2015/07/28 のログ
ご案内:「保健室」に叶 明道さんが現れました。
叶 明道 >  保健室。その奥にある窓際のベッド。そこに据え付けられた椅子に腰掛けて煙草を吹かす少年が一人。
流石にシーツに臭いを染み付かせるのは憚られるのか、少しだけ窓から身体を乗り出している。
 保健室には誰も居ない。いや、もしかしたら隣のベッド。そのカーテンの奥に誰か居たのかもしれないが――。
「興味のないことだよな」
 腕から外して抱えるようにしたロフストランドクラッチに、少しだけ身体を預け。
ため息混じりに紫煙を吐き出していく。

叶 明道 >  外から聞こえてくるのは、部活動に励む声。
授業終わり、安アパートまで足を運ぶ気力すら失って、ここでこうして煙草を吹かしている。
けれどどうにも青春の汗を流すようなその声に苛立ちばかりが募る。
 失敗だったな、なんて言葉が紫煙に混ざった。
 それを紛らわせるように、クラッチに爪を立てるように力を込めた。
 まずい煙草。つまらない授業。くだらない部活動。変わらない空模様。
蒸した風が明道の頬を撫でては過ぎていく。
 馬鹿みたいに暑い陽気が、まるで押し潰すように落ちてくる。

叶 明道 >  夏季試験結果は上々だ。適度に外して適度に合格。再試の必要はナシ。
 彼を拘束するものは何もなく、こうして悠々自適に煙草を吸うことだってできる。
けれど、それがなんだっていうのか。結局は、このうだるような熱気と同じぬるま湯だ。
 自分のレベルにあった授業を受けて。異能を適度に制御して見せて。そこに努力の必要なんてない。
当たり前だ。自分でそうするように選んだのだから。
 日々是好日、などと高尚ぶるつもりもない。結局怠惰に変わりはなく、結局は――。
「くだらねえな、ほんと」
 考えをそこで打ち切って頭を振った。煙草の灰を落として手のひらで捻り消す。
そのまま窓の外に放り捨てて、大きく息を吐いた。
 まるでそれを吹き戻すように、また生ぬるくも強い風が吹きつけた。
保健室を吹き抜けるその風に不快なように顔をしかめた。
 ……風が吹き抜けたということは。扉を閉め忘れたか、それとも。
 胡乱な瞳を入り口に向けた。

叶 明道 >  ――扉が開いたままであっただけだったようだ。
「煙草のやり過ぎか」
 脳血管が萎縮する、なんて話を聞いたこともある。
それともこのぬるま湯のような生活で、早くもボケが来たか。
 それもいいかもしれないな、なんて笑いを噛み殺しながらも、そこを動くことはない。
煙草はもう捨てたし、どうせここでぼうっとしたところで咎めるものなど居ない。
 銀色に腕を絡めながら、ポケットから携帯端末を取り出した。
くだらないメールマガジンやくだらない"お誘い"を報せる通知。いちいち返信するのも面倒ですぐに画面を消した。
 これからどうしようか。そう考えるうちに身体はどんどん気怠くなっていく。
もういっそ、ここで一日を過ごしてしまってもいいのではないか――なんて、つい思ってしまった。

ご案内:「保健室」に山科 諒平さんが現れました。
ご案内:「保健室」にシインさんが現れました。
叶 明道 >  大した距離じゃない。クラッチをわざわざ着ける意味はない。
軽く体重を預けて立ち上がる支えにして、一度、右足を引きずって身体を回す。
腰を落とすと、少しだけベッドのスプリングが軋んだ。
 真っ白で清潔なシーツ。ベッドメイクは済ませたそこに、指をなぞらせた。
硬いマットの感触を確かめながら靴を脱ぐと、カーテンも閉めずに寝転がった。
クラッチはすぐ手の届く、ベッドの縁に立てかける。
 普段は猫背気味の背骨が音を立てて伸びて、少しだけ息を漏らした。

山科 諒平 > その相手いた扉から一人の教師が顔を出す。

「……煙草の匂いが保健室からしただけでも良くないというのに、キミは何をしているのかね」

少し咎めるような、だが無表情に近い顔で、抑揚のない声でそんなことを言う。

シイン > その教師の後に続いて、軍服を着込んだ教師が一人、保健室に入る。
男性にも関わらずピンヒールを履いてることから、特徴的な靴音が聞こえて来る。

「まぁまぁ、山科先生。多少は良いじゃないですか。
そこまで咎めるようなことでもないですよ。」

その言葉は生徒の彼を手助けするような、二人で責めるのは良くないと判断してか。

山科 諒平 > その言葉には静かに首を横に振る。

「いいえ、シイン先生。違反は違反、決まっているルールを曖昧にしてはいけません。
多少ならいい。この考えが癖になると、多少の範囲が無限に広がってしまう。
故に、学生の時期に『規則を守る』と言う事を徹底しなければならないのです」

顔は無表情、声の抑揚は無し。
だが、確固たる信念と共にその言葉を静かに放つ。

叶 明道 >  咎めるような男性教師の言葉。それを見てから肩をすくめながらやや、薄い笑いを浮かべた。
「少しは気を使ったんですけどね」
 手のひらで煙草をねじ消したのだ。外に投げ捨てたとはいえ、外から内へ風が吹き込んだのもあって煙草の香りが煙るのも仕方ない。
 相手の、続く聞いてから、これみよがしにクラッチへ視線を向けて。
「見て分かりませんか。少し授業の疲れで足が痛むものでここで休んでいこうと思っただけですよ」
 その言葉の後、続く新たな姿には肩眉を上げた。体格はいいが、ピンヒール――まるで女性的な魅力を持つ教師。
 助け舟を出されたことにも、その特異な外見にも。難色を示すように胸がざわつくが、それを飲み込むようにして。
 教師が来たならば、と。気だるげにベッドに手をついて半身を起こす。
柵と壁に背を預けるようにして教師を迎える形だ。この位置から"傷"が見えるとは思えないが、
ベッドに備え付けられたタオルケットを少し引き上げて足元を隠した。
「いけませんか」
 ふう、と息を吐いて。実際、気疲れしたのは事実であって。
まるで肉体的疲れかのように演出してみせる。

山科 諒平 > 「良くはない」

相変わらずの調子で、断ち切る様に否定する。

「いや、休憩する事は構わない。だが考えてみたまえ。キミの足が痛むことと、君が煙草を吸う事のどこに因果関係があるのかね?
ましてやキミは元スプリンターだろう。肺は大事にしたまえ、叶明道」

本州にいたころの彼の話は聞いていたのだろう。そんな事を平然と口にする。

シイン > 「ルールに規則。どちらも大事ではありますけど、学生だからこそ時には破ってしまうものです。
ガチガチに拘束して固め過ぎては生徒に対してのストレス増加の原因の一つにもある。」

軍属であり、指導する立場でもあったからか。
規則にルールと決められたことに対しての重要性は理解しているが。
だからこそ、理解してるからこそ、息抜きも必要だと、彼は論す。

適当な椅子を探して、空いてる所へ座ると。

「山科先生、取り敢えず座ったらどうですか。立ち話もアレでしょう?」

そう促す。
叶 明道のことは、一旦山科に任せるつもりなのだろう。
何も言わず、何も指摘せず。
真っ直ぐと視線を送るだけだ。

山科 諒平 > 「それは一理ありますな。確かに縛り過ぎてはストレスにもなる……が、逆に言えば、締める所は締めなくては有名無実となってしまいます」

そのさじ加減がまた、難しいのですが。と言いながら、頷いて指し示された椅子に座る。
そのまま顔は叶に向け、どのような返事をするか待っているようだ。

叶 明道 > 「…………!」
 目を見開いた。シーツを掴む手の力が強まる。熱い吐息がこみ上げてくるようで。
――教師だ。生徒のパーソナルデータなど、すぐに見ることができる。
こうなることも当然の範囲。予想の範囲であるべきだ。
「ハ!」
 だから、すぐに軌道修正。一層ざわめいた胸は押し込んで、今度は明確に笑った。
「スプリンター! 元々そうだったからって、なんです? また俺に走れとでも言うんですか」
 "アキレスの脚"は、その身体への負荷から――異能を用いた大会への出場もストップされている。
 つまるところ彼に走る場所などもう無いのだ。無いからこそ、彼は己の脚を捨てたのだった。
 ハリネズミのような、刺すような笑みを浮かべてタオルケットを引き上げる。
少し暑かろうが構わない。目を座らせて、嘲るように笑っていた。
 ストレス増加の原因。なるほど、違いない。
ガチガチに固まったそれも、どろどろにぬかるんだそれも、人を駄目にするには十分すぎる。
 もう一人の教師は、どうやらフォローに回ってくれるらしい。
 ――まったく、ありがたい話で涙が出そうだ。
 何かを噛み殺しながら、一度肩を竦めて見せた。
「先生に、そう言われる理由はありませんが。
……後で反省文を出しておきますよ。煙草も、先生に渡せばいいですか?」
 ポケットから覗く"ワイルドナイン"を抜き取って、いずれかの教師に差し出すようにしてみせた。

山科 諒平 > 「そうだ、走れ」

断ち切る様に、切り捨てる様に言い放つ。

「キミは何をしにこの学園に来たのかね。キミの足を腐らせるためならばそれに意味はない。
キミはその暴れ馬を乗りこなそうという気概は、ないのかね」

刺す様に、咎める様に。だが、あくまで無表情で、抑揚なく口にする。

「ここは学び舎だ。学ぶ意志亡き者が己を腐らせる場所ではない。
ここは学び舎だ。学ぶ意志があるならば己を高める手伝いをする場所だ。
キミはもう走れないと思っているのかもしれないが、それはただの勘違いか自暴自棄に過ぎない。
キミが走る場所は何処にだってある。キミはただ、不貞腐れて走るのを止めているに過ぎない」

言いながら、ワイルドナインを受け取ろうとする。
そうしながら、更に言い放つ。

「無論、キミが走りたくないというのならばそれは個人の意思。自由である。
が、その前に一つ聞きたい。
……走る事を止めたキミが見る風景は、キミが満足するに値する、アートグラフと言えるのかね?」

シイン > 「ですから、適度に注意するぐらいで私はいいと思いますが…ん?」

未だ全生徒の情報を記憶してる訳ではなく、必要程度の生徒情報しか取り入れてない。
それなので、自分は彼についての過去を知らなかった故に話には乗らなかったが。
なるほど、どうして。
彼の急な変貌ぶりに、先程の発言からある程度は察することが出来た。
元と言うからには何かしらの原因で出来なくなったのだろう。
そしてそれは、彼の側にあるクラッチから、脚が悪いのだと推測できる。

それ以上に言葉を出さずに静観を決める。今はまだ余計な言葉は要らないだろう。
邪魔は良くはない。

叶 明道 > 「…………」
 目が据わっていく。目の前の男の言葉は理想論だ。
そんな言葉の一つで変わっていたら、こんなところまで来ていないだろう。
 だが相手の言葉は、なるほど、どうやらこちらを咎めるように。或いはそれは諭すような。
「何をしに。勉強をしに、ですよ。誰だって異能を制御しにここにきてるわけじゃない」
 大義名分。学生の本分は果たしている。
今回の試験の結果だって、まあ"それなり"に文句を言われない程度には済ませたはずだ。
「なら先生、なら俺はどこで走るべきですか」
 トン、トン、と自分の太ももを叩いて見せて。
「下手すれば100m走る前にこの足は"オジャン"になりますよ。
それとも足を切り取って、高性能の義足にでも付け替えますか。
そこまでやれば、パラリンピックぐらいには出れるかもしれませんね」
 答えられなければ結局茶番だ。仮に1レースを耐えられたとしても、
2レース、3レースと続ければあっという間に明道の足は破綻する。
 "速さ"だけならば、確かにこの学園でも群を抜いたものがあるはずだ。
しかし――それでも。支払うのはあまりにも大きい代償だ。

山科 諒平 > 「無論、走るべき時に」

その言葉には、非常に簡潔に答えた。

「キミは、この学園においてすら有数の『速度』を身に付けた。
それが例え一瞬であろうと、その『特別』があれば、キミにしか成し遂げられない事があるはずだ。
ならば、来たるべきその時にその足を解き放つがいい。もしキミがそう判断する時が来ないのであれば、あるいは走らない事もあり得るだろう。
だが、覚えておくがいい。己の本分を果たす時に、己の全力を出し切れないという事は、非常に歯痒いものだ。
故に備えろ。キミの足は、何かを成し遂げられる足だ」

相変わらずの無表情、無抑揚。
ただ、ブレること無き信念を載せて、その言葉は放たれる。

シイン > 二人は会話をしている合間に、手提げの鞄に収納していた資料を取り出す。
中身は異能を持つ生徒の資料。その異能内容と持ち主の顔写真が掲載された簡易資料だ。
静かに邪魔をしない程度に頁を捲り、その顔を見付ける。

それに目を通して直ぐに、なるほど、と。
小さく言葉にして呟きながら理解をした。
今の会話内容に、『走れ』という意味も粗方だが理解は出来た。

理解できたからこそ、こう思う。

この先生も無茶を言うものだ。

幾らでも言葉にしては言えるだろう。
言葉だけなら誰であれ呟けるし伝えられる。
だが目の前には現実として歩行困難者の異能発現者が存在し、異能を使おうにも使おうとすれば反動が返ってくる。

「…ふむ」

まだ何も言わないほうがいいだろう、その時ではない。

叶 明道 > 「…………なんです、それ」
 結局、それは"走るべき"時以外には走らない、というわけだ。
馬鹿馬鹿しい、答えになんてなってない。
「いえ、先生が仰るのなら心に留めておきますよ」
 要するに、走るべき時が来るかもしれないのだから、
それまでの間腐っていたら後悔するぞ、ということだろう。
 ――だが、そんなものがあるのならば苦労はしない。
山科諒平の言葉を思い返す時が、いつかきっと来るだろうが。
今の明道はそれに思いを馳せることはない。
「でも結局、答えは出てないじゃないですか。ねえ、そう思いませんか」
 今まで静観を決め込んでいた、もう一人の教師に水を向ける。
"どこで走ればいい"という言葉に対して、
"走る場所はどこにだってある"、"走るべき時に走れ"、
などといった言葉は詭弁ではないか――そんな言い草だ。
 もしかしたら、少年なりに。今のこの場について敏感に察していたのかもしれない。
『核心をついた言葉』なんて、少年は求めていないから。

シイン > 声を掛けられ、目を通してた資料から目を離す。
自分に声が掛けられるとは思ってなかった、私自身の意見を聞きたいといった所だろうか。

「答えか、自分自身に対しての答えというのは他人に正論を言われ、例えそれが正解であろうと、それが大多数が賛同する意見であろと、それが自分の答えとは言えない。
結局の所だが、答えというのは自分で見付けるものだ、と私は思うが…どうだろうか?」

求めている返答と違うのであればすまない、と付け足して。
その赤眼の視線は生徒へと注がれる。

山科 諒平 > シインの言葉に静かに頷く。
答えとは与えられるモノではなく、自身で見出すモノ。
あくまで他者が提供する解答は、その他者が見出したモノに過ぎない。
故にこそ、参考にはなれど、ただそれを鵜呑みにするだけではならない。
例え同じ結論に至ろうとも、ただ鵜呑みにしたモノと己で見出したモノでは、その価値は雲泥なのだ。
ただ、山科諒平は願うだけである。
自身の見出した解答が、己が信念が、この叶明道の足を前に進める導(しるべ)にならんことを。
山科諒平は、教師なのだから。

叶 明道 > 「…………自分で見つけるもの」
 は、と大きく息を吐いて。それも恐らく正論だ。だから、"ほっと"する。
胸をなでおろして、肩の力を抜いて。そう、正論だ。
 正論だからこそ安心する。だからこそ、二者の言葉を受け止めて小さく息を漏らす。
 そうとも。自分の何かが揺らがされたわけではない。
だから己はまだ大丈夫なのだ、と。
「ありがとうございます」
 僅かに、安堵の笑みが漏れた。諒平にではなく、最後のその言葉、シインに対して。
 諒平の言葉は強すぎて、"何か"が"どうにか"してしまいそうだった。
それは結局事態を好転させたかどうかは分からない。
 だから、いいバランスだった。少なくとも明道にとって、シインの存在は心の底よりありがたかった。

山科 諒平 > 「それで、コレは要るのかね?」

示したのは先程受け取ったワイルドナイン。
その一言の中に意味を込めて問い掛ける。
『キミはまだ、煙草を吸い続けるのかね?』と。
無論、こんな婉曲的な問いは伝わらなくても当然。返して貰えるのならば受け取るという理屈で受け取られるのも想定はしてるのだが。
先程の叶の言葉は、シインに向けられていた。どうにもたまに言われるが、自分の言葉は穿ちすぎて、容赦がないものらしい。
だが、そうやって踏み込んで突き込まねば、奥底にあるモノを揺るがす事など出来はしない。
故に感謝される事など期待してはいない。
生徒が前に進んでくれれば、山科諒平は満足である。
事を急くつもりはない。ただ、今この場においてはどうかを確かめるための、詰まらない問い掛けだった。

シイン > 「別に私は問われたから答えただけだ。
何も礼を言われるような事は言ってない。」

私もまた山科のように強い言葉で問いを返しても良かったが。
それでは彼がまるで、責められているような、それも教師二人にだ。
それはそれで『面白い』のだが、どうせ事を起こすのであれば上げてからのがいい。

事を起こさずに見守るも良し、私は私の気分次第で彼に干渉しよう。
干渉して、壊れるならばその程度。彼の人生はそれでその程度ということ。
本当に『教師』という立場は『生徒』に干渉しやすくて良い。

そんな考えを巡らせて時に、自分で自覚してない間に、思わず笑みを零してしまった。

叶 明道 > 「要りませんよ」
 それは、前を進む言葉でもなんでもなく、ただ、面倒が嫌いだっただけだ。
いずれも教師の目の前で、『要るから返してください』なんて言葉を言うわけにはいかない。
 だから、手で払って見せて。そこでようやく、己の手に力が入り続けていたことに気づいた。
 手繰るような仕草でクラッチを手にした。ベッドから立ち上がろう、というものではない。半ば無意識的なものであった。
 それを握りながら、息を吐く。金属の硬質な温度を感じる。
「いえ、色々と諭してくださったでしょう、お二方とも」
 社交辞令だ。明らかに"そう"であろう、そんな言葉。
彼らの言葉が善意から来るものにせよ、悪意からくるものにせよ。
いずれにせよ――明道の嫌う正道から来る言葉であることは間違いない。
でも、いや、だからこそ、二人の言葉でバランスが取れた。

山科 諒平 > 「そうか」

相も変わらず、表情も抑揚も変化せず。
山科諒平はワイルドナインを懐に入れた。

「それで、足はもういいのかね?」

そのまま問い掛ける。気がないのを読み取ったのか、単に礼を言われる事でもないと流したのか、叶の世辞には反応せず。

叶 明道 >  ……流石に。ここで『まだ寝てる』などといったら面倒極まるだろうか。
とはいえ、まだ"疲れ"のようなものが表れたのは事実だ。
 少なくとも、休むことにどうこうは言われなさそうなために
「俺はもう少し、休んでいこうかと」
 クラッチの表面を撫でながら言う。視線は合わせず、少し目を伏せるようにして。
「先生方はどうされますか」
 まだタオルケットは引き上げたまま。少し体を崩して尋ねた。

山科 諒平 > 「そうか」

先程と全く同じように、全く同じ言葉を繰り返す。

「なら、私はデスクワークに戻るとしよう。シイン先生はどうなされますか?」

立ち上がってそのままシインに問う。

シイン > 「私も戻りますよ。授業のこともありますからね。内容を見直して、問題があれば考えなおさないといけないですから。」

二人に告げるように言葉に出して
椅子から立ち上がり、出していた資料を纏めて手提げの鞄に仕舞う。

叶 明道 > 「……そうですか」
 ずるり、と。身体を崩れさせてそのままタオルケットに潜り込む。
下手な騒ぎは起きず、一応は面倒もやり過ごしたといっていい。
 精々が妙なことを言われたぐらいで、ひとまずそれ以外は平穏めいたものだった。
 いちいちカーテンを閉める余力もない。どうせ閉めたところで来る奴は来るのだ。
「今日はありがとうございました」
 改めて。思っても居ないことを告げながら。ベッドに背を委ねていく。

山科 諒平 > 「そうですか、では戻るとしましょう。
――叶。休むのもいいが、回復したら自室に戻るといい。
保健室は体調不良を訴える生徒を受け入れる場所だが、だからと言って私物化していいわけではないのだからな」

喫煙など論外だ。と相変わらずの調子で言った後、そのまま保健室を後にする。
叶が答えなかった問いへの解答を、僅かばかり気にしながら。

ご案内:「保健室」から山科 諒平さんが去りました。
シイン > 私も行くか、と声に出しながら山科に続いて保健室から出ようとした、その時に、振り返る。
そして一言。

「その身体、壊さぬように。自分を自愛するのだよ。」

自分では思ってないことを、本質とは全く逆の言葉を。
彼に送った後に、カツカツと廊下を踏み鳴らす音を響かせながら去って行った。

ご案内:「保健室」からシインさんが去りました。
叶 明道 > 「…………気をつけますよ」
 シインにも、山科にも、薄ら笑いを浮かべながらタオルケットに沈み込んでいく。
 正反対な印象を持つ教師だった。いずれも、そう、対照的な教師だった。
 記憶に残ったのはあの軍服風の教師だったが――しかし、
 山科の言葉が一度脳裏を反響し。
「馬っ鹿らしい……」
 馬鹿らしいが故に。好悪の織り交ざるような感覚だ。
だが、つまりそれは嫌いだということでいいだろう。
あの教師はなんの講義の担当だったか――誤って受講しないようにしなければ。
 次は、保健室の扉には気をつけなければ。面倒くさいけど。
そんなことを考えながら目を閉じた。

ご案内:「保健室」から叶 明道さんが去りました。
ご案内:「職員室」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > ここ数日間は完全に研究室と教室を行き来するだけの生活をしていた白衣の男。
彼が最後に職員室にその姿を見せたのは、いったいいつだっただろうか。

「・・・・・・・・・・・・。」

放課後の職員室には数名の教師がおり、各自の作業を進めている。
獅南は自分の机へと歩んだ。まったく使われないが故に、誰の机よりも整理整頓されている。
と言うよりも、物が無い。

獅南蒼二 > 日ごろ使っていなくても、誰かが机の上を拭いてくれているのだろう。
埃を被っている様子は無いし,誰ががいつの間にか置いていった鉢植えも青々と成長している。
「…………。」
ありがたいことだ。と、素直に思った。
こうやって自分の席が保たれると分かっているからこそ、ここを空けることができる。

引き出しの鍵を開ければ、中には薄型のノートPCが入っていた。
それを取り出してコードを繋ぎ、電源を入れる…。

獅南蒼二 > 校内ネットワークを起動し、パスワードを打ち込んでログインする。
彼のパスワードは25桁。どうやって覚えているのか分からないが、すぐにログインすることができた。

メールをチェックすれば、多くの未読メールの中に1つ、報告書を催促するものがあった。
そう、現在進めている研究に関する報告書である。
個人の研究としては莫大な予算を消費しているためか、求められる説明事項も多く、内容も厳しい。

獅南蒼二 > さっとそれらに目を通し、すぐに報告書を作成し始める。
研究の主目的とその概要、進捗状況、現時点での見通し、成果、予算の内訳。

全てが頭に入っている。
それらを流れるように打ち込んでいけば、10分もしないうちに報告書は完成した。

ついでに、実証実験の規模や必要資材を追記し、追加の予算を申請する事も忘れない。

獅南蒼二 > 全て打ち終われば、メールに添付して送信する。
そのほかの未読メールは授業に関するものや試験に関するもの、
その他雑多なものばかりで、特に気にする必要のありそうなものはなかった。

小さく息を吐いて、背もたれにぐっと身体を預ける。

獅南蒼二 > ぐぐっと身体を伸ばしたまま、溜息のように息を吐いた。
普段からあまり顔色の良い人物では無いが、よく見れば本当に酷い顔をしている。
目の下にはくまができ、顔色もやや青白い。

現時点での進捗状況から論文をの序章をまとめようと思ったのだが・・・
・・・
・・・・・・珈琲でも持ってこよう。

ご案内:「職員室」に駆藤 栄Qさんが現れました。
駆藤 栄Q > ガラリと扉が音を立てて開き、でっぷりとした体型の白衣がぬうっと現れた。
太っているというよりも、異様に 丸い。
室内だというのにつばの広い帽子を深くかぶり、
人間とは思えぬ幾何学図形のような尖った鼻、
丸眼鏡の奥の眼は周囲の眼など気にする様子はなく、まっすぐに自分の机に向かった。

獅南の背後を通り過ぎれば、かすかにオイルの香りが漂う。

ご案内:「職員室」から駆藤 栄Qさんが去りました。
ご案内:「職員室」に駆藤 栄Qさんが現れました。
駆藤 栄Q > 駆藤の机は、幾何学模様のオブジェクトで埋め尽くされていた。
それらをあちこちの引き出しにしまうと、古めかしい小型のタイプライターを取り出し、何やら細工をしている。

「フム ここをこうすれば 符術式に対抗するも可能か」

獅南蒼二 > 貴方が職員室へ足を踏み入れれば、奥で珈琲を淹れている白衣の男が目に入るだろう。
もしかしたら貴方は、この男をここで見るのは初めてかもしれない。
少なくとも珈琲を淹れている姿を見るのは間違いなく初めてだろう。

男は珈琲をカップに注ぎ、自席へと戻る。
が、その途中で貴方に気付けば、その作業を横目に見た。

「・・・・・・ほぉ、何かと思えば、対抗魔術の術式構成か?」

駆藤 栄Q > 何の変哲もない紙を差し込み、カチカチと何やら入力してレバーを動かせば、やがて記号と文字をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような模様が印刷されてきた。
それを切り取って電燈の光にすかし、じっと見つめると、急激に興味を失ったようにくしゃくしゃに丸めてしまう。
同様に、タイプライターも引き出しの奥に無造作に放り込んだ。
声をかけられると、まるで今はじめて気づいたかのように、大げさに驚く。

「おお これはこれは失礼
なに ちょっとした遊びだ そうせっぱつまったものではない
ところで はじめましてだが その前に
何徹かね」

手をひらひらと振り、めんどくさそうに答える。

獅南蒼二 > タイプライターに見えるが、打ち出される文字は…いや、それは文字とは言えない・・・複雑に絡み合う術式を構成していた。
決して高度に構成された術式ではないが、彼が印刷したそれは、優れた指向性を持つだろう、対抗魔法の術式に見える。

「3徹だったかな・・・助手のお陰で20分は眠ったが。」
肩を竦めて苦笑し、それから珈琲を一口飲む。
「…しかし、その印刷機は面白いな。」

駆藤 栄Q > 「3徹か そろそろ脳が休息を求める頃合だな
吾輩は医者ではない しかし気をつけたまえよ
夏風邪もあることだしな 研究者同士として要らない忠告だが」

印刷機に言及されると、ふむ、と俯き、くしゃくしゃに丸めた紙をひろげ、しわを丁寧に伸ばして見せた。
例えば燃え盛る魔術的な炎に対し、複数の異なった属性の術式を組み合わせて、幾重にもわたって干渉をしかける……術式のようにみえるだろう。しかし術式は未完成で、その証拠にところどころインクがにじんで台無しになっている。

「現行の機械 それも昔の複雑ではないものに魔術的細工を施して 術師が使えるようにする遊びだ
持ちがよいアンティークの中には 魔術に煩い連中に隠れて 術師しかわからない仕組みを施しているものも存在する そういうものを見つける面白さがあるのだ」

興味を持たれて機嫌をよくしたのか、
白衣のポケットから金色の懐中時計を取り出し、獅南に差し出す。
一見何の変哲もない時計だが、魔術に成熟した者が見れば、文字盤に描かれた12、3、6、9の文字がそれぞれ火水風土の4色に淡く輝いているのが見えるだろう。
今は夜、火の12はその輝きをやや失いつつある。

獅南蒼二 > 「助手にもよく言われるが・・・集中していると時間が過ぎる事にも、気付かんものだ。
 まぁ、そうだな・・・せめて寝る時はベッドで寝ることにしよう。」

肩を竦めて楽しげに笑い、それから、広げられた紙を見た。
打ち出された術式は機械的だが、それが印刷物だとは思えないほど、実に見事だ。
未完成であることを踏まえても、その評価は変わらない。

「素直に、これは賞賛に値するよ。私には到底真似できん……。
 魔術額的な立場から助言をするのなら、対抗魔術ならば発動そのものを封じ込めたほうが効率が良い。
 どうしても発現した現象を処理したいのなら、スイッチが重要だな…炎ではなく、基準値以上の熱や光に反応するように改善すれば、不発の心配がなくなる。」

受け取った懐中時計を開けば…なるほど、四大元素の属性が付与された魔力を封じてある。
そこに込められた術式までは読み取れないが…
「それもこれも“掘り出し物”ということか。非常に面白い着眼点だな。
 ……で、この時計はどう使うんだ?」

駆藤 栄Q > 「助手がいるならばなおさら気をつけたほうがいいだろう
主任が倒れてしまっては困るだろうから」

ひとしきり見せた後、元のように丸めてポケットにしまい込んだ。

「確かに 火ならば発動阻止するには 燃えない環境を構築する必要がある 酸素や可燃物を除外したり 周囲を湿らせたり
だがこれはあくまで遊びだ 効率は端から度外視しているのだ」

掘り出し物の金時計、その文字盤に注目するように指さす。

「みたまえ 火属性に対応した12の文字が暗くなっているだろう
これは現在 火の術を唱えてもそれほど威力が望めないことをあらわす
この時計は周囲の魔力量や属性値を観測し 術者に伝えるものだ
平時ならば役に立たないガラクタだろう
しかし 深層においては時間の感覚がつかみにくく 漂う魔力の質が絶えず変化し 場の属性さえも変わり続ける遺跡や迷宮などにおいては この時計は魔術を効率よく扱うのに大変な手助けとなることだろう
もっとも 総魔力容量が人外レベルならば 気にしないだろうが」

いいながら駆藤が時計を確認すると、だいぶ時間がたっている。

「話し込んでしまったな すまないがこれから研究室に向かわねばならない
また会おう」

獅南蒼二 > 「ははは、私の考え方では少々カタ過ぎたか。
 遊びと言うには少々息苦しい術式になってしまいそうだからな。」

肩をすくめて楽しげに笑いつつ、言われたとおりに文字盤を見る。
文字盤の光りが暗くなっていることには気付いていたが・・・

「なるほどな…簡易的な空間の魔力量測定器というわけだ。
 どのように反応させているのか分解して見てみたいところだが、それは無粋というものだろうな。
 魔力を殆ど持たない私にとっては、もしトレジャーハンターでもするなら、咽喉から手が出るようなアイテムだな。」

「・・・・・・あぁ、私も論文をまとめようとしていたところだ。
 その術式、完成したらまた見せてくれないか?」

男はそう言いつつ、くるりと背を向けて自席へと歩いて行った。
同じく魔術を扱う者だが、そのアプローチが大きく違う。
そんな、新たな視点は、この男にとっても興味深いものだった。

駆藤 栄Q > 「ああ いいとも
時間ができたら 研究結果を見せ合うのはどうだね 何か新しい発見があるかもしれない」

去り際にふと、言葉をかけて、白衣のダルマは巨体を揺らし歩き去った。

ご案内:「職員室」から駆藤 栄Qさんが去りました。
獅南蒼二 > 「研究結果か…あぁ、もちろん良いとも。
 私の研究は少々、特殊かもしれないが・・・な。」

苦笑を浮かべつつ相手を見送れば、自分のPCへと向かう。
後はひたすらに、キーを叩く音だけが、規則的に響いていた。

ご案内:「職員室」から獅南蒼二さんが去りました。