2016/08/14 のログ
綾瀬音音 > …………はい。
(名前を呼ばれて。
一瞬大きくなった目がすぐに細まって、それから頷いた。
真っ暗闇ではないが、人の営みからは遠ざけられているような、そんな海で見つけた背中。
その横に立つでもなく、その背中が見える位置で立ち止まって、その背中と広がる黒い海を見る。
どれ程そこに経っていたのだろう。
もう、何時間も過ぎているはずなのに

無機質な声は、聞き覚えがないものだ。
自分の知らないその背中を眺めて、男の言葉を聞く)

―――――――――。

(知ってはいるが、まだ遠い世界の話、もしくは一年前、隣にいた少年を通して見た世界。
そして今、いや少し前に、男に手を引かれるように見た世界。

闇は深かった。
自分ではどうしようもないと思えるほどに、深い世界なのは知っている。
まずは言葉を挟まず、だたただその声を、言葉を聞いている。

昼の世界。
夜の世界。
そして、その、境界。
簡単に言うが、そこには沢山の――苦悩があるのだ。

それは知っている。
理解しているとも、思う)

――――。
私は、正直。
夜の世界と昼の世界の境界が――どこにあるのか、解らないんです。
だって、どちらいいる人も、笑ったり、泣いたり、苦しんだり。
人には、色んな“本質”があります。
一言では語れないものです。
ねえ、先輩。
一年前――違いますね、何も知らなかった頃の私と、今の私。
そこには連続性って言うべきものはありますけれど、多分本質はもう幾分違うものなんです。
でも、どちらが本物で本当か、何て考えることも意味が無いんじゃないかな、と思います。
(短い期間、闇の世界から離れられなかった人と愛し合った。
それは間違いなく、自分を変えた過去であり、事実だ。
そんな世界があることすら信じられなかった自分と、今の自分とは全くというほどではなくとも確実に違う)

だけど、そこには境界線はありません。
どちらも私です。
それと同じ様に――完全に昼だけ、夜だけ、だなんて。
単純にいられる人なんて、きっといないんです。
それをしようとすれば、きっと、“壊れて”しまいます。
私は――先輩もそうですけれど、大変容の後に生まれた人間です。
だったら、曖昧な世界で、揺れるように生きていくしか無いんじゃないでしょうか。

先輩、先輩は――多分なんですけれど。
夜の世界と戦ってきたってことは――昼の世界に。

本当は、ずっと居たかったんですね。
(守りたかったのだろう。
過去にいた、かつて自分の居場所だった場所を。
戻ることが出来なかっただろう場所。
だけど、戻りたかったのだろう。
だからこそ、きっと、夜の世界にずっとはいられなかった。

視線が出会って、小さく笑う。
いつものようには笑えないけれど、それでも笑う。

それから、目を伏せて)

世界は、いつだって変わっていきますよ。
大変容がなくても、きっと違う形に変わっていたはずです。
誰かが望んでも、望まなくても。





――だけど、私たちは。
この世界じゃないと、生きていけないんです。
(大変容は一つの要因でしかない。
きっかけはきっとなんであっても、ありえたのだろう。

だけど、どんな世界であっても。



自分は、自分たちは。
昼の世界にいる人も、夜の世界にいる人も。
その境界にいる人だって。


ここでしか、生きていけないのだ。
そうでなければ、捨てるか壊れるか、するしか無い)

五代 基一郎 > 「わかっていた。世界が大変容なんて起きなくてもこうなっていたことは。」

それこそ人は罪深い生き物だ。
大変容などなくても、夜の世界は存在していたし
夜の世界はすぐ隣にあって、それは別に異能があるからとかではなく
異邦人であるからでもなく……人の中から生まれる。
力があるもの、ないものとか相容れないものとか昼の世界とか夜の世界ではなく……
どこからでも生まれてくるものであることは。

だけど、いつか帰るべき場所……
平和な何もなかった世界のために、それを崩されないために戦うこと
戦おうとすることで
その場所を、居場所のある世界を見ていた。
そこにあるはずと信じて。

「帰りたかった」

だから望んでいた。見ていたと……声色が崩れる。
冷たい、無機質な、それこそ夜の世界にいるような声ではなく……
昼の間でさえ聞いたことのない、言ってしまえば情けなさから出てきた王な声が返された。

「いつか帰れると思っていた。全部終わったら、きっと全て何もかもうまく言って
 帰れるんだと思っていた。でも言う様に変わっていっていた……
 その場所がもう、とかではなく。俺自身が見ていた帰りたい場所が、もう……変わって、思い出せない。
 どんどん遠くなるんだ。遠く、遠くに行って……帰りたかった場所が思い出せないんだよ。
 別の場所が出てくる。笑える話だ。道に迷わないように導にと言っておきながら
 自分が迷って、手を引く相手が導になっていた……わかるか、これが
 通して見ていたんだよ帰るべき場所を。だから、そうだよ。
 ここから先なんて行かずに、普通の場所いればいい。帰せばいいってさ……思って
 進めないんだ、ここから先が。もう帰れないのが嫌なんだ。
 帰る場所が、見ていたところがもうそこしかないからってさ……」

曖昧な世界で、確固たる意志を以ってそれこそ悪いやつらと戦っていたが
それが崩れてしまった。夜の世界からやってくるから、いつか夜を恐れなくなれば
帰れるのだと……

だが違った。それを証明したのが、今語りかける少女だった。
どちらかでもない。そもそもそれを一番理解しているだろうのが彼女だ。
理解させたのが、彼女である。
それによる波を喰らっていたのは彼女だ。
敢えてその定義を持ち出すならば、昼の世界にいながら夜の世界の力を持っていたのだから
昼の世界にあこがれをとしていた。しかし見せることで、手を引いていくうちに
彼女を通してわらからされてしまった。
そんな境界どこにもなく、世界はとても混沌としていてあやふやなのだと。
わかっているつもりだった。混沌としているなど……世界がとっくに変わっているのだと。
だがそれは本質的なものではなかった。
言われていた言葉が思い出される。世界はもう変ってしまったのだと。
変り続けている、それこそ未だに変容している、形はあるが形が決まっていないようなもので
誰かが、それこそこの島では財団がある程度形を決めているだけに過ぎない。

力のないものとか、異能を持つものとか、異邦人とかそういう呼び名の区別はなく
もうこの世界の存在なのだと……旧来のなにか、昼と夜が分かたれていた時代ではないと。
証明しているような、理解しているのだろう。
言うなれば、今の彼女が普通なのだ。

笑える話だ。どこにでも行ける、どこにでもいられない類の人として黄昏時と言ったが
それこそ混在する世界の象徴であり、黄昏がもうそもそも普通なのだと。
旧来の世界の黄昏時を表しているのではないかと思えば、より笑えてくる。
そうした中でのこの島なのだから……

「普通なんてもうあっただけなんだな……気の持ちようなんてことじゃなくてさ
 何かこう……そういう、何事もないとかじゃなく。
 君が今の世界の普通だよ、きっと。」

自分が言っていたことだろうか。
言っていたことの既視感がある。
何にせよこの世界で生きられないのならば、結末は決まっている。

承知済みだ。いつか帰れないのならば、とも思っていた。
帰る場所がなくなっても、いつか消えることになったとしても
やるべきことをやるだけだと、決めていたけれども
そこに自分の居場所がなくても構わないとしていたけれども

「ごめん。もう無理だ。失いたくない。これ以上連れていけない。」

挑む意志より恐怖が上回った。
見せてきたものは本質的な部分だ。どう誤魔化しても最後に残るのは力だ。
その色が強い世界か、薄い世界だけの話ならば……薄い世界にいてほしいと願ってしまったから。
だから、そうして置いて行って自分は歩いていく。
そのためにここで完全に分かれて、何もなかったかのように過ごす……
理解できたのなら、君はどうやっても生きて行けるだろうと伝えて自分は色濃い世界に戻る……

しかしそれが出来ない程度になってしまった。
自分もその、彼女がいる場所にいれるのではないかと日々を通じて思ってしまったから

「もう歩けないんだ。」

どうしようもなくなってしまったんだと
視線が交わっていても夜の闇で伺えぬ、顔で答えて”しまった”
迷子になってしまったのだと。
棄てるか壊れるかでいえば、壊れてしまったのだと告げるように。

綾瀬音音 > (男の――先輩の語る言葉はどこか断片的で。
だけれど、その断片すべてが繋がっていた。

だから、解る。理解する。解ってしまう。
何を、どれ程望んでいたか。
当たり前だ。
誰だってそうだ。
辛い思いも悲しい思いも、苦い思いも痛い思いもしたくはない。

誰だって望まないわけがない。
人によって形は違えど――普遍的な、幸せな日々を。
ごく当たり前に手に入るような、“普通の日々”を。

声音が崩れるのを誰が責められるだろうか。
彼が失ってしまったもの、見たかったもの、求めていたもの、
帰りたかったと語ること。
それを、責める権利が――誰があるのだろうか。

だって、そもそも。
大人といえども、先輩だって、自分と5歳も違わないのだ。
その中でどのような経験が、苦悩があったのか考えれば、彼が望んだのはささやかな物ではないだろうか。

そして、彼が望んだ――
その中に、自分はいたのだ。
知らないうちに、先輩の、帰りたかった場所にいた。
自分にとっては当たり前で、それでも、男が望んでやまなかった場所に、自分はいたのだ。

目を伏せる。
何をどう形容するべきなのか、どう語ればいいのか、まだ17歳の少女には、よくは解らない。
だけど、唇を開く。
ここで押し黙っては、後悔の海に沈んで――今度こそ浮かび上がれないのは解っているから)

世界は変わります。
私もきっとこれからも変わっていきます。
先輩だって、きっと変わっていきます。
他にも、きっと色んな事が。
境界線のない世界で、きっと色んな物が混ざり合って。
色々な事が起こって。
変わっていくと思います。
(変化するなというのが無理な話だ。
世界は変る。
刻一刻と変わっていく。
救いようもなく、どれほど望んでも、きっと――変わってしまう。

“普通”だって、きっと変わるだろう。
そして、その中で、やはり生きていくしか無いのだ)

連れていけないのなら、それでも構いません。
先輩は私を導きだといいましたけれど、私はどちらにしても、そちらには先輩に手を引かれないと行くことはきっと出来ません。

(失いたくない、と言われたら。
そうとしか言えないのだ。
だって、自分だって喪失の悲しみや苦しみ、疲労感。
そういったものはよくよく知っているから。

だけど、それから、立ち直る術を与えてくれたのは、目の前の男だった。



ああ、もう。

どうしようもないような、呟きが心のなかで漏れる。
いつかは、とは思っていたけれど。
簡単なのも、解っていたけれど。
自分の心の置き場所は、定めなくていいなら――定めないままでいようと思っていたのに。






それは、どう足掻いても――苦しみが付き纏うのが解っているから)


(彼の後ろで立ち止まっていた足を進める。
回って、彼の前に。
手を伸ばせば触れれる距離で、彼をまっすぐに見つめた。
決意、と言うにはもっとちっぽけで、自分勝手な感情だと解っている。

だって、そんなものだ。
恋心なんて、ちっぽけで、自分勝手で、それだけで狂ってしまうような。
そんな感情だ)

だけど、私は、“ここにいます”。
先輩が歩けようが歩けなかろうが、ここにいます。
先輩が歩けなくてここに留まるなら、一緒にいますし、
先輩が歩いて行っちゃうなら、待ってます。
でも、私結構我儘ですし、それなりに動いちゃうので、追いかけちゃうかもしれないですけれど。

だけど――先輩が、私のところを、帰る場所だと思ってくれるのなら。





―――私は先輩の帰る場所になります。
だから、歩いても大丈夫ですよ。
ちゃんと戻ってきたらおかえりっていいますから

(残酷な言葉かもしれない。
そうは思う。
だけど迷子になったとしても。
帰れる場所があれば、何処にだってきっと行って、帰ってこれる。

帰ってきたら休めばいいし、今日の昼間みたいに楽しいことをしたっていい。
泣きわめいたって、情けない声を出したっていいと思うし、
疲れを癒やすために眠ってしまってもいいと思う。

彼の、そんな場所になれるなら――それがいいい。




黄昏時から手を差し伸べられた時とは反対に。
普通の場所から、帰るべき場所になりたいと――。
そう、手を差し伸べた。
まっすぐ男を見て。
迷いのない、そんな瞳で)

ご案内:「海岸沿いにある旅館」から綾瀬音音さんが去りました。
ご案内:「海岸沿いにある旅館」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「演習場」にルギウスさんが現れました。
ルギウス > 異能や魔術などの授業の実習に使われる施設群。
また、主に学生のための訓練施設が併設されている。
異能や魔術を制御するための実習や訓練であり、人や生物、器物を殺傷・破壊する目的のための訓練は認められていない。

そのような場所に司祭服の男が立っている。
何かを手繰るように指を動かし、口からは神への祈りの言葉を紡ぐ。

『闇に御座します我が神よ。ここに世界を繋ぐ奇跡を。
 哀れな子羊は願い給う。ここに御身が奇跡の降臨を。
 対価たる清らかなる贄はここに在る。ああ、神よ……力の一端を、我に御見せ願います』

台座のようなものはしつらえてあるが、そこにおいてあるのは頭蓋骨。
中になにか置いているのか、虚ろな眼窩から爛々と光が漏れている。

ご案内:「演習場」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
ざり、と音を立ててその場に踏み込む。
自身を守る魔装に身を包み、刀を携えて。

頭蓋骨も台座もまるで気にしない。
ただ一つ気になったことがあるとすれば。

(……せめて性別なんかの見た目は統一してほしい……)

相手の姿だった。

ルギウス > 「ああ、これはこれはようこそいらっしゃいました。
 今しがた 繋げ終わったところですよ」

男が振り返る。
台座からの照明になっており逆光でもって出迎える。

「なんですか、また微妙な顔をして。
 やはり女性の姿の方がそそります?」

寄月 秋輝 >  
「ありがとうございます」

ぺこり、頭を下げる。
どんなに暗かろうと逆光だろうと、光がわずかにでもあれば秋輝にとっては昼間のように明るく見える。
そのサングラスの下の、赤い瞳まで。

「見た目くらい統一してほしいと思っただけです……
 僕じゃなければ、あの人はどこだ、と言ってるかもしれませんよ」

呆れたような一言。
対応力はばっちりだ。

ルギウス > 「でしたら目の前で姿を変えるだけのお話です」

小さく嗤って秋輝を見る。
全てを見透かすような深紅の瞳で、真正面から不躾に。

「では、さっそく本題に。
 台座の上の頭蓋骨に目を合わせるように額をくっつけてください。
 それで貴方の望む世界の望む時間軸を“覗け”ます。

 ただし……舞台の幕が下りるまで、客席から立つことはできませんのでご注意を」

寄月 秋輝 >  
「自由か」

思わずツッコミを入れざるを得ない。
なんかもうそれくらいの余裕がある。
というより、相手から過度の警戒が必要なほどの悪意が感じられなかった。

「……なるほど、わかりました。
 客席から立つな、というのは頭を離すな、という意味でいいんですか?」

ふぅ、と小さく息を吐いて緊張を整える。
そしてその頭蓋骨に近付き、額を寄せる。
さすがにちょっと骨と頭を付けるのは抵抗があるが、四の五の言っていられない。

ルギウス > 「ええ、私の名前は―――“自由なる”ルギウス。
 誰にも何にも縛られない闇司祭です」

ふぅ やれやれ と細葉巻を咥えて火をつけた。
紫煙が空に舞う。

「いいえ、『頭が離せなくなる』という意味ですよ。
 どんなシーンであっても最後まで観ていただきます」

秋輝の脳裏に浮かぶのは、在りし日の光景。
二人が仲睦まじく過ごしていた頃の――――

寄月 秋輝 >  
「……わかりました……」

十分に理解し、目を閉じる。
それから起きることに意識を向けて。

脳に直接再生される、過去の記憶。
忘れかけた『彼女』の……『桜井夏樹』の表情。
黒の前髪に隠れた可愛らしい顔に、小柄な体、静かな声色。
幸せだった日々、まだ自分が極限まで鍛えようという意志が弱かった頃。

まだ、狂っていなかった時間。
わずかに狂い始めた時間。

その頃の自分の過ちが見える。
自分たちの世界をも侵食し始めた『ヤツ』と戦うために、夏樹と会えなくなってきた頃。
時間の大半を訓練に費やし、この全身に傷跡を残し始めた頃。


わずかに、ぴくりと右手が動く。
その頃の自分を静止したくなる。正したくなる。
それを鉄の意志で抑え、光景を見続ける。
かのルギウスに嘲笑われたくない。

ルギウス > 秋輝の思惑とは関わりなく、舞台は進んでいく。
偶にあえば増えていく傷跡を心配されたり。
少しでも、と体によいお弁当を用意していてくれたり。
暖かかった舞台は当事者たちの熱を他所に冷え込んでいく。

夏樹の身に降りかかった凄惨な現実を。
寸分の狂いなく、知り得なかった真実を。
残酷に 無残に 当時の後悔そのままに舞台は進む。

寄月 秋輝 >  
あぁ、そうだ。
食事の用意もされ、たまに心配された。
寂し気な目で見つめられることもあった。
それでも、自分を……『八雲亜輝』を鍛えれば彼女を守れると信じていた。

だから手薄になった彼女をあの女に奪われた。
あの頃にほんの少しだけ、彼女に生じた疑念。

『亜輝くんは浮気をしているの?』

あの頃の『亜輝』が聞いていれば、一笑に伏して抱きしめるような程度の懐疑心。
それを利用された。
彼女はその憎悪、愛憎を膨張させられる。
最後に見覚えのある、彼女の頭に突き刺さったアンテナ。
彼女を壊したアンテナ。
そして、わずかにあった魔法の才能を無理に極大化させられ、脳も体も精神も、全てを破壊されて。
『亜輝』は彼女と戦う。弾く。叫ぶ。呼びかける。泣き叫ぶ。
けれどどんな言葉も届かず、『亜輝』が動けなくなるまで彼女は痛めつけた。
自分たちの共通の友人が、彼女を吹き飛ばすまで。



それを、『寄月秋輝』が知ってしまう。
その感情を知っていれば、いくらでも止めようがあったのに。
その寂しさを理解できていれば、すぐにでも彼女に会いに行けたのに。
過去の自分は、それすら理解できなかった。
いや、今までも理解し切っていなかった。

(何故……何故オレはあの時、彼女の元に居なかった……)

手が震える。涙が溢れる。歯の根が合わない。
寄月秋輝は全てを知ってしまった。
もう手の届かない過去のこと。

ルギウス > 「今なら、この悲劇を無かった事にできますよ?」

悪魔が耳元で囁く。

「過去に干渉して、彼女を抱きしめ愛を囁くだけでいい。
 そこが……貴方の『分岐点』でしょう?」

囁きはそのままに、舞台は進む。
動けるようになった『亜輝』が知る歴史を紡ぎ。
『亜輝』が知り得なかった別の舞台を演じる。

意識が無くなった彼女が映る最期の幕へ。
植物状態であるはずの彼女が零した、最期の言葉は―――

寄月 秋輝 >  
びくりと体が震える。
かちかちと揺れる歯の隙間から、冷たい息が漏れる。


そう、彼女はそのアンテナを抜かれた。
そのアンテナは脳に深く食いこんでおり、抜けば脳のほとんどの機能は失われる。
アンテナを刺したまま、狂い、苦しみ、暴れまわるか。
アンテナを抜き、短い命を静かに終えるか。
当時意識の無かった自分の代わりに、その友人が抜くことを選んでくれた。

最後の戦いの折、その手を握った。
細くなってしまった手を取り、勝ってくると約束した。

そして、どうやら本当に自分は勝利へ貢献できたようだ。
これは自分の知らない未来。
平和な世界で眠る彼女の姿。

バイタルが落ち込んだ彼女は、もう死の寸前であることがよくわかる。
何度も見てきた、人の死。
最後に愛した女の子の姿に重なると、絶望的に見える。

『――――』

「……夏樹……」

その言葉は、自分にも届かない。
いや、言葉はわかっている。
彼女からは、あの頃の悪意をまるで感じない。

かつてと同じ、愛を。

もう、お互いに届かない愛を。

ルギウス > バイタルが落ちた後に、男が映る。
白を基調にした司祭服に黒の長髪、サングラスがとても胡散臭い―――。
男は祈りを捧げた後に、彼女の首に手をかけ……。

亜輝には聞き覚えがある、肉の裂ける音と骨が砕ける音がした。


そして意識は “今” に戻る。

寄月 秋輝 >  
ぞ。

全身の血が引く音がする。
今に戻った意識、涙の溢れる顔で。

ルギウスを、見開いた目で見る。

 

ルギウス > 「どうでしたぁ?
 久しぶりの再開は?
 『彼女』も喜んでると思いますよ……そんなに顔を近づけたのはいつ以来か、と」

嗤っている。
親切でしてあげたんですよ、と付け加えて。

どうしようもなく、嗤っていた。

寄月 秋輝 >  
再び頭蓋骨を見る。
つまり
           これは
                       夏樹の


ざ、ざ。
音を立てて、二歩後ろに下がる。

「……それで……」

口が開く。声が震える。

「それで……僕の過去が……
 違う……」

壊れた人形のように、ゆっくり目線をルギウスに向けた。

「……僕の知らない……未来……
 夏樹しか知らない……夏樹のことまで……」

ルギウス > 「ご明察。勘のいい方は好きですよ」

ニタニタと張り付いた笑みが、深くなる。
何かを訴えるように髑髏の明滅が行われている。
その光は、在りし日の彼女の瞳の色ではなかったか。

「さて、改めて問いますが……貴方は、過去を修正したいですか?」

その笑顔は、悪魔そのものであったかもしれない。

寄月 秋輝 >  
過去の修正。

やることは簡単だ。
もしあの頃の『八雲亜輝』を再起不能にすれば、彼は鍛えることも出来ず、彼女と共に居られるだろう。
鍛えずに居れば、ヤツらと戦うこともなく、亜輝も夏樹も目を付けられることもないだろう。
この男に死後首を取られることもないだろう。
少しの修正で、全ては平和に、幸せに終わる。

無呼吸と過呼吸を繰り返しながら、求めるように手を伸



ぱり、と刀と首飾りから魔力が走る。



「……言ったはずだ。
 オレは当時の自分も、当時の彼女も裏切るつもりはない」

手を下ろし、涙が溢れる目を再び向ける。
涙に濡れ、赤らんだ目。しかしその顔つきは鋭い。
歴戦の勇士、世界を救った英雄の一人、世界五指に入る魔法剣士。
彼はその名に恥じぬ、強い目をしていた。

「……過去を見れたことは感謝している。
 だが夏樹のこの頭をどうする」

ルギウス > パチ パチ パチ とゆっくりとした拍手。

「素晴らしいですねぇ。実に素晴らしい」

くるりと手を翻せば、その手に握られているのはなんの変哲も無いただの金槌。

「用の済んだモノは廃棄しないといけないでしょう?」

それが頭蓋骨に振り下ろされる様は実にゆっくりとした動作だ。

寄月 秋輝 >  
鋭い目。
それをゆっくり伏せる。

「……ありがとう、夏樹……
 最後に君に会えて、嬉しかった」

止めはしない。
自分の手で破壊もしない。
元の世界に返せとも言わない。

ただ、感謝だけを告げた。

ルギウス > 乾いた何かが砕ける音がする。
明滅は消え、残ったのは砕けた頭蓋骨。
男が再び手を翻せば、そこには何も残っていない。
まるで最初から何も無かったように。

「大変、よい舞台が観れました……ご苦労様です、“英雄”」

寄月 秋輝 >  
「……英雄とはなんだろうな……
 オレは英雄と呼ばれるようなことを為すことが出来たのだろうか」

何も無くなった台座。
それを一瞥してルギウスを見る。
世界を救ったとはいえ、それは自分だけの力ではない。
世界を救えても、恋人は救えなかった。
果たしてそれは英雄と呼べるのだろうか。

ルギウス > 「英雄ですよ。
 仮に……貴方がいなければ『ヤツ』はあの世界を蹂躙しました。
 世界と恋人を天秤に乗せ世界を選んだ。
 己を殺し、世界を救った。
 結果を残したキチガイは紛れも無く『英雄』ですとも」

肯定する。
亜輝は英雄であったと。
そして、本日の演目は終わりだといわんばかりに背を向けて告げる。

「ああ、そうそう。
 この道具ですがね、近場の山にでも埋めてこようと思います」

寄月 秋輝 >  
「……そう、か……」

目を伏せ、呟いた。
この手で守れたものはきっと大きかったのだろう。
そして……世界を守る必要が無ければ、次は愛する女性を守れるのだろう。

「……好きにしろ。
 オレはもう……疲れた」

大きく息を吐いた。
彼女はこの世界の人間ではない。
きっともう、自分が触れることはかなわない。

ルギウス > 「では、次の舞台でお会いしましょう」
くくくと嗤って、司祭は歩き去る。

ルギウス > そして、歩き去った司祭が 秋輝の背後から 耳元に声をかけた。
いつかの誰かと同じ声音で。

『世界を護るより、誰かを護りきる方が難しいんですよ』

その司祭服の女性は、長い髪で前髪を隠して。
すれ違うように 歩き去る。

ご案内:「演習場」からルギウスさんが去りました。
寄月 秋輝 >  
「……………………」

口を引き結び、ゆっくり歩き出す。
世界は難しいものだ。
けれど、次を失敗するわけにはいかない。
次の失敗は、過去の不可能でもある。
たとえあの時修正を望んでいたとしても、その後の未来は幸せに終わらなかっただろうから。

これでいい。
そして次は、愛せた女性を守る。

それを心に誓い、その場を去った。

ご案内:「演習場」から寄月 秋輝さんが去りました。
ご案内:「青垣山の小屋」に陽実 凛さんが現れました。
陽実 凛 > 森の奥の小屋の前。

雑多に置かれていた木の枝を短刀で切りそろえて脇に置く作業をしては時たま携帯の画面を見つめ。
携帯を閉じては獣道の方へと視線を向けて、また木の枝を切る。
そんなサイクルを繰り返していました。

ご案内:「青垣山の小屋」に蕎麦屋さんが現れました。
蕎麦屋 > ぼへぼへぼへ。間の抜けた排気音が響き渡ります。
木々の合間を縫って走ってくるのは――森の木々で程よく迷彩色なスーパーカブ。
なにやら遊んでる前に止まれば――

「はい毎度。かけ蕎麦一丁お待ち。」

森の中を爆走してきたんですか。Exactly。

陽実 凛 > 音を聞き、空を見上げようとしました。

否、扇ごうとしました。
意味がない行動をやめて木の枝の山が崩れないか確認すれば。
顔を向けて淡々と

「……話す為に来たんじゃ。」

獣道でタイヤ大丈夫なのでしょうかとか、その迷彩カラーリング自前でやったんですかとか、ツッコミどころを一部置いておきました。

蕎麦屋 > 「ついでですついで。」

とりあえずおかもちから蕎麦を取り出した。
蕎麦と話し合い、どちらがついでかは、愚問です。

「というわけで。蕎麦以外は何も持ってきてませんけどね。
 むしろ蕎麦以外に何も持ってきませんけどね。――ええと、何の話でしたっけ。」

はい、と割り箸と一緒に渡しつつ。首を傾げた。

陽実 凛 > 「まぁ、そう言う事なら。」

蕎麦を受け取ってお財布から500円硬貨1枚軽くトスしました。
ついでのかかる言葉は聞きません。

「私が騙されてるんじゃないかとかその辺のお話って言ってたよね?
それでアポとれたらとかそういうお話もあったりしたんだけど。
あっちはあっちで聞きたい事がありそうだった。」

とりあえず中へと割り箸お蕎麦に刺して小屋の扉を開けます。
中にはテーブルの周りに木の椅子3つ。
ローブ姿の怪しそうなのがピンク色の液体の入ったコップを3つトレイに乗せて待っていました。

蕎麦屋 > 「あ、お代は結構ですのに。
 まぁ、ちょうどよいのでいただいておきますけど。」

はたまた何がちょうどいいのか。特に驚くでもなく、とりあえず効果は受け取った、

「お邪魔しマース、と――ほうほう。あ、どうも、ご丁寧に。」

続いて中に入った。なんにもない。
さっさと椅子の一つに適当に座ってしまう。
受け取った飲み物は――相変わらず人界の飲み物ではない気がするわけで。

陽実 凛 > 椅子に座った事を確認してから扉を閉めて、残った椅子に座り。

「まぁ、口に合う可能性は低そうだけど
その分も兼ねて。」

そう返した後、ローブへと視線で促し。

ローブ姿から蕎麦屋に向けてテレパシーが飛ぶ。
受け取るか拒否するかはさておき、

『お話があるのだったね。
私の姿はあまり見せられるものではないのでね、できればご了承願いたい。
栄養ドリンクだが、まずはどうぞ。』

まったりとしてエグ味があり、コクは無く臭みがある。
人の飲み物じゃなさそうな栄養ドリンクである。
舌を誤魔化す為の炭酸すらない。

凛の方はそれをゆっくりと表情を変えずに口をつけている。

蕎麦屋 > 「ああ、遠慮しておきます。
 いや、この暑さでこの粘度は逆に喉が渇きますって。」

念話は別段拒否する理由もあるまい。
とはいえ依然飲んだものより格段に粘度の高いそれは、少しばかり喉に悪い。

というわけで飲み物は拒否。お友達に押し付けよう。

「で、まぁ話というほどでもないのですけどね。」

代わりに自前で持ってきたペットボトルのふたを開ける。
中身は普通の麦茶である。

陽実 凛 > 飲んだらえぐい栄養ドリンクが増えてました。
不味すぎるけどもう一杯。

「…………」

ドリンク処理中の為、無言と無表情を貫いてどろりとしたものを啜る音だけが残りました。

『……。』

静かに、ローブ姿は頭部を軽く揺らして、続きを促す。
テレパシーもまた無言。

まずは話を聞いてからの様子。

蕎麦屋 > 「――はぁ。
 とりあえず――然したる根拠もない与太話ですけどね?」

前置き一つ。
ペットボトルの茶を口に含む。

「いや、そこな『お友達』になにかした?らしいですけれど。
 それ、マトモに機能してます?」

とりあえず、素朴なところから、聞いてみることとした。
黙々とえぐい物体を飲み干すのを横目に見つつ、である。

陽実 凛 > 腹持ちもいい栄養ドリンク1杯半で一度コップを置きまして。

二人の会話する様子を見てみました。
と言っても片方はローブの奥の変化を読み取るまでやるつもりはなくて、あまり効果はありませんでしたけれど。

『……その問いに答える前に聞かなくてはならない事があるのだがね。
どこまで彼女は話したのかね。
私としては意図した機能は確認できているのだがね。』

「……?」

ローブ姿は動かずにテレパシーを飛ばし。
凛はローブ姿のテレパシーが聞こえてない様子を見せている。

蕎麦屋 > 「前頭葉弄って感情殺しました、みたいな話だけですねぇ。
 ほかの話に関してはさっぱり。」

今のところは――中身について気にすることもない。
あまり話を聞いたわけでもない。そもそもそれほど興味があったわけでもない。
ただ――わざわざやった意味は気になるところ。

「で、それならそもそもの機能とやらもよくわかりませんけれど。」

ずずー。
くつろいだものである。

陽実 凛 > 視線を向けて話の流れを片側の声だけで聞き取る努力をして。
しばらくは蕎麦を啜っていよう。

『意図した機能については「お友達」が一方通行の状態では教えることは難しいね。
ただ、彼女と周囲の為にも現段階ではこの機能は必要だと考えている。
ここから先は彼女自身には伏せて貰わないと危うくなるがね。
感情の抑制、及び閉じる類の施術を被せているとだけは言わせて貰おう。』

ローブ姿からのテレパシーが飛ぶ。