな…。
…メイドさんだよね?」
確かにこの常世祭期間中はちょくちょく見かけるし、近所というか同じアパートにも住んでいるようだが…
それらは所詮コスプレである。…コスプレだよね?
本土の方からきたお金持ちの生徒が雇うにしても身元の分からない相手を雇うことは多くないだろう…。
「あっうん。ありがとう!貰っておくよ!
確かに別のところのお金なんて珍しいよね!」
そう言いながら財布にしまい込む。
…異世界の貨幣、もしかしたら専門的に扱ってる人のところに売れば一財産になるのかもしれないが。
そんな事を考える事も特にない。
「焼きたて良いよね!!
いや、これは冷めても割といけるんだけどやっぱり内側の柔らかさを楽しむなら焼きたてが一番だな!!」
そんな事を言いながら自分の袋を持って店内に設けられた飲食スペースに移動して早速取り出し食べ始める。
このころになれば流石に集まっていた人たちも引いて落ち着いて食べられる。
…うん!いける!
この表面のクッキー地の部分と内側のギャップが最も強く表れるのはおそらくこの焼きたての時だろう。
中のパンの柔らかい甘さ!外側の食感!ああ、やはり!焼きたてが一番いける!!
■メイジー > 「メイジー・フェアバンクスと申します。ホールドハースト卿にお仕えする身にございます」
「当地でもどなたか、よき主にお仕えできればよいのですが」
新聞広告を試そうにも費用がかかることは承知している。
あれはどこかのお屋敷に長く勤めて、十分な元手のある者がすることだ。
「こちらは何の施設でしょうか……まさか、ベーカリーと喫茶室がひとつに?」
「身共のような時分の者が見知らぬお方と軽食を頂くなど…旦那さまのお叱りを頂いてしまいます」
「ですが、ここは異国の地……これも習いと仰られるのでしたら」
「……はしたないことでございますが、この身は食欲を禁じ得ません」
郷に入らば何とやらの繰り返しで、相伴に預かることにする。
「ええ。オーブンを開けるあの瞬間には心躍るものがございますね…」
「払暁を迎える頃、冷たく澄みきった朝の大気に溶けゆく芳しい香りも」
「わが主、旦那さまの喜びは身共の喜びにございます。そして身共は残りを頂きますので」
「焼きたてのパンというのは、なかなか……味わうことがないのでございます」
硬い表皮が砕けて味覚を甘く塗り替え、内に隠された生地の柔らかさに雷に打たれたような衝撃を覚える。
一体どうすればこんなに柔らかくなるのか。この秘密は何としてでも身につけて帰らなければならない。
「ほっぺたが落ちてしまいそうでございます。本当に落ちたことはございませんが、しかしこれは……」
本当に落ちてしまいそうで不安に駆られ、頬を押さえながらもくもくと食む。