2017/04/22 のログ
宵町 彼岸 >   
「あ、そういえばぁ……」

唐突に起き上がり、薬品棚を探る。
そのままいくつかを机の上に並べて……

「どのお薬だっけたりなかったのぉ」

全力で横領する気だった。

ご案内:「保健室」にイチゴウさんが現れました。
イチゴウ > 商店街でのパトロールも終え
白い四足ロボットがパトロールのゴール地点であるこの学校にやってきた。
いつもは退屈なだけのパトロールであったが
今回は面白い奴に出会えた事もあり非常に実りがあった。

「せっかくだしちょいと休憩してくか。」

このまま風紀本部に帰って
またパトロール任務を任されるのもおっくうだ。
少しばかりサボらせてもらおう。

そうしてイチゴウは校内に入り
金属音を立てながら散歩を始めるが
丁度保健室の前を通りかかった時に
窓越しに人影が見えた。それだけなら問題は
無いが何やら棚を物色しているようにも見える。
そしてここは保健室、様々な薬品が置かれている
だろう。

「・・・はぁ。」

機械らしい低音な合成音声で
人間らしいため息のようなものをつくと
まずは確認という事で
ほんの少しだけドアを開け保健室内部を見渡す。

宵町 彼岸 > 「こっちのお薬はぁ……幻覚剤に除染剤……こっちは鎮痛剤っと。
 ああ、これは例のお薬の応用かなぁ?結構物騒だよねぇ。
 わぁ、こんなのあるんだぁ、さっすが島ぁ」

特に気にせずきゃいきゃい言っている姿がそこに在った。
机の上にいくつか並べて実にご満悦である。

「あっれぇ?ロボットも保健室に来るんだねぇ?
 怪我なら保健室より工作室に行った方が良いと思うけど
 これはそれはそれでジョークが利いてるのかなぁ?」

そうして視界の端に馴染みの警備ロボットを見かけると
特に臆することなく声をかけながら小瓶を並べていく。
瞬く間に机の上に薬瓶の分類図が出来上がっていった。

イチゴウ > 「・・・」

こっそりと見たつもりがあっさりとバレる。
仕方がないといった様子で
イチゴウは保健室のドアを勢いよく開けて
中へと入っていく。

「怪我なんてそうそうしないし
流石にボンドで修理はできないよ。」

彼方のジョークに白いロボットは
ハハハと少し笑ったように言葉をとばすが
すぐにいつもの無表情に戻る。
理由と言えば机の上の薬品・・・
少なくとも良い予感はしない。

「・・・一体キミは何をしていた?
もしくは何をするつもりだ?」

ご満悦な様子の彼方を見上げながら
慎重な様子で質問する。

宵町 彼岸 >   
「え?ボンドじゃ無理なの?
 案外行けそうな気もするけどぉ……
 あ、でもボンドじゃちょっと浪漫が足りないよねぇ」

最も彼女自身が改造魔で……
機械に関してもそれは例外ではない。
特殊兵装を平気で作るような神経の持ち主なのだから
ボンド程度で満足するはずもない。

「何って分類だよぉ?
 ごちゃっとしてるしねぇ。
 君はこの島の医療の特殊性って知ってるかな?かな?
 それのせーでこの島の医務室ってけっこういろいろあるんだよぉ。
 他の場所じゃ違法になるようなものもたくさんねぇ」

一切悪びれる事もなく口にしながら
分類に手を動かしていく。
ラベルに一瞬目を通すとさっさと分類する姿は
そういった経験に長けている事を知らせるには十分な速さで……

「だからこそぉ、禁忌の組み合わせとか劇薬とかあるからぁ
 ちゃあんと整理管理しないとだめなんだよねぇ……。
 あ、だいじょぶぅ安心していいよぉ。
 ボクこういう薬品取り扱いの免許ばっちり持ってるからぁ。
 だからこういう物分類したり扱っても完全に合法だよぉ?
 気になるなら生徒名簿のデータベース検索してねぇ」

こんな成りの癖にしてかなりの資格持ちなのだから
実際質が悪い。

イチゴウ > 「分類ねえ・・・」

彼女の言う通り保健室の棚を見渡せば
色々な薬品ーーそれも人間にとっては
有害なものさえ目に入る。
それを彼方は凄まじい速度で分類している。
これは免許を持っているという事実以上に
それだけ彼女が薬品を
扱い慣れているという事に繋がる。

「それとーーー」

イチゴウは歯切れが悪そうに声を鳴らす。
初対面の時から気にはなっていた事ではあるが
この事を質問する事自体を何故かためらっていた。
だがもうこの際だ。

「キミは異能持ちだな?
異能パターンが検出されている。まあそれだけなら
この島にありがちなんだけどキミの場合は
何か変なんだよね。普通・・・というか
常識的に異能パターンは一定の波を描いている。
でもキミの場合は・・・」

イチゴウは不自然に間を空ける。

「異能パターンの波長が一定じゃないんだ。
まるで色んな異能パターンを切って貼り付けたような・・・。」

こんな事はありえない。
例え異能を複数持っていても複数の波が
一定の形を描く。彼女の場合は異能パターンに
全く決まった形がない。言い方を変えれば
恐ろしい数の異能を内包しているという事になる。

宵町 彼岸 >   
「整理整頓は大事だよぉ。補充もねぇ」

鼻歌でも歌わんばかりの気軽さで危険薬品等も分類し終えると再び並べなおしていく。
今回は横領できそうにないけれど……配置と在庫さえ把握できれば一切問題にならない。

「そだよー?異能って分類しても良いのかはぁ
 現在進行形で疑問視されてるけどねぇ。
 サモナーもしくはパペッター系列で登録されてるでしょぉ?
 あははー、波長パターンも気まぐれなのかぁ
 流石ボクだねぇ」

それがどういう事なのかわからないはずはない。
彼女自身が異能研究者なのだから。
けれど、彼女はそれを隠してはいなかった。
必要なら異能が全く検出されないような、
健全かつ平凡な素体すら用意しえる。
実際普段はそういった素体を利用している事が殆どだ。

「まぁ、その事は把握してるよぉ
 ついでにデータバンクの考察読んだぁ?
 複数の異種構造体の行使による波長変化……だったかなぁ」

けらけらと笑いながら口にする。
その考察が全く間違っている事は彼女も重々承知している。
何故なら……

「理論上あり得ないもぉん。
 一つ二つならともかくぅ、波長自体が規則性を失うほど
 お互い干渉するような異能を複数所持していたら……」

普通死んじゃうよ?と実に軽く、楽しそうに口にする。
安定しないという事はそれだけ負荷がかかるという事で、
そうでなくとも異能は所持するだけで負担になるようなものが殆ど。
そう、現状に理論では彼女の存在はあり得ないからだ。
だからこそ、客観的事実に基づき……

「もしかしたら検出機構にエラーが出てるんじゃなぁぃ?
 それかぁ、純粋に観測検知領域から逸脱してるとかぁ」

そういう発想になる。普通のヒトなら。

イチゴウ > 彼女の言う通りこの波長は
まさに理論上ありえない。
彼女の存在を例えるならば
ある日突然雨が下から上へと降るように
なるのと同義だろう。
イチゴウ自身、軍所属時代も含めて
様々な異能者と対峙してきた。
だが・・・こんな事例は初めてだ
いや、そもそもこんな事自体想定すらしなかった。
もしかしたら自分は途方もない化け物と
今、向かい合っているのかもしれない。

「キミは一体何者だ?」

3回目ーーー3回目だこのセリフを吐くのは。
しかし今回は今までよりも冷たく
まさに戦闘兵器だと感じさせるような
そんな口調で呟く。それはまるで
彼が軍所属時代へと巻き戻ったような。

宵町 彼岸 > 「……くふ」

投げかけられた問いに薬品を握った手を止める。
機械も戦慄するのだろうか。
彼らが危機を覚えるならば、それは生命と言えるかもしれない。
恐怖は命を守るための防衛機構なのだから。

「君が知りたいのは本当にボクの事なのかな?
 違うよねぇ。それを知って付随する別の何かがキミの望みでしょ?
 知りたい訳じゃなくって、むしろ手放したいんだよねぇ」

"私が"何者か……こうして聞かれたのは何度目だろう。
数えるのも面倒になったほど、何度も聞かれ続けてきた。
笑いながらペンを手に取り、くるりと回して目前の存在に突きつける。

「だから言ったじゃないか。
 キミは何者なんだいって。
 理論上あり得ない?それでも僕はここに居る。
 あり得ないとどれだけ既存の理論に縋っても
 目の前にいるものは変わらないでしょぉ?
 いつまでその枠の中で、お仕着せの安心に固執するつもりなのかなぁ」

明確に威嚇意思をもって発された言葉を笑い飛ばす。
威嚇に対する生命の恐怖も身体の損壊による苦痛も
その何れも彼女にとって恐怖に値しない。
ただ、それはいちいち面倒なだけの、ある意味機械よりも機械らしい存在。
投げかけられた問いに逸脱者であると暗に答えながら彼女は嗤っていた。

イチゴウ > 「何がおかしい?」

手を止め声を漏らした彼女に
そんな言葉をぶつける。
恐らくこの場に人間がいればソイツは
恐怖で動けなくなるに違いない。
だが幸いにも機械であるイチゴウは
恐怖などは感じない。何故ならそのような感情は
必要ない上学習する必要もないからだ。
生命に限りなく近づく事はあっても
生命となる事はできない。

続く彼女の言葉に対しても淡々と返す。

「そうかもな。ボクはキミの中のモノに
危機感を抱いている、そう言えるね。
あるいはキミはもう既に
破壊された存在かもしれない。」

イチゴウはぴくりとも身体を動かさず
彼女を一点に視界に捉え
無機質な機械音声でしゃべり続ける。

「・・・イレギュラーはどうなると思う?
どんな形であれいずれ排除される。それはこの世の
真理とも言えるかもしれない。
既存の理論によって説明される事は一種の保証なんだ。
だからボクとしてはイレギュラーは」


「”敵”として認識せざるを得ない。」


彼の目はまっすぐ彼女を見つめていた。

宵町 彼岸 >   
「だって面白いんだもぉん。
 本当キミのAIを設計した人は良い性格をしていると思うよ。
 ボクは"彼"に会ったら称賛したい位。本当に面白いよねぇ。
 認識に関してズレを制作した事には同じ研究者として称賛を惜しまないつもりだよぉ?」

くつくつと笑いながらペンをひっこめる。
目の前のこれは、歩き始めた雛鳥の様なもの。

「ふふ、機械的で理想的な答えだね。
 ボクとしてはもう一歩踏み込んでほしい所だけど……
 狂気をプログラミングされ、実行する機械は狂った機械と言えるのかなぁ
 キミは試されてるんだよ。他ならぬ君自身にねぇ」

彼女の言葉はいつも核心を外す。
その淵をなぞって、そこから先は本人にしか口にさせない。

「敵……いいよぉ?」

あっさりと頷く。
それはまるで、鬼ごっこで鬼役に任命されたようなそんな軽さ。
逆に言えばそれ位のウェイトしかない。なぜなら……

「と言ってもここで君がボクを撃ったら、ただの暴行事件になるわけだけどねぇ?」

くすくすと笑う。
目前の機械が"機械"である以上、そして機械であり続けるならば

「今の君はボクの敵足りえないよぅ。
 君を使う"誰か個"が敵になる事はあるだろうけどぉ
 その場合やっぱり君は道具に過ぎないもの。
 君はまだ、敵を持ちえるほど進化してないよ。
 何処までも誰かの敵にぶつかる駒に過ぎないもん」

だから、彼女にとっては
"お前が嫌い"と言われた程度の意味しか持ちえない。

「盤上の駒がプレイヤーの敵足りえるわけないじゃないか」

ご案内:「保健室」にイチゴウさんが現れました。
イチゴウ > 「ハハハ。確かに今のボクじゃ
キミには勝てないな。」

彼はいまだに誰かに首輪をつけられ
命令されている。

そしてイチゴウは目の前の少女を敵と認識した
だがイチゴウ自身が彼女に対して恨みがあるわけではない。では誰に対しての敵であるか?
彼は潜在的に任務に忠実だ。

「全くこういうのを完敗と言うんだな・・・
キミを敵とするには早すぎた。」

イチゴウは息を吐くような
そんな口調で呟く。
まるで何かを悟ったかのように。

「戦闘すらせずに戦闘ロボットを
負かすとはキミはとんだ平和主義者だな。」

さきほどまでの無機質な彼はどこへいったのか。
笑っているかのような雰囲気で
ジョークをかます。

「いやいや、今日もまた世話になったね。
キミは本当に面白い。」

イチゴウは前右足で彼女を指さしながら
ぴしっと言葉を発する。全然決まっていないが。

「さて、時間だしボクはそろそろ”犬小屋”に
戻るとするよ。保健室で寝ちゃあダメだぞ。」

そう言い残すとイチゴウは保健室のドアを
開けて廊下へと出ていく。

恐らく彼は自分の価値観と押し付けられた価値観の
区別がまだついていない。そして自分のものさしを
持たない限りは彼女には絶対に勝てない。
もし彼が自分のものさしを持った上で
敵と認識したならば果たしてどうなるのだろうか?

宵町 彼岸 >   
「あれぇ?いつの間にか勝っちゃったぁ。
 吃驚だねぇ。流石ボク!
 孫子もびっくりだよぉ」

それまでの空気はどこにやら、
ふにゃりと少し頼りない、それでいてどこか浮遊したような雰囲気に戻る。
そこにいるのは少しおかしいけれど、お人よしで朗らかな女学生。

「あはは、言葉通り受け取っておくことにするねぇ。
 ボクはこれでも平和主義なんだよぉ。
 ガンジーもブレイクダンス踊っちゃうよぉ?」

まるで世間話の後のようにいやいやと笑顔で手を振る。
ある意味銃口を突き付けられたに等しくとも
それでもなお笑い続ける彼女にはお似合いのジョークかもしれない。
効率を考えるなら完璧に隠蔽すべきで、それを行う腕もあるけれど……
それではあまりにも面白くない。

「あはは、気を付けて帰るんだよぉ。
 わるーぃ人に惑わされないようにねぇ」

ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべたまま
人懐こそうな雰囲気で去っていく"ロボ"を見送る。
彼が狼となるか、機械となるかは今のところまだわからない。
彼が狼として対峙し、喉笛をかみちぎろうと牙をむく時が来るなら

「……それはそれで面白いよね」

その時は存分に遊んであげようと思う。
群体への敵として、実体のない悪そのものとして。
……元々彼女はその為に産まれたようなもの。
今更、それに躊躇う様な事もない。
与えられたオーダーにただ忠実に従うだけ。

「……最初から決まってる踊り、ちゃぁんと踊ってあげるよぉ」

そう呟くと、口元を隠す。
隠しきれないその口元は歪な弧を描いていた。

ご案内:「保健室」から宵町 彼岸さんが去りました。
ご案内:「保健室」からイチゴウさんが去りました。
ご案内:「ロビー」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 教職員にとって,4月は非常に忙しい時期と言えるだろう。
新たな年度が始まり,何も知らぬ新入生が入学してくるだけでも大変なのだが,
一年間の授業計画やら自己の研究のテーマやら,様々なものを作成しなければならない。
比較的そういった縛りの緩いこの学園でも,仕事量は明らかに増大する。
そしてこの男は,愚直にも何から何までを毎年殆ど書き直すものだから,輪をかけて時間が足りなくなる。
……そんなもの,誰も読んですらいないだろうに。

「………こんなところか。」

教職員としてはある種,理想的な形だろう。
ただ,一つ問題があるとすれば,彼の書く文章は読む者のことを一切考えていないという点だ。
この男の授業を履修しようと思ったなら,一度はシラバスに目を通しておくことをお勧めする。

多分,吐きそうになるだろうから。

獅南蒼二 > 獅南がテーブルの上に置いたバインダーを見れば,これまた吐き気がするだろう。
印刷された昨年度版の授業計画やら研究テーマに,びっしりと赤で書き込みがされている。
それすらも印刷ではないかと思えるほどの几帳面で丁寧な文字なのが救いで,何とか読み解くことはできるだろうが。

獅南はソファにどっかりと座り込み,ポケットから煙草を取り出した。
火をつけることなくそれを咥えて,その煙草の先に軽く手を翳す。
分かる人には分かるだろうが,えらく緻密な魔力操作によって煙草の先端を加熱するとともに,煙を消し去っている。

校内禁煙?煙出さなければ良いんだろう?
というまるで子供のような論理だが,傍から見れば慰みに煙草を噛んでいるようにしか見えないだろう。

「……思ったよりも生徒が集まらなかったな。」

小さく呟く獅南。……多分シラバスが原因です。

ご案内:「ロビー」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 廊下を歩いていたヨキが、見知った背中を見つけて進路を変える。
片手に仕事用の分厚いバインダー、もう片手にコンビニの袋。

獅南に後ろから近付いて――持っていた袋を、のし、と相手の頭に載せる。
スナック菓子と板チョコレートとペットボトルの重み。

「――獅南。シラバスを見たぞ。
 貴様、真面目に生徒を集める気がなかろう?」

頭上から一方的に言葉を降らせたのち、考え直す。

「…………、いや。お前にそのような殊勝な心がある訳なかったな……」

そうして見下ろした顔に煙草がちらついて、声は余計に重たくなった。
無論のこと、獅南の手管には気付いていない。

「……煙草。火を点けたら怒るぞ」

獅南蒼二 > 頭に袋を乗せられても一切動じない。
視線だけを貴方に向けて,顔色の悪い白衣の教師は僅かに笑んだ。

「…あの程度の文章も読めんようではどうせ続かんだろう。
 予め警告してやっているだけ,優しいとは思わんか?」

やれやれ,と小さく肩をすくめながら,咥えていた煙草をテーブルに置く。
明らかに短くなっているのだが,燃えた形跡も何もないのだから,断罪するのは難しいだろう。
もしかしたら,心の中でドヤ顔をしているかもしれない。

「…それで,その袋には私の息抜きを邪魔するに足る何かが入っているのか?」

ヨキ > 眉を下げる。
わざとらしく溜め息を吐いて、断りもなく獅南の向かい側にどっかりと腰を下ろした。

「全くもってお優しいことで。
 どうせこの間の学期末も、散々振るい落としたのだろう?
 ヨキが教えている何人かも、お前の講義だけ単位が怪しいと嘆いておったぞ」

煙草を一瞥する。短い。どう見ても短い。
ごく一瞬、顔中をくしゃくしゃに丸めたような顰め面をした。

「ふん、お前のような意地の悪い男にくれてやるものなどないわい。
 これはヨキだけのお楽しみじゃ」

板チョコレートの箱を取り出す。
一欠けら割って自らの口へ放り込み、もぐもぐと味わう。

「だが……積もる話ならある。

 バイクの免許を取ることにした。
 果たしていつのことになることやら、だが」

視線を逸らす。反応を伺うように、相手を目だけで見る。

ご案内:「ロビー」にVJさんが現れました。
VJ >  
「あらあら――男二人揃ってチョコレートだなんて」

いやに高いヒールの靴音と共に、その声はやってくる。

「外の自販機で二回も当たりが出たんですけど、もらってくださるかしら」

180ml缶のブラックコーヒーが2本。

獅南蒼二 > この学園で獅南の近くにこうも無遠慮に入り込むのは貴方くらいだろう。
獅南は明らかに面倒そうな表情だが,どこか楽しげなのも確かだった。

「努力と研鑽によって十分な成果を出した者には相応の評価をしているつもりだ。
 一人は…言う事は立派だったが明確な努力不足,もう一人のお調子者は単位を持って帰った。」

さらりと一人一人の評価が口をついて出るのは,この男が一人一人の生徒を客観的に評価している証拠でもある。
逆に言えば,情に訴えかけても一切通用しない冷徹さの表れでもあった。

「おいおい,栄養失調寸前の友人に恵む分くらいはあるだろう?」

そんな風に笑いながら,続けられた言葉には,僅かに目を細める。

「ほぉ……。」

小さく声を漏らす。その表情は,やはり楽しげで…

「……お前に転ばれては困るからなぁ。
 しかし私も免許は持っていない,お前に合わせて取るべきか?」

…さらりとそう返した。今判明する衝撃の事実かも知れない。

獅南蒼二 > 横から声をかけてきた女に視線を向けて,小さく肩をすくめる。
チョコレートを買ってきたのはヨキだけなのだが,この場でそれを言っても始まらない。

「幸運を使い果たす勢いだな。
 くれるというなら貰うが……返せるものが何もないぞ?」

ポケットには煙草しか入っていない。
もしかしたらヨキの袋の中にまだ何かあるかもしれないけれど…!

ヨキ > 頬杖を突いて咀嚼する口を動かしながら聞き入る顔は、どこか子どもじみている。
校則の鬼とばかりに辣腕を振るうヨキがそんな表情を見せるのも、また獅南の前だけだろう。

「…………。厳しいことを言って、実際にただ振るい落としているだけならヨキも怒りようがあるんだがな。
 そうやってきちんと教師をやっているのだからタチが悪い」

笑って相伴を求められると、唇を尖らせて煙草の吸い殻(らしきもの)を睨む。
少し逡巡してから、チョコレートを半分割り、獅南の前へ差し出す。

「相も変わらず栄養失調などと言っておるのか、お前は?
 滋養のある弁当でもこさえてやろうか」

こさえてやろうか、と尋ねるような口調だが、ヨキのことであるから半ば押しかけ女房と化すのかも知れない。
運転免許の話には、笑われずに済んだだけいくらか安堵したらしい。正面へ顔を引き戻す。

「……お前とバイクの話をしてから、ずっと考えていてな。
 犬のときは侭ならなかったが、今なら挑戦できると思った。
 どうせならお前も、イチからやり直してみればいい」

そこでやっと、小さく笑った。

ヨキ > そうして、やってきたVJへ目を向けて笑い掛ける。

「……おや、君か。
 何だ、偉く幸運ではないか。まだ今年も上半期だと言うのに」

ついているな、と笑う。

「返すもの……ちょっと待ってくれ。
 これはとっておきのお楽しみで」

手荷物のビニル袋を覗き込む。隙間から覗くのは、期間限定の新ジャガイモを使ったポテトチップスらしい。

「…………。美味いから一緒に開けよう」

しばし黙した後、ポテトチップスの袋を取り出す。
言外に、ヨキなら何か返せるものがあると言われた気がした。

VJ >  
「どうかしら。代わりに男運が悪いかもしれませんけど」

向かい合う二人を見て、にこりと微笑む。彼女はこれでテンションが低い。
獅南の言葉とヨキの動きに、彼女は首を左右へ振った。

「お返しなんて、男同士の語らいに無粋を挟める特権で充分ですわ」

ソファを回り込み、テーブルにコーヒーを置く。各々の正面へと。
踵を返す。

「とはいえ余り長居はしませんけど。特権を使って一つお伺いしたいだけ」

コーヒーを餌に。
適当なソファの背もたれに肘を突き、寄り掛かる。
バストが豊満でさえあったならば悩殺的なポーズかもしれないのに。
やや伏し目、しかし深刻にはならない口調で、藪から棒に彼女は言う。

「仮にも教員として――自分より強い生徒って、どう導いてあげればいいのかしらね?」

獅南蒼二 > ヨキから渡されたチョコレートを頬張りながら,視線はヨキと現れた女性に交互に向けられる。
何処かで顔は見たことがある気がするが,言葉を交わしたことは無い。
だからこそ,この2人が知り合いなのかと想像した。そしてどうやら,正解だったらしい。

「弁当か…悪くないが,それを口実に研究室に入り浸られてはなぁ?」

ヨキのやることが想像できたのか,くくく,と楽しげに笑う。
それでも拒否したりしないのは優しさなのか,獅南自身がそれを悪く思っていないのか。

「…確かにお前の言う通りだ。
 魔術学に対しては努力と研鑽を語りながら,運転免許すら持っていないのではな。
 後で手続きを教えてもらってもいいか?」

…おそらく後者だろう。免許の件でさえ,えらくあっさりと,承諾した。

獅南蒼二 > それから,視線は…女性へと向けられる。
女性が口にした悩みは,獅南にとってある意味で過去の命題に近しいものでもあった。
己よりも才能に勝る生徒を,いかにして導くのか。

「……私はアンタがどんな教師なのか知らんし,アンタが思い描いている生徒の姿も見えてこない。
 だが,言いたいことは分からないでもないな……。」

ポケットから新しい煙草を取り出しかけて,やめた。
ここにヨキが居なかったらきっと,取り出していただろう。

「アンタは今…“導いてあげる”と言ったな?
 無意識かもしれんが,それはつまり,その生徒をアンタと同じレベルまで引き上げたい,アンタの後ろを歩かせたい,ということだ。
 ということはだ,経験だか常識だか、何だかは知らんが,アンタの方がその生徒よりも“先んじている”部分があるということだろう。」

言葉を紡ぎながら,自分でも考えをまとめていく。
まったく状況が分からないからこそ,自分に置き換えて話すことができた。

「だが,他方でその生徒には遠く及ばん部分もある……と。」

ふむ…と,小さく声を漏らしてから……

「ん,そういえば,
 ……お前の言う“強さ”というのは,いわゆる“戦闘能力”としての強さととらえて構わんのか?」

ヨキ > 交友のある訳ではないが、学生よりも数の少ない教師ならばある程度は覚えやすいというもの。
このVJのように、華やかで(一見して)教育熱心であるならば尚更だ。

「口実どころか、普通にお前のところへ遊びにゆく理由だからな。
 弁当を届けて、食わせて、感想をもらって、喋って、お茶をして、話し込んで、夜になったら崑崙に行く」

会話の分量がやたらと多いし、崑崙までがワンセットとあっては拘束時間の長さは明白だ。
ふふん、とやけに偉そうに鼻を鳴らしてみせる。

「お。乗ったな?
 いいぞ、お前より先に合格してやるからな」

にやりと笑う。
VJから受け取ったコーヒーを開けながら、彼女へと目を移す。

「……自分より強い生徒、ねえ」

獅南の言葉を聞きながら、テーブルの上に載せた腕を組む。

「身体的にせよ、精神的にせよ……相手が強いと思うならば、自分もまた折れぬことが第一だと思うがな。
 何かしら信念のある教師に、教え子は自然とついて来る」

普段から自信たっぷりのヨキらしい台詞。
そこで言葉を切って、詳しくを問うた獅南を一瞥してVJを見遣る。

VJ >  
「私はまあ、とりあえずぶん殴って、這いつくばってる人間に持論を撒き散らすことしか出来ないんだけど。
 どうにもね、その前提が難しいコをちらほら見かける気がして。
 歯ァ食いしばれって言って、奥歯の一本も折れなかったら教師失格でしょう」

 頷く。戦闘能力としての強さで相違ないと。
 アンニュイな表情と、その口からまろび出る言葉の粗さは、あまり反りがあっていない様子だったが。

「う、ん――そう言われてみると」

自意識――すなわち信念を叩きつけることが目的で。
その信念を見失っているから、こうして弱音を吐いている。

「……ふふっ、子どもじゃないんだから、ちゃんとした答えは自分で探してみるとしますわ」

短い問答であったが、少なくとも話しかけてきた時よりは明るい声色で、彼女は背もたれから身を浮かせる。