2016/08/22 のログ
ご案内:「常世記念病院」に伊都波 悠薇さんが現れました。
■伊都波 悠薇 > ――誰もいない部屋。
眼には、光がなく。どんよりと、消えている。
姉を名乗っていた女は――望みをかなえるといった。
だが――望みをいくら告げても。いくら告げてもかなえてくれない。
本当にと聞き続けているだけ。
まるで、いつかの自分のよう。
その前提が、すべて違うのに。そんなことされたってつらいだけだ。
本当だといくら叫んでも、姉を名乗る女は嘘だと言い続ける。
自分はそんなに強くないのに。
自分は、ばけものなのに。退治される存在だというのに――
英雄は、救いの手も、破滅の刃も、伸ばしてくれない。
ただただ笑顔でいるだけ――
まるでそれは、見せつけられているようで――
「自分にできたから、私もできるはずだとでも?」
逆だ。できたから、できないのに――
歯ぎしり。ぎりぃっという、音。
ぎりぎりと、咲く黄色い薔薇。
憧れは、嫉妬に変わりつつあり――
そんな自分が嫌で嫌で――
「……――――」
そっと視線を外せば。そこには、家族がおいて行ったカットされたリンゴと――
ナイフが、あった
■伊都波 悠薇 >
――本当にと、訊き続けるのはそれしかできなかった自分だったからこそで。
あの人は違う。違う、ちがうちがう。
こんなにも”救って”と願っているのにどうしてかなえてくれないのか。
――友人には命を賭して、救いに行ったのに。
助けてと、叫んでも。それをして、くれないのか。
ナイフを握る。
使い慣れた、刃物の一つ。
料理でも、流派でも。短い刃は手になじんだ。
綺麗な、刃が反射して。自分の顔を移す。
手を、出して。手首にそれを当てて――
■伊都波 悠薇 >
――救いがないのなら。
救いがなく、生きている価値もないのなら――
もう、いいのではないだろうか。
すべてを返すべきだ。
いつか、姉はいった。流派を捨てたと。
家族を捨てたと。父に――
自分の腕を斬るように告げたと。
すべてを自分に返すために。
なら――
「私も……」
それが姉にできなかったのなら自分にはできるはずだ。
だって、天秤があるのだから――……
だって――
ずぶっ。
刃が、沈む。
肌に食い込みながら、赤が肘へと垂れていく。
痛い、当たり前だ。
あとは、引くだけで――
ご案内:「常世記念病院」にエアルイさんが現れました。
■エアルイ > 「……グゥ…………」
眉をしかめ、尾を物憂げに揺ら揺らと揺らしながら、
その小柄な影はペタペタと病院の廊下を歩いていた。
思い起こすのは昨日の夜。
腕を見せた時に、病院に行く事を勧めた青年と少年の姿。
正直に言えば、病院に行くのはすごーくすごーく嫌で、
行かなくていいのであれば行かないでも十分ではあって。
けれど、その時の目にあった感情は、気遣いの色に強く染まっていて。
それを無視するということに、尾が居心地の悪いものがあって。
結局、病院へと足を運んだのだけれど、すぐには何もできないと言われてしまい
――前例のない異邦人の患者を、飛び入りで受け入れるのは
病院としても困難という事情があったのだが――
やることがなくなってしまった。
やることがないのは退屈で退屈で退屈なので、
普段は近づかない建物の中を探検することにした。
好奇心は龍にも耐え難いのだ。
というわけで、あちこちウロウロしながら、部屋の扉を一つ一つ開いては覗き、開いては覗き。
そんな最中に――一つの扉で、それを目撃した。
■伊都波 悠薇 >
『ちょっと!? 伊都波さんっ。何をやってるの!?』
看護師が止めに入れば――がらんっと、包丁をどけられて。
だらだらと腕から血を流しながら、看護婦に治療されて。
すごく怒られて、時間が経過する。
少女には、生気というものが何も感じられなかった。
ただ――
「しなせてよ……」
その言葉だけつぶやいて――
少しすれば、少女だけがそこにいるようになって
■エアルイ > 「…………」
『死にたい』と呟いた女の人と、それをとめようとする看護師達。
そんな騒ぎを邪魔にならない位置から観察しつつ……
騒ぎが終った病室の中に、改めて足を踏み入れた。
ぺたん ぺたん
スリッパの音が無遠慮に、無感動に病室に響く。
そのまま、ゆっくりとベッドに近づいて……
近くに用意されていた簡素なパイプ椅子によいしょと腰掛けた。
片腕が使えない分、少し動きにくいが――それくらいだ。
「…………お前、誰だ?」
首を傾げつつ、小さな唇がそう呟いた。
騒動をただ傍観し、
全くの赤の他人の病室に入り込み、
その上で名前を聞く。
相当に異様な光景ではあるだろう。
■伊都波 悠薇 >
「――……誰ですか?」
無視なんて、少女は知らない。
だから静かにそう問い返す。
治療された手――本来なら血のシミは広がるのだろうが。
不自然と、まかれた包帯は白いままで
■エアルイ > 「エアルイ…………だ」
常なら大きな声を上げるところであるが、
『院内は静かに!!』と念入りに注意されたので声を出せない。
上げ掛けた声を寸でのところで押えつけて、
ベッドの少女に黄色の瞳を向ける。
黒い髪の、目が隠れた、女の人。
そして、その腕に巻かれた――真っ白な包帯。
「お前、死にたいのか?」
首をかしげ。
澄んだ声で、表情を変えることなく問いかけた。
■伊都波 悠薇 >
「――伊都波、悠薇です」
名乗ったので名乗り返す。
聞かれたのはこちらが先。――礼儀はしっかりと返すものだ。
「――死にたいですよ。生きているのが、つらいですから」
■エアルイ > 「はるか、はるかか」
かくんと頷き、椅子に腰掛けた脚をぶらぶらと揺らす。
背後に流れた白髪が揺れ、落ちた尾がぐりぐりと床をこじる。
「ここは病院だ。生きたいからくる、らしい。
はるかは、生きたくないのに生きてるのか?
何で生きてるんだ?」
感情の篭った声。
淡々としているわけでもない、無感動なわけでもない。
ただただ、そこにあるのは純粋な疑問。
不明瞭な何かに向けた興味の声音。
黄色の瞳がチリチリと火を宿し、髪の奥に隠れた瞳を見つめる
■伊都波 悠薇 >
「――生きることを望まれているからです」
そういうことになる。そして――
「死ぬことは、悪いことだからです」
そう、死ぬのは悪いこと。
負の財産にしかならず、大事なものに傷を負わせる行為だ。
そんなのは分かっている、けども――
「でも――つらいんですよ? 生きるのって。価値がないってわかっているのに」
■エアルイ > 生きることを望まれる。そして、死ぬことを拒まれる。
それは――当然といえるだろう。
家族ならば。友ならば。恋人ならば。
それに限らず、普通はそう応えるだろう。
『君に生きていて欲しい』
そう望んで、そう言葉をかけるだろう。
「なんで死んだら悪い? はるか、死にたいんだろう?」
ぺチン。 ――尾が床を叩く音が、空虚に響く。
「死にたくないのに生きてるのか?
生きているけど死んでるのか?
はるかのかちは、いきてることとしんでることの、どっちだ?」
■伊都波 悠薇 >
「では、エアルイさん。逆に聞きますが――」
静かに、光のない瞳で見て――
「――”どう、見えますか”。生きているという行為は、あなたにとって」
■エアルイ > 「生きる。死ぬ」
応じる。黄色い瞳はチラチラと瞬き、見つめ返す。
「生きようとしてる様に見える。死んでいるのが見える。
はるかは違うのか?」
椅子から降りて、ベッドの傍らに身を預けるようにしながら
■伊都波 悠薇 >
首を横に振る。
静かに降って。私の話ではありませんと、告げて――
「生きるという行為はあなたにとって、よいことですか、悪いことですか。死ぬという行為も、また――」
……どちらに見えますか? あなたにとって、生死とは――
「善悪で、測れるものですか」
■エアルイ > 問いかけに、ベッドに片腕のひじをついて首を捻る。
生きること。死ぬこと。
いいことか。わるいことか。
「生きて、死ぬことは善いことだ。
生きようとしないで、死のうとしないのは、悪いことだ」
応じてからベッドの上に顔を埋め、
ばふばふと手で叩いて柔らかく音を鳴らす。
その行為だけを見れば、子どもの患者が年上の入院患者にじゃれついているようにも見えるだろう。
――その前後と、会話の内容に目を向けなければ
■伊都波 悠薇 > 「全力で生きて、死ぬのは良いことで。――生きることをあきらめて死ぬのは、悪いことだと?」
じゃれている姿に、微笑むことはない。
ただの行為として見つめ、じぃっと言葉を返す
■エアルイ > 「あってるけど、ちがうぞ?」
首を傾げつつ、身をぴょこんと跳ね起こす。
「生きることを頑張って、死ぬことも頑張るのはいいことだ。
生きることを頑張らないのに、死ぬことも嫌がるのは悪いことだ」
それは――
「生きたくないなら、死ぬことが大事だろう? なら、死ぬ。
生きることが大事だから、死ぬことも大事だ。
死んでいるヤツも、死なないとだめだ」
異質な考えであるだろう。
『生きる気がないなら、死ね』
その考え方は、そう告げている様に聞こえるだろう。
■伊都波 悠薇 >
「なるほど……」
だとするならば、だ。
「そうなると、私は、死なないとだめかもしれませんね?」
ふわり、笑った。
その考えでいうならば、目の前の存在にはそう見えることだろう。
「まるで、死の天使みたい」
なんて言いながら、くすりと――
■エアルイ > 「天使じゃないぞ? それは知らないからな」
そう応じつつ、片腕を使ってベッドの上に……
手術着から覗くもう片腕は、硬質の何かに覆われて
まるで棍棒の様になっており、満足に動かせないようだ……
苦労しながら体を持ち上げていく。
抵抗されないならば、そのままベッドの上によじ登り――
抱きつく程に身をよせて、
息が聞こえる程の至近から、
遙薇の顔を覗き込んでくるだろう。
黄の炎を光らせる瞳が、じぃと覗き込む。
■伊都波 悠薇 >
「――まぁ、でも……」
……あなたから見たらの話ですけれど。
なんてつぶやいて。
そのままされるがままだ。
「生きたいけれど、死んだほうがましかもしれないなんて――貴女は知らないでしょう?」
■エアルイ > 「…………?」
覗き込む瞳が、その中の炎が、僅かな疑念に瞬く。
「生きたい。 でも、死んだほうが まし ?」
ほんの僅かに身を離し――しかしベッドの上に乗ったまま、首を傾げる。
■伊都波 悠薇 >
「生きていることが、他人の負担になるってことを知ってますか?」
つぶやきながら思い出す。
天秤をとる。幸せにできると思っていた。
でも、違った。この天秤は――姉の負担になる。
理解している。二つ目の異能。そういった。
分かち合うといった。わざわざ、異能を――
幸せを――わざわざ。
それはつまり、自分が姉の幸せの邪魔になっているということだ。
返すと姉は言う。違う、違うのだ。
返すのは自分の番で――
なのに、姉はいなくなって。どうしたらわからなくなって――
自分のせいでいなくなるのなら、いっそのこと――
「死んだほうが、楽になる人がいるんです。きっと、幸せに生きられる。だったら、死んだほうがましじゃないですか。生きたいけれど―― 一緒にいたいけど。その言葉が信じられないくらいなら――……その人を、責め続けるくらいなら、疑い続けるくらいなら――」
はらりと落ちる、滴
■エアルイ > 「…………」
首を捻り、考える。生きていることが、負担になる。
それは、どこにでもあることだけど。
生きていることは、誰かを喰うことだ。負担をかけることだ。
どんな形でも、どんなやり方でも、同じく、負担をかける。
負担になることを望まずに死んだ。
生きることをやりきってから死んだ姿だった。
そんな生きることも、死ぬことも、見てきた。
ただ――目の前にいる女の人は、何かが違った。
死にたいのだと、そう思った。死にたいと言っていた。
生きることが大事でない様に見えて。
ただ――今、零れたものは。
「はるかは、生きていることが、わからなくなってるのか?」
首をかしげた。零れたものを、ただ見つめて
■伊都波 悠薇 > 少し、違いますとつぶやいて――
「生きている――価値を見いだせない人もいるんですよ」
そう零せば。
カーナカナカナカナカナカナカナ
ヒグラシが泣いて――
「生きるって、難しいですね」
■エアルイ > 「 ………… 」
生きていることが、難しい。
当然だと思っていたことが、当然ではないということを。
そう思っていて、悩んで、考えていて。
「…………ルゥ……」
生きることが大事でないなら――――死ねばいい。
そこに入らなかった疑念が、動きを、
「…………」
それでも、違和感のあるままに、迷いのあるままに。
悠薇に向かって、細い手指が伸びて。
そこに込められた力は、龍の力。
抵抗をしないのならば――
■伊都波 悠薇 >
「……ねぇ」
じっと見つめて――
「殺すなら、そんな顔しないでよ」
殺してくれるなら、それはそれでいい。
だが、殺すなら悩まず。きれいに殺してほしい。
「――あなた、傲慢ですね?」
■エアルイ > 「 」
動きが、完全に止まる。
「…………グゥ?」
手を伸ばせば、手折ることも出来る首に、しかし手が伸びない。
その瞳に見据えられて、動きが止まる。
「ごうまん?」
■伊都波 悠薇 >
「……――なんでもありません」
……それで、どうするんですか?
と、首を差し出しながら。
「わりと、苦しいんですけど」
ご案内:「常世記念病院」に”マネキン”さんが現れました。
■エアルイ > 「る、ぐ、ぅ」
逡巡、悩み、迷い。
考えたこともない感情が浮かんでは消えて、
黒と白の間に灰色が作られて。
「…………」
差し出された首を、伸ばした腕で首を掴み取り。
その瞳を、正面から、改めて見つめる――見つめられることになって
■伊都波 悠薇 >
「――はぁ……」
殺される気も失せてしまった。
そんな風にされては、殺されてあげるわけにはいかない。
それに、自分だって、殺されるなら姉の手がいい。
なんて――いまさらながら思いつつ。
「どけてください。悩める処刑人は――最後は、みじめだって聞きますよ?」
起き上がろうと、して。首に掛けられて腕をよける
■”マネキン” > 悪いが。
【普段とは異なる、帽子で変装した姿の男子学生が病室に入ってきた。
雰囲気は変えてはいない。”マネキン”だとわかる。】
そこまでにしておいてくれないか。
たしか以前にあったね。
【病室の扉を閉めた。鍵をかける。】
■エアルイ > 「…………グゥ」
首に掛けた手をよけるその動きに。
力では勝る筈なのに――全く、抗することも出来ず。
そのまま、腕をどける動きのままに手をどかし――
掛けられた声に、ベッドの上に乗ったまま振り向く。
聞き覚えがないはずなのに、その声には聞き覚えがあった
■伊都波 悠薇 >
「――来客が多い日ですね。入院するたびに来てませんか。研究者さん」
起き上がりながら、そっと上にいたものを、しっかりと座らせて。
「ただ、遊んでいて度が過ぎちゃっただけですよ。ねぇ?」
ぽんっと頭を撫でてから――
「今度は、なにか、用事ですか?」