2016/06/12 のログ
ご案内:「青垣山」に蕎麦屋さんが現れました。
蕎麦屋 > 夜――久しぶりの蕎麦屋の営業。
ここしばらくはご無沙汰してましたからねぇ――と。提灯に火を入れる。
いつもの『かけ100円』の文字が浮かびあがる。

「――さて。」

いつも通りの営業だが、場所が違う。
普段の落第街ではなく、青垣山の麓。夜ともなれば人もほとんど寄り付かない。
場所の選択理由は――まぁ、頼まれたから、ということにしておきましょう。

蕎麦屋 > 誰も来ないだろう、と思いつつ。湯は沸かし、椅子と机を立てた。

「お客、入れば御の字、ですかしらね――?」

屋台の他には大した明かりもなく。
山を見上げればぽつぽつと生活の明かりが見える程度。
なかなかに風情のあるスポットではある。――心霊系の恐怖映像が取れそうな。

蕎麦屋 > 「え、何。こんな所にある蕎麦屋が恐怖?
 ――いやぁ、ごもっともですけどねぇ……」

誰ともなく、話をしつつ。
山を見上げたまま、微動だにしない。
頼まれたはいいモノの。守る側の情報は何も持っていなかったりする。
相手の方は『視て』いるから――少々遠眼でも判別は付くはずだ。

ご案内:「青垣山」に伊織 六郎さんが現れました。
伊織 六郎 > こんな時間に山へ向かうのは人目につかないことをしたいから。

なんかボロい原付でボロいエンジン音を響かせながら、山の入り口目指してきたものの。

ものの、なんだか。

…………なんか居る。

屋台が出てる。

キィ っと鈍い音と共にブレーキを踏んで、止まった場所は屋台の少し手前。

「んーだありゃ?」

ノーヘルに季節感をガン無視したジャンパーコートの男子生徒は すごい変なものを見る目で屋台を見ました。

蕎麦屋 > 「あら――?」

こんな時間に、けたたましく響く駆動音。
あまり整備状況はよろしくない様子――山に住んでいる方の帰宅ですかねぇ。
聞こえた音の方へと視線を移せば、通り過ぎていく原付が。

あ、止まった。

「はい?見ての通りの蕎麦屋でございますが。」

独り言であろう問いかけに、首を傾げつつ答えてみせる。
時代錯誤の担ぎ屋台に、190を超える長身の異人がやっている蕎麦屋。
なるほど、怪しい。

伊織 六郎 > 人が居た 店長か?
なんかデカイんですけど、いやデカイ女なんですけど。

意味も無く振り返ってみた。
誰も居ませんね。

あれ、オレ向けですね?

「…………妖怪?」

なんかこう、現実感が無いので幻覚か何かか、妖怪変化かと思うレベル。

まぁ、ブレーキで止まってただけなんで、ゆっくりブレーキを開けて、ノロノロと山の入り口、登り道の前付近に停車。

「まぁ、なんでもいいや。
 …………なんでこんなとこに店出してんの?」

なんか聞こえてるっぽいんで、特に声を大きくもせずに聞いてみた、その場から。

蕎麦屋 > 「はい。貴方以外に居りませんし。
 ご明察、妖怪でございます。」


「……あ、ごめんなさい嘘です。ただの蕎麦屋ですので帰らないで逃げないで。」

 間に耐えかねたらしい。
 はい。怪しいのは重々承知しております。

「はい?なんでって――蕎麦屋を開くのに、理由がいりますか?
 ――よろしければ、一杯いかがです?」

首を傾げる。
いやだって、蕎麦屋ですし。ついでがあれば開くでしょう。
屋台の提灯に揺れる文字を示しながら――100円、今時駅前蕎麦でも無い安さ。

伊織 六郎 > 「あ、やっぱ妖怪なんすか。
 ……なんか、夜中に蕎麦屋の屋台に化けた四つ足の妖怪居なかったっけ、ソレなん?」

やべえ、妖怪に目をつけられてる。
これアカンヤツや。

原付からまだ下りない。
いつでもアクセル全開で逃げられるようにエンジンも切らない。

「こんなトコでタダも何もねえだろ。
 どう考えても客は来ねえだろ…………しかも100円て。」

コートのポケットに手を突っ込んで、小銭を出した。

   合計 95円

惜しい、足りない。

「一杯も食えないレベルなんで、無理かな。
 オレちょっとこの山入ろうと思っただけなんで……」

物凄い警戒をしている。
いやだってこれ怪しいでしょう、自分も不審者かもしれんけど!

蕎麦屋 > 「いや、だから違います。
 ほら、ちゃんと足もついてます。ほら。ほら。」

着物の裾を捲ってみせる。
ちゃんと二本の足がついている。四本ではない。
まさか本気で本気に取られるとかちょっと予想外です。

「いえ、割とただの蕎麦屋なのですけど。――えー。
 ……あ、なら半額でも。いや、このままだと今日の分まるっきり売れ残りになりますので……ほら、うん。」

割と必死だった。
なんせ人がまず通らない。
通った上でも足を止めてくれない。あたりまえだ。

はい、今日初めて止まったラッキーボーイが貴方です。

伊織 六郎 > 「え、色仕掛けすか。
 それだともっと捲ってもらわんと……こっちとしてもリアクションが取り辛いんだけど……」

そういう話じゃない気がするんだが、いきなり裾を捲る女性店員が居るらしい、今、ここに。

とりあえず足はよーく見たけど。

「ごめん、必死すぎて引く。
 客がこんなところ来るわけねーだろ!?

 何だ、何が狙いなんだよ!? ハッキリ言えよ!?」

伊織は、食ってる間に殺すか食った後に殺す系の妖怪と疑っている。
値段設定と、更に半額でもいいとか言い出すから余計に、座ったら

   ソバにきたお前が蕎麦になるんだよお!

って鬼みたいな顔で襲ってくる系なんじゃないかって疑ってる。

蕎麦屋 > 「色仕掛け……?」

かくん。首を傾げた。
何の話であろうか。幽霊だ妖怪だと疑うからめくって見せただけだというのに。

「いや、うん、そーですよねぇ……客とか来ないですよねぇ……
 いえね?少々断れない頼みを聞いてしまいましてね?そのついでに蕎麦屋やっております。趣味で。

 というか、妖怪ならもう今頃色々と駄目なことになってると思うのですよ、私。」

はい、蕎麦屋は趣味です。
それはともかく、妖怪ならこうしている間に何かやってますし。
清廉潔白です、うむ。

伊織 六郎 > 「ふーん。
 なんか知らんけど、いや詳しく話は聞きたくないけど、まあ頑張って。」

やっと原付のエンジンを切って下りました。
95円は大事にポケットに仕舞います。大事に。

「妖怪って作法とか襲う条件とかあんじゃねえの?
 A→Bじゃないと駄目とか。

 や、妖怪博士じゃないんで知らんけど。」

何の頼みかは兎も角。
趣味ならまぁ、いいんじゃなかろうか、妖怪じゃないなら尚良し。

そんじゃあね と、手を挙げて山の中へ続く道の方へ。

「ああ、帰りなら食ってもいいかなあ……」

蕎麦屋 > 「あ、はい頑張ります。」

あ、やっぱり食べて行ってはくれないのですね、ぐすん。
ふらふらと手を振って山へ入っていく様子を見送る。
――と。

「――ああ、火の用心にはくれぐれもお気を付けくださいね。
 山だけなら良いですが。世界まで燃やしてしまわれても困りますので――」

去る背中に声を掛けた。
後半は聞こえないような、小さな声で。

伊織 六郎 > 「………………    ぁれ?」

帰りにもまだ屋台があったら、食べていくかもしれないが。

火の用心は聞こえたかもしれない。
けど、何で知ってるんだ? 煙草でも吸いそうに見えた、か?

それとも真っ暗な山に入ろうとしているから、か?
確かにココには、火の練習にきた、のだけど。

少し、足を止めて振り向きかけたが……

「…………まぁいいかあ。
 後でまだあったら聞けばいいやぁ。」

そうして、そのまま山の中に入っていった。

廃神社まで辿り着いた後、火で周りを照らした時に見た赤い跡に

   こわ、何コレ怖っ!

とか叫んだっぽいが、それがここまで聞こえたかは分からない。

ご案内:「青垣山」から伊織 六郎さんが去りました。
蕎麦屋 > 「――」

視えた火が、妙に懐かしかった。ただそれだけのこと。
一介の人間が持つには苛烈すぎる火なのですけど――

「いや、元気にしてるようで何より。でしょうか。」

暫くは屋台を出したまま。
不意に揺らめいた気配にくすり、と笑みがこぼれた。

ご案内:「青垣山」から蕎麦屋さんが去りました。
ご案内:「廃神社」にカインさんが現れました。
カイン > 青垣山、廃神社。
常世においても、一等寂寞の思いが駆られる場所である。
そこに、金に輝くランプがちょこんと鎮座していた。
その見た目は、金とはいえど錆びついてみすぼらしく、しかしどこか威風を放っていた。

さわさわと木漏れ日を揺らす風が吹き抜けても、そのランプは微動だにしない。
時折、光をちらりと反射して廃神社の木材をちらりと照らすのみである。

カイン > 『……………。』

そして魔神は、何かを考えていた。

『(……『あの時』の木っ端共か?この世界にも同じ存在が居るとは。
  妙な事だが、起こり得ぬとは言えんか。
  とはいえ残滓。不正確な煙を目印に山に火を探すのは面倒だ)』

考えるだけで、特に何もすることはなかった。

カイン > ランプは、相変わらず微動だにしない。
誰かが拾うのを待ち続けている

……と言いたいところだが、今回はそれは度外視している。
この山にランプを「運んで」きたのは、かつて戦った相手の残滓を感じ取った故。
誰かが来ることなど、元から期待してはいない。

『(……だが、骨折り損だったか?
  否、『鍛錬』の相手には丁度良いか)』

ご案内:「廃神社」に癒斗さんが現れました。
癒斗 > 廃神社の上空から、非常にゆっくりとした人影が降り立った。
甘いぶどうの香りをまとった女生徒といったところだろうか。
少し息が荒いものの、額の汗をハンカチでぬぐいながら辺りを見渡している。

「飛んで来るより歩いたほうが早かったかもしれない……」

ここは本当に廃神社なのだ、とばかりに視線が忙しなく動く。きっと、初めて訪れたのだろう。

カイン > ちらり、とその目に光が灯る。
どうやら、廃神社の入口部分で何かが光っているようだ。
金色の光。それは、この寂れた神社にはまるで似つかわしくない色だ。

ランプ。金色のランプがそこに鎮座していた。
それを見れば貴方は、このランプに『何かが居る』と本能的に理解するかもしれない。

癒斗 > 「…あっ、あれは…。あれは?」

ランプが目に留まったのだろう。
どう見てもおとぎ話に見聞きした、あのランプそのままに見える。
小さなころはそれを模ったオモチャで遊んだことだってあるが、しかし。

決して感は鋭い方では無い。
それでも、なかに何かがいるというのは理解できる。そして、それにとても興味を刺激されるのすら。

「じょーだんですよね~…?」
女生徒はランプの傍まで、おっかなびっくり歩いて来た。
しゃがみこみ、触れるか触れないか程度の近さまでその手を伸ばしては――悩む。

癒斗 > (どうしよう、これ、本物だったりしないかしら)

(だってここは不思議な事が日常茶飯事なんですもん!)

(触って何も無かったら、杞憂で済みますよ。でも中に…ぜったい、中に誰か、いるんですから!)

(にぶい私だってそのくらいは分かるのです…!)

カイン > ランプは何もしない。触れられかけても動いたり飛び跳ねたりもしない。
傍から見れば、本当にただのランプだ。
ランプ自体がこの島においても珍しいものかもしれないが、それはそれ。

触ってみれば金属の質感があるし、持ってみれば金属の重みがある。
しかし、それだけではない「何か」を撒き散らしているようにも見える。
言ってみれば、威圧的というべきか、威風堂々というべきか。

しかし、その気配を放つ当のランプは、本当に何事も無くそこに鎮座している。

癒斗 > はたから見るならば、これほど優柔不断な手の動きもなかなか無いだろう。
だが、女生徒は好奇心に負けてしまった。
ランプをそっと両手にとって、その重みに手汗をかきそうになる。
ブリキのオモチャとは、流石に何もかも違うものだから。

(…これ、こすったら出ますかね?それとも、中に虫や小動物が住んでるだけ…?)

注ぎ口を指でなぞり、ポケットに無造作にはさんでしまったハンカチを手にする。
綺麗な面で、そっとランプを磨いてみた。

「魔神よでてらっしゃい……なんちゃって、えへへ…」

きゅっきゅっきゅ、と。

カイン > ランプを擦った瞬間、声が聞こえた。
ずしりと腹に響くような、重苦しく威厳に溢れた声。

『……ふむ。このような所で呼び出されるとは、物好きも居たものだ。』

瞬間、ランプが熱くなった。一瞬で焼け焦げる、とまでは行かないが火傷しそうにないギリギリの温度。
そこから噴き出る熱波が辺りを飲み込み、気温がどんどんと上昇していく。
ランプの口から炎が灯ったかと思えば、その炎はどんどんと大きさを増していき、
人一人をすっぽりと覆えるほどの荒れ狂う巨大な火炎へと姿を変える。

そして、炎の中から何者かが姿を表した。
黒曜の肌。刻印のような亀裂から噴き上がる炎。
6の目に6の腕。筋骨隆々、神代の石像を思わせるような力強いその姿。
アラビアの、いわゆる「ランプの魔人」のような服装。

それが、目の前に立っていた。

『我がランプを手にした者よ……。   一つだ。
 一つ願いを言え。我が叶えよう。』

癒斗 > ああ、なんて子供じみたことをしてしまったのか。
恥ずかしい。ランプを元の場所に戻して、探検でもしましょ。

そう思ってたのに。

女生徒の表情は、無であった。
そこには、何かが生まれる前の空虚があった。
しかし、心は悲鳴を上げていた。奇声と悲鳴の大洪水であった。
感性というものは、驚き過ぎた場合は身体がうまくついていかないものである。
今、女生徒はまさにその状態にあった――

「はっ…」

暑い。
ちがう。熱い。

「ええええええええ――――!!!!??」

願いを叶えると、はっきりそう聞こえた。
それでも、女生徒は叫ばずにはいられなかった。

カイン > 『さあ、一つ願いを言え。ただし条件はある。我は万能でも全能でもない。
 願いを叶える手段は我が決める。願いを叶えるために長期拘束されることは却下する。
 そして人は殺さん。この3つだ。』

朗々と語るさまは正に威風堂々、ランプの魔人にふさわしい力強さである。
だが、提出する条件はやたらと細かかった。

タトゥーのようにヒビ割れたその肌からは、時折赤い炎が噴き上がる。
それは見ようによっては、血か何かのようにも見える。

癒斗 > たっぷりと悲鳴を上げて数秒、女生徒は魔人を見上げたまま呆気にとられていた。
そしてそのままの、とても間抜けな眼をした顔でゆっくりと口を閉じる。
手に持っていたランプは熱かった。無意識に、自分の手を霜で覆っていたくらいには。

「あ、あの、あのあの…」

夢かもしれない。
夢かもしれないけれど、夢にしては…

「……条件、思ったより、細かいんですね…?」

浮かんだ言葉が、そのまま口から出てしまった。
おっかなびっくりの姿勢は変わらないものの、魔人の肌から吹き上がる炎が宙を舐めれば口を閉じる。
怖い。そう、恐怖を感じるのだ。物語は知っていても、実際目の前にそういった存在が現れてしまっては。

未だに混乱は尾を引いているため、どうにかして落ちつこうとしているのは、よくわかるだろう。

カイン > 女生徒の手についた霜を見る。魔術?異能?
魔術の痕跡がなかった先ほどの飛行能力が異能で、こちらは魔術か?
そんなことを考えつつ、言葉を紡ぐのを待つ。

『……………。
 我は、善意で願いを叶えているわけではない。我にも目的がある。
 そこに更なる面倒を加えられてはたまらん。故の条件だ。
 人間とて、契約の際にはやるだろう。』

腕組みを解き、やれやれと言った風に頭を振った。
そして、次に言葉を紡ぐ。

『まずは落ち着くがいい。少なくとも契約者に危害を加えるつもりはない。』

癒斗 > 「そう、そうですね。ええ…落ち着きます……」

黒い見た目よりも言葉が優しいと感じたのか、女生徒は大きく深呼吸をした。
そして、周りの熱風に眉根を寄せた。喉にひびいたらしい。
霜のついた手で自分の喉を軽く触ると、またぶどうの甘い匂いが周囲の風に巻き込まれていく。
そこに異能の軌跡は無く、魔術によるものだと特定するのはたやすい。

いきんでいた肩が、ゆっくりと降ろされる。
紫のグラデーションじみた眼が、まだ不安を残したまま魔人をみつめた。

「目的ってやっぱり、悪い事をしちゃったんですかね……?
 ああでも、いえ、これはお願いじゃなくて、ただの疑問ですけど…」

小さく首を傾げる。

「契約をしたつもりはないのですが、あの、もう契約をした状態なのでしょうか。
 こすったの、言い方悪いですけど、まずかったですかね」

カイン > 『………。』

言葉を切り、落ち着くのを待つ。見た目とは違って存外冷静なようだ。
いや、あるいは『興味が無い』だけなのか。
辺りの草が、熱風に煽られて激しく揺れる。

『奇妙な魔術だ。
 ……否。契約は人間が願いを伝えた時に結ばれる。
 先程はそう呼んだが、今の貴様と我は正確には契約者ではない。語弊があったな。』

そう言うと、みしりと音を立てて6本の目を細めた。

『別に願いが無いならそれで良い。別の者の願いを叶えるのみ。
 思うがまま、好きにしろ。
 【権利】は既に貴様の手にある。捨てるも使うも貴様が選べ。』

癒斗 > 「魔術?…ああ、これですか。なんてことはない、初歩術ですよ魔人さん。
 この都市にいるみなさんはすごくて、こんな小さな魔術を見る機会のが少ないんですけども」

選べば学校で習えます、と苦く笑う。
魔人の表情から何を考えているのかは察せないが、きっとあきれられてるんだろうなあと霜のついた手で頬をかく。

「…あ、契約する直前ってことなんですね、良かった。
 小さい時ならばお姫様にしてほしいとか、宇宙に行ってみたいとか、
 お菓子の国に行きたいとか…いっぱいお願いがあった気がするんですけど」

手の中のランプは、権利の証のようなものかもしれない。
女生徒は困ったようにその金色の輝きを眺め、魔人に眼を戻す。

「願いは無い、そうですね、願いって言えるほどの願いは無いです。
 わたしはここに、自分の願いを探しに来てるようなものなのです。
 …けど、貴方の事は、少し気になったので、
 
 お願いというほどでもないのですけど………」

癒斗 > 「その、お名前を聞いてもよろしいですか。
 お話も聞いてみたい気がします。誰がどういう願いをあなたに捧げたのか」

絵本を求める子供のようなしぐさで、まばたきをする。
表情から恐怖が消えて、純粋な好奇心だけが現れた。

「これはお願いに入りますか?」

カイン > 告げられたその願いに、目を丸くする。
そして次に、呆れたように再び細めた。

『……………。聞いても面白くなかろうに。
 人の欲とは醜い。我の力を悪用しようとした者も、無数に存在する。
 それを知って何とする。人の心の醜さを知って何とする。』

その言葉は、どこか遠くへ告げられているようにも見えた。
どこか遠い、癒斗ではない誰かへ問いかけているような言葉だった。

『世界は広い。
 そしてその広い世界が無数に内包された宇宙は更に広く、
 その宇宙が無限に内包された平行世界は果て無く広い。
 小さな魔術さえ学び得ぬ場所も、あるということだ。』

そして、辺りの熱気が治まる。
……治まる、というよりは……目の前の魔神が、吸い上げたような感覚がある。

カイン > 『我は【イブリース】。
 我は【スルト】。
 我は【カグツチ】。
 我は【アグニ】。
 【フラカン】。【クルースニク】。【ミシュコアトル】。【ウルカヌス】。
 【災いなるもの】【不毛なるもの】【死をもたらすもの】【神の炎なるもの】。』

『だが、今は【カイン】と呼ぶがいい。
 我はその他の名を持たぬ。それ以外の名など木端も同じよ。』

そう名乗った魔神は、みしりと腕を組んだ。