2016/06/26 のログ
ご案内:「奇妙な木造家屋」に耳かき屋、楢狗香さんが現れました。
耳かき屋、楢狗香 > ここは落第街と歓楽街、そして異邦人街に接する境目付近にある木造家屋。
周囲を高すぎもせず低すぎもしない石壁に囲まれており、木々のぽつぽつと生えた庭はそれなりに広い。

本日はすでにお客がいるようだ。
みみかきやを営む異邦の女、楢狗香はそんな縁側に背を向けて学園の生徒に膝枕している。
作業の様子は、庭からは見えない。だが、見える下半身の服装からすると生徒は女子のようだった。

「…ああ。いけやありんせ。
お客さんも…ほどほどになれさってきやしたでありんすね。」

ときおり施術されているらしき彼女の腰が跳ねる。まな板に打ちつけられた鰻のように。

びっくん。がくん。びくっ。がくん。

耳かき屋、楢狗香 > ああ。ああ。
もう耐えられない、というように小刻みに震える女子生徒の手が天井に向けて持ち上がる。

「もう少し、我慢しなせ。
少々大きやしこりがありんすゆえ。もすこし、もすこし…。」

みみかきやがぽんぽんと、軽く女子生徒らしきものの肩を叩く。
肩からさするように手首まで白い指先が夏服で露になった■い肌を沿って。

震える手がぴたりと落ち着いて、ゆっくりと下がった。

かり こり かりり くりゅ

異邦の女がその指先を小刻みに操って、繊細な作業を続けている。

ご案内:「奇妙な木造家屋」に柴木 香さんが現れました。
耳かき屋、楢狗香 > ぐりゅっ。と少し粘質な音が糸を引いて古民家の柱の木目に張り付く。
蕩けたそれは糸を引いて縁の下へと流れ落ちた。

「とれやしゃあせ。
さ、気分はどうにありんすか。」

先ほどそっと撫で下ろした、女子生徒の健康的な肌色の腕を持ち上げて軽く揉む。
手首を少し捻り、肉を揉み解して。指先をの節にかるくつまんで関節を柔らかく揺り動かす。
もう震えは止まっていて。力の抜けた穏やかなその手が少しずつ赤みを取り戻す。

女子生徒がひとこと、ふたことを言葉を発する。

「ああ、いえ。いつもごひいきにぃ。
…お茶は、ああ、いつもどおり遠慮するでありんすか。」

代金を受け取ったようだ。
少し残念そうに、みみかきやが応える。

柴木 香 > がらがらとはっちゃんを引きながらの配達帰り。
配送帰りなのに大八車には荷物が一つ。
今日辺りいけたらいいなと思いつつ乗っけてきたのは、所謂デジタルサイネージ。
立て看板型で目立ちやすい――お値段張りました。サンプルです。

それはともかく――
垣根の外からぴこぴこ動く耳だけが見えるかもしれない。

「…わふ。」

いつもどおりのみみかきの看板。立ち止まって――聞こえる話し声。
あ、今日はお客さん来てるっぽい。今度にしようか、悩む。

耳かき屋、楢狗香 > 女子生徒はゆっくりする様子もなく、すぐに出てくる。
彼女の歩く後、庭石に湿ったような跡を引きずって。ずるり。のたり。

制服を着用した彼女がそっとみみかきやのいりぐちから出てきて、
そこにいた大八車の少年にぺこりと軽く会釈した。
みみかきやがあら、といった表情をして、ぱたぱたと縁側へ出てくる。

からから からからり

ひょこ、と二人目の頭が石壁から突き出した。

「ああ、お客さん。もし、その荷物…?」

微笑んで、手招き。

柴木 香 > 出てきた姿に、会釈にぺこりと小さく頭を下げて返礼する。
何やら変わった歩き方の人である。その足は――■■で。うん、普通。

「あ、どーもです。」

続けて見えた顔は見覚えのある――見慣れた顔。

「看板ならこういうのもあるよ、というサンプルです?
 あんまり路上に放置するものじゃないです、けど。」

荷物にはこくこくと頷きながら。
いつも通り、はっちゃんごと門の中へ。何やら置く場所も含めて数回目ともなると慣れてくる。

耳かき屋、楢狗香 > 女子生徒は入れ替わりにみみかきやを出ていった。
薄汚れた銀の虹色の後姿が少し眩しい。その姿は、そこを離れれば離れるほど。

「そう狭い屋号にありやせん。
もしお待ちいただけるなら茶の一杯、待つ時間程度はつぶせると思うでありんす。」

意識を逸らす様に声をかける。その内容は先客がいても遠慮することはない、というように。
もちろん、同時に施術できるとは言い切れないが茶と会話くらいはできるだろう。三人くらいなら、問題はない。ねえ、そうでしょう?

みみかきやは大八車に視線を移す。最初に問いかけたとおり、

「サンプルにありんすか。
店頭は事足りておりやすし、あまり離れたところにお高いものも…。
いや、さほど経営にはこまっておりゃあせんが。」

非常識ではないかと。そう言いたいようだ。
ねえ。常識でしょう。でも悪いわけじゃないんですよ。とてもいいことです。

柴木 香 > 「んー……?」

去っていく姿にぴこり、と耳が動く。
綺麗な人だなぁ。とぼそりと言ったのが聞こえるかもしれない。

「ん、待つのは大丈夫だけど。
 混んでるときにこういうの開けるわけにもいかないですし。
 サンプル――うん、まぁこういうのもあるです、というのです。――押し売りみたいなもの?」

はっちゃんを留めれば――とりあえず荷物を降ろして。
ぐるぐると撒いた梱包材を外せば、立て看板型のデジタルサイネージ。
サンプルというのは本当だろう、新品ではなく少し使い込んだ感がある。
問題なく液晶画面は映るけど――あ、電源がそういえばない。

「あるの知っておいてもらえると、必要になった時に連絡もらえるですし?」

仕方ないのではっちゃんの横に置きっぱなしに。
いつもの通りに縁側にお邪魔して――ちょこんと座る。

耳かき屋、楢狗香 > 「あらあら。おや。」

少年の色気づいた様子にみみかきやがくすりと微笑ったのがわかる。
からかいげで、たのしげだ。

「そういうことは混んでから考えてもよろしありんせ。
まださほどお客さんおおくはありやせんから。ああ、少し古びて…いいでありんすね。」

湿ったような異邦の女の白い指先が、纏う梱包を解かれその姿を露にした
デジタル看板の表面にやさしく触れる。小器用に踊るように、指先だけでタッチするような繊細な指使い。

ととっ と すぃ…

目元を細めて。

「…このサンプルでいいでありんす。
このまま、買うことはできやしょうか?…ああ、今お茶をお持ちしやっせ。」

そう問いかけようとして。
途中でぱたぱたと、追いかけて縁側を挙がり調理場へと向かう。

もてなしできぬは    の歯時。みみかきやとしてはそのようなことを忘れるなど。

柴木 香 > 「――わふ?」

もしかして聞こえたのか、な、と。
ちょっとばつが悪そうです。

「うん、気にしなくていいなら、そうする。けど――」

持ってきたのは商品サンプルとして短期間貸し出したり、商談の時に持っていくようなもので。
機能的には問題なくても、やはり使用感は目立ってしまう。

「う、ん?えっと、買う、ならきちんと新品持ってきますです、よ?
 これがどうしても、って言うならお話しますけど――」

だから――
縁側を慌てて上がり、調理場の方へと抜けていく姿を見送りながら、首を傾げる。

耳かき屋、楢狗香 > すぐに茶の用意をして戻ってくる。お湯を沸かした様子もなく、本日は早い。
ああ、冷茶のようだ。ポットと氷、茶葉。そして茶碗が盆に載せてあった。

「おきにしゃあせんでも。
…あら。ほかにも気になる女性がおられやでありんすか。」

くん。と花をひとつ利かせて。白い華弁がちりちりと揺れる。
女の感というものか。それとも別の何かが匂うのか。異邦の女はその表情の笑みを深める。口の端がつりあがる。

「屋号はほら、このとおり古民家にありんすから。
新店舗となるなら新品のほうがよきにありゃあせが、こうだと少し古びたものをいじったほうが味が出るでありんしょう?」

顔をフスマや柱、違い棚へ向ける。同じ高さの棚の上にはつぼが一つ。ずり下がっては、位置が戻る。

氷をからからと茶碗にいれ、冷たい紅茶を注ぐ。まずは一杯。
そっと茶碗と一緒に、茶菓子も差し出した。今日のものはどら焼きのようだったが、なかにジェラートがはさんである。

「どうぞ。」

柴木 香 > これまたいつものように、広い縁側をぽけっと眺める。尻尾をぱたり、ぱたりと揺らしながら。
あ、今日はお湯を沸かす音も聞こえない――と。
ぱたぱたと戻ってくる足音に、首を曲げれば。

「――え、あ、うん。今度、遊びに行く約束してるです。」

唐突な問いに――ついこくんと頷いてしまった。
脳裏に浮かんだ、すこし?かなり?世の中僻んで見ている子は。
そこまでかんがえて、はっ、と。

「――わふ、それはとりあえず、おいとくのですっ。」

少しだけ、異性を意識するようになると、楢おねーさんの姿も大概、目のやり場に困る気がする。

ぶんぶんと首を左右に思い切り振った。犬のようだ。話を無理矢理に戻して。
スマートフォンを取り出して、てきぱき定型文からメールの文面を作って送信。相手は看板の卸元だろう。

「それもそうかも。新品だと、看板だけ浮いて、悪目立ち。譲れるか聞いてみるです。
 ――あ、ありがとうございますです。」

視線はつられてぐるりと屋内を一周する。どの家具も古いけど『元気で』調和は取れてるし。この中に新品はちょっと浮き過ぎる。
出された冷茶と、添えられたデザートにぴこぴこと尻尾が嬉しそうに揺れ動く。

耳かき屋、楢狗香 > 絵でははだけているけれど。
もちろん普段はもう少しちゃんと着物を着ています。それでも帯に胸が乗っかるのは仕方がない。

はだけているときもあるかもしれない。

「あらあら。お客さんもなかなか、興味なさそうで隅におけやせん。
そうでありんすか?屋号にももう少し甘えてもらったり、また遊びに連れて行ってもらったり…してもいいでありんすよ?」

持ち帰り、というものだろうか。みみかきだけがサービスでもないのだろう。
のぞめば。そう。のぞめば先ほどの女子生徒のようなことも いったいなにが カメラはその様子を写しては いない。

「無理を言って申し訳ないでありんす。
…ああ、ゆっくりしていくなら氷茶もお入れしておきやしょうか?」

からん。からん。
盆の上に置いてあった別の蓋つき茶碗に氷をたっぷりと入れていく。
氷で抽出するお茶はじっくりと楽しむものだ。当然、すぐには飲めない。だからこう聞くのだろう。

柴木 香 > 「――え、あ、う?」

言われた内容に、ぴたり、と尻尾が止まり――

「わふ……じゃあ、ええと。お泊りとかでもいーです?」

前から気になって仕方なかったのだ。
額縁の人とか、花とか、花瓶とか。この家、面白そうだと、止まっていた尻尾がぱたぱた揺れ動く。
興味は犬を何かに変えるだろうか。

「あまえるとか、そういうのは……うーん?」

かくり、と首を傾げた。甘える、といわれてもあんまり思いつくような性格でもなかった。

「あ、ゆっくりしていきます――またみみかき、おねがいしてもいーです?」

看板持ってくるのも目的だけど、半分はこっちが目的だった。
聞かれれば、おずおずといった様子で聞いてみる。さっきお客さん居たばかりだし大丈夫かな、と。

耳かき屋、楢狗香 > 「はい、もちろんに。」
みみかきを頼む言葉に快く応えて――

湯で蒸らして開いた紅茶の茶葉を氷の上に乗せて、蓋をする。
一滴飲めるまでにもう少し時間がかかるだろうか。この暑さであればもう少し早いかもしれない。

コ  バコを手繰り寄せ、道具を取り出す。
いつもの匙に剃刀、細工の凝った小瓶にブラシ、綿棒。

「お泊り、でありんすか。」

用意をしながら先ほどのお願いに少し困ったように眉根をよせる。

「…屋号も最近の事情は存じやせんけど。
一組の男女が同じ屋根の下に一晩、というのは…まずいのではありゃあせんか?
先ほどのご友人にも秘密ができてしまうでありんす。」

本人は困らないが、どこか相手のことを気遣うような。
それでも本気で嫌がっているわけではなさそうだ。どういう感触なのか分からないが、そういう感覚を感じる。

柴木 香 > 「わふっ」

やたっ、といった様子。
時間に都合つかない中でようやく、といった様子だったのだろう。
尻尾の揺れ具合が面白い――

準備の間、先に出された冷茶を少しずつすすりながら

「ですです――わふ?」

お泊り、にこくこくと頷く――その動きがぴたりと止まる。
ついで、なんで?というように首を傾げて――あ、と。
そこまで考えてなかった様子。

「うーん、まずい?のです?やっぱり。あんまり気にしない気もするですけど。」

それを言うなら男子寮で遊びに来てる時点で大概の気がした。気にしてなかったけど。
そんなゆるゆるな感覚を垣間見せながら、しばらく悩んで――。

「――じゃあ、えっと。お泊りじゃなくて、家の中見せてほしいです、今度。」

耳かき屋、楢狗香 > 「ではいつもどおり、こちらに頭をどうぞ。」

座りなおして、ぽんぽんと膝を叩いてみせる。
会話は続けながら、施術を行うのだろう。終わる頃には、氷茶も飲み頃になっているはずだ。

道具を晒し布の上に並べて、タオルをそっと桶の湯のなかに沈める。

「気付いたでありんすか。
こんな辺鄙な場所で商売している見ですから、そう自信をもって言えるわけでもありゃあせんが…。
いい、というのなら嫌ということはないでありんす。」

再度、困ったように笑い――
そして、泊まることも中を見ることもいい、というように許諾の意思を伝えた。

「でも、約束事がひとつ。見て回るときは屋号にひとこということを…。
そのお話はまた今度、ということでもいいでありんすか。」

きょうこのまま、と言うわけにはいかないらしい。ああ、また違い棚をゆっくりと、ゆっくりと滑って行った壷が、ゆっくりと傾いた。

柴木 香 > 「えーと、失礼しますです。」

ぽんぽん、と叩く手に誘われて、ぽふん、と頭を乗っける。
とりあえずは縁側が見える方にしたらしい。耳がぴこぴことせわしなく動く――

「わふ、怒った時が怖いのでやめときますです。――怒ると怖いのです。うん。」

具体的には温度が5度くらい下ります。怖い。 
厭ではない、と言って貰えるのはうれしいけれど、きちんと話してからの方がよさそうだった。

「あ、うん、ちゃんと許可貰いますですよ?家主に断りなくはいったら泥棒さんになりますし。
 はーい。――こういう家見れる機会って中々無いですし。」

普通の古民家でも、見慣れないモノが多ければ興味も引く。
今すぐ、というのは無理だろうと思うし、とりあえず見せてもらえる、そういう約束ができただけでも上機嫌な様子。

耳かき屋、楢狗香 > 「では。」

髪を梳き、耳との境目を露にして蒸しタオルで包むところから始める。
手順は以前と同じだ。よく蒸して、暖め。柔らかくなった毛を丁寧に整えて。
耳介を揉んだら少しずつ竹匙で掃除していく。

そんな手間の間も、柔らかな眠気を誘う声音だけはささやき続けて。
「それはそれは。怒るという事は気にかけられているということ。
とても想われているでありんすね。」

「最近、すこしお忙しいことでも?
少し耳に、凝りがありゃあせ。」

「そうしてくれやぁせ。
迷子にもなるかも、しれやせんから。」

「ああ、また大物が奥に。
若うあらせられるがゆえでありんしょうが。」

かり、こり  かり こり

               こりっ。

耳の中の大物を抉り取って、そっとふき取る。くるりと竹匙を返して、ふわふわとした綿毛…梵天を耳の穴に向けた。

柴木 香 > 「わふ」

始まれば、落ち着きのなかった耳はぴたりと止ま――ぴくぴくとは動いてしまう。

「ん、ぅー?忙しかった。かも?
 うん、怒るし――そういえば、なんか、可愛い服着てほしいって――」

こりこりと、取れていく。その感覚が心地いい。
時折、ぴくり、ぴくり、と小さな身体が震えてしまうほどに、気持ちいい。

早々に、瞼が落ちていく。閉じた視界に、聞こえる声も心地よく。
問われ、聞かれれば答える――その声は少しずつ、勢いをなくして。

うん、迷子は、こまる、し――
そうじ――して――

答えるつもりで――答える声は早々に静かな寝息に取って代わる。

ご案内:「奇妙な木造家屋」に水月エニィさんが現れました。
耳かき屋、楢狗香 > 「ああ、お客さんなら似合うでありんしょう。」

言葉の意図をきちんと捉えて、梵天を捻りながら差込み、さっと抜き取りながら応える。
そう、きっと似合うだろう。似合うに違いない。ねえ。

なかを確かめて、そっと爪の短い柔らかな指先で穴の様子を確かめる。
とんとん、と仕上げをしてみせて。さあ、次は―――

「お客…あらあら。」

寝息に耳をすませば、どうやら寝入ってしまっているようで。
起こしてしまってもいけないと、寝入るまで少し待って…そっと、その顔を両手のひらで包み込むようにしながら、覗き込むように顔を近づけた。

もちろん、縁側から見える場所でこれらは行われていて。
視力がよければ、門からも見えるのだろう。ほら?

水月エニィ >  
「……?」

 『みみかき』の看板のある木造家屋。はて、こんな所はあっただろうか?
 古びているのに見覚えのない家屋を見つけてしまえば、そっと足を踏み入れて覗く。

 見えるものは――

「(柴木クン……と……?)」
 
 

耳かき屋、楢狗香 > ゆっくりと顔と顔が近づいていく。
縁側に向いていた寝顔を、ゆっくりと上へと向け持ち上げていく。

まるで接吻をするかのように見えるでしょう?

ふわりと口元は微笑むように、笑みを深めて。ささやきかけは、まだ続く。

「…お客さん、聞こえてはいなさそうでありんすが…逆側に失礼しやせ。」

豊かな胸元にかきいだくようにして、肩もきちんと返して、柴木くんの向きを変える。
そこまでいってしまえば、もう寝顔は見えない。でも、人違いと想うことも、もはやないだろう。

いとおしげに、耳かき屋の繊手がお客さんの耳の外側を這うように撫でる。

柴木 香 > 「ん、ぅ――」

起きている何やら不穏な空気など知る由もない。
小さな身体を転がされれば、わずかな声も漏れ出して。

姿勢が変えられたのにも結局気付くことなく。
相変わらずすぅ、すぅ、と小さな寝息を立てながら、尻尾が、ぱたり、ぱたりと揺れ動く――。

水月エニィ >  
 
 ざわ、ざわ、と。
 どうにも覚えのないような、強く心を乱す何かがある。
 何でか分からないけれど、何かしら厭だ、とは思った。

「……」

 ……と言っても、看板を見るにお店の類には違いない。
 そういうお店で、ちょっとイカガワシイお店で――
 ――柴木君だってそういうお年頃だし――

 理論武装で言い表せぬ感情を抑え、己を守りはすれど――瞳を伏せて、胸を抱いた。
 

耳かき屋、楢狗香 > 思わせぶりな態度を少しだけ振舞うと。
すぐにてきぱきと施術に戻る。

耳を暖かいタオルで軽く包みなおして、拭くようにマッサージしながら揉んで。
くにくにと耳のツボに刺激を与えてリラックスさせていく。

その間にもお客さんを起こさない程度の、子守唄のようなささやき声はかかさない。
「…お客さん。見られているでありんすね。
大事な彼女でありゃあしょうか。入ってくればよろしいのに。」

毛の様子は先ほど一緒に整えたので、少し調整するだけで。
そして意味ありげにこちらを見ている彼女に視線を合わせるようにすると。

その手に鋭い刃物を握り、掲げて見せた。

水月エニィ >  
 訝し気に睨み、障った気を張る。

 刃物を掲げた彼女を見て――何をするつもりか、と、理解に苦しむ。
 少なくとも、目があった以上こちらのことは把握しているだろう。その上での行為だ。

 技術の程はさておき、何かしらの施術――マッサージをしている事は理解できる。
 そういうのものが含まれていてもおかしくはない。行為中に乗り込むような真似は出来ない。
 表立った邪魔立てはしないしできない。そもそも私は負け犬なのだ―― 。

(何のつもりなのよ……。)

 故に様子を伺う事しかできないし、
 彼に害を成すとしてもこの距離ではどうにもならない。
 ならない、が、理性で分かってはいても――足は動く。
 感情をを抑え込んで、少しずつ、店に近寄るだろうか。

柴木 香 > 「ぅ――、ん――v」

尻尾が床を叩く音がぽふ、ぽふと微かに。
くりくりと耳の中が綺麗に、綺麗に――

くったりと横たわったままの四肢が、時折ぴくりと震えて。
聞こえてはいるのだろうが、安らかな寝顔を浮かべたまま、寝息を立て続ける――

耳かき屋、楢狗香 > 近づいては来ない?
なかにはいらないのであれば、お客さん ではない。

掲げた刃物は、何に見えたかまではしらないが―――耳の毛を剃るための剃刀だ。
わざとな真似をやめてその指先でオイルを耳に伸ばしていく。

「…剃刀を使うでありんすゆえ、動かれぬようにお願いしゃあせ。」

そっとささやく、眠りが少し、深くなる。
動かないことが分かっているかのように、軽くだけ客の身体を押さえて。

しょり、しょり

とくすぐったいように刃が表面をなぞっていく感触だけが残る。

すぐに綺麗にすると、こんどはみみかき用の竹匙を取り出して、いつもの手順。
外側からゆっくりと、経絡も押さえながら丁寧に。外から見ているものにもプロらしい手つきを感じさせながら、素早く作業を進めていく。

そんな折、ふと…声が。よくとおる声が、少し離れた場所にも届く。

「もし…そんなところからでなくとも、こちらにどうぞ。
お茶も用意してありゃあせ。」

ふと、そこには 縁側になぜか 茶碗にはいった紅茶と茶菓子がいつのまにか盆に載せて 用意してあった。

水月エニィ >  
 動いていないなら客ではない。
 が、――その判断をしたのなら、その判断の後だろう。

 ならない、が、理性で分かってはいても――足は動く。
 感情を抑え込んで、少しずつ、店に近寄っている。
 だから、差し出す頃には縁側に居るだろう。

「ええ。頂くわ。」

 ――すんなりそれを受け取って、それらを食す。
 先程の警戒さからは考えられぬように、当たり前のように手に取った。