2015/06/07 のログ
■美澄 蘭 > 「中学校の頃は、勉強で苦労するなんて考えた事無かったけど…」
他の学生に聞かれていたら何人を敵に回すか分かったものじゃない台詞を吐きながらため息をつく。
友達と協力しながらこなしていく授業なのかとも思うが、まだ学生の知り合いは多くない。
「…とりあえず、頑張らないとね。」
そう言って深呼吸をした後、素直に宿題に取りかかり始めた。
■美澄 蘭 > 授業は、今のところ1分野を授業2回で終わらせるような形で進んでいる。
つまり、1分野の半分の基礎をカバーするだけの問題量が週1回宿題として出されている。
一応講師が一般的な学生でも心折れずに済むように加減してくれているが、それでも…一般的な学生なら、ゆうに4時間はかかるだろう問題量だ。
座学に苦手意識のある学生の心を折るには十分だろう。
幸い、蘭は比較的勉学優秀な学生だった。1時間半ほどで、半分をこなす事に成功する。
■美澄 蘭 > 「………ふー………」
このあたりで集中力が切れて来たのだろうか。
大きく息をついた後、背もたれに寄りかかって大きく伸びをする。
「数Ⅰなら、まだ中学校の延長上って分かりやすいから何とかなるわね…
…でも、ちょっと疲れたぁ…」
次の講義は来週だし、今日はここまでにしちゃおうかなぁ…と、ぽつりとこぼす。
ご案内:「図書館」に雪城 括流さんが現れました。
■雪城 括流 > がらがらがら……と図書委員がカート転がしてきて、なぜか近くのテーブルに本をひとつ置く。
テーブルの下のほう、カートのあたりから声が聞こえてきて。
「ありがとう。あとは大丈夫だから、仕事に戻って。感謝してる。」
ぴょん、とカートからテーブルの本を置いたあたりに小さな蛇が飛び移って、立ち去る図書委員を見送った。
■美澄 蘭 > カートの車輪の音に、意識を引き戻す。
時計を見る。夕食時には少し早そうだ。
「…もうちょっとだけ、頑張ろう。後が楽になるし。」
そして、再び机に向かい学習姿勢に。小さな蛇には気がつかなかったようだ。
■雪城 括流 > 括流の前に置かれたのはたいしたことも無い雑誌、月刊トコヨウォーカー。常世学園の季節の観光スポットを網羅した、観光雑誌だ。
「さてと…?」
ページを捲ろうとしたところで、近くにいる生徒の様子に気づく素振りを見せ。
集中している様子なら邪魔しないようにテーブルの上をするする…と近づいて様子を伺う。
■美澄 蘭 > そうして、15分ほど粘っただろうか。
1つの例題と、それと同じ要領で解ける練習問題を一通り解いたところで…
「………あ”あー………」
と、生気のない声を漏らしながら、背もたれに思いっきりのけぞる。
集中力が、完全にお悔やみあそばれました。
■雪城 括流 > 「…凄い量だ。大丈夫?」
机の上の宿題量に目をやって、集中力が切れた頃合で声をかける。
すでに片付いたと思しきほうに分けられた分量を見ると、すでに何時間もここにいるのだろうか、と思った。
「私の授業じゃないな…ずいぶんとハードだね。」
■美澄 蘭 > 「………え?」
声をかけられたのに気付けば、姿勢を正して周囲を見る。
…と、すぐ傍で、小型の蛇が自分を見ているのに気付いた。
「…え、えぇっと、熊谷先生の「数学基礎」の宿題で…
ここにいるのは2時間弱だけど…?」
確信の持てぬまま、蛇を見つめ返して答えた。
■雪城 括流 > 「どうも、くくるせんせいです。数学もやってるよ。」
ぺこりとお辞儀をするように頭を下げ、笑うように口を開ける。シャー。
「二時間か、結構頑張ってるね。
わからないところとかあったら、手伝おうか?」
首をかしげるように頭部を斜めにして、下から覗き込んだ。
■美澄 蘭 > 「くくる先生…あ、そういえば、理系教科のシラバスに載ってたかも…っとと」
相手にお辞儀するように頭を下げられると、こちらもちょっと慌てて会釈をする。
「…ええ…おかげでそろそろしんどくて。
今のところ、分からないところは無いんですけど…」
そう言って、疲れた笑顔を浮かべる。
現在取りかかっているのは、二次方程式の問題のようだった。
■雪城 括流 > 「よかった、びっくりさせちゃうこともあるから。」
蛇が苦手な女子もたまにいるので、なかなか難儀なこともあるらしい。
知っていてもらえたことに安堵しつつ。
「そう?…二次方程式。
このあたり…純粋に計算量が必要になるから、確かに手助けしづらいかもね。
となると足りなさそうなのは、糖分かな。」
括流は魔方陣を展開すると、そこからタブレット状の飴をいくつか取り出す。
「どうぞ、差し入れだよ。頑張ってね。」
■美澄 蘭 > 「ああ…確かに、野外で遭遇したら怖いかもしれないですね。
…でも、図書館で蛇と会うなんて、意外すぎて怖がるどころじゃなかったかも…」
そう言って、少し笑みをこぼした。
「そうなんですよね、解の公式とかは中学校でやってるわけですし…
………あれ?」
魔方陣が展開され、そこから飴が出てくると、目を瞬かせる。
「ありがとうございます…
………あ、あの…今のは異能ですか?それとも、魔術ですか?」
■雪城 括流 > 「…そういうことか。
以前生徒をびっくりさせちゃったときは、女子寮に窓から入っちゃったときだったから。なるほどね。」
あぁー、って感じに頭をくるんと上下さかさまに捻って。
「ん?
今のは魔術だね。書いて使うタイプの魔術、魔方陣学も開講してるよ。
数学を使うから、基礎を学んでからでないとおすすめしないけど…これだけ頑張ってるなら、それほど苦労しないかな。」
先ほどは空中に出たが、こんどはテーブルの上をするするとなぞるようにして、光る魔方陣を描いてみせる。
■美澄 蘭 > 「…窓の隙間から入ってくる蛇は、確かに怖いかもしれません…」
少し引きつった感じで笑う。
…大人しそうな雰囲気の割に、物言いは正直だ。
「魔術なんですか…
私、ここに来る前に属性魔術と治癒魔術の基礎を親から聞いた程度で、そういうの全然詳しくなくて…」
と言っている間に、括流が魔方陣を描いてみせるのを見て、そちらに意識を集中させる。
■雪城 括流 > 「…やっぱりそうかな。」
最近あちこち動いてるし、出入りは気をつけよう、とちょっぴり反省するのだった。
「魔術もいろいろある。
属性魔術ならコゼットせんせとかが向いてるかな。」
うーん、と教師陣の顔ぶれを思い出すように首を伸ばして。
「治癒のほうは講義もあるけど、保健委員会に登録するという選択肢もあるよ。
私が募集掲示を貼っておいたんだけど、なかなか登録者ふえなくて。」
ううん、と悩んでいるような様子。
掲示は掲示板に貼ってあるようだが、あんまり見られないことも多いようだ。
形のできた魔方陣に鼻先であれこれと書き加えると、固定された状態で光を放つ。発動するときを待っているようで。
「完璧な図形、と言うのは難しいし理解しにくいから、数学で扱う図形みたいに補足を書き込んで補正する。
よし、ちょっと手をかざしてみて。《薬草の加護/―リフレッシュ―》」
手をかざせば、ハーブのような香りがしてちょっとだけ疲労が取れるかもしれない。
■美澄 蘭 > 「…まあ、私もそんなに蛇は慣れてないですけど、もっと恐がりの子は、いてもおかしくないですから…」
何か初対面のシチュエーションが意外すぎて、怖がる暇もなかった「そんなに慣れてない」少女が言う。
魔術の解説も、ふんふんと真面目に聞きつつ
「まだ知らない事が多いので、1年次では「魔術理論概説」しか履修してないんですよね、魔術。
もうちょっと慣れてから、来年以降コゼット先生の講義を履修しようかとは思ってたんですが…
…治療、紙とかで切った指を治したりとかの経験しか無いですけど、お役に立てますか?」
授業に慣れる事を優先していてあまり課外活動の募集に目を向けていなかった蘭だが、課外活動に興味が無いわけではないようだ。
「…手…ですか…?」
恐る恐る手をかざしてみると、すっと頭がすっきりする感覚に目を瞬かせる。
「…凄い、魔術ってこんな事も出来るんだ…」
目の輝きは、疲労が取れた事だけによるものでもないだろう。
「…私、今年は「数学基礎」と、「魔術理論概説」を頑張って、来年絶対にくくる先生の授業受けますね!」
■雪城 括流 > 「そういう子には…ちょっと申し訳ないよね。」
うーん、と悩むように首をめぐらせて。人化はできるけど…というあたり悩みどころ。
「うん、基礎を固めてからでも大丈夫だと思う。
保健委員会は心得が無くても大丈夫だ。あったほうが向いてはいるけど…。
応急処置講習をはじめとしてそう言う技能を習得して単位を得る、という形式になっているから。」
うんうん、と頷くように。保健委員会には実績や救急隊もあるけど、そうでない活動も多い。
「これは簡単なものだから…直接ハーブを用意して調合したほうが手軽だったりもするけど。
どんな感じかわかってもらえたみたいだね。うん、楽しみにしてる。」
かざした美澄の手に光を放つと、効果を発揮した魔方陣はすうっ、と溶けるように消えてなくなってしまう。
「じゃあ、そろそろ勉強に戻らないといけない?
しばらくそこで本を読んでるから、わからないことがあったらどうぞ。」
くるん、とターンするように回って見せると、ぺこりと頭をさげておじぎをした。
■美澄 蘭 > 「…この世界の人間に留まらない存在が集まる場所とはいえ、一筋縄ではいかないですね…」
何故か同調するようにしゅん、としおれる。何か思うところがあったのだろうか?
「異能や魔術については分かってる事がほとんどないので…慎重に勉強していくに越した事は無いかな、って」
学習意欲は強いが…いや、だからこそ段階を踏んで学びたい性質のようである。
そして、保健委員会についての説明を聞いて、ふんふんと頷くと、
「…そういう勉強って、これからどう生きるにしてもしておいた方が良いですもんね。
参加したい場合、委員会棟に行けば良いですか?」
こちらも前向きの様子だ。
「…ハーブの調合とか…うーん、そっちは化学基礎次第かなぁ…。
でも、魔方陣学の講義は来年絶対行きますから!」
ぐっ、と決意に拳を握りしめる。
「…あ、そうですね…もうちょっと頑張ったら、食堂でご飯食べて帰ろうかな、って。
………ありがとうございます。もし分からないところがあったら声かけさせてもらいますね」
こちらも、座りながらだが深々とお辞儀をした。
■雪城 括流 > 「……?ええと…ここは静かだし人もいるからまた今度、になると思うけど。
もしよければ、悩み事の相談も受け付けてる。もし困ったりしたら、どうかな。」
美澄の様子に、何か感じたのか気遣うような様子を見せて。
「どちらかというと駆け足だけどね、熊谷先生の数学基礎は。
そうだね、委員会にいけば担当してくれる人もいると思う。特にこう登録しただけならやることはないから、兼任も許可してるよ。」
少し苦笑するように頭を下げて、再び上げると委員会棟のほうに頭部をめぐらせた。
「化学基礎まで…優秀そうだね…。ひょーかにつめのあかちょっと飲ませたくなる。」
たぶん彼女がとっているのは簡単じゃないほうの科目なのだろう、楽なほうでも赤点な身内を思い出して、ちょっと遠い目に…。
「そのころには私も寮に帰るよ。…あれ、寮じゃないんだ。」
トコヨウォーカーの置いてあるところにすすすっと戻りつつ…
発言の後半は勉強する相手に邪魔にならないよう呟きみたいになって。
■美澄 蘭 > 「本当ですか?
まだこっちで頼れる人もそんなにいなくて困ってたので…凄く、嬉しいです…」
何を感じ取られたかはよく分からないが、気遣ってもらえたのは嬉しかったので、感極まったような声を出す。
「先生」という立場が、頼りやすいものと感じさせたのもあるだろう。
「駆け足なんですけど…ここ、基本的に4年しかいられないでしょう?
異能とか魔術の勉強もしようと思うと、あんまり数学の講義だけで時間割を埋め続けるのもどうかな、と思って…」
「想像以上でちょっと大変ですけどね」と言って、あはは…と苦笑いをする。
…本人は、「ちょっと」しか大変じゃないつもりらしい。
「えぇっと、1年次の時間割はこんな感じですね…「ひょーかさん」は、どなたか分かりませんけど」
ぱらぱら、と手帳を開いてみせる。
数学や化学の他にも古典や地学、地球史ー混乱前の『世界史』であるーの基礎科目に英語などの高校と通じる科目、そしてこの学園ならではの異能概論や先ほども話していた魔術理論概説、そして異世界社会論概論。
他にも一般的な大学の教養部で聴講するような講義がいくつか入っていて、彼女の時間割は、大学で言うところの25コマ中15コマと少しが埋まっている状態だった。
「ええ…寮の抽選に漏れちゃって。
最近は学食に頼りっぱなしですね」
そう言って苦笑した。
■雪城 括流 > 「えっと…そっか、一年生。もしかして一人暮らし?」
落ち着かせるような声音で気遣って、再び胴体をくねらせて傍による。
「留年もあるけど、基本は4年だね。
うん、そう言う考えなんだ。そうだね…卒業してもさらに勉強を続ける子もいるよ。
そこまでが限度、とは考えないほうがいいんじゃないかな。」
うーん、ワーカホリック3人目かー、なんて心の中では思っている。似たような人は案外いるようで…
わかっている、見たいな感じの顔つき…蛇の…?をしているような。
「あ、ひょーかはええと…私の身内でね、貴方と同じ一年生なんだけど。
…科目数だけなら普通だけど、大学レベルが結構多いみたいだね。」
年齢からするとかなり難しいことをやっているように思えて、目を細める…蛇に瞼が無いとかきにしてはいけない、鱗です。
「抽選に…うーん………。
ねえ、たまには女子寮に潜り込んじゃってもいいんじゃないかな。
この科目だと…なかなか同じ年齢の友人も作りづらいのでは?」
少し考え込むようにして、顔を上げてそう提案した。
■美澄 蘭 > 「はい、1年生で一人暮らしです」
ここに特に違和感は持っていないのか、はきはきと正直に答える。
「まあ、そうなんですけど…何というか、その。
私、まだ宙ぶらりんなので。自分を定めるために、早く色々知りたい、っていうか…」
ちょっともごもごとする。思うところがあるのはこの辺かもしれない。
「学生さんに身内の方がいるんですね…贔屓を疑われたら大変そう。
…え、そうですか?これでも、1年次は高校相当の科目を中心に組んだつもりだったし、そこまで分からない、って感じは無いんですけど…」
「大学レベルが結構多い」と言われれば、不思議そうに目を瞬かせた。
「………言われてみると、教室は大人っぽい人が多かったような………
寮って、入ってない学生が遊びに行っても良いんですか?」
提案に目を丸くすると、ちょっと前のめりに食いつく。
現状、人間関係がお世辞にも豊かとは言えないようだ。
■雪城 括流 > 「アパート一人暮らし自体は珍しくない。…けど、頼れる人は必要だ。
宙ぶらりんと言えるほどだらしがなさそうでもないけど…そう、だね。知りたい、学びたいね。
優秀な子は、だいたいそういう思いを持っているかな。」
事情についてここでは詳しく聞かないように、気遣いながら。
「あちこち首は突っ込むけど、単位は容赦しないからね。」
にやり、といった感じの口元をしてみせて、にょろーっと首を持ち上げる。蛇ゆえに…みたいな。
「もうちょっとレベルの低い科目もあるんだ。でもどちらでも問題はないよ。
年下の少女となるとなかなか、周りも扱いづらいかもしれないね。」
やっぱり、といった様子で。
「ロビーくらいなら問題はないし…友人の部屋に遊びに来る、見たいなこともあるから出入りくらいはできるはずだよ。
一応私も………いるから。そうだ。」
再び飴を出した魔方陣から今度はスマートフォンを咥えて引っ張り出す。
「私を頼りにしてくれていいよ。連絡先、交換しとこう。」
ずずい、っとそれを鼻先でおしだして。
■美澄 蘭 > 「………確かに、風邪で熱出したりしたとき、辛いかもしれません」
「頼れる人の不在」の問題は、素直に認めて頷く。
「優秀…どうだろう?中学校の時は成績良かったですけど」
首を傾げる。こういうの、大体本人は自覚がないものである。
「あはは…確かに容赦してなさそう」
蛇相手ながらも、口調で相手の表出する感情を何となく察したらしい。おかしそうに少し笑った。
「そうですね…ロビーならそこまで気兼ねしなくていいかな…
あ、連絡先、こちらこそお願いします」
こちらもスマートフォンを取り出した。
■雪城 括流 > 「病気のときも…それは保険医の誰かに頼んでも良いけどね。
どうしようもないときは、保健委員に。もちろん私でもいいよ。」
一人で何とかしちゃいそうだ、なんてちょっと困ったような表情をしながら。
「きちんとしてるのは、この様子を見てれば分かるよ。
もしかしたらそのうち、生徒会にだって入れちゃうかもね。そうしたら実感にもなるかな?」
首をかしげる様子に、同じ方向に合わせて首を捻りながら。
「贔屓する教師も…いないとはいえないけどね。」
小声で、呟く。
「是非。大浴場まで入れるかどうかはちょっと交渉してみるけど…。」
スマホを鼻先でつんつんと操作しながら。
■美澄 蘭 > 「一応、保健室の緊急連絡先は登録してるんですけど…それでも、身の回りの事は辛いと思いますしね…」
「…1人って、怖いなぁ」と、ぽつりと呟く。
「生徒会…流石にそこまでやる気は無いですよ」
あはは、と困ったように笑う。
「………まあ、そうでしょうけど…」
教師だって個別の意思があるし、完璧じゃない。
幸い、自分は中学までは教師に嫌な目に遭わされた事は無いけれど、これほど多様な授業を展開出来るほど多くの教員がいれば、中には偏った者はいくらでもいるだろう。
「大浴場は流石に良いですよ…恥ずかしいですし」
笑ってはいるが、眉が寄る程度には困るらしい。
こちらも、連絡先の共有を素べくスマホをぽちぽちしている。
■雪城 括流 > 「もうちょっと…よし。これで友人ということで、女子寮に来ても名目はたつかな。」
ふに、と鼻先で画面を押して登録を完了する。
「…ひとりは、嫌だね。
ん、相談したいことがあったら、遠慮なく送って、美澄さん。」
自己紹介は簡単にしかしてないが、名簿の記憶と連絡先の画面から名前を把握して。
「うん。」
たぶんわかっているこだ、だから気をつけろという必要は無い…と、ただ目線をやや下にして頷くだけにとどめて。
「そう?こっそりと大きなお風呂も楽しいけど。私は人の多いときは入れないしね。
無理強いまではしないよ。
あっ、時間がそろそろ…長話になっちゃってごめん。そろそろ帰らないと。」
■美澄 蘭 > 「ありがとうございます…!」
こちらも登録を確認して、満面の笑みで頭を下げる。
「…本当に…何から何まで、ありがとうございます。
ご存知みたいですけど…改めて、美澄 蘭です。よろしくお願いします。」
「まあ…気持ち良いですけどね、大きいお風呂。
こちらこそすみません、引き止めちゃって…あっ」
時計を見ると、学食の営業時間の猶予があまり無くなっていた。
「うわ、やばい…!」
慌てて勉強道具を片付け始めた。
■雪城 括流 > 「ん。雪城 括流です。よろしく。
気にしないで、私から声かけたんだし。時間取っちゃってこちらこそごめん。」
くるりと改まって、お辞儀をしてみせる。
するするっと元きたばしょに戻ると雑誌を魔方陣に放り込み、
「またね!」
と声を残してテーブルの端から下にしゅるん、と消えた。
■美澄 蘭 > 「いえ…1人でちょっと煮詰まってたので、本当に助かりました…本当に、色々と」
丁寧にお辞儀を返し、感謝の意を示す。
「ええ、また………あれ?消え、た?」
きょろきょろと周囲を探すが、小さな蛇の姿は見当たらなかった。
ご案内:「図書館」から雪城 括流さんが去りました。
■美澄 蘭 > 「………」
狐につままれたような気分になり、念のためスマホを確認するが、そこにはきちんと「雪城 括流」の連絡先が入っていた。
「…よし、大丈夫」
頼れる人が出来た。これは、自分にとって確かな前進だ…と、確信出来た。
■美澄 蘭 > 「…っと、学食に急がなきゃ…!」
安心したところで、緊急の用を思い出す。
五月蝿くし過ぎないよう気を遣いながら、それでも慌ただしく図書館を後にした。
ご案内:「図書館」から美澄 蘭さんが去りました。
ご案内:「図書館」に設楽 透さんが現れました。
■設楽 透 > 「日曜の午前と言えば」
「やっぱり読書がベターだよねえ」
【制服姿で普通に図書館にやってきた】
【普通、とは勿論扉を開けての入室である】
「さてと、」
「何を読もうかな、まずは新聞読んで先週のおさらいかな」
ご案内:「図書館」に薄野ツヅラさんが現れました。
■薄野ツヅラ > (つか、つか)
(人の少ない朝の学園に足を運ぶは赤ジャージにヘッドフォン)
(情報収集の帰り、少女はふと図書館に足を運んだ)
ンー、芳しいものはないわねェ……
(ぽつりと呟きながら適当な雑誌を手に取る)
(辺りをちらと見遣れば有名な───なんでも3留中だという先輩の姿)
(とこ、と歩み寄れば小さく微笑んで会釈する)
■設楽 透 > 「けどまあ、」
「新聞に載ってる事って大体知ってるしなあ」
「ああ、そうだ。」
「そういえばもうすぐ神社のお祭りがあったっけ」
【広報部発行の校内紙を手に取り】
【ざっと目を通しながら独り言を呟いている】
■設楽 透 > 「ああ、おはよう」
【少女の会釈に気付くと、】
【新聞を読む手を止めて顔を上げた】
「薄野ちゃん、だっけ?」
「休みの日だってのに図書館で調べ物かい?」
■薄野ツヅラ > あら、名前覚えていて貰えるなんて光栄です
おはようございます、設楽先輩
(ふわり、笑み)
(普段の棘のある口調は何処へやら、極力柔らかい言葉を選ぶ)
調べものの帰りですねぇ、余り成果はなかったですけど
(困ったように頬を掻く)
(どうしたものやら、とふと呟く)
■設楽 透 > 「ははっ、」
「これでも一度知った可愛い子の顔と名前は忘れないんだ」
「けれど、お話しするのは初めてかな?」
【新聞を元あった場所に戻しつつ】
【普段通りの微笑みを浮かべる】
「そうか、それは残念だったね」
「良ければ何を調べようとしていたのか教えて貰えるかい?」
「もしかしたら資料を手に入れることがあるかもしれない。」
■薄野ツヅラ > 噂通りお世辞が上手いって本当だったんですねぇ
調子に乗っちゃいますよ
(目前の先輩の流れるような軽口に何処か心地よさを感じる)
(そんな軽口を他所に、暫し少女は逡巡する)
(ンー、此の位だったら云っても平気かしらぁ)
えっと、最近島の中でいろいろ起こってるって云うじゃないですか
其れでちょっと気になって調べてたのですが風紀委員さんと公安委員さんと───……
(財団の3すくみになっているって聞いて、と少女は続ける)
(曖昧に笑みを浮かべるとまた口を開く)
そのことをちょっと仲のいい人が気になってるみたいでなにか力になれないかなあと思って……
(嘘も方便、口から出任せ)
(適当な理由を並べて、ひとつ問うた)
■設楽 透 > 「そんな噂が流れてるのかい?」
「心外だなあ、女の子に世辞は使わない主義なんだけど」
「ふふ、若いうちは調子に乗ってなんぼ、でしょ」
【余裕を感じさせる微笑み浮かべたまま話に耳を傾ける】
【ああ、それか と数度頷いて】
「それなら聞き知ってるよ、」
「財団まで出張って来て、」
「いよいよ風向きが分からなくなって来たよねえ」
「平凡な一般生徒にとっては不安で仕方ないよ。」
【困った様に眉を寄せて】
【全く困っていない様な口調で話す】
「なるほど、それで図書館まで来たっていうのか」
「ご苦労様だねえ。」
■薄野ツヅラ > あっは、其れなら乗らせて頂きましょう──…なんて☆
(特徴的な笑いをひとつ)
(余裕そうな飄々とした先輩をじい、と見つめたまま青年の言葉を呑みこむ)
ええ、平凡な小市民にはあんまりこういう話は伝わってこないので
此れも噂でしかないだろうと思っていたのですが案外本当なんですねえ……
(少し怯えたように目線を逸らす)
(合間幾度となく視線を図書室の扉に遣りながら)
ええ、だから何が起きてるのかなあ、って思ってぇ……
ご存知だったら教えてほしいんですけど、先輩はなにかご存知ですか?
(こてり、と首を傾げた)
■設楽 透 > 「なら今度お茶でもどうかな?」
「後輩にご馳走するのも、先輩の務めでもあるし」
【にこにこと穏やかな笑みを浮かべたままだ】
「まあ僕くらい長く学園で生徒やってるとね、」
「色々と空気が違うなーとか解るようになるものさ。」
【そう嘯くと、】
【自分の顎に手を添え、同じように首を傾げた】
「なるほど、事情は分かった。」
「それで、具体的に何を知りたいんだい?」
「──もっとも、知ってるとは思うけど、」
「僕が知ってるのはあくまで“噂”だぜ。」
■薄野ツヅラ > 奢りだったら喜んで!
(にぱっと、年相応の──それよりも少し幼い笑みを浮かべる)
具体的に、ですか……ううん…
(暫しわざとらしい思案)
(ぱん、と手を打つと指を立てる)
えっと、其れじゃあ3つの組織の思惑を知りたいです
噂でもなんでも、火のないところに煙は立ちませんしぃ
(口元に三日月を張り付けた)
■設楽 透 > 「もちろん。」
「それじゃあまた近いうちに、ね」
【どこか美味しいスイーツ店でも見繕おう、と】
「ふむ、各組織の思惑、か。」
「そこは僕も気になってるんだけどねえ、」
「どうにも曖昧な、それこそゴシップも斯くや、と言ったものが多くてねえ」
「やれ財団が学園を私物化しようとしている、とか」
「風紀委員が生徒会に成り代わろうとしているとかね」
「更に吹っ飛んだところだと、」
「公安所属の一部生徒が人体実験をしてる、なんてものまである」
「本当に、眉唾過ぎて情報とも呼べなさそうだけどね。」
■薄野ツヅラ > あっは、ありがとうございます!
(にぱっと笑みを浮かべる)
(彼女は甘いものが苦手であったがこの面白い先輩とのお茶の約束は)
(彼女にとっては非常に嬉しいものだった)
ンー、ほんとに漫画みたいなことになってるんですねェ…
ボクみたいな一般生徒の耳にも入るくらいだし都市伝説───…学園伝説みたいになってそうですねえ
(あっは、と軽く笑って溜息をひとつ)
(目の前の先輩の言葉を一字一句漏らさずに脳に叩き込む)
"噂"に依れば風紀委員の一部も情報漏えいとかしてるみたいですし
一体一般生徒は何に頼っていいか解らなくなっちゃいますねえ
■設楽 透 > 「君みたいに喜んでくれる生徒に」
「なんだか久し振りに会った気がするよ……」
【少女の笑みに目を眇める】
【往なされることがほぼ日常となりつつあったので】
【設楽は素直にお礼を言われると逆に不安になってしまう自分に気付いた】
「本当、驚きだよねえ」
「いやまあ、それでなくても漫画やアニメじみた能力持ちがうようよしてるんだけど」
「噂話をする権利は、教師も生徒も一般も二級も関係ないさ。」
「人の口に戸は立てられない、それこそ緘口令なんて布いたとしてもね」
【時に事実を歪め吹聴するこの男の、】
【それは一つのポリシーでもあった】
「何に頼れば良いか、なんてそんなものこの島でも外でも同じさ。」
「自分、──だよ。」
「五体があって五感がある、人によっちゃ第六感まである」
「そんな便利な自分自身を頼らずに何を頼れって言うんだい」
■薄野ツヅラ > そうなんです?
其れは皆さん手厳しいんですねぇ……ツンデレ、って云うんでしたっけ
(ふふ、と先輩の言葉を聞けばまた笑う)
(暫く真面目に聞き入れば、同感です、と楽しそうに呟く)
噂話は面白いですもんねえ、実に面白い
本当か嘘かなんて誰も知らないのに其れがひたすらに広がるのは
───……マア、緘口令なんて布いたら屹度一般生徒は其れこそ納得できないでしょうし。
(逆に噂は加速しそうですけどね、と)
(声を小さくしてこそこそと話す)
自分、かァ……───
なかなかに難しいものですよねえ、能力が強けりゃ容赦なく自分を頼れそうですけど
(苦笑。困ったように頬を掻いた)
(薄野廿楽は自分を頼ることは少ない)
(何より戦闘向きでない異能と人に依存することに長けた異能)
(そんな彼女に自分を頼るのがいい、と告げたのは)
(目前の先輩が初めてであった)
■設楽 透 > 「ツン9:デレ1」
「それをツンデレと呼ぶんなら。」
「僕は過去の風習にNOを突き付けないといけないよ」
【さっきまで笑っていたかと思えば今度は項垂れる】
【ややオーバー気味なアクションをしつつも、結局はいつもの笑顔に戻るのだ】
「ああ、面白いよ噂話っていうのは」
「昨日赤かったものが今日は白くなって、明日には黒くなる。」
「人の世が如何にいい加減かを如実に表してくれる」
【好きなおもちゃを眺める様に、図書館の窓の外へと視線を投げる】
【見えるのは校舎、そして学園地区を始めとする各地区】
【最後に、遠くに水平線】
「そうだねえ、確かに特別な能力があれば身を護るのは容易いさ」
「だけど、自分の身を護る手段は本当にそれだけかな?」
「──僕らには遠い過去から受け継いできた「知恵」と「言葉」という武器がある」
「発明から長い時間を経てもまだ持ち合わせている、それは何故か。」
「これらは僕らにとって、何物にも変え難いほどに信頼できる物だからだ、」
「──そう、僕は思ってるよ」
【窓の外から後輩の少女へと視線を戻し、】
【優しく微笑みながら告げた】
■薄野ツヅラ > ボクはそのくらいの配分のほうが好きですけどね
──……そんな人たちが不意に漏らす優しさとか可愛さとかたまらないですけど
(余談ですけどね、と笑う)
(目の前のくるくると表情を変える先輩は、極めて"面白かった")
人の噂も七十五日とは云いますが。
誰かに興味を持ってもらえなくなれば3日も経たずにこの街なら忘れられちゃいそうですね
(視線が外に向いたのに気付けばゆらりと自分も見遣る)
(学園地区には稀にしか足を運ばない少女の視線の先には落第街)
(自分の生活地区であり、また遊び場)
ペンは剣よりも強し、言葉で人は殺せるとも云いますし
案外一番いい武器を持ってるのかもしれないですねえ、先輩も
この街でも──……この島では能力と同じかそれ以上に今は強そうですね、なんて
(微笑まれれば照れくさそうに笑って)
(よし、と小さく自分の頬を打つ)
興味深いお話と素敵な噂話をありがとうございました、先輩
教えてもらってばっかりだったので何かお礼が出来ればいいんですけど──……
(おずおずと、また一つ問うた)
■設楽 透 > 「それには同意するけどね」
「もっとも、漏らして貰えればの話だけど、さ。」
【声を殺し、肩を揺する様に笑うのは場所の所為だろう】
【これが屋上であれば、声高に笑っていたところだった】
「そう、そこも肝だね。」
「でも、忘れられることがイコール消える事じゃあない。」
「それは覚えておいた方が良いかもね。」
【少なくとも僕は覚えてる、と目を細めて呟く】
【その目には目の前の少女ではなく、】
【彼女が入学するより以前の過去が映っているのだろうか】
「その通りさ。」
「生憎と、この学園の報道は何かと規制を受けやすいんだけどね」
「だから君も、自分の耳と、思考する頭と、表現する言葉を大切に。」
「そうすりゃ僕なんかより、あるいは強くなれるかも、だぜ」
【つ、と細長い指を向かい合う少女の額へと伸ばし、】
【抵抗されなければ、その前髪をそっと払おうとする】
「いやいや、お粗末様でした。」
「んー、お礼か───」
【暫し考える様に周囲に視線をめぐらせ、】
【だったら一つお願いが、と告げる】
■薄野ツヅラ > (自分より二枚も三枚も上手な先輩の話術を呑みこみながら)
(じい、と其の碧の双眸を見つめた)
先輩より強くなるのはそうそう楽な道のりじゃあなさそうだけどぉ───…
まァ、精々頑張ることにはするわぁ
(思わず被った猫も逃げ出した)
(何時もの不遜な、不敵な、怖いもの知らずの少女が其処には)
(前髪に触れられれば擽ったそうに目を細める)
ボクに出来る範囲の事なら其れなりにはリクエストにお答えするんだゾ☆
(取り繕う気もない、落第街を駆ける少女は楽しそうに笑った)
■設楽 透 > 「なあに、簡単な事さ」
「──君が何を考え、何をしようとしてるのかは、」
「あまり知ろうと思わないし、むしろ知りたくも無い」
「でも──」
「可愛い後輩の悲報だけは聞きたくないんだ。」
「だから、あんまり無謀はしてくれるなよ?」
【少女の素性を知っているのか、はたまた知らずに言うのか】
【少しだけ翳りのある微笑を浮かべて告げた】
■薄野ツヅラ > ……───あッは!
(其れは其れは嬉しそうに、楽しそうに────)
任せてください、死なない程度にって他の人にも云われてますからぁ
(おもむろに立ち上がれば突き付けるはピースサイン)
(食えない先輩に笑顔を向けた)
先輩も、そんなに口が上手かったら色々と大変でしょうし
あんまり無謀はしないでくださいねぇ
(お茶も奢ってもらわないといけないしぃ、と笑い)
(とんと出口に歩みを進める)
(去り際に座っていた図書委員の少年をちら、と見遣れば)
───此処に居たのは設楽先輩ただ一人、君は見てない聞いてない
(楽しげにウインクを飛ばした)
ご案内:「図書館」から薄野ツヅラさんが去りました。
■設楽 透 > 「出来れば病院に担ぎ込まれた、とか」
「財団に尻尾掴まれて放校された、とか」
「そういう目にも遭わないで欲しいんだけどねえ……」
【図書室を去った少女の後姿を思い返して】
【やれやれ、と小さく肩を竦めた】
「さてと。」
「それはそれとして新聞の続き読もう。」
【静まり返った図書館内に、再び紙の音が戻る】
【自分が流布した噂話の記事を】
「へえ、そんなことがあったんだねえ!」
【などと白々しく時折声を上げながら読んでいく】
■設楽 透 > 【そうしてたっぷり昼過ぎまで新聞を読み】
【満足してから図書館を後にしたのだった】
ご案内:「図書館」から設楽 透さんが去りました。
ご案内:「図書館」に立花 響さんが現れました。
■立花 響 > 「この時間は誰も…いなさそう、だよね。失礼しまーす…」
図書館に入りまず周囲を探った後に恐る恐る室内を歩いて行く。
これだけだと不審者みたいだが、響は特には気にしていない
響がここに来たのはとある本……ではなく譜を探しに来たのである。
その譜は先日忘れた譜ではなく、ここに保存されている他の譜。
譜が図書館にあるかは分からないがまずは手近なところから探すべき、と響は思ったのだろう
■立花 響 > まず手始めに歴史・人物のコーナーを回る。
できれば古ぼけていてこの図書館に納められてから誰も読まれていないぐらいの埃が溜まっている本。それが望ましい
ただここの学園の人数とサボタージュする人数を考えるとそういう本はありえてしまうのか、と考えるとやや難しいだろうか
暇潰しに適当に取った本に譜が入っていた、なんてこともありえるだろうからサボタージュというのも困りものである
尚響も授業を抜けだしてこの図書館に来た口ではあるので大声でそれを憚るようなことは出来ない
■立花 響 > 「巨匠が遺した楽譜…とりあえずこれから見てみようかな。」
丁度目に止まった本がそれらしき題名だったのでそれを取り出す。
埃は溜まってはいるが、あまり古ぼけて傷んでいる様子もない。もしかして当たりを引いた?と響は期待している。
何か探しものをしているのならば一度に沢山の本を席に持って行って読む方が効率は良いのだが、
見つかりそうになることを考えるとこの一冊を抱えて机の下に潜るだけで隠れる事が可能なので一冊である。
「……見たこと聞いたことある曲ばかり」
本に書いてある楽譜とその楽譜名を見て落ち込み気味にため息をつく。まだ今日は一回目
実際には魔力が込められている楽譜が欲しい訳なのだが…響には魔力探知が出来る訳ではない。
一つ一つ見ていき、その楽譜を見た時に反応があるか無いかを確かめていく、そんな虱潰しをしなければならない
■立花 響 > 「こういう事なら魔法についてちゃんと勉強しておくんだった…」
ぽつりと愚痴を零しながら溜まっていた本を払ってやってから読んでいた本を置いてあった本棚に戻す。
響も魔法、というより魔術なのだが、独学で習得した両親から教えられた魔術がある。
なので実際に魔術の仕組み等は全く知らない。
同じ手法をそのままやったら出来た、という一番魔術の覚え方が悪い例である
「次、次…あ」
鐘の音。授業が終わったのだ。
急いでここを離れなければならない。
もしも誰よりも速く図書館に到着する生徒がいるならばその生徒から訝しげな目で見られるのは避けたい。
響はしょうがなく荷物を纏め、この図書館を後にする。
ご案内:「図書館」から立花 響さんが去りました。
ご案内:「禁書庫」に橿原眞人さんが現れました。
■橿原眞人 > かつての歴史の中で、闇に葬られてきた書物の数は多い。
焚書、禁書、出版禁止――それは果たして、いかほどのものであっただろう。
宗教的意味、政治的意味、その理由は様々なれど、多くの書物が禁忌のものとされてきた。
世界の大変容が起きる前、まさしく世紀末の頃。
それらの書物は物語の中に現れ、フィクションの中で弄ばれてきた。
禁書と呼ばれたものの力は既に畏れられることはなく、想像の玩具と成り果てていたのである。
しかしそれも、今では違う。
世界には異能も魔術も、魔導書も、実在したのだと世界は知ったのだから。
この常世学園の禁書庫に収められた禁書群は、まさしく大いなる意味をもっているのだといえるであろう。
「――《開錠》」
図書館群の中に隠された、禁書庫の一室の前で、今まさにその鍵が開けられようとしていた。
■橿原眞人 > ロックのかけられた禁書庫の扉が開く。
ロックをかけていた機器は、眞人が手を伸ばし、鍵を回すような所作をするだけで、眞人の全てを許した。
何も禁じられることなく、何も恐れることなく、眞人は禁書庫へと入ることができたのだ。
「……よし、バレていないみたいだな。だが、随分とユルいセキュリティだな」
禁書庫に続く暗い廊下のなかで眞人はそう呟いた。
あらかじめ、禁書庫の一部にクラックをかけていた。そのため、扉が開いたということはおそらくばれていないはずだ。
警報などはなった様子はない。眞人は悠然と禁書庫の中へと足を踏み入れて行った。
■橿原眞人 > 魔術が現実に「復活」してしまったこの時代、魔導書というものは非常に重要な存在だ。無論、その魔術の形態によっては魔導書など必要としないものもあるが。
「禁書」と呼ばれるような、闇に封じられた魔導書はそれだけで恐るべき力を秘める。
怪異を引き起こしてもおかしくはない。故にこそ、魔術はこれまでの歴史の中で、その表舞台に立たなかったのだ。
だが、世界は変容してしまった。
世界の現実は大きく塗り替えられてしまった。異能によって、魔術によって、異界の「門」によって。
禁書の意味合いは大きく変わった。表の世界においても、それは非常に重要なものとなったのだ。
危険な魔術書、それは厳重に管理されねばならない。誰もが魔術を学べるようになったこの世界においては、当然である。
その禁書を抱えているはずの図書館のセキュリティは非常に簡素なものだった。
まるで、侵入を待ち望んでいるかのように。
「気に食わないな……」
一人そう言葉を漏らす。
常世財団はこのように大量の魔導書を所持しているのにも関わらず、その管理を厳重としていない。
異能や魔術犯罪、二級学生に違法な実験、怪異……多くの場合、常世財団はそれを静観している。
まるで、何かの結果を期待するように。
眞人は、そのような常世財団への不信をより深く強めて行った。
禁書庫の中の空調は非常に適度な物にされていた。書物の痛みを防ぐためだろう。
禁書庫の中は、本棚が幾重にも並んでいた。その書物群のどれもが、禁じられた書物だ。
おそらく、この地球のものだけではない。異世界のものもあるのだろう。
「……さて、この中から俺が使うものを見つけないといけないわけだ」
ご案内:「禁書庫」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 禁書と呼ばれる魔術書の中にも、様々な系統のものがある。
現実世界の歴史はこの禁書に記された魔術によって推移してきたと言っても過言ではない。
何人たりともそれに気づくものはなく、また、本来、気づかせてはならないものであったはずだ。
だが人類は、異能者や異界からの来訪者を前にして、その封印を解かざるを得なかったのかも知れない。
貴方が禁書庫を進んでいけば、埃やカビ、古びた本の独特の臭気に混ざり…
…煙草の香りが漂っていることに気付くだろう。
禁書庫の扉は閉まっていたはずだ。この場所には誰も居るはずがない。
だが、明らかに、人の気配がする。
進めば進むほど、煙草の香りは強くなっていく……貴方はこのまま進んでも、引き返しても、策を弄してもいい。
■橿原眞人 > 眞人は書物の摩天楼の中を歩く。
饐えたような臭気が鼻を突く。古本の臭いだ。それを感じながら眞人は歩く。
自らの求める魔導書を探して。
眞人の視界にはさまざまな禁書の名前が飛び交っていく。
『ネクロノミコン』、『無名祭祀書』、あるいは『ドグラ・マグラ』などと書かれた原稿用紙の束ねられたものまで様々である。
それが原書なのか写本なのか、眞人にはわからない。そもそもほとんどの魔導書の書名は眞人に理解できないものだった。
眞人は魔術に深い造詣があるわけではない。ただ、この禁書庫を多くような奇怪な圧迫感は感じていた。
そうして奥に進んでいるときである。眞人は古本の臭いとは違うものをかぎ分けた。
それは煙草の香り。このような場所ではひどく不似合いなものだ。
(馬鹿な、人がいるだと……!? しかも煙草の香りって、正気か。こんな古本ばっかりある場所で)
眞人はあるはずのない、人間の気配を感じた。鍵はかかっていたはずである。人が入った形跡もなかったはずだ。
眞人に緊張が走る。
人に見られることは避けたい。当然である。本来入れない場所なのだから。
とはいえ、このまま逃げ帰るのも問題だ。相手が自分に気づいていた場合を想起する。
眞人は息を殺しながら、図書棚で作られた別の通路を進み、人の気配へと近づいていく。
もし相手が気づいているならば何かしらの手段は講じなければならない。不本意ではあるが。
書棚に隠れながら、相手の様子を伺おうと進む。
■獅南蒼二 > 書棚が並んだ禁書庫には死角が多い。
棚を隔てて、向こう側にはは何があるのか、
棚と棚の切れ目からのぞき込めば、その先に何が見えるのか。
禁書の中には擬似的な命を持つ本や、悪魔や悪霊を封じた本、
そして呪いのかけられた本も、数え切れないほどあるだろう。
歩む先に居るのが、人間であるとは限らない。
だが、その先に居た人物は、あまりにもこの場所にそぐわぬ風貌の男だった。
書棚の角から、もしくは、通路の端から、貴方が覗いた場所からも、見えるだろう。
禁書の中の1冊を手に取り、まるでコンビニで立ち読みでもするかのようにページをめくっている。
そして男は白衣を身に纏い、煙草に火をつけ紫煙を燻らせている。
「……探し物は、見つかったか?」
見覚えがあるだろうか…この男は、魔術学の教師だ。
眞人に視線を向けるでもなく、その行為を咎めるでもなく、
ただただ、そうとだけ、問う。
■橿原眞人 > 一応、禁書庫に入るためにそれなりの準備はしていた。
禁書庫の中で怪異が出現したなどという噂話も聞いたことがある。
眞人の自作したタブレットの中には、幾つかの魔導書の電子データが入れられている。
もしもの時はそれらを使う用意もある。眞人には《銀の鍵》もある。脱出だけなら容易い。
だが、相手が人となれば別だ。化物相手ならば、眞人の事など記憶はしないだろうし、何かしらの処理がいくことだろう。
人は、眞人のことを記憶してしまう。それは非常に望ましくないことだった。
単に化物が相手ならそれでいい。人は、面倒だった。
今回は電脳世界での活動ではない。人の異能に対抗する手段はあまり持ち合わせていない。
眞人は心の中で舌打ちする。
煙草を吸っていると思しき何者かの近くまで眞人は進んだ。ここならば死角になるはずである。
とはいえ、虚しさも眞人は感じていた。眞人の気配を感知できるような異能や魔術を相手が持っていればそれで終わりだ。眞人の行為はひどく無意味なものになる。
その死角から見れば、その気配の正体は白衣男だった。危険な禁書をまるで雑誌のように読んでいた。煙草さえ咥えて。
そして、彼は眞人に声をかけた。眞人の方を振り向くこともなく。
「……いいや。今探していたんだが、あんたに気を取られてしまってさ。……先生?」
気づかれていた。というのならばどうしようもない。眞人は細心の注意を払いつつ、書棚から姿を現した。
眞人が出会った男は、確か魔術学の教師だ。眞人はその授業を取っていないため面識などはないのだが、顔位は知っていた。
「先生こそ何してるんですか。それ、燃えますよ」
と煙草を指さして言う。相手は魔術を使えるはずだ。不用意な言葉は慎んだほうがいいだろう。どうなるかわからない。
■獅南蒼二 > 「研究のための資料を探していてね……あぁ、分かっているよ。
どうせ、全て写本に過ぎん…それに、そう簡単に燃えるものでもない。」
楽しげに笑って、男は視線を眞人へと向けた。
状況からすれば、眞人を追って入った、と考えるのが自然だろう。
魔術学の教師ならこの場所へは正規の手段で入れるはずだ…正面の扉も使わずに忍び込むはずがない。
白衣の男は、長く、静かに煙を吐き出して…煙草を携帯灰皿へと、入れた。
「しかし、妙な話だな……この場所は、一般の生徒が簡単に入れるような場所ではない。
権限を持った教師に許可を出してもらうか……もしくは、自ら許可を勝ち取るか。
そうでもなければ………どうなんだね、君の場合は?」
嘘を見抜こうとしている目ではない。
眞人が不正な手段で入り込んだのは、誰の目にも明らかだからだ。
………男は、何かを、見定めようとしている。
そう感じるかもしれない。
■橿原眞人 > 「俺はもっと大事に扱われるものだと思ってたんだけどな」
男と視線が合う。見た感じは普通の男という感じだ。
迂闊だった。この男は魔術の研究者だ。生徒が入れないような場所に出入りできるのは普通だ。
もう少し準備すべきであったと眞人は痛感した。自分の目的のために急ぎ過ぎたのだ。
禁書庫に入る前に禁書庫のデータも軽く漁った。現在の入室者はいなかったはずだ。
眞人を追って入ったのだろう。眞人にはそう思えた。
そして、問われたのは眞人の事だ。当然であろう。
眞人が正規の手段で入っていないのは明らかだ。正規の手段で入ったならばこのようにこそこそする必要もない。
禁書庫に入るような教師なら、許可を得ている生徒について知っていてもおかしくはないだろう。
男が聞いてるのはそういうことではない。何かを見定めようとしているのだ。
魔術師の前で、不用意な言葉は話せない。もちろん名前もだ。
眞人は、嫌な汗が流れるのを感じた。
「……さあね。ただ、あんたの言葉に続けるなら、不正な手段で入ったってやつだ」
眞人は《銀の鍵》という異能の力を借り、鍵を開けた。
本来ならば、慎重になるべきだった。異能の力は感知されるかもしれない。
ハッキングによってロックを解除することもできた。だが、眞人はそれをしなかった。事を急いだのだ。
「向学心がつい高まって、禁書も読みたくなりましてね。一々許可を取るのも面倒だから、はいっちまったんですよ」
■獅南蒼二 > 「残念ながら魔術学には否定的な意見も多くてな、燃やしてしまった方が世の為だと言う輩も居る有様だ。」
本棚に本を戻して、眞人の方へと向き直る。実際のところ、眞人の目的など知る由も無い。
そして、目的には何の興味も無い。
この男にとって重要な事実は、眞人が【異能を行使した可能性がある】という点。
「ははは、学ぶ意欲があるというのは、素晴らしい事だ。
そして、その姿勢は賞賛されるべきだ…近頃は、そういう生徒も減ってしまった。
だが、一つ、忠告しておこう。
異能は万能ではない…何故ならそれは、時間をかけ努力して得た技能ではないからだ。
………心当たりがあるだろう?」
まるで眞人の内心を読み取ったかのような、言葉。
真っ直ぐに眞人を見つめつつも、肩を竦めて、笑う。
■橿原眞人 > 「へえ、そうなんですか。まあ確かに危険っちゃあ危険ですがね。それならこの世界の全部がそうだ」
男の様子を見るに、別に眞人の行為を咎めるようなことはなさそうである。
研究者然としている、そのような印象を眞人は受けた。
特にこちらの事を探ったりするようなこともない。何か、眞人に別の事を聞こうとしているようにも思える。
男の内実など知らない眞人は、そのくらいしか思いつくことはない。
「……そうですね。確かに異能は万能じゃあない。突然天から降ってくる奇跡みたいなもんですよ。でもそれは魔術でも同じだと俺は思いますよ。昔の人にとってみれば、どっちもオカルト話だ」
男の視線に身構える。男の言葉からすれば、眞人が異能を使ったことをおそらく知っているのは明らかだ。
明らかに、そのように言葉を向けてきている。
「俺はよくある魔術とか異能の話はあまり興味がないんですよ。使えればどっちも一緒に使えばいい。現に世界に現れてしまったものなんですから、それくらいは仕方がない。魔術と異能、両方使えれば補完できる。そんな感じに思いませんか?」
話をはぐらかすように言う。何かしら、眞人の異能について探ろうとしたように思われたからだ。
この異能の事は人に知られるわけにはいかない。自身の正体がばれる可能性があるからだ。
■獅南蒼二 > 「あぁ、確かにその通りだ……異能を発現した者にとっては、まさに奇跡に等しい。
だが、お前も学ぶ意欲を持っているなら分かるだろうが……魔術は学問だ。
選ばれし者にのみ与えられる奇跡ではない。」
男は、僅かに目を細めた。
眞人の言葉は、眞人が異能について実感をもって知っているということの証。
……この生徒は異能者だ。
「残念だが、私はそうは思わん。
異能とは自ら信念をもって学ぶこともなく、先達に教えられることもなく、
暴発的に現れる…危険なものだ。」
言いつつも、男は右手を掲げて……左から右へ、ゆったりと振るう。
するとどうだろう……本棚がギシギシと音をたて始めたではないか。
いくつかの禁書が禍々しい光を放ち、何かが、吹き出した。
「我が名はレギオン……我らは大勢であるがゆえに。」
男がそうとだけ呟けば、禍々しい光は形を作る……ぼとり、ぼとりと、卵から孵るように、本棚から生まれ落ちていく。
やがてそれらは、異形の怪異となって、本棚と本棚との間に溢れていく。
■橿原眞人 > 「ああ、だからこそこうして俺が勉強できているわけですが……」
そういっていると、何やら男の様子が変わった。
明らかな敵意を感じる。教師と生徒の関係におけるそれではない。
「そ、そりゃあまあ、魔術の先生からしたら……は?」
眞人の意見を男は否定した。ある意味当然ではある。
魔術は伝統的に伝えてきた人間が多いものだ。異能と一緒にされてしまうと怒りを買う場合もたしかにあるだろう。
だが、目の前の男の反応はそういうレベルではなかった。
「オ、オイオイ……俺、地雷でも踏んだのかよ……!」
男は右手を振るう。すると、禁書の納められた書棚が音をたてはじめた。
明らかによくない気配だった。眞人がいくら魔術の造詣が浅いとはいえ、わかる。
禍々しい光がいくつかの書物からあふれ出る。名状し難い光から、何かが噴出してくる!
「……クッ! これが教師のやる事かよ!」
本棚から、何かが生まれ出でていく。
これはなんだ。これはなんだ。眞人には理解が及ばない。
異形の怪異が出現する。本棚と本棚との間にそれが溢れ、蠢いている。
「先生、実習区以外での攻撃的な魔術は使用禁止だぜ!」
ここはもう手段を選んではいられない。正体を隠すどころか、自分自身が死にかねない。眞人は左手に抱えていたタブレットを操作しはじめる。
「――開錠! 『偽典・倭文祭文註抄集成』より……《常世神の糸》!」
眞人がそう叫ぶと、タブレットの画面上にいくつもの文字が出現していく。
数字、記号、漢字。それらはよく見れば、漢字の呪文を形成するものだった。
眞人がそのタブレットに手をかざし、鍵を開くような所作をすれば、次々とその画面の文字が消えていく。「鍵」が開けられていく。
そして、タブレットから魔術行使の際に現れるような燐光が飛び出した。
眞人のタブレットから光が溢れ、眞人の正面に魔法円のような者が出現する。
呪文の詠唱もない。魔導書もない。ただ、タブレットの中の魔導書の情報が、魔術を執行しているのだ。
魔法円から無数の白い糸が飛び出していく。それは強靱な鋼の如き糸だ。
それらが現れた怪異たちを絡め、圧潰しようと伸びていく。
■獅南蒼二 > 「攻撃的な魔術…?
まだまだ勉強不足であるようだ……私はただ、物語を読んでいるだけに過ぎないというのに。」
もし、古い魔術学の文献に目を通したことがあるのなら、【再現術】という魔術体系について、目にした事があるかもしれない。
魔術書やアイテムに込められた呪いや祝福、そして魔力を再生する魔術。
「尤も……私は今、研究室にいることになっているからな。
残念だよ、好奇心に駆られた若い命が…
…身の丈に合わぬ禁書に迂闊に触れたことで、闇へと閉ざされてしまうなんて。」
言いつつも、男は一冊の本を手に取った。
その間にも異形たちは通路に溢れ……肉の塊が人の形になっただけのそれらは、通路という通路を、塞いでいく。
……おびただしい数だが、それらには大した力は無いらしい。
眞人の放つ鋼の糸に押し潰され、切断され、血だまりを形成していく。
全ての異形を滅するには至らずとも、糸、という選択は正しかったようだ。
「ほぉ……まさか、魔術書を電子化したのかね?
素晴らしい独創性だ…まさに、魔術学の未来を担う若者に相応しい発想力だ。
……だが、残念だよ。」
開いた本のページを捲り、指で、本に書かれた文字を、なぞりながら……
「生まれながらに両目を持たぬ。哀れな赤子を悪魔と叫び、刃を突き立て炎にくべた。
されども汝に罪などあらじ、汝の恨みはその血とともに。
……汝を殺めし男へと注ぐ。」
静かに、静かに、まるで読み聞かせでもするかのように。
男が本を閉じれば……貴方が殺した異形たちの、おびただしい死体から流れ出た血が一斉に貴方の元へと飛翔し、その身体にまとわり付こうとする。
■橿原眞人 > 「物語を読んでるだけだって? 攻撃の意志がありゃ同じじゃねえか!」
《常世神の糸》は無限に伸びていき、異形どもは糸によって血の塊へと化していく。
そのものの力自体はさほど強いものではなかったようだ。
眞人の操る糸によりそれらはあっさりと消えていく。だが、その数はあまりに多い。
血だまりが禁書庫内の床を濡らす。
その死体は、通路を埋め尽くしていく。このままではまずい。逃げる場所がなくなる。
「ああ、こんなところで知られたくなかったけどな! 魔導書を電子化してやったぜ。俺は紙の魔導書と電子の区別なんてどうでもいいからな!」
電脳世界でセキュリティシステムと戦ったことはある。
だが、このような魔術的な化物と戦ったのは初めてだ。
額に汗が滲み、吐き気を催しそうになる。名状しがたく、慄然たる光景が広がっていく。
「クッ! 何かするつもりか! 駄目だ、ここじゃ奴の独壇場だ!」
この禁書庫はまさに眞人の言うとおり、相手の思うがままだ。
何せ、いくらでも魔導書はある。眞人には大して使えないものであっても、相手が専門家なら違う。
こちらは木刀しか持っていないのに、相手はいくらでも銃器を持ってこれるような状態だ。
「クソッ……! どうすればいい……! 戻れ、《常世神の糸》よ!」
男が一冊の本をもとに詠唱を始めた。それを見て眞人はタブレットを操作する。
糸は一斉に収束していき、眞人を繭で包むような形に変わって行く。
あの血を受けるわけにはいかない。眞人は必至で策を弄す。
常世神の糸は防御にも転用できる。よほど強力な魔術でなければ防げるはずだ。
「強力な、強力な、魔術を……!」
眞人はタブレットを操作し、術式を探す。だが、この状況を一気に好転できるようなものなどまだ眞人は使えない。
■獅南蒼二 > 「攻撃の意志か…そうだな、それではもしそれが証明できるのであれば、今すぐにでも直訴するといい。」
この男には明らかに、余裕があった。
地の利、立場の利、そして情報の利。
眞人はおおむね予想通りに異形たちを蹴散らし、血の魔術の厄介な下準備を、完了させてくれる。
「その子たちは、お前を一緒に連れて行きたいそうだ。
旅は道連れ、世は情け…だったか?よく分からんが、付き合ってやったらどうだ?」
本を再び棚に戻して、楽しげに笑う。
どうやら糸で身を守ったようだが、いずれその防壁も崩れるだろう。
「恐れることは無い…死は誰にでも平等に訪れる。
貴様がその異形どもを殺したのと同じように、あっさりとあの世へ行けるさ。」
あくまでも、禁書を暴発させたことによる事故、として始末する。
その為には、自分の魔力を媒体とした魔術は一切使用できない。
獅南にとって、この場所はあらゆる武器が眠っている武器庫であるとともに、
あらゆる武器を迂闊には使えない火薬庫でもあった。
それを悟られないように、男は嗤う。
■橿原眞人 > 「生憎だがあんたの子供達と心中するなんてまっぴらごめんだな!」
何とか常世神の糸で身を守るものの、限界がある。
まだ眞人の《電子魔導書》は完全なものではない。高位の魔術は使えない。そのためにこの禁書庫にやってきたのだが、生憎出会ったのは壮年の教師だった。
「……俺はこんなところで死ぬつもりはない。こんなわけのわからない死に方をしないためにも、俺はここにいるんだ!」
そうだ。
死は誰にでも訪れる。
誰にでも平等に。その形を問わず。
だが、だめだ。
眞人は認められない。そのような理不尽な死を。現実を。
眞人の家族を奪ったのはなんであったか。世界から訪れた突然の理不尽だ。
「門」の涯より来たる怪異によってだ。
その真相を明らかにするまでは、死ぬわけにはいかない。
世界の真実にたどり着くまでは。
「駄目だ、今の奴に太刀打ちできる術式はない……」
吐き捨てるように眞人は言う。
血が迫る。血が迫る。いずれこの繭も破られるだろう。
ならば、手段は一つしかない。そう、この魔導書が、電子であるからこそできること。
電子の記号で出来ているからこそ、行える禁忌がある。
「……そうか。何かおかしいと思ったが、奴はあくまで魔導書を読んでるだけだ。自分の魔力で何かしたわけじゃない。奴は確かここにいることにはなってないとかいっていた……なら、そこまで強力なものは使えないという事か?」
思考する。相手はいくらでも魔導書を使えるのだ。
だが、それは眞人とて同じだ。電子の魔導書であれ、魔術は魔術。
一か八か、やってみるほかない。
眞人がタブレットを操作する。すると、繭が解け、糸があたりに散乱していく。
「よくわからないが、あんたも今の状況じゃ大した魔術を使えないらしいな! なら、こういう滅茶苦茶なのも対処できるか、見せてもらうぜ!」
「――開錠! 全術式を解放! そして、ある一つのコードを挿入する」
「電子魔導書よ、狂え!」
眞人は叫ぶ。そしてとあるコードをタブレットに叩き込んだ。
それはタブレットの中に保存された全術式を一斉に解放させるもの。
それはタブレットの中の術式を狂わせるもの。
導きだされるのは、暴走だ。
眞人のタブレットから異様な光が満ちていく。あらゆる文字、理解不能なコード、それがモニターに溢れては眞人によって「開錠」されていく。
そして、眞人は近くにあった書棚の魔導書を取りだせば、その一節を恐るべきスピードで適当に次々と打ち込んでいく。
当然、術式はさらに狂っていく。
「さあ、何とかしてみやがれ! 先生ぇ!」
爆発のような音が炸裂し、未知の光が溢れていく。
あらゆる狂った魔術式が、暴走を始めたのだ。
炎や水、光や闇、それらがあらゆる魔術式を侵食していく。
積み重なった怪異の死骸をも吹き飛ばして、あたりに混迷が満ちる。
「目的は果たせなかったが、今はこれしかない……!」
狂った術式が暴れ回る中、眞人は一歩、二歩と退く。逃げる算段だ。
■獅南蒼二 > 「わけの分からない死に方、か。
無学な者には分かるまいが、異能などよりよほど画一的で分かりやすいのだがなぁ。」
眞人の言葉に、男は僅かに眉を動かす。魔術書を電子化するほどの頭脳の持ち主だ、流石に洞察力も、優れている。
惜しい人材だと、心から思う。だが、それ故に、非常に危険な異能者だ。
自己の魔力、持ち込んだ媒体を使用すれば、監視の目に引っかかることにもなりかねない。
曲りなりにもここは禁書を扱う書庫である……万が一ということがある、そうなれば面倒だ。
「ほぉ、禁書に指定された書籍を前にして、大した魔術を使えない、とは、蛮勇だな。
抵抗するだけ時間の無駄だ……そうだな、ならばもう少し、大したことのない魔術を追加してやろう。」
そう呟きつつ、次の魔導書に手を伸ばした。
だが、その刹那……眞人の叫びとともに、書庫内の空気が、騒めく。
エネルギーを放出するタイプの異能かと、一瞬身構えた。
だが、そうではない……魔術学を深く究めた者だからこそ分かる、複雑に組み合わされながら、正確に狂わされた、術式。
それは呪文、魔法陣、その他、魔術学で研究されている方式では決して再現できない魔術だった。
全てが正確に0と1で記録されるデジタルだからこその、荒業。
様々な系統の術式からそれぞれの詳しい属性は失われ、単純に魔力を炎や光、闇のエネルギーとして出力している。
「………………ッ…。」
咄嗟に本を放り投げ、右手を眞人へ向けた。
再現術では間に合わない、媒介として装着していた指輪が淡く光り、防護の壁を作り出す。
炎が、光が壁にぶつかり、防護の壁はそれぞれに対応するエネルギーを放出して対消滅していく。
高位の魔術書が正確に全文、もっと多く電子化され、含まれていたら……無事では済まなかったかも知れない。
光が収まった時には、生成された瞬間より、ずっと薄く、淡い色の防護壁が残っているだけだった。
「……予想外、いや…予想以上だ。
お前なら、立派な魔法学者に…世界を変える者にさえ、なれたかもしれん。」
静かに腕を下ろして、逃げ去る背を見やる。
瞳を閉じ…下ろした手を一度、開いて…軽く、握りしめた。
禁書庫入口のほうから、扉の閉まる重々しい音と、それから、重厚なロックが何重にもかかっていく、無機質な音が響く。
「……残念だよ、本当に。」
そして男は、ポケットから拳銃を取り出した。
走ることは無く、静かに、入口へ向かって、眞人を追いかける。
■橿原眞人 > 「はぁ、はぁっ……!」
眞人は走っていた。
異様に高く積みあがった禁書の摩天楼の間を駆け抜けていた。
眞人の目論見はうまく行った。正直なところかなりの賭けであった。もちろん今のような無茶を試したのは初めてだ。
「クソッ、思った以上に無茶苦茶だ! だが、時間は稼げた……!」
何やら褒められたような言葉が聞こえたものの、今はそれどころではない。
長期戦になればなるほどこちらが不利だ。逃げるが勝ちである。
「こんなことなら、もっと図書館のコンピューターをクラックしておくんだったな!」
眞人は逃げた。逃げ続けた。
出口はあともう少し、という所だ。
だが、無情にも禁書庫の入り口の扉が閉まる音が眞人を迎える。
幾重にも幾重にもロックがかかっていく音が聞こえる。
ああ、絶望だ。
普通なら、そう思うだろう。眞人を追う男もそう思ったのだろう。彼が走って追いかけてくることはなかった。
当然だ。このようなロックなど、普通ならば外せない。
絶体絶命だ。
そう、普通ならば――
「……ヘッ! そうきたなら好都合だ! ここで見られるのは、嫌なんだけどな――!」
だが、眞人は逃走が成功するという確信を持った笑みを浮かべた。
眞人は分厚い扉の前に立つ。当然、開くはずもない。
開くはずもないのだが……。
「――さあ、来い。《銀の鍵》よ!」
眞人は中空に何かを掴む仕草をする。
そして、扉に向けて「鍵を開ける仕草」をした。
するとどうであろうか。禁書庫を固く閉ざしたはずの扉が開いていく。
ロックが一斉に外されていくのだ。
これこそが眞人の異能、《銀の鍵》であった。
あらゆる「門」を開けてしまう鍵。
それを今、男の前で行使して見せる。
「じゃあな先生! 次に会うと殺されそうだから、俺としてはもう会いたくないがね!」
そういうと、眞人は扉の向こう側まで駆け抜け、男の方を振り返り手を振る。
「――施錠!」
そう叫び、再び「鍵を回す」所作を行う。
するとどうであろうか、再び門が締まり始めた。眞人はその扉が閉まりきらぬまえに駆け出した。この図書館から脱出するために――
異能を見られてしまったのはかなり眞人にとって痛いものの、男も本来はここにいるべき人間ではなかったようだ。
眞人を違反学生としていきなり捕まえる来るようなことはないだろうと眞人は祈りながら、駆けて行ったのであった。
■獅南蒼二 > この書庫に入り込むような人物は、当たり前ではあるが魔術に精通した者が多い。
だからこそ、入口のロックは魔術では決して開かない、防魔処理が施されている。
如何に速く走ろうとも、どれほど上手く逃げようとも、この部屋から出ることはできない。
「全くだ…お前が無茶をしてくれたお陰で、あの本をまた積み直さなければならん。」
そうぼやきつつ、自動拳銃の安全装置を外し、マガジンを装着し直す。
この男はどうやら、銃の扱いにもある程度精通しているようだ。
積み上げられた禁書…見る者が見れば一国が傾くような代物たちの中を、静かに歩く。
歩きながら、煙草を取り出して火をつけた……角を曲がれば、入口の大扉。
そこには、万策尽きた異能者が座り込んでいる、はずだった。
「安心しろ……動かなければ痛みは感じさせん。」
眞人の背中に照準を合わせ…小さく呟く。
だが…眞人は、笑っていた。まるで子供の遊びのように、鍵を開ける真似事をする。
死を目前にして気が狂ったか……そう、油断した自分を、次の瞬間には悔いた。
確かに魔術ではない。
これこそがこの異能者の発言させた、異能。
「…………異能者め…ッ!!」
扉が開いてしまえば、引き金を引くことなどできはしない。
銃声が外へ漏れれば人が集まってくるだろう。地面を蹴り、閉まろうとする扉に手をかざす。
防魔処理が施された扉は魔術で【閉じる】ことはできても【開く】ことはできなかった。
重々しい音とともに扉は閉まり、ロックが何重にもかけられる。
白衣の男の声も、いまだ蠢いている異形の生き残りの呻きも、全てが扉の向こう側へと、封じられた。
ご案内:「禁書庫」から橿原眞人さんが去りました。