2015/08/19 のログ
ご案内:「取調室」にシインさんが現れました。
■シイン > 時刻は夕方前。
時計や時刻の確認が可能な道具などの類は渡されてないが、体内時計で大まかに把握はしている。
警備員二人に牢獄から連れだされて歩いて向かう。
前と後ろで警備員に挟まれながら、歩き易いように足枷だけは外して。
「何処に連れて行かれる?」
そう聞いた所、暫くは沈黙だったが、背後の警備員が口を開く。
取調室だ、とのこと。
すると前の警備員が喋るなと、強い口調で言った。
どうやら私に対して告げた様子ではない。
それもそうだ、本来であれば話してはいけないのだから。
背後を警備する者は新人か、まだ経験不足か、どちらにせよ話してしまったものは仕方ない。
前から溜息が聞こえた。
教育が行き届いてないのは目を瞑ろう。特にそんなことを言える立場ではないのだから。
■シイン > 背後からも溜息が聞こえた。
そんな自分のミスで落ち込んでるのを罪人に見せて良いのかと問いたい。
数分と歩を進めて一つの部屋の前に辿り着いた。
"入れ"
短い指示に従順な下僕のように従い、開かれた扉を進んだ。
内部には既に人員が待機してたようで、ざっと周りを見渡して把握した。
此処は取調室なのだろう。
"軍"の方でも同じ方式を取っていたので、迷いは一切なく判断できた。
本来ならば書記係に、取り調べ係と、罪人も合わせて三人程度で済ませる。
だが相手が相手だからだろうか、危険も考慮して護衛の者が二人、扉の側面に配置されている。
視線は誰一人として自分に送られず。
いや、敢えて送らないようにしてるだけかもしれないが。
座れなど指示をされる前に自分から進んで机から引かれてる椅子に座った。
■シイン > 座れるように、予め引かれているのには感謝しよう。
ある程度は気が利くらしい。
部屋の中に居る自分を除いた四人。二人の警備員は男性。書記係も男性。
取り調べ係だけが女性だ。
こういう場に女性は配置されないはずだが、まぁ深く考える必要もないだろうか。
座ったら早速に取り調べが開始された。
間の前に座り、自分の対面に座る取り調係の女性。
透き通るように聴き取りやすい声が、経歴、趣味、出身地、余罪など読み上げていく。
間違いはないかと聞かれ、素直に頷き。
唯一つ。
余罪に関しては、この島以外で行われてた行為は問えないらしい。
本人の口から告げられても、証拠が何一つとして無かったそうだ。
それもそうか、それに時効の類も多いと納得をした。
妄言として処理されるか、慎重に調査を進めて出て来るのを待つか。
例え見つかったとしても、罪として訴えられるか怪しい部分もあるだろう。
■シイン > それよりも調査の早さに驚いた。
流石は警察機関なだけはあるものだ。
そこからは淡々と感情などの類は一切見せない質疑応答が繰り返された。
特に机や壁を叩くなど、短絡的思考回路の脅しや恐喝などもなく。
"軍"では血の気が多い奴が居たのもあり、絶えなかったが。
最近の警察機関は変わったのだな、と。
出入口前の警備員は一歩も動かず、部屋の中に聴こえるのは自分の声と取り調べ係の声に、書記係のペンを走らせる音。
質疑応答は大体一時間弱で終わっただろうか。
最後に何故このようなこと犯したのだ。
普段の素行の態度や講義内容の調査からして察することは出来なかった、と。
なるほど、どうやら彼女は私の講義を受けてたようだ。
私自身に彼女の覚えてはいないが、記憶してないだけか。
それに事情聴取なども当然のように行ったはずだ。
■シイン > 私は偽りを装う事せずに素直に答えた。
というより、静歌から聴取をしてなかったのか。
或いは真実かどうか、互いに言葉が正しいかを調べる為に再度聴取か。
その線が一番濃厚だろう。
元の始まりから、ソコに至るまでの経緯に結末。
所属していた"軍"の汚点となるべき部分。
全てを話した。幻影として重ねてたこと。何もかも全て。
なんせ隠す必要はないのだから、話した方が何かと良い。
一つだけ困ったことがあるとすれば、お涙頂戴的な話になることか。
誰が聞いても悲惨で惨い結末なのだから当然と言えば当然なのだが。
話を終えると、何処か表情を曇らせている取り調べ係と、ペンを走らせた音を止ませた書記係。
同情の類は逆に不快感を味わう事になり、なんせ今更遅いのだから。
過去は変えられない、未来は知る由もない。
結果に結末は変えられない、それならば同情など一切とて不要。
私の話が終われば、取り調べを終了するとの声。
立ち上がることを促されて護衛の者達に連れだされた。
ふと
部屋から出る前に、背後に振り向いて彼女へと視線を送ってみた。
苦虫を潰した、そんな顔が浮かんでいた。
正義感溢れる者なのだろうか、話を聞いて悔しんでいるのだろうか。
なんにせよ、まだ若い。
■シイン > 正面に向き直り、取り調べ室から出て、再びあの牢獄を戻される。
前と後ろには来た時と同じく、警備員の者が配置されながら。
来た時と一つだけ違う点を挙げるとすれば、背後の警備担当が変わってたことか。
今頃あの者は叱られているのだろう。
だが、叱られて、注意されながらも人は育つ。成長とはそういうものだ。
ふとして、取り調べ係のことが頭に残った。
恐らくだが、鉄仮面を被りきれない。偽りで染められない者なのだろう。
若さというのもまた成長要素の一つ。
そんな考えても仕方ないことを考えるのは私の悪い癖。
考えを振りきって、牢獄へと戻った。
ご案内:「取調室」からシインさんが去りました。
ご案内:「常世島」に六道 凛さんが現れました。
■六道 凛 > 今日も夏真っ盛り。非常に暑い。
学校が始まったのもあって、単位制とはいえ
もう少し経つ。人通りも多い。
夏物の制服に、しかも男が日傘をさしているのは珍しいのか
視線が、ちらちらと向けられるが、あまり気にならない。
それはなぜかと言われれば、どうでもいいからかもしれないなと思いつつ。
ふと、今日の目的を思い出す。
今日は風紀委員として、街全体の警備体制。詳細などを勉強するという
建前の元、面会に来た女性と待ち合わせ。自分に常世島を教えてくれるらしい。
ちょっと、業務連絡を兼ねた拍子に、そんな話の流れになり。今に至る。
さて――今の自分にはなにか、わかることがあるのだろうか。
他者の視点からみた世界を、介してなにか、実感できるだろうか。
そんなことを考えながら、人を待つ。
そっと、もうぬるくなった水に口をつけて。
たおるで艶やかに汗を拭い――まるでショーでもしてるかのように
それがまた、人の視線を集めるのを少年は、まだ良くわかっていなかった
ご案内:「常世島」にレイチェルさんが現れました。
■レイチェル > 8月も中旬を過ぎ、いよいよ9月まであと少し。
だが、まだまだ暑さは続いている。
かんかんと降り注ぐ日光。うだるような暑さの中で、多くの人々がそれぞれの
目的をもって、ある者は足早に、ある者はゆっくりと、歩んでいる。
そんな中、片目を眼帯で覆ったツーサイドアップの少女もまた、人混みの中で
歩を進めていた。服装は普段通りで、制服の上にクロークを纏っている。
目指すは待ち合わせの場所だ。
これから彼女が会うのは、六道凛。彼女が彼と会うのは、以前面会して以来になる。
「よ、待たせたか」
口にして手を軽く上げながらレイチェルは六道の方へ近寄る。
艶やかな六道の所作とは対照的に、この暑気の中でも
一際活発、溌剌とした様子である。
■六道 凛 >
「……汗がちょっと出るくらいには?」
ふぅっと、壁から身体を離して。
水をかばんに詰め。足の間に置いてあった、荷物を片手で掴んで。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします?」
首をわずかにかしげながら。肌に張り付いた紫の髪を、鬱陶しそうに
後ろに払いのけて。
「……日傘、ささないの?」
女の子なのに、なんて思いながら。
白い肌が焼けても平気なのだろうかと思いつつ。
ふと浮かんだ疑問を投げかける――
■レイチェル > 「そうか、悪かった悪かった。ちょいと追加で仕事の方ができちまってな、出来るだけ早く
終わらせてきたんだが」
悪ぃ悪ぃ、と片手を顔の前にやって軽く頭を下げる。
実際もう少し早く来る予定だったのだが、風紀委員会として属している以上はなかなか自由に
動き回れないものである。
「おう、よろしくな……っつっても、別にそう畏まる必要もねーけどな。ただ、適当にこの
島を……街を見て回るだけだからな」
そう言って、胸の下で腕を組む。彼女が常々無意識の内に行っている癖である。
その額には汗も浮かんでいるが、そう大した量ではないようだ。
「たまには太陽の光をしっかり浴びておかないとな、健康的じゃねーだろ。まぁ吸血鬼の血
が入ってるオレが言うのも変かもしれねーけど」
そう言って、レイチェルは可笑しそうに笑う。
そして、こっちこっち、と促すように手招きすると、街の方へ歩き出した。
■六道 凛 >
「……追加の仕事? 最近、忙しそうだね?」
そういえば、家主もいろいろ歩きまわっているのを思い出す。
あれ以来、三人で食事をするタイミングもそうそうなく。
学校が始まったら少しは落ち着くのかと思いきや――
それ以上に忙しくなっているのだから、どうにもその辺大変そうだ。
「……ん、でも教えてもらうのは事実だし。第一印象が大事だから
何をするにも、粗雑よりはそっちのほうがプラスでしょ」
損得勘定を計算しているような。そんなものいい。
待っている間に、ダイブしていた世界をシャットダウン。
目の前の、現実に。自分の”今までの価値観―らがん―”に
”彼女の価値観―メガネ―”をかけて、見つめる準備をする。
「吸血鬼らしくないよね、キミ。なんでも大丈夫そう
あぁ、でも杭をウタれたら死んじゃうか、流石に」
歩き出す。静かに静かに――ゆったりとした、まるで花魁のように。
「どこから、連れて行ってくれるの?」
■レイチェル > 「まぁ、色々あるからな。細かい仕事大きい仕事。表に出てるような物から出てないような物まで、
色々だ」
肩を竦めてそう答えるレイチェル。
風紀委員はいつだって忙しい。でも、それだけやり甲斐がある。
他からどう見られているかは知らないが、彼女としては、そこまで苦には感じていなかった。
「そういうの狙ってんだったら、第一印象~、から先は黙っといた方がもっと印象いいぜ。
やるならやるで、黙ってやっときゃいいんだよ、そういうのは」
そんな事を口にするが、彼女は特に気分を害した訳ではない。口調もゆったりと穏やかだ。
ただ、ぴっと人差し指を立てて、片手は腰にやって。六道の顔をしっかりと見据えて言うのだった。
「まぁ、流水だろうが日光だろうが十字架だろうが聖水だろうが、お構いなくって感じだが……
そりゃ流石に心臓に杭撃ち込まれたら死ぬぜ。高位の吸血鬼じゃねーんだ。全身麻痺じゃ済まねーよ。
……っと、ああ。うちの世界の吸血鬼は、杭刺されたら死ぬんじゃなくて全身麻痺すんだよ」
レイチェルの世界の吸血鬼といえば、心臓に杭を刺したところで滅ぼせる訳ではない。
ただただ杭を刺されている間、身体が動かなくなるだけである。しかしレイチェルは半吸血鬼であり、
心臓に杭を刺されれば、人間よりはほんの少し長生き出来るだろうが、死は免れないだろう。
「とりあえず、オススメの店に連れてってやるよ。多分今日も『ある』と思うけどなー」
そう言って、人混みの中をすたすたと歩いて行くのだった。
はぐれないように、時折背後を確認するのは忘れない。
■六道 凛 >
「へぇ……いろいろ……夜のお勤めとかもあったりする? 諜報活動とかで」
そういうのがあれば楽だなーと思いつつ。
そこに配分されれば、実にすんなり。何も気にせず生活できる気がする。
そんなことを思いながら――
「……まぁ、キミたちだから言ったってことでひとつ
あんま隠し事してていい関係ではないでしょ、ここらへんは」
違う? と首をかしげる。
ふぅっと、息を吐きやはり暑いのか。パタパタと手で自分を仰ぎつつ。
「へぇ、創作物の吸血鬼しか知らなかったや。演劇では完璧だって
言われてた知識だけど、やっぱ現実は違うんだね」
空虚な瞳をそのまま。歩くのが結構早い。
きっと、きっちりした性格なのだろう。
強気なタイプ。でも押しには弱かったりするのだろうか。
男ウケしそう、それに――付き合いに無理をしなくて良さげだ。
――全部、もうひとつの世界の受け売りだけれど。
「……おすすめ? なんの店?」
■レイチェル > 「よ、夜のお勤め……諜報活動って……いやいや、普通ねーよそういうのは。
風紀の夜の仕事といったらまぁ、例えばオレだったら見回りが主になるな。
書類仕事もたまにはするが、まぁ主にはそっちだ」
実際レイチェルが夜にする仕事と言えば、主に見回りである。
落第街やその路地裏といったところまで、時間を決めて見回りをしている。
「そりゃまぁ、隠し事はしない方が信頼には繋がるが、な。他に対して
そういうこと言わないんだったらオレも気にしねーし、注意もしねーさ」
これから外に、常世に出て生きていく六道に対して、何か少しでもアドバイス
できれば、と。少々口うるさく思われてしまうかもしれないが、それも仕方ないな、
と。レイチェルはそう思っていた。
「まー、完璧に近いようなのも居るが。オレは残念ながら半端な吸血鬼なんでな。
半分吸血鬼、もう半分はハーフエルフ――人間とエルフの混血さ」
足早に進むその姿勢は実にしっかりしていおり、六道にきっちりした性格と
思われるのも頷けるものである。実のところはそうお堅い人間でも無いのだが。
歩いて数分もすれば、商店街、多くの店が立ち並ぶ通りから一歩外れた道へと
辿り着く。
そこに、白い屋根の屋台が出ているのが遠目からでもわかるだろう。
その屋台には既に、何人か並んでいる。
「とりあえず、あそこ。美味しいクレープ屋で、まぁ割と人気だから、
オススメの店ってことで。一つ奢ってやるよ。好きなもの言いな。
ちなみにオレのオススメは生クリームストロベリーチョコバナナだ」
列の最後尾まで歩けばそこで歩を止めて、六道の方を振り返る。
店の看板にはメニューが置いてあり、そこには様々なクレープが
並んでいた。生クリームや苺といったものを包んだベーシックなものから、
焼きそばやたこ焼きなどの惣菜を入れたものまで、様々である。
■六道 凛 >
「……なにか変だった? そうか。普通は無いんだ
身体使えば、それなりに情報手に入るんだけど――
そういうのはあんま好まれないのかな……」
ふぅんっと、仕事の説明を受ければ頷いて。
くるくると日傘を回す――
「デスクワークは、得意だよ。見たかもしれないけど
多量演算。マルチワーク、電子情報処理はそこそこできる」
なら大丈夫かなと思いつつ。見回りをするなら、向こうの世界からだろうかと
思案して――……
「ぼくが信頼するとかできるかどうかは、わからないけど
一応、ネットの知識で悪手にならないようにはするよ……」
現実に、悪影響が出ないようにと口にする。まだそっちのほうが楽なのだろう。
人に聞くよりも、自分で見るよりも――
「クォーター……、だっけ? 違ったかな」
それっぽいのを見た覚えがあるから。単語だけを口にして。
甘い香りに、少し顔を上げた。
「……クレープ……おんなじのでいいよ。それにしても――」
じっと目の前の女性を。ほんの少し、驚きの瞳で射抜き。
「まるでデートのようなチョイスだね?」
■レイチェル > 「お前が常世で生活したいってんなら、まず改めるべきはそこだぜ。
身体を使って情報を手に入れる……なんてのは、風紀の、もっと言えば生徒のやる
ようなことじゃねぇ。もっと自分の身体を大切にするべきだぜ。ま、少しずつ覚えて
きな。焦らせやしねーさ」
その言葉に、頬を掻くレイチェル。
これまで彼はそうやって情報を得てきたのだろうが、ここではそうはいかない。
やれやれと、苦笑しつつそう答えるレイチェルであった。
そして、身体を大切にするべきだ、なんて言葉がよく自分の口から出たものだ、と
一つ頭を抱えるのであった。
「まぁ、お前の場合はそうだろうな。足を使った見回りなんかやる必要ねぇだろ。
適材適所。ネットの世界の見回り、なんてのはやることになるかもしれねーがな」
そう言って、目の前の六道を改めて見やる。傍目からはなかなかそう見えないが、
この人物はかなりの演算能力を持っているという。人は見かけに寄らないものだな、
と改めて感じ入りながら、レイチェルはひとつ伸びをした。
「ああ、そんな感じだな。クォーターエルフ、っていっても間違いじゃねぇよ。
色々混ざっててちょいと複雑だが、オレの血はそんな感じだ」
そこまで言って、デートのようなチョイスだね、などと言われれば、レイチェルは
小首を傾げるのであった。
「お前そーいうとこはよく知ってるんだな。別に、デートのつもりはねーよ。
ただオレがよく通ってる店だから教えてやってるだけで」
ほんの少し、むす、と。顔をメニューの方へ向けるレイチェルであった。
そして、順番がやって来れば生クリームストロベリーチョコバナナを二つ、注文する。
ほどなくして、クレープが二つ、店員から渡され。
手渡されたクレープの片方を六道に渡せば、レイチェルは自分のクレープを
はむっと口にした。
■六道 凛 >
「――そういうもんか。別に減るものじゃないし
童貞も処女も、もう散ってるもんだし――大事にするって感覚
まだ、よくわかんないかな……キミは、そういうのどう?」
ここからして、だいぶずれているらしい。
そういえば、同居人にも似たようなことを言われたことはあった。
でも、昔のことが仕事に使えるのはいいことではないかと最近は思う。
前向きに云々というやつだ。分からないだらけだが、一応自分の有効活用は知っている。
「適材適所。演劇の、役割みたいなものだね。それならわかるよ」
うんと頷いて、”受け取らずに”ぱくりとクレープに口をつける。甘い。
まるであーんをしたかのような。
「こういうこともしてたから。サービスは、心を緩める大事なポイント……
それっぽい雰囲気出すのに、違う味にして食べさせ合いっ子でもしたらよかった?」
おすすめというだけあって、美味しい。甘すぎず。
すっぱすぎず。飽きない味だなと、思いながら。
口の端についたクリームを艶っぽく舐めとって。
そっと今度こそ手で受け取った。
■レイチェル > 「減るもんじゃない、なんて言うけどな……そういう諜報活動から命の危険に関わるような
事態に発展しない保証なんてねーだろ? 色恋沙汰って怖いぜ?
というか、そもそもが、風紀がそういうことやってる、なんてことになったら
大問題だぜ。風紀を守る側が風紀を乱してどうする、風紀を」
そこまで言って、溜息をつき、すぐに語を継ぐ。
「あー、そういうのって……身体を大事にするって話か? ならまぁ、自分でも出来てるとは
言えねーけど。それでも心がけるようにはしてるさ。最近は特にな」
以前常世に来てから経験した、強い吸血衝動。あのことがあってから、大分自分の体調に
気を遣うようになった、とレイチェルは自負していた。
「まぁ、そこはそうだな。演劇の役割と同じだ。話が早くて助かるぜ」
そう言って、真っ白なハンカチを取り出せば汗を拭うのだった。
渡したつもりで差し出していたものが、ぱくりと食べられれば、手の先から伝わる
予想外の感覚にびくっと身体を震わせて六道の方へ振り返る。
「デ、デートじゃねぇつってるだろ。雰囲気とか出す必要ねーし、
そこんとこ履き違えんじゃねーぞ。街案内するだけなんだから」
手で受け取ったのを見て、大きく息をついて、続く二口目へ。
■六道 凛 >
「……そういえば風紀ってそういうのも混ざってるんだっけ」
面倒くさいな、なんて呟いて。でもそれがルールなら仕方がない。
くるくると、日傘を回しながら。ぱくりと続けて。
紅茶とか、コーヒーが欲しくなるななんて思いながら……
「へぇ、最近。なにかあったの? キミにも」
少しだけのぞかせた興味。前回までの。
囚人だった彼ではなかった、色の感情。
それを出しながら言葉を紡ぎ――
「……履き違えてるわけじゃないけど……嫌だった?」
少し、機嫌を伺うように。前かがみになり上目で尋ねてきた
■レイチェル > 「面倒だからってルールを投げ出したら、誰も安心して生活出来なくなっちまう。
これまでのお前に我慢が無かった、なんて言うつもりはねーが、外で生きていく以上、
ある程度の我慢は仕方ねーのさ。社会で生きていくのなら、特にな」
再び腕を組んで、一つ頷くレイチェルであった。
「まぁ、最近な……半吸血鬼つっても、血がなくちゃ生きていけねぇ訳だ。
つまり吸血衝動ってのがある訳なんだが、その時血が足りてなくてな。
ちょいと体調を崩しちまったのさ。
その時は親しい友人に血を貰ったから何とかなったんだが。それ以来、これまで以上に
自分の体調に関して気をつけるようにしててな」
色々あってな、と。それで片付けるつもりだったのだが、
珍しく食いついてきた彼の様子を見て、レイチェルも問いかけにきちんと答える。
特に隠す必要もあるまい、と。
上目遣いに思わず心の奥底でどきっとするレイチェル。
恐らく少し顔に出てしまったが、仕方あるまいと。
レイチェルは頭を振った。
「嫌……とは言わねぇけど……何だよ、そんな顔すんなよ。別に怒ってねーよ」
ここで嫌、などと言えばせっかく調子の良くなってきた彼の機嫌を損ねてしまう
だろうか、と逡巡したレイチェルはあたふたしながら結局そんな風に返すしかない
のであった。
■六道 凛 >
「……無法者と、アウトローの違いかな? それはちょっとわかるけど」
コレと決まった規則はなかったが、暗黙の了解はあった。
つまり、規則があり暗黙の了解が多い世界だと、そういうことなのだろう。
社会は、きっとそういう……
「……吸血衝動……血を呑まないと―てやつ? たしか血を呑まれたら
性的快楽云々とか聞いたことあるけど――親しい友人。ふーん……」
意味深く、ちらっと伺ってみたりしながら。
結構進んでるんだね、と付け足して。
パクパクと、食べ進める。
「……いや、怒らせちゃったのかなって思って
じゃなければよかった。ウケが良いサービスだったけど
そうじゃなかったのかなって心配? になっただけ」
少しだけ口の端を吊り上げて。微笑った、気がした。
ほんのり灯った、感情――
■レイチェル > 「誰も何も言わなくても、出来ていくルールってのはあるんだよ。決められているルール以外
にもな。それは何処だってきっとそうだぜ」
父親代わりだった師匠の言葉を受け売りすることもあるレイチェルだが、
彼に伝えているのは、これまでレイチェルが生きてきた中で、その身体で感じてきたことだ。
「そ、そこの知識もあるのかよ……! まぁ、そういう事情もあって仲の良い奴にしか頼め
ないんでな。別に進んでるって訳じゃねーよ。オレはこうしないと満足に生きていけない
ってだけだっての」
貴子は親友である。大事な友人だ。しかし、それ以上では無い。
進んでいるなんてことは無いだろう、と。
自分の中で貴子の顔を思い浮かべながら、改めてレイチェルは自分の中でそれを
はっきりとさせたのであった。
「サービスだか何だかしらねーが、そういうのは要らねーよ。案内するのはオレだから、
お前から何かオレにサービスする必要はねーって」
ほんのり微笑んだように見えれば、レイチェルも安心したように少しだけ微笑む。
「何だ、しっかり生きてる顔も出来るじゃねーか。そうそう、そういう顔だよ。
お前がこれから常世で生きていく中で、皆に見せて欲しい顔はさ」
■六道 凛 >
「うん、そうかも……どこの世界でも……」
コクリと頷く。どこか説得力があった。
してほしくないこと、したらダメなこと。
その”常識―スペース―”はきっと共通な部分が多いのだろう。
そしてなにより目の前の女性からの言葉はどこか腑に落ちる部分が多かった。
「あ、それも本当なんだ。なるほど……キミ、創作上のキャラなくらいかっこいい女性で。広いんだから、なんというか
そう思ってる可能性もあるかもねーって思っただけ」
ここはネットと、演劇を詳しく知ってるが故だ。
そういう縺れは見せ場になる。その時の心情意識を
演者にはかるくだが教えてもらった――その知識が蘇る。
「そう? お返しは大事じゃない?」
なんて首をかしげながら……そんな顔してたかなと。不思議そうに目を細めた。
■レイチェル > 「何だよその喩え。別にかっこよくも何ともねーよ。
どこからそう判断してるのか分からねーけど、何処にでも居るただの異世界人ってやつだぜ」
クレープも残り少なくなってきた。
もう一つくらい頼みたい気分だが、流石にそれでは食べ過ぎであろうか。
それに金だって、幾らでもある、などといえる訳でもない。
目がメニューに向かいそうになっていた事に気付いたレイチェルは、すっと視線を
六道の方へと戻す。
「まぁ、お返しは大事かもしれねーけど、な。時と場所ってのがあるんだよ、お返しにも。
人がこんなに居る中で、あんなことやってたらこっちも恥ずかしいっての」
と、頭を抱えるレイチェルだった。
■六道 凛 >
「どこにでもはいないんじゃないかな。
七色が言ってなかった? ヒロイン。良くも悪くも、キミは今は有名人だからね……
ネットとか、ちゃんと見てる? 今はことが収まってるからあれだけど
ファンクラブとかあるんじゃない?」
もぐっと、食べ終えて――そっとその視線に気づいた。
だから――
「半分こする? ぼくももうちょっと食べたいし」
なんて、告げて。水を取り出し。味覚をリセットする。
ごくごくと喉を鳴らして。
「……そう? 気にしなければ良くない? これくらいする人はするよ
もっと過激のだってあるし。違うところで、すごいお返しのほうがよかった?」
なんて――またずれたことを言いながら。
どれにする? と、尋ねて。