ようこそ、常世学園へ
異能学園都市“常世”

常世神社「常世祭」

常世神社における「常世祭」について

この御酒は わが御酒ならず 酒の司 常世にいます 石立たす 少名御神の 
神寿き 寿きくるほし 豊寿き 寿きもとほし まつりこし御酒ぞ あさずをせ ささ
――『古事記』中巻 神功皇后御歌

 常世神社(文献によっては「石立神社(いわたてじんじゃ)」とする場合もあるが、その事例は僅少である)の起源は悠遠の神代に遡ると伝えられる。
 祭神である「常世坐少名御神(とこよにいますすくなみかみ)」は、『古事記』などに登場する「少名毗古那神(すくなびこなのかみ)」(『日本書紀』では「少名彦命」と表記)であるとされる。
 記紀によれば、少名毗古那神は、大国主神(『日本書紀』では「大己貴神」〈「大己貴命」とも〉と表記)と共に国作りを行った。しかし、国造りの後に少名毗古那神は常世国へと去ったという。
 その少名毗古那神が去った常世国こそがこの「常世島」であり、少名毗古那神が降り立ち座所とした岩が常世神社の背後にある岩であり、この岩を神体として創建されたのが「常世神社」であると社伝は語る。
 とある国の『風土記』にも上記の常世島についての言及があったといわれるが、その『風土記』もすでに散逸しているため真偽は不明である。また、自らを「常世国」ではないかとする態度は『常陸国風土記』とも類似しており、関係性が指摘されている。
 この常世神社で年に一度、神が常世島に来臨したという日に行われていた大祭が「常世祭」である。
――常世祭復興委員会※1・常世学園図書委員会編『常世島と「常世」信仰についての研究 ――常世祭を中心に――』より

※1 学園草創期に存在した組織で、常世祭を復興させるために設立され、常世祭の復興とともにその役割を終えて解体された。前掲書は常世祭復活のために常世祭復興委員会と、図書委員会考古資料部が共同で行った調査結果をまとめ、それをもとに考察を行ったものである。

 「常世祭」は上記のような縁起を持つ常世神社の年に一度の例祭である。ここでは常世神社で行われる祭典としての「常世祭」を記す。学園祭としての「常世祭」の中にこれは含まれる。
 例祭当日は神社での祭典が行われ、神輿も出御する。神輿は学園地区、学生街、居住区などを一周する。「常世祭」開催期間の間神輿は島を周り、最終日とともに還御を迎える。
 常世島が無人島であり、神の島であったかつての時代は上記のような神輿巡幸は存在しなかった。常世島は神の住む島であり、人が住む場所ではなかったためである。祭典が近づくと、関係者は禊を行い、当日、島に上陸したのである。
 また、戦後以降常世島での祭礼は行われなくなっていた。現在行われている「常世祭」は学園草創期に復興されたものである。

 「常世祭」では、常世神社の本殿前では様々な歌舞が奉納される。中でも、『古事記』中巻に見える神功皇后御歌、
 「この御酒は わが御酒ならず 酒の司 常世にいます 石立たす 少名御神の 神寿き 寿きくるほし 豊寿き 寿きもとほし まつりこし御酒ぞ あさずをせ ささ」を歌詞とした「常世神楽」は、社伝にも記された古いものであるという。
 「常世神楽」は本来、常世神社の神に酒を捧げるための舞であったといわれ、舞姫の持つ採物は瓶子であり、とても珍しいものである。なお、神前でこの神楽を舞う際は、最後の「あさずをせ ささ」の部分は削られ、歌われることはない。
 神前で奉納される歌舞はほかにもあったとされ、「長鳴鶏」、「宇受賣」、「八百万」、「岩戸」、「天照」などの名前が記録に残っている。これらは演劇性を強く持つ神楽であったらしく、断片的な資料は残っているものの、伝承者が絶えてしまい、その全容は明らかになっていない。現在でも伝承され、実際に神前で奏されている神楽は「常世神楽」のみである。

 神前にはこの日のために醸された酒が奉納される。これは「常世酒」と呼ばれ、飲めば不老長寿になれると喜ばれ、祭典終了後に配られたと記録されている。常世の神である少名御神の力で醸された酒を神自身に捧げ、それを参列者がいただくという形になっている。
 現在の「常世祭」もこれを踏襲しており、神に「常世神楽」を奉納したのちに「常世酒」を神前へと奉り、その後「常世酒」を参列者へと配る。
 しかし、未成年の学生が多いためか、祭典終了後に配られる酒のほとんどは甘酒である。成人している学生や教師などには従来通り「常世酒」(なお、口噛み酒そのものではなく、常世島内で醸造された神酒である)が振舞われる。味としては甘口である。

 常世学園は異能者や魔術師、異邦人などが数多く集まる特殊な学園都市であるが、学園草創期に復活した「常世祭」は今なお変わらずに続けられている。
 祭典では学園祭としての「常世祭」の無事の成功や常世学園の隆昌、そして世界の安定と平和が祈られる。当然ながら、常世神社で行われる「常世祭」への参加は強制ではない。異なる信仰を持つ者も多いためである。
 各委員会の委員長も基本的に参列し、玉串を捧げるものの、上記のように委員長が異なる信仰を持っており、参列を固辞した場合は委員会内から代役が立てられることもある。
 また、学園祭に合わせて島内に鎮座する他の神社や、宗教施設などでも祭典が行われている。
 常世学園以前の青垣山でも同日に祭が行われたといわれるものの、記録などが散逸しており詳細は不明である。発掘された祭祀遺物がその記憶をほのめかすのみである。

 学園祭の始まりはこの「常世祭」であり、神社から出御した神輿が還御するときが学園祭の終了となる。