2015/06/25 のログ
■薄野ツヅラ > 「ンー……人間なんだか化物なんだか知らないけど
───ビルに大穴開けて飄々としてるような奴よぉ」
勝てる気がしないわぁ、と小さく笑う。
本を見せられれば、一瞬目を細める。
「マジックアカデミークロニクル……?」
多言語にもそこそこ強い廿楽はぼけっと表紙を眺めて不思議そうな表情を浮かべる。
内容については知らないようで、相も変わらずのんびりと眺めている。
■焔誼玖杜 > 「……とんでもない人もいるんですね」
【いや、人かどうかは知らないが。
自分が懸念していた相手ではなかったようで、僅かに息を漏らす】
「はい。安直な題名ですけど……中身は面白いですよ。
この学園みたいな、大きな魔法学校が舞台の冒険活劇、ですね」
【表紙を撫でながら、少しばかり頬がほころぶ。
そして思い出したように顔を上げて】
「先輩も、読んでみませんか?
一巻も返却されてましたので、よかったら」
【そう、控えめに薦めてみる】
■薄野ツヅラ > 「後は今朝方上司が討伐した怪異とか───……
基本ボクが相手取れる相手は『撃ったら死ぬ』奴に限るしねェ」
にこり、小さく笑みを滲ませながら玖杜の黒曜石のような双眸を覗き込む。
表紙を撫でながら微笑む玖杜をぼうと眺めれば、
彼女に良く似合う、と楽しげに目を細める。
傍らに置かれたドグラ・マグラの毒々しい表紙が目に入り、おもむろに裏表紙を向ける。
「時間が出来次第、かしらぁ──……
魔術に関しても勉強しておいて損はないし、何より今必要だから」
微笑みながらアリガト、と小さく洩らした。
■焔誼玖杜 > 「……怪異ですか」
【わずかに目が泳ぐ。
その怪異というのは、アレのことじゃないのだろうかと思い。
なら、朝に感じた気配はその時のものだったのだろうかと考えはじめ……また表情が消える】
「そう、ですか」
【だから、微笑んでくれた先輩にも、ぎこちない言葉が返った】
■薄野ツヅラ > 「ン──……」
曖昧な返事を返した玖杜に違和感を覚えながらも目の前の本に手を伸ばす。
特に深入りすることではないだろうし必要なら向こうから云うだろう、と判断し、
おもむろにポシェットからタブレット端末を引き抜く。
幾らか画面をスワイプさせながら、動画を一つ選択する。
一瞬図書館に爆音が響く。
周りの生徒の目が一瞬で集まれば、やや居心地が悪そうに舌打ちをひとつ。
「こんなヤツ。
生き物なんだか七不思議なんだか怪異なんだか──…」
欠伸をしながら動画を見せる。
黒い影がゆらゆらと軍帽を被った白髪の女性に迫る一部始終が収められている。
■焔誼玖杜 > 「…………」
【動画に映る怪異。
それは間違いなく、以前路地裏で見た影だった。
だとすればやはり、今朝の気配は討伐されたときの物だったんだろう。
たしかに思えば、大きな力が現れたのと、同じ方角だった気もする。
そして緊張を解くようにゆっくりと息を吐き】
「……この人は、無事だったんですか?」
【残る気にかかった事はその点だ。
人が襲われる瞬間を、動画とは言え見てしまえば。
たずねないではいられなかった】
■薄野ツヅラ > 「あァ、クロノスお嬢さん?」
あっけらかんとした様子でその問いに答える。
動画を暫くスクロールして終盤に近付いたあたりで再び再生を始める。
大魔法の詠唱を済ませれば、万物を引き裂く大鎌を手にした女性の姿。
にっこりと微笑めば、「勿論よぉ」と。
「クロノスお嬢さんは怪我はしても絶対死なないわぁ────
寧ろどうやれば殺せるやら」
クツクツと喉を鳴らして楽しげに笑った。
■焔誼玖杜 > 「ああ……そうですか……」
【よかった、と。安堵の声が自然と零れた。
動画越しでもわかる。たしかにあの鎌でなら、あの影も倒せるだろう】
「この人、クロノスさんって名前なんですね。
先輩の……上司さんってこの人なんですか?」
【たしかさっき、上司が討伐したといっていたのを思い出してたずねた。
表情や声色はもう普段の……変化にやや乏しい状態に戻っている】
■薄野ツヅラ > 「名前、と云うか。
ボクの所属してるのは公安でも第二特別教室、って部署で。
本来は名前を名乗らない部署なのよねェ───……
だから名前は知らないと云うか。クロノスは活動名よぉ」
安心しなさいな、とぎこちなく右手で頭を撫でようと手を伸ばす。
自身も相当にクロノスの腕を信用しているからか、何処か自慢げに笑う。
「そ、上司さん。
『室長補佐代理』、って役職になるわぁ」
■焔誼玖杜 > 「ん……っ、活動名なんですか。
なんだかかっこいいですね」
【頭を撫でられると目を細め擽ったそうにする。
そして素直な感想を漏らした】
「……補佐で代理って、偉いのかそうでもないのか、わかりづらいですね」
【ついでに役職にも突っ込みをいれる】
■薄野ツヅラ > 「教えてほしくても教えてくれないわぁ──……
だから生徒手帳もこうやって」
ポシェットから名前の書かれていない生徒手帳を取り出す。
本来名前の記入されているべき場所には何も書いていない。
解りやすいようにトントンと指で指し示した。
「まァ、解りにくいくらいがちょうどいいわぁ──……
明らかに誰が偉い、って解るような組織ならまず声掛けられてもついていかないしねェ」
くい、と缶コーヒーを傾ける。
喉に心地のいい苦味が広がった。
■焔誼玖杜 > 「なるほど……。
それじゃあ先輩にも活動名とかあるんですか?」
【興味は尽きない。
いったい目の前の先輩は、どんな名前で動いているのだろうか】
「ああ、そうですよね。
特殊な組織だったら、それくらいじゃないと……」
【説明に納得したように頷く。
そういえば自分が匿われた組織も、誰が偉いかなんてよくわからなかったなと、去年の事を思い出した】
■薄野ツヅラ > 「ア──……」
気恥ずかしそうに頬を掻く。
真面目に話しているときはかっこいいと自分では思っていたものの、
思った以上に気恥ずかしかった其れ。
興味津々な後輩の様子を見遣って、暫し考え込んだように頬杖をつく。
「───『堂廻目眩』。此奴からの引用だけど」
左手で高く積まれた本の一番上の本を手に取る。
ドグラ・マグラ。夢野久作の、孤高の名作であり──ツヅラの愛読書。
■焔誼玖杜 > 「…………」
【目の前の先輩と、その……玖杜もまた見覚えのある本と、黙ったまま見比べる。
さて、この本はどんな内容だったか。
実際読んではいないものの、興味を持ったことはある。
有名だったのもあり、概要くらいは見た覚えがあるが……たしか】
「……すごく、先輩らしいです。
かっこいいと思いますよ」
【似合ってますよ、と。しばらくの熟考の末に、視線は本に向けたままそう答えた】
■薄野ツヅラ > 「ドーモ」
果たして読んだことがあっての『先輩らしい』なのか、文字から察した『先輩らしい』なのか。
暫し逡巡したものの、困ったような笑顔が先に出た。
その笑顔を取り繕うように、またいつもの軽口が流れる。
「まァ本名で普段生活してるから名乗る機会もそうないけどねェ」
■焔誼玖杜 > 「そうですよね、普通に生活してたら名乗る事はないでしょうし……」
【ちょっとばかり、勿体無いなあと思いつつ。
意外とこういうのが好きなんだな、と。そんな自分を意外に思いながら】
「……それにしても、先輩が公安委員だったなんて、意外でした」
【意外だといえば、そこもまた意外である。
たしかに、風紀よりは公安……これはイメージだけでの偏見だが、そっちの方が『ぽさ』はあるのだけど】
■薄野ツヅラ > 「あァ、ボクも何処かの組織に属して動くなんて考えてなかったわぁ──……
クロノスお嬢さんから声を掛けてもらってねェ──……」
最近の事の筈なのに随分と昔のような気もする。
何処か懐かしむように目を細めて、またクツクツと喉を鳴らした。
机に頬杖をついたまま、ぼんやりと今迄あったことを想起しながら口を開く。
最初は誰と話すこともなく、思いを寄せる少年の為だけに動いていたが今はどうか。
少年に向ける感情とは少し違うものの、親愛の感情を向けられる人は増えた。
上司と云い、風紀委員の人間に良く似た其れと云い。
丸くなったものねェ、と独り言ちながらくすり、笑みを浮かべる。
「屹度自分が一番意外に思ってるわぁ」
■焔誼玖杜 > 「……そうですか。
でも、前にあったときより……うん、とても楽しそうにみえます」
【楽しそうというよりは――幸せそうに見えたのだが。
だからきっと、意外でも、いい事だったのだろう。
先輩の笑みに釣られるように、玖杜もまた微かな、けれどたしかな笑みを浮かべていたのだが、自分では気付けない】
■薄野ツヅラ > 「楽しくない訳がないでしょう?
ボクは楽しいことと面白いことが大好き。
公安に入ったのだって面白くなるって云う確信があったからだしぃ──……」
ボクを誰だと思ってる訳ェ、と。
楽しそうに、其れで居て純朴な笑みを浮かべる。
つられて笑った玖杜の笑顔を見れば、また安心したように目を細める。
飲食禁止は何処へやら、
おもむろにポシェットからチュッパチャップスを取り出して乱雑に包みを開ける。
ひょい、と口に突っ込んだ。
■焔誼玖杜 > 「……うん、それならよかったです」
【いったい何がよかったのやら。
先輩が変わらず楽しそうで居てくれた事か。
それとも今の笑みを見られたことか。
そのいずれにしても、良かった事ではあるか】
「……あの、先輩。
今度、少しでいいので、時間をいただけませんか?
先輩に相談が……話しておきたい事があるんです」
【だからこそ、この人になら頼ってもいいと、自分を許す。
飴玉を咥えた先輩に、少なくない申し訳なさを感じながら】
■薄野ツヅラ > 「相談……話?」
ひょこひょこと棒を揺らしながら、はてと首を傾げる。
あんまり戦闘だ、とかは力になれないわよぉ──と幾らか冗談めかして笑う。
頬杖をついたまま、横に座る大人しい少女に視線を向ける。
「何時でも大丈夫よぉ、都合のいい時にでも連絡して」
さらさらと傍らに置かれた小さなメモにアドレスを書いていく。
癖字ではあるものの、読みやすい整った字だ。
メモを剥がしてズイと手渡す。
■焔誼玖杜 > 「大丈夫です、多分そんな事には……ならないと思いますので」
【それは希望的な予想だが……少なくとも話したから直ぐにどうなる、という事もないだろう。
それに、アレはもう討伐されているのだ】
「……ありがとうございます」
【連絡先を受け取ると、手帳を取り出し大事そうに挟み込む】
「先輩は、まだ魔術の勉強続けられますか?」
【山積みの本を見ながらたずねる。
思えば随分話しこんでしまっていて、勉強する時間を奪ってしまったような気さえする】
■薄野ツヅラ > 「まァ、ちょっとばかり試してみたいことがあって。
気が向いてる今のうちにやっておくわぁ──…☆
魔術はダメでも科学と織り交ぜたら使えるんじゃないかーってねェ」
傍らに寄せてあった大量のレポート用紙───其れの上で
寝ていたことからかなり皺になっているが───を見せる。
魔術を科学に織り交ぜる為には、と云った文字が躍る。
生憎にも適性が皆無であると判断されたツヅラは諦めが悪かった。
「玖杜ちゃんの方こそ忙しそうに見えたけれど時間は大丈夫なのぉ?」
にこり、人当たりのいい笑顔を浮かべた。
■焔誼玖杜 > 「そうですね、実はちょっと、提出しないといけない書類がありまして。
先日ちょっと、海底に潜ったので。その調査報告書を描かないと……」
【海底遺跡を調査した際、学園側から近日中に報告書を提出するよう言われているのだ。
――公安なら後々、その報告書を見ることも可能だろう。
図書館にに寄ったのも、本来はその息抜きである】
「……そろそろ、帰ることにしますね。
もう少し一緒に居たいですけど……邪魔しちゃいそうですから」
【時計を見てそう言うと、おもむろに立ち上がる。
が、明らかに名残惜しそうな様子で、本を持って立ち上がる動きはゆっくりとしていた】
■薄野ツヅラ > 「深海ねェ──……報告書は何時だって面倒よねェ
応援してるわぁ」
やる気なさげに普段通りの曖昧な笑顔を浮かべる。
帰る、と聞けば右手をひらりと振る。
「ン、最近は治安が悪いからお気をつけて」
コーヒーありがと、と付け足して再び本の山に向き直った。
■焔誼玖杜 > 「はい、先輩も――お気をつけて」
【公安の人に言う事じゃないかと思いつつ――だからこそとも思い。
こちらこそありがとうございました。そう残して去っていく。
そして、近いうちに玖杜からまた、連絡が届くだろう。
『路地裏の怪異について、お話すべき事があります』と】
ご案内:「図書館」から焔誼玖杜さんが去りました。
ご案内:「図書館」から薄野ツヅラさんが去りました。
ご案内:「図書館」に橿原眞人さんが現れました。
■橿原眞人 > 書の摩天楼の中にある机。そこに本が積み上げられていた。
いくつもの書物、様々な言語で編まれたそれが黙々と本を眺める青年を取り囲んでいた。
橿原眞人は図書館に来ていた。今回は現実(リアル)の図書館である。
魔術関係の書物が並ぶ領域の、自習スペースにてページを繰っていた。
「……ルルイエ領域にアタックするために、電子魔導書を強化しなければならない」
読んでいた本は『偽典・倭文祭文註抄集成』なる書物であった。
「俺が日本語以外があんまり読めないのが問題なんだが……」
積み上げられた書物には様々な言語があるものの、今読んでいるものは日本語で書かれたものだった。
タブレットを本の脇に置いて、眞人は、書物を繰っていた。
■橿原眞人 > 今の時代、翻訳の技術はかなり高いものがある。
何せ、異世界から次々と人がやってくるのだ。必然的に翻訳の技術は上がって行った。
だから、眞人も翻訳自体はできなくはない。そう言うプログラムも現に組んでいる。
「……だが、こんな一々のんびり翻訳してる時間もない。師匠を早く助けにいかないとだめなんだ」
眞人は先日、《大電脳図書館》へと侵入し、紆余曲折あったものの、師匠の居場所を掴んだのである。
だが、そこに行くためにはかなりの準備が必要だった。かなりの危険が予想されるからだ。
そこで眞人が編み出した魔導書の電子化、《電子魔導書》を強化する為に図書館へと来たのだが――
「……翻訳はいいにしても。
そうそう高位の魔導書なんてあるわけねえよな」
いま積み上げられている魔導書群であるが、存在するだけで魔力を発するような、そんな危険な物は普通の図書館には置かれていないようだ。探せばあるのかもしれないが。
いくらでも悪用される可能性があるためだ。それ故に、禁書庫などもあるのだろう。
事実、眞人は以前禁書庫に侵入し、魔導書を探そうとしたものの……ある魔術師に遭遇し、結局目的を果たせないままだった。
プログラムならいくらでも組めるが、それだけではあの領域に行くのは危険そうであった。
電子の「門」の向こう側で見た光景、師匠がいると思しき《ルルイエ領域》のヴィジョンは、非常に危険なものだった。
■橿原眞人 > 「……それにしても、変わった事書いてるな、この本」
眞人は読んでいた『偽典・倭文祭文註抄集成』に目を落した。
儀典というだけあって、本物ではない。内容も不完全であるようだ。
本来記述されていたらしい高位の魔術や、神を呼び出すような神事についての記述は削られていた。
『倭文祭文註抄集成』とは、古代氏族の一つである倭文氏が祭祀において用いた祭文、さらにその注釈などを集めた書物である。
織物に関わる職業集団である倭文部を統率していた倭文氏が用いていたとされる祝詞、祭文、祭式儀註、さらに倭文氏の古伝承などが載せられている。
倭文氏が倭文部と共に全国に広がって行った際に、祖神である倭文神を祭った倭文神社を創建することが多く、そこで用いられていた祝詞祭文を集め、さらに註を施したのが本書である。
西暦900年後ごろの成立したと後世の平田派の国学者、平川洋堅の『本朝星神考』に書かれているが、肝心の本書本文には成立年代などは書かれておらず、詳細は不明である。
著者は常陸国に住んでいた倭文朝惟(生没年不明)と巻末に署名がある。
編纂された目的としては、失われつつある自らの氏族の伝承の保存のため、さらにこの時代で既に内容の意味が分からなくなっていた倭文氏の祝詞の意味を解明するためであると序文に記されている。
異端の書物として、発表当時はほとんど顧みられなかったようである。
■橿原眞人 > 正確な成立年代など不明な点などが多い倭文祭文註抄集成だが、いわゆる奇書として江戸期において一時的に注目を浴びる。
その理由としては、本書に記された祭文や祝詞、古代伝承の特異さがあげられる。
『古事記』や『日本書紀』、『風土記』に記されていない伝承が数多く載せられており、特徴的なのは、日本書紀において倭文神が誅したとされる悪神「天津甕星」についての記述があることである。
この星神については日本書紀でも本書、一書ともに数行ほどしか記述がなく、謎の神とされてきた。倭文神の末裔である倭文氏ゆえに、この悪神についての伝承を数多くもっていたのではないかというのが有力な説である。
倭文氏の祝詞や祭文の内容を見てみると、『古事記』などに載せられた神話とはかけ離れた伝承、神道観が倭文氏に伝わっていたことがわかる。天孫降臨の時点で、天津神国津神と、そのどちらにも属さない蕃神とも呼べる神々が存在したと本書は伝える。
さらに天津甕星の子孫が東国に天下ったとする「天孫降臨」の伝承も記されているが、この伝承は本書以外には見られないものである。
いわゆる神代文字についても記されており、この神代文字は本書にしかみられないため、「倭文文字」と現在では呼ばれている。これは後世での偽作であるという説が強い。
ほかにも『阿波国風土記』や『常陸国風土記』などからの引用がなされており、他の書物には見えない風土記逸文のため、風土記研究の資料としても使われることがある。
倭文氏に伝わる鎮魂法などの秘術、天津甕星から倭文神が奪い取ったとされる神宝などについても詳細な記述があり、これも本書にしかないものである。
この内容の特異性により一時的に注目は浴びたものの、その突飛な内容により信憑性は低いとされ、「偽書」とされた。ただし、古代の星神信仰についての資料としては用いることが出来る可能性もある。
幕府の『倭文祭文註抄集成』に対する発禁処分も受けて、『倭文祭文註抄集成』、「倭文神道」の研究は進むことはなかったとされる。
眞人は、その奇怪な伝承に興味を抱いていた。
■橿原眞人 > この説明は、倭文祭文註抄集成』について20世紀に書かれた書物の内容である。
この段階では、『倭文祭文註抄集成』は偽書ということで大した扱いはされていなかったようだ。
元々原書は既に失われているとされていたこともあり、江戸期に多少研究があったものの、それ以上の発展はなかったようである。
とはいえ、これは表の世界の話であった。
21世紀初頭の世界の大変容で明らかになったように、世界の裏側で魔術は実在していた。
神も仏も、存在していたのである。そして21世紀の大変容によりそれらは世界の表舞台に現れた。
『倭文祭文註抄集成』の意味合いも変わってきたことになる。故に、現在では写本も刊行されている。もっとも危険な部分などは削除されたものだが。
魔術の歴史の中ではそれなりに有名だった書物であったらしく、他の魔導書と同じく、この書物は“復権”したのであった。
「……天津甕星、ね」
そう呟く。『日本書紀』に登場する星の神だが、その記述はほとんどない。
何もわからないに等しい髪である。
■橿原眞人 > 天津甕星。『日本書紀』本書には星神香香背男と表記される神であり、天津甕星とは『日本書紀』の一書に見える名前である。
『天に悪しき神有り。名を天津甕星と曰ふ。亦の名は天香香背男。』
一書には上記のように記されている。
『日本書紀』本書では倭文神武葉槌命によって帰順し、一書においては経津主神・武甕槌神によって、天孫降臨に先立って誅すことが提案された神である。
故に、殆んど何もわからないに等しいのである。星の神自体が、記紀には明確な形ではほとんど出てこないのだ。
「それで、その星の神様から奪った神宝や魔術について書かれてる本か……ほんとに使えれば強そうなんだがな」
■橿原眞人 > 眞人は『偽典・倭文祭文註抄集成』を電子化したはよかったものの、あまり使える魔術は多くなかった。
《常世神の糸》、《科戸の風》、《倭文神の太刀》……これくらいであった。
電子化し、特殊なプログラムとして起動させるため電脳領域でも使える魔術である。
だが、この程度であれば眞人の組むプログラムでも十分に可能であった。
「……《常世の時計》、《星神招喚》……強そうなのはあるが、記述が無いんじゃどうしようもないな」
この書物に記された魔術は様々であり、かなり強力そうな術や神事もあったのだが、その記述は『偽典』において削除されている。名前のみが残るだけだ。
「それに……この、《銀鍵招喚》だ」
特に気になるのが、この《銀鍵招喚》の術式だった。
どういう魔術かは詳しくはわからないが、自分の異能は《銀の鍵》である。何かしらの因縁を感じていた。
この書物に固執するのもこのためだった。
■橿原眞人 > 「銀鍵神社の神体と関係あると書いてあるが……銀鍵か。
なんとなく、気になるな。書いてあることも俺の異能と似ている」
銀鍵――それはあらゆる扉、「門」を開くことのできる鍵であるという。
詳しい記述は削除されているためそのぐらいしかわからないが、因縁を感じずにはいられなかった。
「……俺のこの異能、《銀の鍵》……今も、21世紀初頭以降、異能者が連続して発生しているはっきりした理由はわからない。
だが、あの「門」の向こう側で聞こえてきた声。「門」に「鍵」……。
……俺と、関係があるのか」
《大電脳図書館》から抜き出した《電子魔術師事件》についてのデータを閲覧した時、眞人は奇怪な体験をした。
サイバースペースに現れた「門」を潜り抜けた際、様々なヴィジョンを見たのである。
その時に、「鍵」についての言葉を聞いたのだ。
■橿原眞人 > 「……いや、そんなことはいい。
今大事なのは、《ルルイエ領域》で戦う力を得ることだ。
電子魔術を強化することだ――早く、師匠を助けにいくために」
静かにそう言うと、再び眞人は読書を開始した。
今度は『倭文祭文註抄集成』だけではない。タブレットの翻訳プログラムを起動しながら、他の書物にも取り組み、それらの電子化の作業を進めるのであった。
ご案内:「図書館」から橿原眞人さんが去りました。
ご案内:「図書館」に神宮司ちはやさんが現れました。
■神宮司ちはや > (定期考査のためにテスト勉強をしようと立ち寄った図書館。
今の時期は同じ目的のために図書館へ詰めかける学生でいっぱいだ。
たくさん用意されている自習机はそれでも埋まる勢いだったがなんとか空席を確保すると、己の勉強道具を開く。
教科書、ノート、参考書、古典魔術用語の辞書、異能分類学などなどなど……
実習の点数はあまり良くないのだからせめてペーパーテストだけでも何とかしなければ……)
■神宮司ちはや > (机に座って数時間、得意な教科と苦手な教科を交互に復習する。
ちなみにちはやは古典や歴史のほうが得意だ。
逆に理数は苦手だからまぁ典型的な文系である。
環境が静かで集中も乱されないためか、予想以上に勉学は捗る。
気づけば窓から差し込む陽は傾いていた。うーんと大きく背伸びをする。少し肩が凝ったような……)
ご案内:「図書館」に楓森焔さんが現れました。
■神宮司ちはや > (少し休憩しよう。集中しすぎて頭がぼんやりするし。
目を擦りながら予め買っておいたペットボトルに口をつける。
あれ、そういえば図書館って飲食禁止だったっけ?
禁則事項を思い出して慌てて、飲みかけたペットボトルをバッグに戻した。)
■楓森焔 > 「失礼しまーっす……」
小さく挨拶しながら図書室に足を踏み入れる少女が一人。
白い道着に身を包んだ彼女はいささか場違いにも映るかもしれないが、
腰には勉強道具一式が抱えられている。
待ち受ける定期考査。基本教養はかろうじてなんとかなりそうだが、特に魔術学に関しては全滅の勢いであった。
ひとまず席を確保しようと、ちはやの席の隣に座るだろう。
「はー、まったく分からねえ」
ぼやきながら、ひとまず参考書の類をテーブルの上に広げ始める。
■神宮司ちはや > (隣の席に腰掛けてきた少女に慌てて居住まいを正し、
少しだけ椅子を隣の席から離す。
ぼやく様子を遠目から見ながら、ふと開かれた参考書の項目に目を移す。
どうやら彼女も自分と同じ範囲を勉強しているらしい。
しかもそれは自分がわりとさっきまで躓いていたところだ。確かにそこはややこしい理論がついて回って難しいのである。
思わず独り事じみて声を出した)
そこ、難しいですよね……
■楓森焔 > 「ん」
横から聞こえてくる声。そちらに向かって視線を向ける。
広げている教材の一部を見るに、どうやら同じところで躓いた同志らしい。
「そーなんだよなあ……! お前も分かんないクチ?」
見れば自分より年下のようであるが、この学園において歳の差など大きな差ではない。
60歳の一年生、なんてものも居るわけだしこの程度なら些細なものだ。
「魔術の実習はもうぜんっぜんでさあ。せめて筆記だけでもって思ったんだけど」
魔術などとは縁遠い世界で鍛錬を続けてきた少女にとって、魔術学とは最大の難敵であった。
眉尻を下げてため息をつき、参考書に書かれたそのくだりをペン先でこつこつと叩いた。
ご案内:「図書館」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。
■神宮司ちはや > (その問題部分をざっと目を通すと、自分が先ほど解いていたところと照らしあわせてノートを開く。
相手に見えるように席の間にそれを置くと、自分の教科書からまず基礎となる部分の説明箇所を指し示す。)
えっと、まずその部分を理解するにはこの基礎となる式から始めたほうがいいと思います。
これをきちんと理解できているかどうかで結構難しさが変わってきて、逆にこれだけちゃんと覚えていれば
そこは応用問題になるんだと思います……。
(うまく説明できているかわからないが、図書室内なのでひそひそと相手にささやくようにそう言ってみる。)
■日恵野ビアトリクス > (色彩学と西洋美術史についての資料とノートを携えて
自習ゾーンに入ってみると、見覚えのある背中の持ち主と
知らない道着姿の少女がなにか会話しているのを見つけた)
(ちらりと机の上を肩越しに見ると、
だいぶ前に自分が予習復習を終わらせている範囲で難儀しているのがわかった)
「……なんだ、モテてるな」
(ちはやの背に小声でそう言って、
その向かいの自習机に――背中を合わせる形で座る)
■楓森焔 > 「なんと」
躓いた、とはいっても既に乗り越えた場所らしい。
ノートを覗き込みながら目を丸くする。
「ああー、ええと……ってことは、そこがここにかかってくるってわけか? あー、そうするとここが変形するわけで、ええと。んー?」
彼の説明で大枠は捉えたらしい。だがどうにも全容まではぴんと来ないらしく、手元でその問題に対する推論を書いては消して書いては消してと繰り返す。
無闇矢鱈と書きなぐっているわけではなく、徐々に正解に近づいているあたり、ただの考えなしというわけでもなさそうだ。
「ん」
声が聞こえる。向かい側に座った少年……少女?
「知り合いか」
軽く手を上げて挨拶。何度も書いて消してを繰り返しているからか、その手は黒鉛で汚れていた。
■神宮司ちはや > (背にかけられた声に首だけで振り向く。あ、と声を上げながら少しだけ微笑した)
日恵野さん……こんにちは。もうお体はだいじありませんか?
(その後に続いた言葉には真っ赤になって慌てて首を振った。)
も、モテ……?違います、ちがいます!全然そんなんじゃなくてわからない所を勉強していただけです……っ
(話題を逸らすように焔のノートを見て、だんだんと正解に近づいている様にうんうんと頷き)
ええ、知り合いの方です。あ、それとここのヒント項目も一緒に読むとわかりやすいかも……
(解説欄を指さしながら、相変わらずヒソヒソ声で)
■日恵野ビアトリクス > 「一応な」
(無表情に答える)
(ちょっとからかっただけで簡単にうろたえる様は面白い)
(それにしても格闘ゲームから出てきたみたいな格好してやがる)
(……などと)
(日恵野ビアトリクスという狭量な少年は
いかにも体育会系という人間への好感度がデフォルトで低かった)
「そこ、そんなに四苦八苦するほど難しくないだろ」
(ボソリと呟いた言葉には微妙なトゲが混じる)
■楓森焔 > なんで声をかけられていたのか、そこまでは聞き取っていなかった。
ちはやの動揺にはクエスチョンマークを飛ばしながらも真剣に問題集に向き合っていた。
「ヒント、ヒントね……あ、つまりここがこうなって……」
一個、一個と当てはめていく。
それはひどく不器用なやり方だ。
延々と確かめ算を繰り返すような、呆れ果てるほどの馬鹿な道。
まさしく体育会系。身体を動かすことは得意でも、頭を使う行為は得意ではない。
だから、日恵野の辛辣な言葉にも頭を掻いて。
「そうなんだよなあ。同じ教室の奴にも言われたよ。おとなしく単位捨てろって」
それでもどうやら目の前の少女は諦めるつもりはないらしい。
だいぶ正解に近づいたが、最後の1ピースだけがどうにも埋まらない。
書いては消し。書いては消し。
■神宮司ちはや > 良かった。元気になってくださって。
(嬉しそうに微笑むと、最後のピースがはまらない焔の問題をもう一度見直す。
自分の時はどうやって解いたっけ、と考えだすもうまく他人に説明できずそれを目の前で分からない相手にきちんと教えられるか自信がなかった。
少し困ったように後ろの席のビアトリクスを見る。)
あの、ビアトリクスさんはこの問題難しくなかったんですよね?
ごめんなさい、ぼくもまだきちんとわかってないから良ければ教えてもらえませんか?
■日恵野ビアトリクス > (言ってから、悪い癖が出たな……と自分でも思った。
いくら嫌いだからといってそれをあからさまにする必要はない)
(しかしそれに対する
反応は少し予想外だったらしく眉を動かす)
「……ならなんでだ。別に必修課目でもないだろ。
単位取りやすい課目なら他にもあるだろ」
(ちはやの微笑に少し目を逸らしながら、
椅子の向きを変えて二人に寄せる)
「……なんでぼくが。
あんまり教えるのは得意じゃないんだけど」
(……不承不承といった態度を隠さず、
しかしノートに鉛筆を走らせて問題を目の前で
少しずつ解いていく)
「ええとつまり両辺からこの項を除いて……
単純にして…………そうするとここをこう置換できるから……こうだ」
(教え方としては若干不慣れだったが、
解き方自体は鮮やかだ)
■楓森焔 > 「分からないからって諦めてたら、何もできないじゃん?」
拳法も、魔術も、勉強も。
少なくとも分からないということが、諦める理由に繋がるわけじゃない。
どうやら隣のちはやも、言葉に出来ない領域に差し掛かっているらしい。
書いては消し、書いては消し。とにかく総当りで可能性を潰していく。
すると、目の前で解いてみせたそのノート。ガチン、と歯車が噛み合った気がした。
「お、おおおー! おー! なるほど! っとっと」
思わず声を上げて手を叩くが、ここが図書館であることを思い出して口を抑える。
「なるほど、なるほど。そうか、じゃあ、こうだな……!」
鉛筆を走らせ、ようやく正解にたどり着く。解き終わった少女の顔には笑顔が浮かび。
「いやあ、ふたりともありがとな。俺一人じゃあこれ一問解くのに夜までかかるところだったぜ」
なんてけらけら笑った。
■神宮司ちはや > (「諦めてたら、何もできないじゃん?」
そういった焔の素直な性分に思わず顔をまじまじと見つめる。
真っ直ぐでひたむきな人なのだなと会って直ぐなのにそんな印象を受けた。
ビアトリクスが難なく導いた解答の鮮やかさに同じように簡単の声を漏らして慌てて口元を押さえる。
焔の笑顔に思わずつられて笑った。)
わぁ、日恵野さんすごい!ありがとうございます。お陰で助かりました。
それにえーと……(そう言えばまだ名前を聞いていなかった気がする。)
あ、いえぼくは全然なにも……。
■日恵野ビアトリクス > 「きみ変わってるな」
(少なくともビアトリクスの知っている
典型的な体育会系のサンプルとは大きく違っていた。
彼らはだいたい座学や教養を軽んじていて、
それをビアトリクスは大いに軽蔑していたのだ)
「……ドウイタシマシテ。
別に大したことはしてないけどな」
(硬い表情と声でそう応じる。
笑顔を向けられるのも礼を言われるのも
慣れていなくてひどく苦手だ)
「もう世話は焼かなくていいか?」
(ぶっきらぼうにそう言って、椅子を所定の位置に戻し、色彩学の本を開いて目を落とす。
さまざまな配色サンプルが一面に並んでいる)
■楓森焔 > 「確かによく言われる」
よく見れば彼女は裸足である。道着に裸足。まさに漫画かゲームの世界から出てきたような服装。
珍妙なのは、胸に刻まれた"俺"の一字。まさにふざけているとしか思えない風貌だ。
変わっている。日恵野の言葉はそういう意味ではないだろうが、彼女はひとまずそう捉え笑顔を返す。
「いやいや、俺にとっては大問題でさ。大したことだよ」
何もしていない。大したことはしていない。
そんな二人の言葉には、馴れ馴れしく肩を叩くことで答えるだろう。
笑顔を浮かべたまま、鼻を鳴らして胸を張ると、
「俺は楓森焔。よろしくな。そっちがヒエノだっけ? んでそっちが……」
名前も知らない二人に問いかけるように言葉を投げてから
「がんばるよ。自分で始めたことだしさ。そっちは……なんの勉強だ? 美術?」
首を傾げながら日恵野を見る。よく分からない分野の本だ。
■神宮司ちはや > 楓森さん、ですね。ぼくは神宮司ちはやです。
よろしくお願いします。
(叩かれた肩にわずかに緊張するものの悪い気はしていないようで
でもどういった反応を返せばいいのか分からず少しだけ困った笑顔で応えた。
同じようにビアトリクスが読んでいる本に目を向ける。
鮮やかな色彩が綺麗にカラープリントされた面を興味深そうに眺め)
そう言えば、日恵野さん以前もスケッチブックを持っていましたよね。
美術とか絵画とかお詳しいんでしょうか?
■日恵野ビアトリクス > 「ホムラか。
……改めて名乗っておくと、ぼくは日恵野ビアトリクスだ」
(苗字が長いので下の名を呼ぶ。
気安く肩を叩くのはやめろと目で訴えた)
「美術になるかな。
試験があるわけじゃないが、ちゃんとやっておくと
魔術に応用できるから」
(別の頁を開くと、『色が人に与える心理的な影響』が扱われている)
「……別に詳しくはないよ。人並みだ。
小さい頃から一応絵はやってる。……上手じゃないが」
(相変わらずつまらなさそうな、そっけない様子で)
■楓森焔 > 「ビアトリクスにちはやか。改めてよろしく!」
馴れ馴れしく名前を呼んで何度か頷きながら肩をたたいた。
抗議の視線はあまり気づいていないようだが、ひとまず身体を戻して二人に身体を向けるよう座り直した。
「美術に、絵画。へえ!」
やはりこれも無縁な世界。魔術に応用できると聞くと、興味深そうに覗きこむ。
小難しいことが書いてあった。まだ自分が踏み込むべきレベルではなさそうだ。
自分の頭を軽く叩いて、
「絵は分かんないなあ。前テレビでやってたのなんか、落書きにしか見えないけど何百万もするって聞いて驚いたぜ」
異能、テレキネシスで叩きつけるように絵の具をぶちまけただけの絵。
高尚な人間が見ればなにか思う所があるのかもしれないが、素人の焔にはその良さがまったく分からなかった。
■神宮司ちはや > (焔の声が大きくなるにつれ周囲の視線が突き刺さってきたので
慌てて判るように唇の前に人差し指を立てて静かにのジェスチャー。)
ぼくも美術のことはよくわかりませんし……有名な人の絵とか見ても全然。
それよりも猫が描かれている絵のほうが好きだなぁ。
(苦笑しつつそんなふうに返す。)
でも日恵野さんが小さい頃から描かれているのならすごく研鑽されているんですね。
それも魔術に使えるってすごくかっこいいなぁ……。
今度、どんな絵を描かれるか見せて頂いてもいいですか?
(魔術もろくろく使えない自分にしたらとても憧れるに値する。純粋な尊敬混じりでそう尋ねた。)
■日恵野ビアトリクス > 「ああ、ぼくもそれは見た。現代異能アートか……。
あれは絵に対して値段をつけているわけじゃないからな」
(声の端から若干の忌々しさが滲み出した)
(ちはやに純粋な憧れの視線を向けられて、ひどく恥ずかしそうに
視線を背けた)
「い――」
(反射的に出てきた言葉を飲み込み)
「……今度、ね」
(なんとかそう答える)
■楓森焔 > 「おっとと……!」
ちはやのジェスチャーにまたも口元を抑えて、手で謝罪を周囲に示してから腕を組む。
「げんだいいのうあーと……よく分からねえなあ。あれか、ホームランボールみたいなもん?」
相手の言葉には、記念品みたいなもんなのかな、と自分なりの納得を返した。
「猫の絵か。確かに人の描いた猫って愛嬌あるよな。で、でふぉるめっていうの?」
漫画か絵画かそれとも落書きか。
どこで猫の絵を見たのかは分からないが、少なくとも焔にはそう感じたらしい。
もちろん、本物の猫に愛嬌がないとは言っていない。恐らく感じる愛嬌は別種のものなのだろう。
「お。それじゃあ俺も今度見せてくれよ。代わりと言っちゃあなんだが、俺もなんか……なんか見せるから」
なんかってなんだ。自分でもわかっては居ないが、とにかくなんかだ。
■神宮司ちはや > ホームランボールはさすがに違うと思います……。
(あははと笑いながら、猫の絵に話が及ぶと)
うん、昔美術の教科書か何かで日本画の猫の絵が載っていて
それがとても活き活きとしていてよく覚えているんです。
それに実際の猫に触っちゃうと呼吸苦しくなっちゃうから……あんまり近寄れないし……
(たぶん猫アレルギーか何かなのだろう。
焔も一緒に絵を見たいというのに合わせて
何を見せてくれるのだろうと首を傾げる。
恐らくその出で立ちから武術の型とかなのだろうか?
自分はともかくビアトリクスは興味を持つだろうか。
それに二人が何か見せてくれるのなら自分も何かを披露せねばならないのだろうか?)
あ、えっとえっとじゃあぼくは代わりに、舞、見せます。
ちょっとだけ出来るから
(至極恥ずかしそうに俯いてそう言った。
ふいに腕時計に視線がいくと、その時刻にあ、と声を上げる。)
ご、ごめんなさい。そろそろぼく帰らないと……。
■日恵野ビアトリクス > 「……なんだよなんかって。胸とかなら結構だけど。
ああはいはい。じゃあそっちにも今度な」
(焔にはやたらぞんざいに受け答え)
「……猫か。猫はまあ、かわいいな」
(控えめにそう言って)
「ちはやは猫が好きなのか」
(確認するように呟く)
(首を傾げてほお、と相槌。
舞とは意外な単語が出てきたものだ)
「……どんなのか知らないけど、それは楽しみにしておこう。
行くのか。じゃあまたな」
■楓森焔 > 「胸なんて見たって大して面白くねーだろ」
色恋沙汰には疎い少女だ。
口調からしても、男性や女性といった認識が薄いのかもしれない。
ぞんざいに扱われることもさほど気にした様子はなく、むしろ気安い態度と判断して。
「よし、それじゃあ約束な。ちはやのダンス? いや、舞、舞か。そっちも楽しみにしよう」
同時に見る気マンマンであった。舞といってもぴんとは来ないが、日本的な響きを感じる。脳内では花魁が扇子を持ってくるくる回っていた。
「現実と絵はまた違うけど、そこがまた1つの良さってことかな? その猫の絵、俺も見てみたいな……おっと、そうかそうか。今日は世話になったな、また会おうぜ、ちはや」
時計を見上げる少年に対して、にっと口角を上げて手を振った
■神宮司ちはや > うん、猫はかわいいです。
今度その絵が載っている本を見つけたら楓森さんにも見せますね。
あ、でもその、舞はあんまり期待しないでほしいな……
それほど面白いわけじゃないと思いますから……
(照れを隠すように自分の机の勉強道具をバッグの中に仕舞うと、
それじゃあまた今度、失礼しますと二人に軽く頭を下げて図書館の出入口へと去っていった。)
ご案内:「図書館」から神宮司ちはやさんが去りました。
■日恵野ビアトリクス > 「お前な……いや、なんでもない」
(女性としての自覚に薄そうな反応に思わずツッコミを入れかける。
……結局こいつは何を見せてくれるんだろうか。
さほど観たいものがあるわけでもなかったが)
「ぼくの絵だってそんなに面白いわけじゃないよ」
(ちはやを見送る。
その姿が完全に消えると、再び机に向かって
アンニュイな表情で小さくため息を付いた)
「……あとで動物の資料探すか」
■楓森焔 > 「?」
思わず入りそうなツッコミには相変わらずクエスチョンマークが乱舞する。
いずれの二人も面白くない、と自己評価を下しているようだが、
「まあ見てみないと分かんないよな」
なんてこちらも呟き。ひとまず勉強を再開しながらも、
「お。努力家だな」
なんて。最後のビアトリクスの呟きには、いたずらっぽく声をかける。
■日恵野ビアトリクス > 「うるさい、ほっとけ」
(うんざりした様子でチェッ、と舌打ち)
(その後、しばらく本の内容を
ノートにまとめたりしていたが)
「……だめだ、身が入らないな。
先に失礼するよ。またな」
(一応そう焔に声をかけてから、
荷物をまとめて自習ゾーンを去っていった)
ご案内:「図書館」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。
■楓森焔 > 「ありゃ、怒らせちまったかな」
人付き合いは難しい。自分の態度に反省を加えつつも、
これをどうしたらいいのかなかなか分からない。
眉をひそめて唸り声を上げた。もしかしたら魔術学の勉強より難しいかもしれない。
「うーん……いや、とりあえず、だ」
折角二人が教えてくれたのだし。それを無駄にするわけにもいかないと、再びペンを走らせた。
書いては消す。書いては消す――。
ご案内:「図書館」から楓森焔さんが去りました。
ご案内:「図書館」に枢木 柩さんが現れました。
■枢木 柩 > 扉を開けて入る。そのまま本棚を物色しつつ、行き着くのは辞典の本棚。その中から一番分厚いものを取り出し、その場に座り込んで月明かりを頼りに読みはじめる。
■枢木 柩 > その様子は集中しているようにも、惰性で読んでいるようにもとれたが、誰もいない図書室の中にページをめくる音だけが響く。
■枢木 柩 > 「これを編纂した者は相当頑張ったであろーに、読まれた形跡があまりないあたり、報われないねぇ…。」苦笑。
人外からすれば、辞書は人間の思考を理解するのに最適な教材である。と彼女は思う。
限られた余白に、限られた字数で、過不足なく事象を説明する。
そのための言葉の取捨選択の仕方や言い回し。感情すらも削ぎ落とす。
まったく、洗練されている。人間らしい、というより、人間らしさ、を人間ができるかぎり削ぎ落とす過程こそ、最も人間らしい。
ページをめくる。初夏の夜に、月明かりは桃色の髪を冷たく照らす。
■枢木 柩 > もちろん小説なども面白い。あれらには人の感性が映しだされている。
狐なりに同情や共感も――それは彼女が数百年の間に狐以外の世界を知ったからであろうが――できる。
ただ、少し辛い。
思い知らされる。人とそれ以外の生き物とでは雲泥の差がある。思考のレベルが違う。
狐はただの動物でしか無いのか。
最初から、人間が良かった。
「まぁ、なれたわけだけど…長くかかったな…人間を識るまで、もっと掛かるかも…」
辞書を閉じて、窓から外を見上げる。
狐が嫌いなわけじゃあない。人が好きなのだ。好きで、憧れた。それこそ、人になる前から。
■枢木 柩 > なってみると、案外めんどくさいけど。考えることが、煩わしいことが多い。
それでも知りたいと思う。学んで、遊んで、笑い合って、戦って。
狐だった頃と同じくらい長く、人間でいたい。
辞書を本棚に戻して、隣の辞書を引っ張りだし、同じ場所に座って再び読み始める。
ご案内:「図書館」にコゼットさんが現れました。
■枢木 柩 > 「…人と話したくなってきた…。」
辞書をぱらぱらとめくりながら尻尾を揺らす。うずうず。
ただ同時に、知らない人間と話すのは割と危ないしなぁ、と思い直す。
あぶない。
形][文]あぶな・し[ク]
1 災いが起こりそうである。危険だ。「―・い遊び」「―・い目に遭う」
災いはごめんだ。
狐耳の女は辞書に目を落とす。
■コゼット > (カウンターでは、教師と思わしき女性が本を読んでいる。
彼女は利用者でなく、図書委員としての役割でここに居る。…つい今朝方に申請したばかりだが。
しかし、退院早々講義に出たものの、予想以上に体力が落ちている事に気が付く。
数日寝込みっぱなしでこの状態だ。少し運動して身体も動かさないといけない。
…が、今日の実技は休んだ。
というのも、医師に無理を言って退院許可を貰ったからだ。本来ならばまだベッドの上の筈だった。
しかし、やっぱり、外は良い。
外で体を自由に動かして、悠々と本を読む。至福である。
…決して職権の乱用ではない。)
■枢木 柩 > し‐しょ【司書】
図書館で、図書の収集・整理・保存・閲覧などの専門的事務を行う職。また、その人。
「…ふむ。」顔を上げる。
カウンターに目をやって、辞書を閉じる。ああ、この人は本を読むのが好きな人間か。
話しかけたい。が、ジャマをするのも悪い気がする。
■コゼット > (しかし、ただ本を読むだけでは図書委員はやっていけない。
必要に応じて本の貸し借りを受け付けなければいけないし、整理も必要だ。
何分自分がこうしてここに入る事はまだ間もないので、大体のやる事は判っていても、今だに判らない事の方が多い。
続きは気になるが、栞を挟んで本を閉じる。
貸し出しに必要な機器や、図書委員に支給されている道具の確認を行ったりしていて
本を読んでいたと思われる枢木と目が合った。)
■枢木 柩 > しばしの沈黙の後
「ええと、司書…だy…であらせられますね?」
教師っぽい。敬語を使おう。
「仕事中か、忙しゅうございますか?」
辞書を本棚に戻し、慌てて居住まいを正す。狐の頃に見た。学生とは教諭に従うものであった。
■コゼット > (…そうゆう言葉遣いなんだろうか?)
「司書っていうか、図書委員の顧問……になったばかりというか。
…別に普通で構わないわよ?」
(明らかに無理が垣間見えるので、気を使わないで、と)
「仕事中と言えば仕事中だけど…ほら、今の所はそこまで忙しくもないし。」
(辺りを見れば利用者は疎らで、それらは本を読んだり各自で調べ物をしていたり。至って静かである)
「貴女もここの生徒よね?名前はー……ええと…。」
(最近生徒の数も増えてきた。全てを把握するのは中々大変らしく、思い出せない)