2015/07/18 のログ
■神宮司ちはや > (相手の博学さにへえ、と素直に感心する。
確かに見れば首元は人間と同じだ。
じゃあこのお兄さんは耳だけ猫なのか。しっぽはついていたっけ?とちらりとおしりの方を見てしまう。)
そっかぁ……首と顎……。
でもできたら猫アレルギー治ったりしたほうがいいなぁ。
首と顎が猫でも触れるのがいいし……。
(相手がさわるラムネ瓶を見て)
やっぱり、缶だとガラスの涼しさが出ないから駄目なのかもですね。
音も綺麗だし、青くて冷たいし。
(少し体育座りする膝を引き寄せて、顎を膝に乗せる。
恥ずかしそうに視線を彷徨わせる。)
ええ、えっと奉納舞とか神楽舞とか詩舞とか、そういうの……。
一子相伝とかそういう仰々しいのはなくて、普通におじいちゃんに教わったものです……。
■ヘルベチカ > 「しっぽはないぞ」
相手の視線が自身の臀部へ飛んだ瞬間に、
間髪入れずに笑いながら、否定の言葉。
どうやら、言われ慣れているらしい。
「残念ながら耳だけだよ。
そりゃまぁ、治ったほうがいいだろうな。治療法や薬があるのかは、残念ながら知らないけど……」
肩をすくめた。どうやら、本人も『耳に害がないか』以上のことは知らない様子。
「あぁ、それはあるなぁ。見た目は大事だ。
後は音なのかな。ビー玉の触れる音。風鈴みたいだし」
ビンの首を持って触れば、からりからりと、ガラス音。
「ははぁ。代々伝わる、的なやつ。
でも、男が舞うって、あんまりイメージなかったな。
能とか狂言とかは男性のイメージあるけど……」
■神宮司ちはや > あ、ごめんなさい!そっか、ないんだ……。
(間髪入れずに飛んできた声に慌てて視線を戻す。
やっぱりみんな気になる部分らしい。しっぽがあっても似合いそうなものなのに。
いささか残念そうな顔である。)
……ぼくも猫になれたらアレルギーとか気にしないでいいのかもなぁ。
(本気ともつかないような口調でそう呟いた。
ビー玉の涼やかな音が確かに風鈴のようで、耳を澄ます。)
風流ですね。ぼくも今度、ラムネ買ってこようかな。
(瓶を振る光景が眩しかったのか目を細めてそう言った。)
うーん、小さい子なら稚児舞とかそういうのあるし……
あと、おじいちゃんがいうには男の神職が巫女の格好をして舞う地域とかもあるって……。
なんでも昔の、日本の神話の偉い人達は異性装をして神降ろしして力を得たとかうんぬん、です。
(本人も詳しく知らないのか、ところどころ受け売りのまま怪しい口調で話す。)
■ヘルベチカ > 「謝らなくてもいいよ。何処迄猫か気になるってのはわかるし」
ゆるゆると首を振ってから、焼きとうもろこしを齧る。
逆の手で腰の後ろを、腰痛の老人のように手の甲でパシパシと叩いて。
「ま、しっぽがあるやつも、この島なら居るだろうし。
また次に会ったやつ相手のお楽しみにしとけばいいんじゃないか?
もう卒業していなくなるってわけじゃないんだろ?」
この島であれば、幼い頃から居て4年間で出る、ということも無いではない。
齧り、食べ終えた焼きとうもろこしの芯を透明な袋の中に収めて、
口を縛れば、ビニル袋の中へと放り込んだ。
「猫になって猫アレルギーだったら、なんていうか、死では……?」
逃げようのないアレルゲンに追われて、悶て死ぬ様子を想像したか。
少年はげんなりした様子。
「ラムネなら、これからいくらだって店に並ぶだろ。ここの祭りでも、露天で出るだろうし。まだ夏は長いさ」
少なくなったラムネに口をつける。
先程よりも気が抜けて、甘みが目立つ味が舌の上に乗って。
「あー。天照が男性のかっこして、大和武が女装して、に倣ってどうこうとかそういうやつか」
納得したように、数度頷いてから。
「巫女の格好するの?」
■神宮司ちはや > そ、そっかぁ……。他の猫耳の人もいるかな、会えるといいんだけど。
ええまぁ、ぼくはまだ学園に来たばかりだからたぶん会えると思います、ね。
(とはいえ猫の容姿を持った人は今日はじめて会った気がする。
案外レアリティがあるのかもしれない。今日出会えた運命に感謝しよう。)
ええー猫が猫アレルギーとか聞いたことないですよ?
きっと猫になれたら治ります!絶対!
(唇を尖らせて何故か必死で反論する。
まぁそう言いながらも話題がラムネに移るとすぐに表情を変え)
あ、ここでもお祭りってやるんですね。
結構人が来たりするんですか?
(首を傾げて尋ねてみる。
巫女の格好するの?と聞かれれば思わずぐっと押し黙る。
数秒気まずい沈黙が訪れる。俯いてつま先で地面をぐりぐりといじってから
真っ赤な顔で微かにこくりと頷いた。恥ずかしい。きっと笑われてしまう。)
■ヘルベチカ > 「猫かどうかは知らないけど、動物の耳ついてるやつなら会ったことあるわ」
思い返すように、視線を中へと彷徨わせてから。
「まぁ、性格に難があるから、頼み方上手にやれな」
小さく笑ってアドバイス。
「そりゃ、猫アレルギーの猫は、すぐに死んじゃうだろうからなぁ。
人間から猫になるなら、気をつけないと恐ろしいと思うわ。
でも、そもそも猫になるアテがあるのか……?」
とらぬ狸のなんとやら。猫だが。
少しすねた様子の相手に、少年は苦笑い。
祭りの様子を尋ねられれば、えぇと、と思い出すように。
「去年は普通に出店とか出てた気はするなぁ。
詳しい宗教上の話はわからないけど、普通に夏祭りやってた、気がする」
何月だっけなぁ、と、眉を寄せて首を傾げる。
盆前後だったような気もするが、しっかりとは思い出せず。
思い出すことを諦めた。
己の問いかけに押し黙った相手。
地雷踏んだかな、と口を開きかけたところで、見えた頷き。
「そっか。するのか」
少しホッとしたように、少年はそう言ってから。
「似合いそうでよかったな。俺みたいな顔してたら笑い話だ」
からからと、明るく笑う。
■神宮司ちはや > え?本当ですか?!
わぁ、お会いできるといいなぁ……!
あ、でも怖い人なんですか?どうしよう、うまくお願いできるかな?
(会ったことがあるという話にすぐ一人盛り上がる。
目をキラキラと輝かせて未だ見ぬ相手にどうお願いしようか考え始めたが、
猫になれるアテはあるのかと尋ねられると難しい顔をする。)
……まだ、ないですけど。
でもここなら不思議な薬とか魔法とかありそうでしょ?
そういう簡単で、ぼくでも使えそうなものなら頑張ります!
(ふんす、と意気込んではみたものの結局アテは無いことが伺える。
興味深そうに夏祭りの様子を聞き、)
そういえばもうすぐお盆ですものね。
お祭りあるなら、誰か誘ってみようかなぁ。お店も出るなら退屈しなさそうだし。
お兄さんはここに来てもう長いんですか?
(似合いそうでよかったな、という言葉にはなんだか複雑そうな顔をする。
自分としてはもう少しカッコ良かったほうがいいのだ。
例えば目の前のこの少年のように。
猫耳は無くて仕方ないけれど背が高くて明るく笑えるようなそういう人。)
今の話、内緒です。
別にお兄さんだって女装は出来なくないでしょうし……うーん?
でもかっこいいとか、そういう感じ……うーん?
(難しそうに首をかしげ、ヘルベチカをまじまじと見つめる。)
■ヘルベチカ > 「一見するととても愛想がいいが、内面は非常に…………」
口を開けたまま、固まって。
瞬きが増える。視線が、右上へ言って、左へ行って、下へ行ってから。
「…………まぁ、悪いやつではない」
結論を口にして、うん、と頷いた。
頭の上の猫耳が、心持ちへにゃっとしているような気もする。
「薬や魔法、って、まぁ、あるかもしれないけど。
だいたいそういうの、副作用も在るだろうから、期待しすぎないようにな……」
いい話には裏がある。そんなことは、この島でも同じである。
学園にはやってきたばかり、という後輩へと、助言というには浅い言葉だが、投げかけて。
「好きな女子でも誘ってみればいいんじゃないか?」
誂うように、笑って言った。
長いのか、と問われれば、目を閉じて、ゆるりと首を振って。
「俺もまだ二年目だよ。半分もたってない―――留年すれば4年より長くなるしな」
する気はないけど、と言う少年も、つまりは神宮寺よりも1年長いだけ。
「どっかで踊るなら、秘密にしててもばれないか?……まぁ、いいけど。秘密にしとくわ。
俺が格好いいっていうのは、いや、大丈夫か?
猫耳くらいしか特徴のない人間だぞ。目を覚ませ?」
相手の前で、手をパタパタと振って。
倒れた人間の意識を確かめるような仕草。
「でも、嫌なのか?そういう格好するの。なら、やめないのか?」
■神宮司ちはや > (ヘルベチカが口にする相手の印象に首を傾げて不思議そうに見る。
へにゃった猫耳に、何か相手とあったのかなとは伺えるがそれ以上は追求しなかった。
とりあえず伏せた猫耳もかわいい。ねこはよいものだ。
とりあえず副作用には気をつけるようとの助言にはわかっていますと元気よく応えた。
これはほんとうの意味ではわかっていないという態度だ。
好きな女子、と言われると急にどぎまぎとし始める。
視線のさまよい具合から恐らくそういった相手を思い浮かべているのが見て取れるだろう。
ほんのり頬を染めてから、小さく頷き)
……そうですね。ちょっと今度、聞いてみます。
(素直に受け入れて、そう返した。)
二年……それじゃあぼくよりちょっと先輩ですね。
あ、お名前聞いていなかった。ごめんなさい。
ぼく、神宮司ちはやです。中等部の一年で、式典委員なんです。
(ぺこりと頭を下げる。
目の前でパタパタと振られた手に、もうっ!とちょっとむくれて)
だって背がぼくより高いです。それにあんなに素敵なお耳があります。
それはつまりかっこいいと、思うんですけど!
(ぷぅと頬を少しだけふくらませて相手の手を軽く押しのける。
やめないのか?と聞かれるとすとんと表情が抜け落ちた。
聞かれたことが、意外だったかのような表情。
それから、視線が落ちて瞼が少し伏せられる。
陰った表情からはなんとも言えない心持ちが伺える。
きつく、自分の身体と腕を握りこんでから静かに言った。)
嫌とか、考えたことなかったです。
ぼく、それ以外にできること無くて……
それを放りだしたら本当に何も無くなっちゃうから、きっとやめられないんです。
それぐらいつまらない、普通のやつだから。
(それきり言葉を切って押し黙る。悲しみとも諦めともつかない横顔だった。
神社の木々を風がさわさわと揺らした瞬間、その顔がまた普通に色を取り戻す。
今の忘れて下さいとでも言うように、ふっと穏やかな表情に切り替わると立ち上がり、おしりをパンパンと手で払った。)
ぼく、そろそろ行きます。
舞の練習はまた今度にします。
(そう言ってスポーツバッグを肩にかけ直した)
■ヘルベチカ > 好きな女子、という単語に対して、神宮寺が頬を染める反応をすれば。
「お。いるのか、好きな女子。いいな。いっとけいっとけ」
外野ならではの勝手さで、楽しそうな声色で唆す。
いいねぇ、若い奴は、なんて笑いながら言っているが、少年自身も別に歳をとっているわけではない。
そういう気分、というやつなのだろう。手を組んで、うんうん、と頷いている。
「ん。あぁ、そういえば、そうだ、名乗ってなかった。神宮寺か。
俺は猫乃神。猫乃神ヘルベチカ。図書委員だよ。猫耳の猫乃神。覚えやすいだろ?」
両の猫耳の先端を、両手で摘んで。冗談交じりの声色でそう言って、笑う。
「いや、背は高いけど、お前だっていずれは伸びるさ。
今の時点で俺より神宮寺のほうが高かったら、俺がべこ凹みするわ……
耳はなんていうか、かっこいいに属するのか……?いや、ありがとう……」
押しのけられた手を、ぷらぷらと揺らしてから。
相手の表情の代わり方に、首を傾げた。
嫌ならやめる。別にそう、おかしな発想でも無いと思えば、不思議そうな表情。
そして、帰ってきた言葉に、ふんふん、と頷いてから。
「できることが無いといけないんだったら、俺は死んじゃうんじゃなかろうか。
耳も、あるだけで、これで何ができるでもないし」
あっけらかんとした様子で、そんな言葉。
頭の上。ふるふると震える猫の耳。
「お前が捨てたくないんなら、続ければいいけどさ。
持ってると嫌な思いをするものを持ってると、多分自分が今よりずっと、嫌いになるぞ」
陰の感情を込めた相手の横顔を見て、ラムネのビンを手にとって。
「それを好きになるか、無理なら捨てた方がいいと思う。
じゃないと、多分、普通ですら居られなくなるんじゃないか」
ビンに口をつけて、傾けた。最後の一口が、流れ出る。
傾け過ぎたか、ビー玉がひっかかっていた出っ張りを越えて。
ビンの口をふさぐように、転がり落ちた。
口元から離し、石段の上へ置いても、ビー玉はそのままで。
立ち上がった神宮寺を、少年は見上げる。
「あぁ、邪魔したみたいで悪かったな」
■神宮司ちはや > ねこのかみ……猫の神様?
ねこのかみへるべちか……!かっこいいお名前ですね。
(何やら相手の前で合掌しつつにゃごにゃご頭を下げる。
猫の神様のご利益でも受けようという態度。)
猫耳はかっこいいしかわいいし良いものです!
(勢い込んで断言、力説する!そう、ねこはよいものだと信じて疑わない。
ヘルベチカの返答には居心地悪そうに立ち尽くし、黙って聞いていたが
そっと顔を伏せたまま囁くように、)
ぼく、普通でいたいのかそうじゃないのかもわからないんです。
捨てられるのかな、本当に?
今だって別に自分がすきなわけじゃないから、これ以上先の嫌いがあるとは思えないですけど……。
まだ、どっちにするかは決めてません。わからないんです……。
(ごめんなさいと最後に付け加えると頭を下げた。
それからするりと顔を上げるとふ、と笑い)
いいんです。今やっても気が散っちゃうから。
もし今度また機会があったらぼくの舞、見てください。
その時はヘルベチカさんの前でも舞える勇気が出ると思いますから。
(それじゃあ、と手を振って足早に鳥居をくぐり階段を降りる。
どこか後ろめたいかのように振り返りはしなかった。)
ご案内:「常世神社」から神宮司ちはやさんが去りました。
■ヘルベチカ > 「名は体を一切表さないの象徴 猫乃神ヘルベチカ 猫乃神ヘルベチカをよろしくお願いします」
お祈りポーズの神宮寺に向けて、両掌を向けて、どうどう、と制するように。
態度だけ大物っぽい。
「俺にとっちゃ猫耳は別に格好良くはない分野なのであるが、
神宮寺くんは格好いいという……そして可愛くて良いとか最高かよ…そうでもないわ…」
己の頭にひっついているものについて熱弁されれば、
頭の上、猫の耳を摘んで、伏せるように引っ張った。
「その歳で将来のなりたい自分を全部決めてそれに向けてレール引っ張って、
一歩もムダにしないように活動してたら、そんな奴気持ち悪いわ。
自分ってのは何処迄も嫌いになれるからな。
今すぐ決めなくてもいいだろうけど、決めないまま終わると、きっと後悔すると思うんだけどなぁ」
いや、あやまらなくても、と少年は首を横に振って。
「見せてもらえるなら、いくらでも見るさ。
その時が来たら、ま、気が向いた範囲で見せてくれよな」
振り向かない相手の背中へと、パタパタと手をふって。
鳥居の向こうへ向けて去っていく背中を見送った。
■ヘルベチカ > 蝉の鳴く境内の中。
気づけば時間は過ぎて、空は暮れの赤を得始める。
薄ら染まった空色を見上げながら、少年は開いたラムネの瓶を手にとって。
その底面を、かつん、かつん、と石段へとぶつける。
口の部分に詰まったビー玉を落とそうとするように。
「なんか、皆は皆で随分と大変なんだな」
ぼんやりとした感想を口に。
■ヘルベチカ > くぁ、と。口を開けてあくび一つ。
同時、少し強く、石段へとぶつけたビンの底。
その衝撃で、瓶の口からビー玉が外れた。
からん、からんと踊るように、ビンの中で跳ねまわる。
あくびした口元をもぞもぞとさせて。
「とりあえず、俺も帰るか。一雨来たら、たまったもんじゃない」
言って、立ち上がった。ビニル袋の中へと空きビンを放り込めば、
その袋を再び手にとって、歩き始めて。
ご案内:「常世神社」からヘルベチカさんが去りました。
ご案内:「常世神社」に三枝あかりさんが現れました。
■三枝あかり > 夕暮れ。
常世神社の境内にある休憩所。
ここに座って三枝あかりは一息ついた。
夏季休講中であっても生活委員会の仕事はがむしゃらに来るのである。
食事を取る時間すらない。
ので、今日はここで弁当を食べて次の現場に向かうことにした。
■三枝あかり > 麦茶と幕の内弁当をベンチの上に載せる。
焦って麦茶をこぼしてはならない。
ドジって弁当を倒してはならない。
座りながらの弁当となれば、精妙なる指使いが要求される。
まず幕の内弁当の全容を確認した。
塩が振ってあるであろう鮭の切り身、煮豆、高野豆腐に揚げ物。
壮麗たる顔ぶれ。よくもここまで詰まったものだ。
だがまず第一の懸案。ご飯が少ない。
白いご飯がなければ、この具沢山もどこか空しい。
ぱっぱと具を片付けて、揚げ物でご飯を食べる。これだ。
■三枝あかり > まずは先手。
煮豆を片付けようと積極的に箸を滑らせ、猛攻をかける。
煮豆の塩気、これは塩鮭の影響だろうか。
麦茶を消費しながらこれを仕留める。
バランの隙間に何と、伏兵。
それは具と具の主張に隠されたデザートのオレンジだった。
これには運が絡む。
デザートのオレンジから出た汁がご飯や具を汚染していれば敗戦は免れない。
そっとオレンジが乗った容器を持ち上げる。
焦るな、クールに。落ち着け、クレバーに。
……オレンジの汁は、こぼれていない。
心の中でガッツポーズを取る。
とりあえずこのオレンジは、弁当箱の蓋に乗せて後回し。デザートというヤツだ。
ご案内:「常世神社」に朽木 次善さんが現れました。
■朽木 次善 > バインダーを片手に、反対の手でペンを持ち、頭の裏を掻きながら境内に入ってくる。
もう既に三枝とは違い食事は軽く済ませ、
公共事業としての次の現場の資料を当たりながらなんとなく座れる場所を探していたのだが。
丁度弁当の事業仕分けを行っている三枝明かりの姿を見つけて、
驚くと同時に苦笑いを浮かべた。
……何故か、見てはいけないものを見たような気がして。
「あ、すいま、せん……。
先客がいらっしゃったとは……。
お邪魔、でしたかね……」
食事中、邪魔以外の何者でもないよなぁ、と自分で感想を抱きながらも相手に尋ねた。
■三枝あかり > 塩鮭の攻略に取り掛かる。
先ほどの煮豆の脅威が、この塩鮭の手の者でなければいいのだけれど。
一口、塩鮭を口にして顔を顰めた。
なんて塩辛い。これではご飯の消耗は免れない。
先ほどの煮豆は、こいつの息のかかった猛者だったのだ。
ご飯を消費しながらこの塩鮭を食べる。
……まずい、いや弁当はまずくない。
とにかくまずい事態だ、ご飯が消費されてしまう。
最終目標は揚げ物にソースをかけて白いご飯で勝つ、この道のみ。
その時、声をかけられて慌てる。
「あ、朽木先輩。その、生活委員会の……私…」
むぐむぐ、ごくん。とりあえず口の中のものを飲み込まなければ。
「ゴホン。生活委員会の夏季会議の時に一方的に顔を覚えました、三枝あかりです。よろしくお願いします」
挨拶を済ませて、隣へ手を振る。
「あ、どうぞ。弁当の蓋と麦茶が置いてあって狭い…ですけど……」
今までの戦いを見られていただろうか。恥ずかしい。
■朽木 次善 > 「ああ、大丈夫、ですよ。
取りませんので、それに、食事中に邪魔をしたのは俺ですから。
すいません。取り込み中に」
咀嚼し、慌てて食べ物を飲み込む三枝に苦笑を漏らして肩をすくめた。どうぞお食事を続けてくださいと付け加える。
座ることを促されるが、食事をとっているのを邪魔するのも憚られたので無言で手だけを翳してそれを辞して、
「三枝サンですか、ああ、成る程。近くで作業をしていましたね。
こちらも業務中だったので声を掛けることはできませんでしたが……。
お仕事、ご苦労さまです。委員会の仕事は順調ですか?」
これは、お互い様ですが、と付け加える。
「……今日はこの時間でも少し暑いですね。
外での作業、特に日中は、仕事熱心な方から倒れていくので、気をつけてください。
俺も去年、所属していた班の一番最後に熱中症になりましたよ」
冗談めかしてそんなことを言いながら苦く笑った。ちなみに、ただの事実だった。
■三枝あかり > 「取りませんて………」
思わず苦笑した。でも、今弁当を食べなければ死に繋がる。
塩気は辛い(つらい/からい)が、塩分を取ればそれだけ頑張れる。
「いえ、食事中失礼します」
裂帛の気合を持って箸を動かすも鮭の塩味にどんどんご飯を削られていく。
とりあえず鮭を半分ほど食べたところでそれを置く。
こいつとの戦いはあまりにも危険だ。
「はい、とりあえず場数を踏んで仕事の内容を覚えている最中です」
「朽木先輩も仕事、お疲れ様です!」
にっこり笑って答えた。
ただ、ただ弁当への勝利を求める。
視線が向かう先は割り箸と一緒に渡された指先ほどのプラ容器に入ったソース。
弁当の蓋にはオレンジがあり、ソースを溢す愚を避ける意味でも弁当箱を斜めに傾けた。
四辺の隅に配した揚げ物へソースをかける。
「そうですね、かなり暑いです……」
「あはは、そのジョークはかなり面白いです」
「朽木先輩、仕事熱心そうに見えますけどね!」
そう言いながら視線を下げる。
フライの衣はソースと馴染み、白いご飯との組み合わせで天上の佳味を約束する色に染まっていく。
■朽木 次善 > その激烈な食べっぷりは他の男子が見れば驚くかもしれなかったが、
同じ生活委員会として体力が基板になっていることは十分承知していたので、
頼もしさ以外を感じなかった。それもまた失礼な話ではあるが。
塩鮭も、海より川へ登って来た時の気概は既にない。
勝敗がすでに決している勝負の先を見据えながら、昼間に続いての同胞への興味が胸に湧くのを感じた。
「いやいや、俺は適当な方ですよ。
もっと仕事熱心な先輩に当たった時は、まず箸を置くことをオススメしておきます。
嗚呼、先輩らしいことを初めて言った気がするなあ」
資料を捲りながら頬をかき、三枝へと言葉を投げる。
胸に沸いた興味を、直接本人に当たらない程度の強さでゆるりと投げた。
「……こんな時に伺うのは何ですが。
何故、三枝さんは生活委員会に……?
きっと、もう少し華々しい委員会や、他の活動団体はあったと思うのですが。
……自分が言うのもなんですけれど」
■三枝あかり > ソースの味を確かめた上で勝利を確信する。
これなら揚げ物を食べながら塩鮭に挑める。
この魔物を必ずしや討伐せしめる。その気概が沸いてきた。
麦茶のストックは十分、高野豆腐も良い感じに残っている。
「あ、あははは……ごめんなさい、今お弁当を食べないとすぐ次の仕事で…」
「食べながら話をすることを許してください」
でも、仕事熱心な先輩と会ったら気をつけますと頭を下げた。
そう、頭を下げた。
その瞬間、精妙なる手先の動きとボディ・バランスで傾斜をキープしていたのが一瞬ブレた。
塩鮭が弁当を予想外に横滑り、隅に溜めていたソースにべしゃりと浸った。
ソースが染み込み、暗澹のヴェールを纏った塩鮭は視覚からも凶悪なまでの塩辛さを見せ付けている。
「……私、ですか?」
「あの……二年の川添孝一って知っていますか?」
「兄なんです、実兄。それで、兄の勧めで入ったんですよ」
「………兄の言うことを聞いたの、久しぶりでしたね…」
かけたソースが多すぎたことを悔やむ隙もなく。
悲壮なまでの覚悟、それをねじ伏せるための克己と共におかずへ最後の攻勢をかけた。
■朽木 次善 > ペース配分を考えて食べている事が分かり、
そこで三枝あかりから発せられる謎の圧力の正体がわかった気がした。
この子は今誰よりも真摯に、自分の弁当に向き合っているのだろう。
邪魔をしてはならない。自分の本能がそう告げていた。
だが、川添の名前が出てくると、意外な名前を聞いた、と、
自分の興味を抑えきれずに言葉が表出した。
「嗚呼。川添君の。
ええ、知っています。直接の面識はありませんが、何分目立つ生徒だと聞いていますので。
人づてに良く名前を聞きますし、鳴り物入りで入ってきたとき色々と噂も立ちましたから……」
へえ、そう、ですか。と一人納得したような言葉を続けた。
噂の川添君は、そこまで……他人に勧める程度には、生活委員会というものに意義を感じてくれているのか。
だとしたら……それは、聞いている噂よりもずっとイメージがズレる。
心のなかで謝罪を述べながら話を続ける。
「実際、どうですかね。
その兄の言葉は正しかった、ですか……?
先の作業を見る限り、やはり地味な作業続きですよね、この委員会」
あくまで自分以外の。
外側の意見を集めるような口調で、三枝あかり自身が仕事に従事する理由を尋ねた。
■三枝あかり > 高野豆腐。塩鮭。麦茶。塩鮭。ご飯。塩鮭。
コンボで鮭を片付けにかかる。
そして、ああ、そしてようやく。
白いご飯と揚げ物という至尊に辿り着いた。
このソースが適度にかかったトンカツで白いご飯を食べれたら、私、次の仕事頑張れる。
「そう……ですね。有体にいって兄は不良だと思います」
「今は本人は元・不良だと言って回っているようですが」
「どうでしょうね……私にはよくわかりません」
そして食べた揚げ物。
それは魚介の練り物を揚げたものだった。
『それはトンカツじゃない。騙して悪かったが幕の内でな』
どこかの誰かの悪意の声が響いた。
何と空しい幕切れだろう。もそもそと残った弁当を食べ終えた。
「そうですね、地味な仕事だと思います」
「私は戦闘向きじゃないので、転移荒野で異邦人を探すこともしませんしね」
「でも……人がいつも当然のように持っている『便利』を守るというのは」
「……悪い気持ちは、しませんね」
そう言って満面の笑みで残ったオレンジを食べた。
これだけが救い。これだけが癒し。
最後に麦茶を飲み終えてごちそうさま。
■朽木 次善 > あの兄にして、この妹、とは自分には思えなかった。
そういえば苗字も違う、本人も久しぶり、という単語が使われたくらいだ。
きっと複雑な家庭の事情があるのだろう。
「そうか、川添君は実働部隊でしたね。
あちらにも俺も知り合いがいるので、苛烈さは話だけ伺ってます。
常に仕事があるわけではないですが、有事にはこうやって話も出来ない程度だとか。
そんな中で働いていてなお、妹にその支える仕事を薦められるというのは、
とても強いことだと、俺は個人的には思いますかね」
全てを食べ終えた三枝あかりを見ながら、弁当に黙祷を捧げる。
こればかりは、相手が悪かった。
次に生まれ変わるなら、もっと緩慢なコダワリのない者の弁当に生まれてくるといいと思う。
「一つだけ、伺っていいですかね。
これは……そう、ですね。意地悪な想定で……。
もしかしたら、気分を害されるかもしれませんが……先輩として、きちんと嫌われてでも。
少しだけ、伺っておきたい言葉なので」
食事を終えたことだけを確認して、一つだけ、尋ねたいことがあった。
「もし、俺達生活委員会が……その誰かの『便利』を守るために。
他の『便利』を害さないといけないことが分かったとき。
……三枝サン、貴方はどうしますか。
どう思うか、だけでも結構です。これは、俺自身も常に悩んでいることですので」
■三枝あかり > 「はい、兄は掃除をするだけでなく、転移荒野で敵対的怪異と戦ったり…色々です」
「怪異対策室、という生活委員会の下部組織があることを知ったのはかなり後になってからです」
複雑な表情を浮かべる。強いこと。
強さとは一体なんだろう。強かったことが一度もない私にはわからない。
「………兄は…強いのなら、その強さを最初から正しく使うべきでした」
弁当の空き箱をテキパキと回収して食事終了。
次からこの店の幕の内弁当は避けよう。そう思いながら。
「ん………」
困った表情を浮かべた。
自分はただ掃除をしているだけで、誰かの『便利』を害するなんて。
一度も考えたことがなかった。
それでも相手が真剣だとわかると、少し迷って答えた。
「鉄道が網の目みたいに張り巡らされたら、きっと騒音で眠れない人も出ると思うんです」
「いえ、鉄道委員会が悪いという話ではなく」
「誰かの『便利』と、誰かの『不便』はきっと表裏一体で」
相手の顔を見ながら、はっきりと言った。
「……それでも、生活委員会は誰かを不幸にするために動いてはいけないんだと思います」
首を傾げて言う。
「あっ……でも侵略的怪異災害と戦うのも生活委員会の仕事で? その怪異にも事情があって?」
自分でも上手く飲み込めていないのか、疑問符が続いた。
■朽木 次善 > 「元々、対策室自体が生活委員会の中ではかなり特別な立ち位置ですからね。
最初はどの対策室も、一時的な異常への対応として作られた部隊だと俺も聞いています。
恒常的にその異変が認められる物に限り今も怪異対策室のように存在しているんだとか」
だからこそ、現在も残っている対策室は全て、かなり特殊に厄介な物を相手にしている。
怪異対策室に志願して入る、とそれだけで整備課などの部署では変わり者の烙印は避けられない程度には。
だが、それを生業として生きていける程に強いのであれば、彼女の言う通り川添という男は、
正しく使うべき程度には強いということなのだろう。
三枝あかりの言葉を、沈思して受け取る。
はっきりとした言葉遣いから敏い子であると見ていたが、
どうやらそう大きくは外れていなかったらしい。
「そう、ですね。その『不便』が『便利』である立ち位置の人は、必ずいます。
鉄道委員会のその例えは、とても素晴らしい物だと思います。
漠然とした問いに対して、とてもわかり易かった」
もちろん、鉄道委員本人に告げるのでないならば、という前提はありますが、と付け加える。
「きっと、同じように、俺達の活動も『不便』と感じる者に出会うと思います。
もちろん、そんなものに出会わないことが最良ですが、そんな追い風の環境ばかりではない。
風紀には風紀の、公安には公安の、逆風というものはそれぞれにありますからね。
そんな中、きっと活動を続けていくには『組織』としてやるべきことと以上に、
組織に所属する『個人』として信じる物が必要なんじゃないかと、俺は思っています」
少し、難しい話を、そして説法のようなうさん臭い話をしてしまったか、と首筋を掻く。
彼女の真っ直ぐさが、どこかで折れてしまわぬようにと先回りしたつもりだったが、
……少し、自分の悪い癖が出たようにも思えた。
「誰かを不幸にしているために働いていないというキミの言葉が、
きっとその逆風が吹いたときにキミの背中を押してくれるんじゃないかなと思います。
なんか……少しばかり先に吹いてきた先輩風の方が、今は厄介でしょうけど」
いつの間にか饒舌になっていた自分を顧みて苦笑いを零した。
■三枝あかり > 「そう……なんですか………」
怪異対策室の成り立ちを聞けば聞くほど。
兄が室長をしている怪異対策室三課が遠く感じた。
なんでそんなことをしているのだろう。
ただ……私は、兄に兄をしていて欲しかっただけなのに。
「そ、そうですね……鉄道委員会の方には、申し訳のない例え話でした」
頬を掻いて先輩の話を聞く。
「生活委員会にとっての逆風が吹く時がある、と…?」
視線を下げた。それは大分難しい話だ。
『便利』の中の『不便』、『便利』と切り離せない『不便』、あるいは『便利』の対価の『不便』。
それらがあってもおかしくはない。当然の話だ。
そこで話された個人の話は、とても興味深く、少しだけ怖い話に感じた。
「いえ……私にとって、とっても大事な話だったと思います」
「私にとって迷う時はきっと必ず来て」
「その時に、先輩の言葉を必ず思い出します」
頭を下げた。今度は弁当なんか注視していない。
「ありがとうございました、朽木先輩」
「自分が何をしたいのか、何のために生活委員会の仕事をするのか」
「もう少し、考えておこうと思います」
それだけ言って立ち上がる。
「次の作業が、今日最後の掃除があるので先に行きます」
「それではまた会いましょう朽木先輩。その時までに答えを探しておきます」
そう告げてあかりはその場を立ち去っていった。
ご案内:「常世神社」から三枝あかりさんが去りました。
■朽木 次善 > 「ええ、楽しみにしておきます。
すみません。今度は食事中以外のときに声を掛けることにします」
謝辞を述べて、三枝の姿を見送る。
急に現れた先輩がする話では、なかったかもしれない。
本人の真面目さや熱心さで、耳を傾けてくれてはいた物の、負担をかけたことには変わりがなかった。
だが、この付近で仕事をすることを考えると、
それは学園の中心で仕事をしていることよりは、ずっとそういった危機に近いとも言える。
これは幸か不幸でいえばただの不幸であり、
だからこそ、彼女がそんな逆風に一瞬でも迷い、戸惑うことなきようにと思って告げた助言だった。
「杞憂であれば。
ただ、口うるさい先輩がいたというだけのことになるんだが。
そうあることを、俺も願ってる、かな」
神社の境内で神社の方を眺めながら呟いた。
■朽木 次善 > そして、噂には聞いていたが川添孝一という青年、あるいは少年の像が、少しずつ固まってきてはいた。
レイチェルという風紀委員の少女が告げていた彼の像よりは、もっと具体的な形で。
そして、怪異対策室という特別な教室に所属していることから、
彼自身にもより興味は強いものとなってしまった。
自分の中にもたげた欲の大きさに、苦笑を深くした。
話がしてみたいと、純粋にそう思ってしまう。
ギルバート少年に対して抱いたような、
自分とは違う立ち位置で己の正義を思う者たちの正義が、
三枝あかりの進む先で逆風にもなりかねないという事実が。
……あるいは自分が本当に整備したいインフラの形であるのかもしれないとも思う。
『空歩き』たる少女が空を飛ぶ理由を確かめようとした理由もそれだ。
単純に、空をとぶ少女が空という形で逸脱をする前に、
空を飛ばなくていい環境か、あるいは空を自由に飛べてなお何一つ不自由しないインフラを、
どうしても整えてみたいと思ってしまったから。
口元を抑えて、誰にも見えないようにする。
これは、悟られてはならない。
自分が相手をしている物の正体は、誰にも知られてはならない。
誰にも気付かれないことこそが、生活委員のあり方だと、個人的には思っているのだから。
■朽木 次善 > 「『組織』の有り様と。
『個人』、ですか」
溜息を吐く。
「それは一体。誰への問いかけなんでしょうね」
鬱屈した物を吐き出すように、深く深く続いた溜息を再び吸い込み。
境内を後にした。
ご案内:「常世神社」から朽木 次善さんが去りました。
ご案内:「常世神社」に谷蜂 檻葉さんが現れました。
■谷蜂 檻葉 > サクサクサク、とテンポよく地面をスニーカーが叩く。
いつもならゆっくりと、体力を使わないように歩いてくるのだが、今日は―――今はそれではよくない。
「ハッ―――ハッ――――ハッ………はぁっ…………ふぅ………はー………やっぱり、このぐらい走ったほうが、いいわよね………。」
クールダウンに社を抜けてからゆっくりと速度を落とし、神社の前の石階段に腰を下ろす。
「けほ、……『水を集めて』……ハ、ふぅ」
全身の汗の香りを一時的に蜜のような甘い香りに変えて妖精を呼び寄せる、楽しげに檻葉の周りを周回した”彼女”は、ウィンクひとつ落としてこぶし大の水球を集めた。
(……手ぶらで水を飲めるっていうのはやっぱり便利ね。)
そんなことを思いながら、おにぎりを食べるようにして水を口に入れていく。
■谷蜂 檻葉 > ジョギング、というには少し遠く離れているが空気の良い長距離走れる場所としてパッと浮かんだのがここだった。―――そう、ダイエット用のジョギングコースである。
妖精魔術の訓練兼用として、ここを選んだが思った以上に効果が見込めそうな気がする。
「よし、っと。」
息を整えること数分。
ほぼ唯一の荷物であるタオルで体を拭いて、軽くまた動かしていく。
■谷蜂 檻葉 > 体に熱を持ちすぎていないことをチェックして、石階段を登っていく。
今日の目的は二つ。
常世神社がジョギングコースに相応しいかどうかの確認。
そしてもう一つが、あまり練習ができない土の妖精の呼び出しの練習である。
境内を進み、以前足を運んだ小さな鎮守の森へと入っていく。
■谷蜂 檻葉 > 「おいで。」
静かに土を撫でるようにして、片足をつけて声をかける。
目を凝らし、そこに居る誰ぞかに語りかけるように。
妖精魔術を使うにつれ、段々変化があるということに気づいたのは最近のことだ。
最初は、心象的な変化だと思っていた。
風が頬を撫でるようにしてそよぐ。
水の波紋に、表情を感じる。
風音に混じって微かに、誰かの笑い声のようなものが聞こえる。
潮騒に、誰かの話し声のようなものが聞こえる。
妖精達を認識して、その力を借りるという理解から『其処に居て見えない者』の事を想うが故に勝手に想像しているだけだと思っていたのだけれど――――
「よし、それじゃあ――『柱を建てて』」
薄っすらと、空中に幽かな光がふわりと浮いてそれらがくるりくるりと踊る度に土が一点に集まっていく。