2015/08/27 のログ
ご案内:「罅割れ硝子の十字塔」に薄野ツヅラさんが現れました。
■薄野ツヅラ > 異邦人街の外れ、宗教施設群。
其処には様々な宗教、信仰の塒が存在していて。
当然『門』を通って現れた人外の存在のための建物も多く存在している。
───かつん。
杖がひび割れたステンドグラスの欠片を叩く乾いた音。
その教会は、今や誰が願い、誰が縋った教会なのかもわからない。
ただそんな乾いた生と死の境界に、思わず足を運んだ。
カミサマが居るのかなんてわからない。
『門』に、それから、『異能』に『魔術』。
そんな嘗てのイレギュラーが蔓延るこの島で神に祈るような人間が、種がどれだけいるかもわからない。
でも、今は縋りたい気分だった。
今迄一度も信じてなかったカミサマに今更縋って何をしてもらいたいとも思わない。
ただ、人が少ない此処なら自分を否定する人間なんていないと思ったから。
落第街からも少し距離のある此処に、逃げてきた。
「………、アーメン、なんて」
胸で一度も切ったことのない十字をぎこちなく切って。
今にも崩れ落ちそうな原型を留めていない像の前でひとり、困ったように笑った。
ご案内:「罅割れ硝子の十字塔」に否支中 活路さんが現れました。
■否支中 活路 > 「気のない祈りなんぞするもんやあらへんな」
否む言葉は真っ直ぐ入り口の方から。
扉から入る逆光を背に、陰で緑の目が浮き上がっている。
ある時同じ場所にいた相手。
そしてお互い関わることもなかった相手。
元々異邦人街は一番の生活範囲だ。居たのは、だから偶然。
別の神殿に用が会った途上に、その後姿を見ただけだ。
確認はしてないが、かつて会った時の状況を考えるなら公安委員か何かで、
関わらない理由はあっても、関わる理由はない。
それでも追ったのは、自分は途切れたと思った道がそこにあるかもと思ったからか、
だから声をかけたのは、それがあまりにも弱々しそうだったからか。
言ってから再確認する。
次ぐ言葉が出るほど、この少女のことを知らない。
■薄野ツヅラ > 掛けられた声に一瞬びくりと身体を震わせる。
ゆらり、振り返って。逆光を背にした、嘗て上司の決断に逆行した男。
お互いに見もしなかった。声なんてかけることはなかった。
そんな相手とまた出会うのは───出遭うのは何の因果だか。
「別にカミサマなんてこんな寂れたとことに居やしないわぁ」
皮肉気に、されど寂しげに。にっこりと笑顔を浮かべて。
自分が元上司に伸ばせなかった手を伸ばした『正義の味方』に向かい合う。
上司の『正義』とは相反する『正義』を語った、騙った男。
ヒーロー
「お久しぶりねえ、正義の味方さん」
硝子の零れ落ちていない無事な椅子を見繕って、ゆっくりと腰を下ろす。
「アンタも祈りに来たのかしらぁ、随分と悪趣味と言わざるを得ないけど」
なんでもない世間話のように。
男の緑色を、揺れる緋色が捉えた。
■否支中 活路 > 今度は少女を見る。
真っ直ぐ、それが一体どんなかを。
神なんてどこにもいない、とは答えなかった。
居るだろう。
人知を超える神のごときものは、あるいはそこら中にでもいる。
あるいは自分もそれを見た。
だから、続く言葉に目を細めて、苛立たしそうに
「やめぃや――――そういうんはアイツにでも言うんやな、全ての敵の敵に」
対置されたことなど知るよしもなく言葉を振り払った。
正義の味方。
それは男にとっては、多分なれなかったものでしかない。
その喪失を取り戻そうとするなら、道の行くべき先が何なのか、男は理解できていなかった。
ただ腰かけた少女を見下ろして、
「趣味は嬢ちゃんのもんやろう。それこそカミサマでも探すなら、悪い場所やあらへんかもしれんけどな。
せやけど、今は、クロノスの続き言うわけにも見えんしな……?」
ご案内:「罅割れ硝子の十字塔」に畝傍さんが現れました。
■畝傍 > ――未だ静けさの漂う教会跡。そこに、三人目の訪問者が足を踏み入れた。
橙色に身を包む少女――畝傍<ウネビ>・クリスタ・ステンデル。
この日畝傍が異邦人街を訪れた本来の目的は、この街で購入していた装備のメンテナンスが主である。
しかし彼女もまた、この神秘的な建造物にどこか惹かれるものを感じ、足を運んでいた。
自身が纏っているボディスーツと同じ橙色のマズルを持つレプリカの狙撃銃を、両腕でしっかりと抱え。
自らの来訪を知らせるような小さな足音を鳴らし、ゆっくりと、歩いてゆく。
しばらく歩を進めていけば、眼前には二人の先客の姿が見える。
片や顔を包帯で覆った黒髪の男、片や杖をつく赤ジャージの少女。
「(このヒトも……けが、してるのかな)」
男の顔や、手の先に巻かれた包帯を一目見て、若干の恐怖よりも先に感じたのは、そんな心配であった。
そしてすぐさま、畝傍の注意は赤ジャージの少女に集中する。
彼女――薄野廿楽は、畝傍にとって恩義のある相手だ。
その恩を返さんと島内を駆けまわっていたものの、今日まで再会を果たすことはなかったのだが――
よもや、このような場所で出会えるとは。
「……ツヅラ」
彼女の口から直接聞いていたその名を呼んだ後、
しばし、間を置いて。
「……なに、はなしてたの?」
問う。畝傍は二人の関連性をまだ知らない。
■薄野ツヅラ > 知っていた。
バカげた数のカミサマも、誰にも信仰されなくなったカミサマも。
世界を創ったカミサマだって、歪んだ神格の遠い何処かのカミサマも。
この島はそんなモノで溢れ返っているのを知っていたけれど。
「全ての───、」
言葉を噛み砕く。反芻する。
全ての、敵の、敵。遠い記憶を引っ張り出す。
クロノスといた時間を。その時間の終わりの話を。
───男が、『室長補佐代理』を、確かそんな名前で呼んでいたことを。
「あッは、あの場では間違いなく、正義の味方だったと思うけど」
皮肉気に笑う。寧ろ、嫌がらせの如く。
男の意図も解らない。されど、クロノスにとっては。
嘗ての上司から見たら天から垂れた蜘蛛の糸───だったかもしれない。
三人目。悪趣味な崩れかけた教会に足を踏み入れた三人目。
崩れかけの教会に似合わない橙と随分と治安の悪い狙撃銃。
思わず掛けられた問いには素の返事が零れる。
「いや、未だ、何も」
引き攣った笑みを返した。
■否支中 活路 > 「そうやな、ジブンらの上から割り振られたんは、そういう道化やった。
わかっとるやないけ」
皮肉げな言い方を受ければ、逆に素直に頷いた。
クロノスはあの道を選んで、あるいはそのいくらかは今見ている少女に続いたのかもしれない。
己はそれをどうしても認め難かったけれども。
しかしそれは別に正義にも、もちろんクロノスにも、味方しようとしたわけではなく――――
「誰や」
跳ねるように振り返って、中央から横へ大きく一歩下がった。
妙な狙撃銃をすぐさま認めて、左手が肩の高さまで上がる。
見覚えが
ある
いや、ない
「……?」
一瞬、瞳が動揺に揺れる。
しかし現れた少女がもう一人を名前で呼ぶのを聞いて、疑問は薄れていった。
「はぁん、ツヅラ言うんか、ジブン」
そういえばまともに聞いてもいなかったな、と。
そしてそれは、自分がこの相手の名前も知らなかったのだと、三人目へ伝える言葉でもある。
■畝傍 > 「そっか」
まだ特に何も話は進んでいないらしい。そう言われれば、そうなのだな、と素直に受け止めると。
「ボクは畝傍。畝傍・クリスタ・ステンデル。この銃は……ほんものじゃ、ないんだけど。ボク、銃をもってないと、だめだから」
廿楽の名を知らなかったらしき包帯姿の男のほうを向き、自らも名乗った後。
現在抱えている銃はあくまでレプリカであり、
同時に銃が自身の精神的安寧を保つために必要なものであることを、やや拙い言葉で二人に説明せんとする。
まったくの初対面であるはずの包帯男に対して、
畝傍もまた見覚えのあるような感覚を覚えていたが、その感覚の正体を、まだはっきりとは掴めていない。
その後、畝傍はまず廿楽の近くへゆっくりと歩み寄り、懐から財布を。
さらに財布の中から何枚かのお札と硬貨を取り出し、彼女へ差し出さんとする。
「これ……このまえの、おれい。うけとって、ほしいんだ」
畝傍がずっと返そうとしていた恩。
先日、別の恩人を救出するために落第街の路地裏における交戦に加わり、負傷と空腹によって満身創痍の状態であった畝傍を、
廿楽はおでん屋台へと案内し、食事の代金まで支払ってくれていた。
緋色の瞳をした赤ジャージの少女からすれば、些細なことであるかもしれない。
しかし、畝傍はいつかこの恩を返そうと、ずっと彼女を探し続けていたのだ。
■薄野ツヅラ > 知らない。
二人の関係性も、二人のナニカが何処かで相対していたかもしれないことも。
カミサマか何かが関わっていたのかもしれないことも。
男が何かを喰らったことも、混沌が因果めいた何かを運んだかもしれないことも。
何もかも知らない。
不条理に、腐条理に抗ったことも。
二人の既視感に似たナニカを、彼女が知ることはない。
「別にお礼をされたくてしたことじゃないから」
差し出されたそれは頑なに受け取らなかった。
自分で美味しいモノでも食べればいいわあ、と愛想笑いを付け足して。
知らなくても、一瞬の活路の動揺は見て取れた。
「薄野廿楽。───、お二人はお知り合いで?」
それなら出ていくけれども、と言外に語って。
交互に畝傍と活路の顔をゆたり、見遣った。
■否支中 活路 > 「ヒシナカや」
名乗られれば返すぐらいの礼儀はあった。
腰掛けた少女にも名乗ってはいなかったから丁度はいい。
銃をもってないとダメの意味はよくわからなかったが、まぁ、そういうものなのだろうと判断する。
いろんな事情の相手が共存している。この区画はその象徴のようなものでもある。
そして名を知ったツヅラに知り合いかと問われれば、当然わずかに首が横に振られた。
「いや、つーかむしろジブンら知り合いなんちゃうんか?
来た礼ぐらい受け取ったったらええやんけ。
なんや、案外と世話焼きなんやな」
公安委員なのに、とは他人のいる前で口には出さない。
■畝傍 > 畝傍が差し出したそれは、やはり、受け取られることはなかった。
以前会った時の廿楽の様子からして、このような答えが返ってくることは容易に想像できたろう。
それでも、実際にそれを受け取るか受け取らないか、という彼女の意思を確認しないままに、
義理を有耶無耶にしてしまうのは、畝傍の倫理観が許すところではなかったのだ。
「……そっか。なら……そうする。……でも、ほんとに……いいの?」
廿楽の言葉には、一度は笑顔でそう返したものの。
念のため、再度彼女自身の意思を確認する。
「ボクも、ヒシナカさんとは、いまあったばっかり」
続けて、二人は知り合いか、と問う廿楽の言葉には、畝傍もそう返した。
――その時である。畝傍の頭の中ではいつか聞いた内なる声が響き、
眼帯で覆われた左目からは、冷気を伴う青白い炎が噴き出す。
「≪……警戒しなさい、畝傍……この男からは……≫」
注意を促す声の正体は、彼女のもう一つの人格――"千代田"である。
"生きている炎"の力を司る異能を行使した代償として、畝傍の精神を蝕む狂気。その一部として生じた、"灰色の炎"。
そして千代田は、"炎"であるが故に――"混沌"の気配には、とても敏感であった。
「(……わかってる。ボクもすこし、かんじた。だから、チヨダはだまってて)」
仮にも"炎"の一部分である千代田の意思にこの場を任せきってしまうようなことになれば、
険悪な雰囲気――あるいはそれ以上の凄惨な事態に陥ってしまいかねない。
そして、それは畝傍の望むところではなかった。心の声を以て、灰色の炎をどうにか鎮めんとする。
■薄野ツヅラ > ほんとにいいのか。問われればなんでもないようにひらりと左手を返した。
「別に。目の前で人死にが出たら碌に数日寝れなかったでしょうし。
───、世話焼きというよりも目の前で人が死ぬのは見たくない、ってだけよぉ」
畝傍にも活路にも同じひとつの言葉で返す。
畝傍にはただの気紛れだと告げるように。活路にはクロノスの事をぼんやりと示すように。
二人揃って同じ返事が返れば肩を落とした。
あわよくばこの空間から逃げ出してしまおうかとも思ったがそうはいかないらしい。
現実は小説よりも奇なりとはその通りだ、と胸中で独り言ちた。
「───ッ、」
そのほんの一瞬刹那。
畝傍の異変に気付けば動かない右脚を引き摺ってできる限り距離を取った。
今の彼女は紛れもなく無力だった。
故に、こうした"イレギュラー"には明確な嫌悪感と敵意。
それから恐怖感が以前よりずっとずっと大きくなっていて。
ただ、怯えたような目で畝傍を見遣った。