2015/08/24 のログ
ご案内:「ロビー」にアリエンティアさんが現れました。
ご案内:「ロビー」に桐竹 琴乃さんが現れました。
ご案内:「ロビー」に嶋野陽子さんが現れました。
アリエンティア > 夜……
なんでか知らないけれど、眠れなくなった。
お風呂は入った。いつもなら眠たくなる21:30分……
なのに、今日は眠れなかった。

なんでかって言われれば。ちょっとした噂を。

ネットで観てしまったから。

事件。事故。
まじめにニュースを見たのは、指で数えるほどだ。
でも今日だけは何故か。そんなただの雑多な。
ネットサーフィングしていたときに見えた一つの投稿が。
なんだかすごく、心がざわついてしまった。

だから――自販機の脇。ちょうど小柄な少女なら入れる程度の
隙間にそっと、身を潜めて。

桐竹 琴乃 > キィ、と尞の扉を開けてロビーへと。

バイトも終わり、適当にご飯なども済ませ。
帰ってきた所であった。
「……門限前にここくぐるのって久々な気がするなぁ」
撤回。
「そもそもほとんど通った事が無いや」
異能を使って自分の部屋の窓まで移動する故であった。

「……ん?」
ロビーを進めば。
よく使う自販機の横にちょこんと。
「……?」
ゆっくりと近づき。
「どしたの?」
ひょい、と膝に手を付け。
自販機の脇にいた彼女にそっとゆっくりと話しかけた。

嶋野陽子 > 内風呂になってからも、恒例となった
ロビーでの夕涼みをしに自室の19号室からロビーに
出てきた陽子は、いつものようにフルーツ牛乳を買
おうとすると、その手前の自販機の前で腰をかがめ
ている生徒と、同じ自販機の脇の隙間に身を潜める
少女を見付ける。
取り敢えずフルーツ牛乳を買ってから、
「こんばんは、どうしましたか?」と二人に声をかけ
る陽子。

アリエンティア >  
事件、異能の、事件。魔術の、事件……
起きている、起きていた。
防げた、防げてない。

そんな、嘘のようなファンタジーのような、お話。
だってこの国は、すごい。おまわりさんは優秀。
犯罪も少ない。そう聞いてたし。実際住んでみて
優しい人がいるのも、いっぱいいるのも知ってる。

根も葉もない、噂だ。でも――
ここは異能と魔術と、不思議がいっぱい集まる街で。
そんな常識とは、きっと合わないいろんなことが起きていて。

実は自分が――”知らない”だけなのではと思ったら。

なんだか、すごく。怖くなった。
だから――……
聞こえた声が2つ。

それに表を上げれば……

「……ぇ――?」

赤い瞳に少し、涙が滲んでいた

桐竹 琴乃 > 「ふえ?」
目に涙を滲ませる小さな小さな彼女。
何があったかは琴乃の知る所では無かったが。
何かに怯えているのかな、とそれだけは感じ取れる。
と、同時に掛けられた声。
陽子の方を振り向き、ちょっとだけ首を振る。
わからない、そういうニュアンスを込めて。

「どしたの?」
その後。
しゃがみこんで膝を折り、同じ視線で。
もう一度、小さな小さな彼女に声をかけた。

嶋野陽子 > 腰をかがめていた生徒が、陽子の
方を振り向き、首を振るのを見て、陽子の職業意識が
発動する。
黒髪の女子生徒(女子でない生徒がここにいたら大問
題だが)とは反対側に回り込み、同じようにしゃがみ
込むと、
「保健委員の嶋野陽子と言います。どこか具合が悪い
のですか?」と少女に尋ねる陽子。

アリエンティア >  
「あ、いえ、えっと。その――」

ぐすっと、息を吸ったところで。
自分が泣いているのではと疑った。
実際目に触れてみれば、ちょっと湿ってる。
涙が出そうになってる。だから慌てて、パジャマの袖で拭いた。

「……ちょ、ちょっとだけ。怖い想像をしまして
 えへへ……ね、ネットの見過ぎは良くないですね」

鼻の頭を赤くしながら。
何か嫌な想像、嫌なことを考えたらこうして隅っこでうずくまるのは
昔の癖だった。自分のスペースはそこにしかなかったから。
もう自分だけの場所ではないのだし。どうせするなら
一人の部屋で……

そこまで考えて。

(一人は嫌だったの、かな)

きっとそうだとどこか納得もしながら。

「……ううん、具合は悪くないよ……大丈夫。ちょっと、怖かっただけ」

なんて、応えて、立ち上がりぱんぱんっとおしりを叩いた

桐竹 琴乃 > とりあえず隣の彼女が心配したように、具合が悪い、と言う訳ではないので少しだけほっとした顔でもう一度陽子の顔を見た。

「そっか」
もう一度アリエンティアに向き直れば。
こわい想像を、と言うのだから何かそれこそそういう映像を見たのだろう、とひとまず考える。
まだ小さな子だ。
感受性とかも高いんだろう。
立ち上がった彼女に合わせて中腰へと移り変わり。
「そういうコトも、あるよね」
軽く安心させるように出来れば、と少しだけ笑った。

嶋野陽子 > どうやら、身体の具合は悪くないようだ。
陽子の顔を見たもう一人の生徒に頷く陽子。

でも、怖いものを見たと言っているので、メンタルケ
アは必要かも知れない。最近デフォルト設定と化しつ
つあるハーバルリラクゼーションの発汗モードを強化
しつつ、
「怖い想像ですか?差し支えなければ、ロビーのソ
ファーで相談に乗りますよ」と、体格差を踏まえて、
少女が立ってもしゃがんだたまで話しかける陽子。

アリエンティア >  
「……うん。世間知らずだったから余計に」

笑われれば、ドキッとした。
恥ずかしいのか、それとも素敵だなぁと思ったのか
多分両方だろうけれど。

「相談……んー、相談ってほどじゃないんだけど……」

あのね。
と、前置きして。

「ここの島って、安全なのかな、って」

歴史の勉強。常世学園の歴史。
それは知ってる。でも――

    研究してきて、年月が経って安心安全だと

その保証はどこからくる、かなんて。

そんな怖いことを。考えてしまって。

桐竹 琴乃 > 「安全か、かー」
うーん、と唸る。

そういう難しい事を全く考えず、今まで過ごしてきた琴乃である。
意識が低い、と言われればそうだと同意するしかないレベルであった。

少しだけ、考える。
今は確かに事件が多発している。
フェニーチェやら、襲撃事件やらが色々と起きている、と私もそれをドリームランドやらで見た程度。

そして何時この異能というヤツが。
ひょい、と隣に突然現れた隣人が。
居なくなるのか、それとも暴れ出すのか。
それも保証は無い。

何か明確な答えが出せる訳でも無いけれど。
「難しいよね」
うん、と一人頷く。
「でもその為にうーん」
首をことん、と次は傾げた。
上手く言葉には出来ない。

そもそも、彼女自身がその隣人に対する答えを未だに見つけていない。

「その為に頑張ってる人もいるから。それを信じてあげる事、かな?」

それは純粋な彼女の考えであった。
平和や安定の為に心を砕いている人がいる。
それは、間違いのない事で。

嶋野陽子 > 『ここの島って、安全なのかな?』
はるばるドイツから12才で高校課程に留学してきた
金髪の少女の存在は、この学園でも目立つため、顔を
見れば名前はともかくドイツからの留学生である事は
思い出す陽子。
陽子自身、この島に来て一月余りで、既に2回も危険
な目に目に遭っているので、どう説明しようか少し考
えているうちに、ドイツと日本がからむ良い喩えを思
い付く。
「この世界が大変動する直前に、ドイツの保険会社が、
世界の大都市の危険度を、自然災害と治安の両方を合
わせて総合的に評価したのですが、世界で一番危険な
大都市は、それ以外の国の都市に倍以上の差をつけて
いました。果たしてどこだったと思いますか?
実は東京だったのです。世界一治安の良い東京は、
自然災害のリスクが桁外れに多い危険地帯の真上に
あるのです。これは日本全土についてほぼ同じです。
日本人は、災害を生き延びるために、世界一治安の
良い社会を構築してきたのです。災害が起きると暴
動を起こすような人は、過去の大災害で根絶やしに
されて、暴動を起こさない人が生き残ったのが日本
なのです。
常世島も似たような物です。転移荒野から出現する
異界の存在には、非常に強力な物がありますし、そ
うしたモノに惹かれて、地球上の邪悪な存在や強力
な魔力や異能を持つものもこの島に引き寄せられま
す。でもこの島はそうした災厄に最も備えがしっか
りしているのです。
多数の能力者による、多彩な異能や強力な魔力や魔
術などを駆使して、この島の暮らしを守る人や組織
があるから、危険な転移荒野を抱えていても、この
島の社会が崩壊しないのですよ」と長い説明を終える
陽子。
「話が長くなってごめんなさい」と謝る。

アリエンティア >  
「信じる……組織……」

言葉を噛み砕く。咀嚼する。
自分の中で。

「……保険のおねーさん、すごい賢い……」

理論的な説明と、感情的な説明。
その両方がされた、でも。

「――その組織が、あれば安全なの? その組織があるから、安全なの?」

さっきは不安になった。
備えをしているから安全だと言われた。

「頑張ってたら、危ない目に合わない? 危ないことをさせないってこと、できる?」

――きっと、困る聞き方かもしれない。
でも、どうしても。引っかかった。
から、言葉にして。

「……それをしないって。悪いことをみんなしないって
 ”信じること”が大切なのかな。みんな、悪いことしないって
 みんな、みんな。きっと、優しい人だって」

うん、そうかもしれない。
犯罪は起こってしまう。歴史の繰り返しだってきっとある。
頑張っても報われないことだって。
だけど、そう信じることが……

「その組織があるから大丈夫だって、信じることが大切、なのかなぁ?」

桐竹 琴乃 > 「私はね」
その場その場で必死に考えているが多分、隣の彼女ほど、いい答えは出せないだろう。

「なーんにも知らないからさ」
それに。
「知ろうとしてなかったっていうのもあるね」
正直に告白する。
「それに頑張ってもらって、護ってもらってる一人だから」

……まあ夜中危ない方へ出て言ってるのはこの際内緒にしておこう。
うん。

「こっちのおねーちゃんみたいに上手く言えないからごめんね」

驚くほどよく考えて、答えを出してくる小さな女の子。
自分自身よりもそれこそ明確に色々と考えたんだろう。

「頑張ってくれてる人はそれこそ見えない所で頑張ってくれていて私達は気付きにくかったりするかもしれない」

ふと、夜中生活委員と名乗った彼を思いだす。
細かく、細かく、きっとそれこそ見えない場所で今も頑張っているんだろうか。
琴乃に今それを知る術は無いが。

「私達の為に頑張ってくれてるのに、その頑張りを信じてあげない、って言うのは」
うーんと悩む。
どういうニュアンスがいいのか。
「可哀想、というか失礼と言えばいいかなー?」
腕を組んでうぬぬと唸る。
「信じてあげないでどうするのか……ううん」


答えになっていない気がしてきた。
「ごめんね。答えになってないかな」
あはは、と笑う。

嶋野陽子 > 12才で高校課程に進むだけあって、
この少女はやはり賢い。説明が複雑になるのではし
ょった『制度設計』にまで踏み込まないと答えられ
ないような質問を投げ返して来る。どうしようか…

「常世学園の組織が優れているのは、島の住民に危害
を加えない限り、異界から出現する異邦人全てに対し
て学園への入学資格か、異邦人街での滞在資格を与え
て、門の向こう側の住人にも、この島に守るべき場所
を作り出している事です。
また、不幸にも住民を傷付けてしまった異邦人や異能
者、そして罪を犯した学生や不法入島者のためにも、
落第街という居場所を用意する事で、危険な人物をそ
こに集めて、そこ以外の場所の治安を守るという、悪
どいけど効果的な方法も使って普通の学生や市民の安
全を守ろうとしてます。
それが倫理的に許されるかは別として、限られた人数
と時間で作り上げたシステムとしては、良く設計され
ていると言っても良いかも知れません」
と、島に渡る前に研究していた成果を披露する陽子。
この制度設計を理解した上で、保健委員という立場を
選んだのだ。

アリエンティア >  
首を横に振る。
ごめんねなんてことはない。
きっと、それがおそらく自分より年上である彼女が
体験し実感し――思っていることなのだとわかるからだ。

また理論的に説明する、大きな女性もまた――
様々なことを考えた結果、なのだ。

だから――……

「……わかんないこともいっぱいあるし、怖いなって思うし
 もし、もたくさん思う。けど――」

笑うことにした。一生懸命、幼い自分に教えてくれた人たちに感謝を込めて。

「一生懸命に教えてくれた、おねーさんたちを信じることにする!」

ここは安全。そう、こんなにも優しい人たちが言うのだから。

もしかしたらまた、怖くなることだってあるかもしれないけれど。

「ありがとうございました」

ペコリとお辞儀をして。
ふわりと特徴的な髪が揺れて。ふわりとシャンプーの香りがした

桐竹 琴乃 > 笑う彼女を見て。

ふへーと息を吐く。
ここしばらくぐらいの頭を使った気がする。
とはいえ、琴乃はほとんど意見は言えていない訳であるが。
隣を見て。
「やー、ありがとね。私難しい話とか全っ然出来ないから」
と隣の対照的に大きな彼女へと笑いかけた。

ふと。
お辞儀をした小さな彼女からふわっとシャンプーの良い匂いがする。

そういえば帰ってきたばかりでシャワーも何も浴びてないなと考えてしまい。
思わずすんすんと自分の匂いを嗅ぐ。
汗臭くないだろうか、と。

嶋野陽子 > やはり難しすぎる話となってしまった
ようだが、何とか不安は抑える事が出来たようだ。
「あ、最後にお二人のお名前、教えてもらえません
か?私だけ先に名乗ってしまったので…」と頼む
陽子。
「こちらこそ遅くまで長話してしまい、ごめんなさい」
と、二人に頭を下げると、ぬるくなったフルーツ牛乳
を一気に飲み干す陽子。

アリエンティア >  
「ううん……ありがと、おねーさん……」

安心したら、眠気が襲ってきた。
くぁっとあくびをして目をこする。

「ありえんてぃあ、ありえんてぃあ・るん・えーでるはると、です
 12さいです。高校課程べんきょうちゅうです」

だんだん言葉にも力がなくなってきて

桐竹 琴乃 > 「ん。桐竹琴乃。名前でも名字でも。よろしく」
陽子とアリエンティアへ、へらっと再度笑った。
「まー、特に何してる訳でもないけどカフェテラスでバイトしてる、ぐらいかなー」
頭の後ろで手を組んで。
そして改めて陽子を見直し。
大きいなあ、とそれだけの感想を抱いた。

「ととアリエンティアちゃん眠そうね」
安心して眠気が来たんだろう。
まだ支えてあげる程ではなさそう、には見えるが。

嶋野陽子 > 二人の名前を聞くと、
「ありがとうございます。 アリエンティアさんと、桐竹琴乃…先輩のようですね。私はまだ一年生ですので」
と返す陽子。
眠そうなアリエンティアさんを見て、
「ちゃんとお部屋に帰れますか?」
とアリエンティアさんに確認すると、
「我々もそろそろ部屋に戻りましょう」と提案する陽子。

アリエンティア >  
「うん……かえる……おやすみなさい……」

ふらふらと、歩いて自分の部屋に。
蛇行して、ごんっと壁に頭をぶつけたりしつつ。
ちゃんと部屋に戻ってベッドにだいぶした……

ご案内:「ロビー」からアリエンティアさんが去りました。
桐竹 琴乃 > 「まー、学年なんてあんましアテにならないけどねーそーいえば保健委員さんなんだね、嶋野ちゃん」
自己紹介の時の事をふっと思い出し。

つまり彼女も頑張っている一人であったワケだ。
胸の中にそれだけを一度だけ刻み。

んーと伸びを一つ。

「……大丈夫かなあ」
そして壁にごつんと当たっている小さなその姿を見送り。
「ん、そーだね。さっさと部屋帰ってシャワー浴びようかなー」
彼女に同意をした。

嶋野陽子 > 部屋でシャワーを浴びようと
言う桐竹先輩の言葉に、
「そうですね。私も部屋に帰って横になります、昨夜は
未明まで人探しでしたので」と言うと、フルーツ牛乳の
空き瓶をしまって、桐竹先輩に一礼してから自室に
向かう陽子だった。

ご案内:「ロビー」から嶋野陽子さんが去りました。
桐竹 琴乃 > 帰っていく彼女にひらひらと手を軽く振りながら見送って。

「人探し」
その単語を拾い出し。
「……大変だなあ」
何分の一もきっと理解できていないだろうけれども。
そうとだけ呟き。
彼女も一人だけになったロビーを後にした。

ご案内:「ロビー」から桐竹 琴乃さんが去りました。
ご案内:「食堂」に倉光はたたさんが現れました。
倉光はたた > 今日は居候先のヌシがいなかった。
どうしていないのかは、はたたの知る由もない。
ともあれ不在なら仕方ないし、こうして一人で食堂に来てみた。
どうやらここではおかねをつかうとご飯を食べられるらしい。
はたたは賢いのでそういうことも知っている。

きょろきょろと周囲を見渡しながら、カウンターへ。
おばちゃんが話しかけてくる。
そう、こういうとき注文するには、作法があるはずだ。
はたたは賢いのでなんて言うべきかしっている。

ばし、と自信満々に硬貨をカウンターにたたきつけた。

「めにゅーにあるものここからここまでぜんぶ!」

間違っていた。

倉光はたた > 『いやそれはないから』
とパートのおばちゃんに突っ込まれたので困ってぐるぐると頭を回していると、
お品書きを見せられたので、適当なものを指さす。
そうすると素うどんが出てきたので、それを持ってテーブルへと移動した。

だいぶはたたの歩く姿も堂に入ってきた。そろそろ人間を名乗ってもいいかもしれない。

「…………」
テーブル席に一人で座る。目の前にあるのは素うどん。
そして割り箸。
どうやらこの割り箸というのをつかって食べるらしい。
しかしこれでどうやって食べるというのだろうか。
ためしに割り箸を割らないまま丼に突っ込んでみる。
当然すくえない。

「…………????」

思わず背中の翼状突起がピンと立った。

倉光はたた > しかし。
ここでビリビリしてはいけない。
居候先の主にもむやみにビリビリしてはいけないみたいなことを
言われた気がする。
しゅん……と翼状突起が垂れ下がった。

がたん。
割り箸を手に立ち上がる。
そして他の席で食べている生徒へと接近していった。

『何あの子……?』
『この寮にいたっけ?』
『自販機と戦ってるの見た』

そんな囁き声も知らぬ顔で、箸を使って食事をしている生徒を
ガン見して回るはたた。
相手はかなり迷惑そうだ。

倉光はたた > 数分後。
はたたは素うどんの置かれた自分の席へと戻る。

「…………わりばし」

とりあえずこれが割り箸という名前のものであるということはわかった。
そして観察の結果、これはどうやら割って使うものらしい。

「…………!」

両手を割り箸にかける。
つまりこれを……こう!

  ベキッ!

「…………!!!!」

割れた。
もちろん失敗した。
片方の端が片方にくっついたまま、というだけではない。
片方が稲妻の落ちた若木のように真っ二つに避けている。
真似しようとしてもなかなかできないたぐいの過ちだった。

「う、うう……!!!!!」

ご案内:「食堂」にサヤさんが現れました。
サヤ > どうしよう……。今日は畝傍さんの分の夕飯は要らないということだったので、自分の分だけ料理するのも手間に思い、普段使わない食堂にやってきたサヤである。
そしてサヤは先程から、見慣れない、肩から突起の生えた少女をじっと観察して、迷っていた。
明らかに、割り箸の使い方というか、食事の作法を知らない様子だ。教えてあげたほうがいいのだろうか……。

おせっかい……にはならないと思う、このままではうどんも伸びてしまうだろうし……。
勇気を出して、そっと歩み寄り、声をかけた。
「あの……お箸を使うのは、初めてですか?よければ、お教え、しますけど……。」

倉光はたた > そもそも食器を使ってこの長くてのびのびしたものを
食べる必要などどこにもないのでは――?

はたたは唐突に悟った。
もう知らない! とばかりに手を丼の中に直接突っ込――
――もうとしたところで、歩み寄る存在に気づく。

「ん」
振り向く。

「オハシ……」
ぎゅっと引き絞られた唇。
無残な姿になってしまったそれを未練がましく両手で持ったまま、
近づいた少女へと懇願するような目で見つめた。
ちゃんと割れていたとしてもうまく扱えていたかどうかは怪しいところだ。

サヤ > 拒絶の言葉もなく、こちらを見るその目つきで、肯定の返事と判断する。

「あ、えと…その、今お持ちになっているのが、お箸です。」単語を繰り返されると、それの説明。自分もわからない単語が会話で出てきたら、それを繰り返すクセがあるので、同じと考えたのだ。

「ええと…でも割るのに失敗なされてますね、ちょっともったいないですけど、新しいのを…。」と、テーブルに置かれた箸立てから新しい割り箸を取り出す。
「いいですか、別れている方を持って、裂くように引っ張るんです。」パキリ、と軽い音を立てて割り箸が正しく2つに別れる。
拒否されなければ、無残な割れ方をした、相手の持っている箸を受け取って、自分が割った方を手渡すだろう。

倉光はたた > 「おはし……」
がくがくと首を縦に振って頷く。これはおはし。わりばしでもある。理解。

「…………!!」
見事に割れる箸。それを受け取って、魔法を目撃したかのように、目を見張る。
割り箸がちゃんと割れるのを間近で観察できたのはこれがおそらく初めてだった。

「はたた、も、やる」
今のを忘れまいとばかりに、はたたも箸立てに手を伸ばし、更に新しいのを数本手にした。
そして両手で持ち、今のサヤの手つきを模倣した。

  パキッ。

「おぉ……!」
割れた。見事に綺麗にふたつに。

  パキッ。
  パキッ。
  パキッ。
  パキッ。

「ぉぉぉ……!!」
どんどんどんどん割っていく――。

サヤ > 「お上手お上手」と相手が割るのを見て、小さく拍手をするが、次々と割り始めたのを見て
「あ、あ、一膳…ええと…ひ、一組で大丈夫ですよ。」慌てて、だがやんわりと止める。

「割るのは出来ましたね、次は持ち方ですけど……ええと、教えてたらうどん伸びちゃいますね……。」割り箸の割り方も知らない相手が箸の持ち方をすぐに理解して食べ始められるとは思えない。

「あの…お嫌でなかったら、私がうどんを持ち上げますから、それを食べるのはいかがですか、ちゃんと熱くないようにはしますから。」つまり『はい、あーん』の申し出、それが恋人同士でやるような行為だとはサヤは知らない、うどんが伸びる前に食べさせる方法が他に思いつかなかっただけだ。

倉光はたた > 「だ、だいじょうぶ」
何が大丈夫なのだろうか。ともあれサヤの制止には応じて、またがくがくと頭を振る。
非現実的な白色の髪が揺れた。
卓上には二つに割れたたくさんの箸が広がっている。

「ん……」
きっと箸はこう使うのだな、と思っているのかどうかはわからないが
割れた箸のうちの一膳を“グー”の形で握って食べようとしていたが、
サヤのさらなる提案に、ぽかんとした何も考えてなさそうな表情を向ける。

「(サヤを指差す)……が、はたた(自分を指差す)に、?」

サヤがそうするなら――ぱくぱくと口を開けて
持ち上げられたうどんに食らい付こうとするだろう。

サヤ > 「そうですそうです。あ、申し遅れました、私はサヤと申します。」やはり握り箸で食べようとしていた。私より身長も高いし、見た目は年上なのに、まるで小さな子供のようだ。何者なのだろう?

「お箸はこうやって持って。」先ほど自分で割った割り箸を正しく持って、見せる。
「こうやって食べ物を挟んで持ち上げます。」と分かりやすいようにゆっくりと、うどんを挟み持ち上げる。
「ふー、ふー。」まだ湯気を立てるうどんの息で冷ましてから「はい、あーん」はたたに食べさせる。

倉光はたた > 「さや」
もう一度サヤを指さして、名前を繰り返す。おぼえた。

「んっ」
差し出される箸の先に食らいついてングングとうどんをすすり、咀嚼し、嚥下する。
少女同士がうどんを食べさせあう微笑ましい光景――というよりは、
餌を投げられたコイが水面でパクパクがっついている情景が近いかもしれない。

「……」
その一連の所作が終わったら、今度は自分でも箸を手に取る。
サヤの手をじっと観察しながら、指を一本一本動かして、形にする。

「……あ、」
少し待つと、手がサヤと同じ形で箸を握る。
「…………!」
たし、たし、と、箸の先が合わさる。
「こう……!」
そこから先は早かった。
ひどくなめらかな動きで箸を持つ手が動く。
そうして、もともとそう量の多いわけではなかった
残りのうどんをどんどん平らげていく――。

サヤ > 「はい、サヤです。そちらは…はたたさん、でよろしいですか?」先ほど自分を指さしてはたたと言った。おそらくそれが名前なのだろう。

「あら……。」覚えが早い、たった一度見ただけで箸を使いこなしている。
あっけにとられて、瞬く間にうどんを食べつくす相手を見ている。

「す、すごい…!お見事ですはたたさん、こんな短時間で箸の使い方を覚えるなんて。」パチパチ、と小さく拍手。
感心しながらも、再び疑問があがる、一体この人は何者なんだろう。

「とても覚えが早いんですね、生まれつきですか?それとも、そういった異能をお持ちで?」

倉光はたた > 「くらみつ、はたた」
がく、と頷くように小さく首を前へ曲げ、かたい口調でそう発する。
自分がそう呼ばれる存在であることを、白い髪の少女は知っていた。
これでも、この常世学園に在籍する女生徒である――一応。

「?」
なぜそんなに覚えるのが早いのか、というサヤの疑問に――
はたたは、こて、と首をかしげる。
そしてしっかりと箸を握る自分の手を見る。
何か知らないものがそこにあるように。

「はたた、おぼえて、いた……たぶん」
首をかしげたまま、どこか他人事のように、自分の名前を言った。

サヤ > 「くらみつはたたさんですね、よろしくお願いします。」にこりと微笑み、軽く頭を下げながら、その口調に違和感を覚える。まるで、その名前に実感が無いような……。何か特別な事情がありそうだ。

「覚えていた、ですか……。」過去形の言い方、ということは、忘れていたのを思い出した、ということか?

「ええと……もしかして、はたたさんは、記憶喪失か何か…つまり過去の記憶を失くされているんですか…?」事情に踏み込む質問に、少し語気はが弱くなり、恐る恐るといったように聞く。
記憶喪失だとすれば、子供のような振る舞いも、すぐに箸を使えたことも、名乗る口調の違和感も納得できる。

倉光はたた > 「きおく……」
記憶そうしつ。
おぼえていたことをうしなうこと。
うしなう?

「なくしてない、ちがう」
子供がだだを捏ねるように首を振る。
じぶんは何もうしなってはいない。
「もらった、ばっかり」
こうして、いろいろ教えてもらって、得るものばかりだというのに。

はたた。倉光はたた。

そう呼ばれる存在は誰だというのか。

「…………」
無言のうちに丼を持って、口をつけてつゆを啜る。
他のテーブルの生徒がそうしているのを真似たのだ。

サヤ > 「そうですか、では失礼な質問でしたね。すみません。」目を閉じて、頭を下げる。
本人がそう言うのなら、きっとそうなのだろう。
こちらが知っているのは名前ぐらいのもの、否定する材料はないしそのつもりもない。
そして目を開けて、つゆを飲み始めた相手を、何も言わずに見守る。
この話はこれで終わり。

飲み終わりそうなのを確認したら「食べ終わったらあちらの棚へ食器を返すんです。その時、ごちそうさまと言うと礼儀正しいですよ。あと、食べ始める時はいただきます、です。」ルールと、マナー。先ほど見ていた限りでは、両方知らないようだ。だから教えておこう。口調も自然と、子供に教えるようなものになる。

倉光はたた > 「ん」

器を置く。つゆは飲み干され、すっかりカラになっていた。
頬にネギがついている。

「ん、ん、……ごちそうさま……ごちそうさま!」
言われるまま、がくがくと頷いて。真顔で、サヤに向かって繰り返し言った。声がでかい。
理解はできたらしい。
そして立ち上がり、丼を持って返却口へと向かった。
割りまくられた箸はそのまま放置してしまった。

一度サヤのほうを振り返る。
「サヤ、……あー――……」
その声に続く言葉を思い出せないまま、頭をバタンと一度下げて、そうして食堂を去っていく。
記憶そうしつの話はきっとすっかり心の見えない場所に追いやられてしまっていた。

ご案内:「食堂」から倉光はたたさんが去りました。
サヤ > 「ふふ」少しズレた理解が微笑ましい。口元を抑えて、小さく笑う。

「どういたしまして」あ、だけで終わった言葉。言いたいことを察して返す。
しかしいちいち動作が大きくて危うい、いつか頭をぶつけたりしないか心配だ。

去っていく相手の背中を見送ると、テーブルに散乱する箸を集める。とりあえず一膳は自分で使うとして、残りは持って帰って使おう。このまま捨てては木がもったいない。

そして、注文するために、カウンターへと向かって歩いて行った。

ご案内:「食堂」からサヤさんが去りました。