2015/09/04 のログ
東雲七生 > 「バイトか何かして金貯めようかなぁ……」

こういった変化に富んだ場所に住んでみるのも悪くない。
そう思いながらひとりごちた七生の視線の先に、仲良く手を繋いで歩く母娘の姿が映る。

買い物帰りなのだろうか、母親が持っていたビニル袋を指しながら娘が何か言っている。
周りの喧騒が大きく、会話の内容までは聞き取れないが、母も娘も良い笑顔だった。
きっと帰ったら夕飯の準備を一緒にしたりするのだろう。

「……良いなぁ。」

遠ざかるその背中を眺めながら、ぽつりと呟く。
自分にもあんな風に母親と買い物に行ったことが、果たしてあったのだろうか。

思い出そうとしても、その光景は霞が掛かった様にぼやけていた。
記憶が崩れ始めてから数日経ち、初めのうちは細かい部分だけだったのが今では明らかに穴だらけになっている。

東雲七生 > こうして日に日に記憶が崩れていくと、ある考えがどうしても頭を過る。
自分が本当は人間なのでは無く、異邦人なのではないかと。
春先に門を通ってこちら側へと来て、それまでの記憶の一切を失い、仮初の記憶を作って居ただけなのではないかと。
……この世界に、自分が居た過去は無いのではないかと。

「……んー。」

きゅっ、と目を瞑り首を振って頭から嫌な気持ちを押し出す。
そんなはずはない。
自分は東雲七生、れっきとした日本人だ。
父親も母親も居て、もちろん祖父も祖母も居て、ついこの前まで本土で生活していた──

──“筈”である。

だが

それを証明するものは、何も無い。

東雲七生 > 「はぁ。」

溜息を一つ。

茜色に染まった西の空を横目で見て、再び通りを行き交う人々へと目を戻す。
本当に様々な人たちがこの島には居るのだと実感する。

きっと、それぞれに掛替えの無い過去があって、自分にはそれが──

「……ループって怖いな。」

再びの溜息と共に自嘲するように呟いた。

東雲七生 > 「……よし。」

帰ろう。
そう思いベンチから腰を上げると、一度大きく背伸びをする。

たとえ過去が曖昧になって来てるからとはいえ、常世学園に通い出してからの記憶は健在だ。
少なくとも、此処で数ヶ月を過ごした東雲七生は確かに此処に居る。
そう思えば多少はマシな気持ちになる。

上着のポケットから携帯端末を取り出して、メールを確認。
トトからの遊びの誘いが届いて、それには返信済みだ。
他にメールは来ていないかと確認して、端末を仕舞うとぶらぶらと歩き出した。

東雲七生 > 目的地は、この異邦人街と落第街のちょうど境にある。
異邦人街の中でも治安が悪いと聞いていたが、数日居候してみて分かった。
確かに治安が悪い。
──とてもじゃないが、女子生徒が一人暮らしするには絶対向かない。

「……まあ、そこがらしいっちゃらしいけどさ。」

苦笑いのような顔で零した独り言は、雑踏の中で掻き消せられる。
それでも今、自分が頼りに出来るのは彼女だけだ。
正確には、彼女との距離感だけだ。

近過ぎず、遠過ぎず。
必ずしも自分の全てを肯定してくれる訳では無い距離。
それが記憶に引っ張られて曖昧になりつつある東雲七生という自我を何とか引き留めていてくれている気がする。

(──すこしあまえすぎてるかもな。)

そんな事をぽつり、考えながら七生は居候先へと向かった──

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に六道 凛さんが現れました。
六道 凛 > ――さて。

静かに歩く。今日は、何をつくろうか、なんて。
献立を考えながら一歩一歩、前にいく。

商店街で、今日のセール品は枝豆。白菜、豚肉……
図式のように組み立てつつ、歩きながら身体にあるタップを操作。
レシピを検索しつつ、歩く。
もう二重世界を意識しながら、こうして人の中を歩くのには
そこそこ慣れてきた、というところだ

六道 凛 >  
「白菜一つと――ほうれん草。あとは、大根。後で取りに来ます」

注文をしてから、預かっててもらう。八百屋さんにいいものをチョイスしてもらって。
そのまま違う店に。残念ながら、重いものを長時間持つのは慣れてない。
だからこうして預かってもらうのはいつもだ。
八百屋の主人は、気前よく、あいよ といってくれて。
そのままの足で肉屋さんに。

「コンソメと、豚バラ肉を6――800で……」

あんまり自分は食べないけれど、きっと家主と同居人は
食べるはず。肉ばっかりでなくまんべんなく多く食べる節があるので
量はちょっと多めに。

「あと、コンソメ。ください」

それだけ注文してまたあとでと口にして、更に奥へと

六道 凛 > あとは、味噌と……お米は。
持って帰れない、今度買ってきてもらおう。
まだあったはずだ。あとは卵、牛乳。
食パン……こんなものかな?

確認しながら、買い物を済ませる。
歩みはゆっくり。周りを見て人を見て
機微を気にするようにしつつ。

たまーに、値切ってみたりもする。
今回は失敗に終わったが。

「……今日は豚肉と白菜の蒸し煮と、ほうれん草と卵の味噌汁。大根おろしと、白いご飯」

野菜がたりなさそうだ。さて、どうしようか

六道 凛 > サラダでも軽くつくろう。キャベツの千切りに
トマト。あとはドレッシングで
 
さて――……
買うものは買った。求めるものもよし。
あとは、きた道を戻って少しずつ回収し、持って帰るだけだ

ふと、思ったことがある。
ぼんやりと、それを思い出しながら――……

ぼくは、何のために風紀にいるのだろう。

――だれのために?

まだ、全く。わからない……

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」から六道 凛さんが去りました。
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 > 「わぁ」

その通りに足を踏み入れた時、青瞳を持った茶髪の少年……新入生、日下部理沙はつい感嘆の吐息を漏らした。
異形の住民、『異邦人』達で埋め尽くされたその通り。
時には竜頭のドラゴノイドが、時には毛皮を持ったコボルドが、時には耳の尖ったエルフが通りを歩く。
白い翼を持つ理沙も、ここでは誰の気に留められることもない。
有翼人など、ここでは何も珍しくないのだ。
現に、さっきからバードマンが数人横を通り過ぎているが、誰も理沙にいちいち目を向けたりはしない。
それが、理沙にとっては少しばかり新鮮ではあった。
 

日下部 理沙 > 知人の勧めで異邦人街にまで足を延ばした理沙は正に羽根を伸ばして通りを歩く。
ちょっとばかり迷惑そうな視線を向けられはするが、誰も特に何もいわない。
有翼人向けの店もここにはあるからだろう。
ならば、早速その店に正に行こうとした理沙であったが。
 
「……なるほど」
 
彼には土地勘がなかった。 
 

日下部 理沙 > いつかのように、案内板の前でまた頭を捻る。
田舎に住んでいた理沙にとって、入り組んだ通りは全て迷路のようなものなのだ。
特にこういった見通しの悪い場所は最悪である。
常世島に来る前に何度か本土の都会にも足を運んだことはあったが、そっちでもいい思い出はない。
そもそも彼は人混みが苦手だった。

日下部 理沙 > それでも、ここはまだ翼に気を遣わなくてもいい場所だ。
人混みの中でもマシな方であることは間違いない。
気を取り直し、また案内板の前で見取り図を眺めていた理沙であったが。
 
「……」
 
読めない。

日下部 理沙 > いや、理沙とて、日本国および常世島の公用語が読み書きできないわけでは決してない。
国語の成績だって上々だ。
だが、ここは異邦人街。
常世島に住む異邦人の為の街。
ならば、そこに書かれている言葉は当然ながら大半が異世界の言語である。
日本語の注釈もあるが、ただでさえ見取り図を見るのが下手くそな理沙にとっては焼石に水である。
全文日本語のそれを用いてすら迷う理沙にとって、今目前にあるそれは如何なテストの外語問題よりも難解な暗号に見えた。

日下部 理沙 > 結局、案内板前からの戦略的撤退を選択し、通りのベンチで項垂れる。
完敗である。
だが、日下部理沙は自省する。
自省の上、次来るときはもうちょっと異世界の言語について詳しくなってから来ようと決意する。
逆にいえば、今はもうどうにもならないと認めるに他ならない事でもあった。

日下部 理沙 > 考えに考えた末、今此処で自分に出来ることはないと、理沙は結論した。
結論したなら、次は行動である。
理沙は立ち上がった。そして、歩き出した。
わからないならわかるまで探せばいい。
案内板になど頼る必要はない。
己の足で探せばいいのだ。捜査の基本は足だ。
理沙は希望を胸に、歩き出した。

日下部 理沙 >  
 
――数十分後。 
 
 

日下部 理沙 > 「……ここどこ」 
 
新入生、日下部理沙は迷子である。
事態は悪化の一途を辿っていた。
なぜあの時もう少し見取り図を注視しなかったのか。
なぜ事前に異世界の言語を学ぶかガイドブックでも持たなかったのか。
すべては遅すぎた。
後悔先に立たず。
上々な国語の成績を持つ理沙は、そんな言葉を思いだして哀しい顔になった。

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に嶋野陽子さんが現れました。
嶋野陽子 > 想定外の戦闘で、繁華街でのディナーの
予定がふっ飛んでしまった陽子は、Tシャツ姿で繁華街
を歩くよりはと、異邦人街に向かう。すると、異邦人街
に入ってすぐの所で、昨日見たばかりの白い翼が目に留
まる。
「日下部…君?…まさかと思うけど…また迷子?…」
と、驚きがそのまま声になる陽子。

日下部 理沙 > 「遺憾ながら、そのようです」
 
異邦人街でも嫌というほど目立つ2mの巨体から話しかけられ、理沙は頷いた。
まさにここを勧めてきた知人に話しかけられたのは不幸中の幸いか。

嶋野陽子 > 『遺憾ながら、そのようです』
と答える日下部君。異邦人街といっても、ここは歓楽
街に近い場所だ。下手をしたら落第街に迷い混む所だ。

陽子は日下部君の側に行くと、
「これから日下部君はどうしたいのかしら?私と一緒に
異邦人街を歩く?それとも、今日はもう居住区に帰っ
て、また出直す?」と尋ねる。

日下部 理沙 > 陽子が近寄ったことで見事に日陰になり、丸ごとその陰に理沙の体が隠れる。
表通りなら異様ではあるが、本物のデミジャイアントも闊歩する此処ではそれほどの事でもない。
それだって陽子の巨体は目立つのか、時折異邦人が通りかかる度に一瞥をくれている。
視界の端でその様子を見ながら、理沙は考えた。
本音でいえば、有翼人専門の洋服店や日用品店にはいってみたい。
だが、そんな場とは恐らく無縁であろう陽子にそこまで頼むのは申し訳ない気がする。
 
「とりあえず、どうやったら帰れるか教えてもらえると嬉しいです」
 
故に、悩んだ結果そう告げて、頭を下げた。